【完結】秘め事

あい

文字の大きさ
上 下
19 / 26

じゅうはち

しおりを挟む
「もしもし?彩音?」
「里中君…。おはよ。」
「まだ寝てた?」
「ううん。起きてたよ。」
「なんか寝起きの声してる。」
「そうかなぁ?」

涙をふきながら慌てて電話に出る。
電話越しの里中君の声が気のせいかいつもより明るい気がする。
昨日あの後どうなったのか。
気になるけれど聞く勇気がない。

「これから会えたりする?」
「…。」

会いたいけど果たして平静を装って会えるだろうか。

「彩音?」
「あ。うん。」
「じゃ~下に降りてきて!」
「え?」
「もう家の前まで来てるから!」
「うそ!?」
「ホント!じゃ!」

これじゃぁ断ることも出来なかったじゃん。
と言いながらもちょっとしたサプライズに顔がにやけてしまう。
昨日のこと…考えるのやめよう。
目の前の幸せを信じよう。

「お待たせ!」
「おう!」
「も~ビックリした!」
「あはは。ビックリさせたかったから大成功!」
「もぉ~!」
「とりあえず一回抱き締めていい?」
「きゃっ。」

なんの抱擁?
分からないけど素直に嬉しい。

「ひ、人目。恥ずかしいよぉ。」
「…。」
「里中君?」
「あぁ~も~負けたぁ~。」
「ん?」
「いつも休みの日誘うの俺からだから。今回こそは待ってるって決めてたのに無理だったぁ。」
「なにそれ~?」
「なんか俺ばっか好きみたいで悔しいから。」
「そんな。」

里中君。そんな風に思ってたなんて。

「いこっか。」
「うん!」

もやもやしていた気持ちが晴れて。
つないでる手をよりぎゅっとしたくなる。

「ん?」
「なんでもない!」

里中君のこと信じよう。

「これとか彩音似合いそう!」
「ど~?」
「可愛い可愛い!」

可愛いなんて言ってもらえるような年でもないし。
言われたこともほとんどないからくすぐったい。

「じゃ~その帽子かして。買ってくる!」
「え?」
「これかぶって魚釣り行こう!」
「魚釣り?」
「前彩音行きたいって言ってたから。待ってて!」

魚釣り…。
あ。そうだった。
あの時。
エサに飢えた魚だった時。
釣った魚にはエサをやらないタイプなのかと危うく聞きそうになって思わず魚釣りに行きたいなんて言ったんだった。
すっかり忘れていた。
あんなぽろっと言ったことを覚えててくれてたなんて。

「あ!彩音引いてる引いてる!」
「え!あ!ホントだ!」
「すごいすごい!」
「きゃ!釣れた!でもこれどうしたらいいの!?」
「あはは。テンパりすぎ。」
「だってぇ。」

里中君なんだか今日はよく笑うなぁ。
いつもはなんとなく年の割に落ち着いていてクールなイメージなのに。
もちろんどっちの里中君も好きだけど。
なんだろ?
何か気になる。
これもやっぱり昨日の合コンが関係してる?
あの子が関係してる?

「ねぇ。」
「ん?」
「昨日の飲み会って。どうだった?」

思わず聞いてしまった。
信じるってさっき決めたばっかりなのに。

「普通に楽しかったよ?」
「誰と飲んでたんだっけ?」
「昨日は同期と。」
「そっか。」
「なんで?」

実は同じ店で見てて合コンみたいでやだった。
なんて言えるわけない。

「あ。ううん。同期の子とはなかいいの?」
「わりとなかいいほうだとは思うけど。」
「横のつながりも大事だもんね。」
「彩音だって昨日同期の智子さんと飲んでたんでしょ?」
「あ。うん。」

智子のこと智子さんって名前で呼ぶんだ。
私だって名前で呼ばれるようになったの最近なのに。

「どうしたの?」
「なんでもない。」

智子にも同期の子にも美月ちゃんにも沸き起こるこの感情。
この感情の名前知ってる。
嫉妬だ。焼きもちだ。
爽やかな川原での魚釣りデートには合わないような黒い気持ちが生まれていく。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

【完結】お願い その手で私を

あい
恋愛
どこのパーツよりも手が大好き。 そんな手フェチの奈美が恋をした相手はもちろん。 理想的な手の持ち主。 手から始まり、過去と未来との恋を結ぶ物語になっています。 少女漫画好きの初心者が描いている漫画風小説です。 温かく見守って頂けると嬉しいです。

ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる

Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。 でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。 彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。

【完結】俺様御曹司の隠された溺愛野望 〜花嫁は蜜愛から逃れられない〜

雪井しい
恋愛
「こはる、俺の妻になれ」その日、大女優を母に持つ2世女優の花宮こはるは自分の所属していた劇団の解散に絶望していた。そんなこはるに救いの手を差し伸べたのは年上の幼馴染で大企業の御曹司、月ノ島玲二だった。けれど代わりに妻になることを強要してきて──。花嫁となったこはるに対し、俺様な玲二は独占欲を露わにし始める。 【幼馴染の俺様御曹司×大物女優を母に持つ2世女優】 ☆☆☆ベリーズカフェで日間4位いただきました☆☆☆ ※ベリーズカフェでも掲載中 ※推敲、校正前のものです。ご注意下さい

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~

吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。 結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。 何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

社長室の蜜月

ゆる
恋愛
内容紹介: 若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。 一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。 仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

処理中です...