それでも濡れ衣には感謝している

新たな一歩

　すっかり寂しくなっていた市民病院の正面階段の二階踊り場に、古びた木の額へ入れられた新しい絵が今日掛けられた。

　『水底に宿る命の輝き』

　どこかの展覧会で受賞した作品でもないし、以前のものよりサイズも小さい。
　若先生からの依頼を受けた俺は、感謝の気持ちを込めてこの新しい絵を飾ることに賛成した。
　額縁は、ある医師から若先生に贈られた物を使っている。

　これを見ると、今でもまざまざと気持ちがよみがえる。
　ここにあるのは、大切なものを失う恐れと苦しみと悲しみ。
　だけど決してあきらめたくない、強く揺るがぬ想いと希望。
　俺はキャンバスの光と影が混濁しながら収束する先、最後の一筆を描かなかった。
　それは見た人が自らその心に彩るものだから。

　俺の右隣ではツインテールの女の子が、絵のタイトルを見て嬉しそうな照れ笑いを浮かべて立っている。
　これからは右手に握る温もりを守れた自信と誇りを感じながら、胸を張ってこの階段を歩けるようになる。
　俺は強く心に誓った。