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姪っ子のヤキモチ?
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寒空の中、いきなり叔父貴に呼び出された法律事務所のバイトを終えて俺は帰ってきた。いつもだったら子犬のように玄関で迎えてくれる千紗の姿がない。
靴もあるし何処にも出かけていないはずと思いつつリビングへ向かう。ソファーに座った千紗がクッションを抱いたまま顔を向けた。
「あのさ、最近、この部屋、女の人が結構来るよね」
「女の人って、全部千紗も知ってるだろう?」
「ん、でも何となく、イヤ、かな」
「とは言っても、七瀬はずっと部屋の管理をしてくれていたし」
「今は千紗がするもん」
「なるほど。深町は千紗の面倒を見てもらっているし」
「先生には面倒を掛けないようにしてるもん」
「そうか。でもアルバムは千紗が頼んだのだろう?」
「うちに持って来てなんて言ってないもん」
「ふむ。結構どころか、たった二人だぞ?」
「そう――なんだけど」
改めて自分の交友関係の狭さを感じさせられる。新手の嫌がらせか?
しかし千紗は唇の端を噛んでいる、言いたいことが言えていないときの表情を見せる。
俺達二人共が知っている人間と言っても、千紗にとって七瀬は姉貴を思い出させたり、深町は学校の先生だったりする。俺とは感覚が違うだろうし、もう少し真剣に考える必要があるかもしれない。
そういえば、父子家庭の子供が家に出入りする女性が気に入らず、非行に走った話を少年課の警察官だった沢田さんから聞かされたことがある。
俺達の関係も父子に似たようなものだと思っているから、気をつけるに越したことはない。千紗が非行に走ると、親族へ顔向けができなくなってしまう。
「確かに独身男のところへ、若い女の人が入れ替わりで来るなんて評判も良くないよな。わかった、控えるように言っておくよ」
「うん!」
恐ろしいほどの笑顔を見せる千紗に、俺の答えが間違っていなかったとわかる。口うるさい妹を持った兄貴の気分はこんな感じなのだろうか。姉貴がサバサバし過ぎていたのでよくわからない。
そう考えると、つくづく姉貴と千紗は親子だけど似ていない。
今でも忘れられないことに、姉貴が高三で俺が中三の時、自分の部活のハンドボール部の後輩を俺に紹介しようとしたことがあった。
いきなり姉貴に写真を見せられて、一番かわいいと思う子は誰かと聞かれた。意味も分からずに俺の指差した女の子を、姉貴がその週末に家へと呼んだ。
たまたま地区の体育館でやっていた空手の試合に出ている俺を見て、その人も気になっていたらしいことは後で聞かされた。
そんな事情を知らない俺に、姉貴は無責任にも『後はよろしく』とだけ告げて、その人と俺を残して出掛けてしまった。
どないせいっちゅうんじゃ。
純真で真面目だったその頃の俺は、お茶を出して訳の分からない話を必死にして場を持たせようとしたものの、最後には向かい合ったソファーにお互い黙って座るだけになった。
しばらくして姉貴が帰ってくると、『バカヤロー』と叫んで雨の中走り去った苦い想い出だ。
さんざん走って帰ると傘を差した姉貴が家の前に立っていた。心配になって待っていてくれたのかと思ったら、一言『根性なし』と笑って家に入って行った。
バイク事故で失ったまま封印できればよかったのに残念ながら取り戻してしまった記憶。
もちろんその人とはその後も何もないし、姉貴からは理不尽にもそれ以降根性なしのレッテルを貼られてからかわれ続けた。
いまさら余計なことを思い出して、地味なボディブローを受けた気がする。
七瀬と深町のことを千紗にたしなめられたのを、姉貴が鼻で笑っているように感じるのは俺の被害妄想ではないだろう。
すっかりご機嫌を直した千紗が鼻歌交じりにコーヒーを入れてくれている。それよりはお腹がすいたとキッチンへ向かおうとすると家の電話が鳴り響いた。
ディスプレイには――『親父』の表示。
どうせ正月休みに千紗を田舎へ連れて来なかったことの文句だろうと予想をしたら、そのとおりだった。
延々と聞き続けるのも面倒なのでリビングへ来た千紗の手にしたコーヒーカップと受話器を早々に交換する。
てっきり田舎へ来るように親父が言うかと思って会話に側耳を立てたが、千紗とは日常の話だけで終わった。
さすがに冬休みも終わりに近いから遠慮をしたらしい。俺にもそのくらい気を遣って欲しいものだ。
靴もあるし何処にも出かけていないはずと思いつつリビングへ向かう。ソファーに座った千紗がクッションを抱いたまま顔を向けた。
「あのさ、最近、この部屋、女の人が結構来るよね」
「女の人って、全部千紗も知ってるだろう?」
「ん、でも何となく、イヤ、かな」
「とは言っても、七瀬はずっと部屋の管理をしてくれていたし」
「今は千紗がするもん」
「なるほど。深町は千紗の面倒を見てもらっているし」
「先生には面倒を掛けないようにしてるもん」
「そうか。でもアルバムは千紗が頼んだのだろう?」
「うちに持って来てなんて言ってないもん」
「ふむ。結構どころか、たった二人だぞ?」
「そう――なんだけど」
改めて自分の交友関係の狭さを感じさせられる。新手の嫌がらせか?
しかし千紗は唇の端を噛んでいる、言いたいことが言えていないときの表情を見せる。
俺達二人共が知っている人間と言っても、千紗にとって七瀬は姉貴を思い出させたり、深町は学校の先生だったりする。俺とは感覚が違うだろうし、もう少し真剣に考える必要があるかもしれない。
そういえば、父子家庭の子供が家に出入りする女性が気に入らず、非行に走った話を少年課の警察官だった沢田さんから聞かされたことがある。
俺達の関係も父子に似たようなものだと思っているから、気をつけるに越したことはない。千紗が非行に走ると、親族へ顔向けができなくなってしまう。
「確かに独身男のところへ、若い女の人が入れ替わりで来るなんて評判も良くないよな。わかった、控えるように言っておくよ」
「うん!」
恐ろしいほどの笑顔を見せる千紗に、俺の答えが間違っていなかったとわかる。口うるさい妹を持った兄貴の気分はこんな感じなのだろうか。姉貴がサバサバし過ぎていたのでよくわからない。
そう考えると、つくづく姉貴と千紗は親子だけど似ていない。
今でも忘れられないことに、姉貴が高三で俺が中三の時、自分の部活のハンドボール部の後輩を俺に紹介しようとしたことがあった。
いきなり姉貴に写真を見せられて、一番かわいいと思う子は誰かと聞かれた。意味も分からずに俺の指差した女の子を、姉貴がその週末に家へと呼んだ。
たまたま地区の体育館でやっていた空手の試合に出ている俺を見て、その人も気になっていたらしいことは後で聞かされた。
そんな事情を知らない俺に、姉貴は無責任にも『後はよろしく』とだけ告げて、その人と俺を残して出掛けてしまった。
どないせいっちゅうんじゃ。
純真で真面目だったその頃の俺は、お茶を出して訳の分からない話を必死にして場を持たせようとしたものの、最後には向かい合ったソファーにお互い黙って座るだけになった。
しばらくして姉貴が帰ってくると、『バカヤロー』と叫んで雨の中走り去った苦い想い出だ。
さんざん走って帰ると傘を差した姉貴が家の前に立っていた。心配になって待っていてくれたのかと思ったら、一言『根性なし』と笑って家に入って行った。
バイク事故で失ったまま封印できればよかったのに残念ながら取り戻してしまった記憶。
もちろんその人とはその後も何もないし、姉貴からは理不尽にもそれ以降根性なしのレッテルを貼られてからかわれ続けた。
いまさら余計なことを思い出して、地味なボディブローを受けた気がする。
七瀬と深町のことを千紗にたしなめられたのを、姉貴が鼻で笑っているように感じるのは俺の被害妄想ではないだろう。
すっかりご機嫌を直した千紗が鼻歌交じりにコーヒーを入れてくれている。それよりはお腹がすいたとキッチンへ向かおうとすると家の電話が鳴り響いた。
ディスプレイには――『親父』の表示。
どうせ正月休みに千紗を田舎へ連れて来なかったことの文句だろうと予想をしたら、そのとおりだった。
延々と聞き続けるのも面倒なのでリビングへ来た千紗の手にしたコーヒーカップと受話器を早々に交換する。
てっきり田舎へ来るように親父が言うかと思って会話に側耳を立てたが、千紗とは日常の話だけで終わった。
さすがに冬休みも終わりに近いから遠慮をしたらしい。俺にもそのくらい気を遣って欲しいものだ。
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