【完結】秘め事

あい

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一日。また一日と過ぎていき。
あの日から一週間以上経つ。
頭の中で何度あのシーンをリピートしただろう。
こっちはこんなにかきみだされているのに。
里中君は何もなかったかのよう。
何一つ変わった様子がない。
もしかして酔っていないつもりが酔ってしまっていたのか?
夢だったのか?
…それにしては感触がリアル過ぎ。

「彩音ちゃんここ直しておいて!」
「す、すみません!」

動揺しているのか珍しくミス。
なんでもそつなくこなすはずなのに。
こんなミスするなんて。
あの時のことは忘れよう。
向こうもそのつもりみたいだし。

「はぁ~今日は遅くなっちゃったね~!」
「お疲れ様でした。」
「あ!彩音ちゃん送っていこうか!?」
「橋本さん!魂胆みえみえですよ~!」
「彩音ちゃん気をつけて!」
「あ、はい!」

結局駅まで皆で一緒に。
そして。
あれ。こっち方面誰もいなかったっけ?
まずい。里中君と二人きり。
この前のことが嫌でも思い出される。
結局あれはなんだったのかわからないままだけど。
二の舞にならないようにしなきゃ。

「…じゃ~また明日。お疲れ様。」

今日はちゃんと一人で降りたはずだったのに。

「ちょ、里中君!?」

なんで!?
いつの間にか降りてる。
ドアも閉まり電車が去っていく。

「遅いし家まで送る。」
「ここで大丈夫だよ。里中君も遅くなっちゃうし。明日も早いし。えっ。ちょ、ちょっと待ってよ!」

私の言うことを完全に無視してスタスタ歩きだす。
家も前回ので分かってるからドンドン進んで止まらない。
やっと横断歩道の赤信号で止まった。
家に着くまでの間に断る最後のチャンス。

「ね。里中君。」
「もしかしてこの前のこと意識してる?」
「え?」

そりゃ~そうに決まってる!
っでもちょっと待って。
そんなこと言ったら…なんにも感じてない里中君に対して私だけ意識してるみたいで悔しい。

「だから避けてる?」
「そ、そんなことないけど。」

年上の大人の女性としてもあのことで動揺してるなんて思われたくない。
信号が青に変わって進みだす。
もう進むしかない。
身長差のせいかスタスタ歩く里中君と歩幅が合わない。
なんで私があわせているのか。
少し息が荒くなる。

「…送ってくれてありがとう。気をつけて帰ってね。」
「部屋入んないの?」
「入る入る。じゃ~ね。」

鍵を開けて入ろうとしたら。
しまった!
最後まで見送るべきだった。

「ガードゆるすぎ。」

ドアがしまる間際に入ってきてまた同じ体制に。
二回目の壁ドン。
大丈夫。同じ手にはのらない。
迫ってきた唇を顔を背けて避ける。
よし。勝った。
なんの勝負だかわからないけど勝った。

“ちゅっ”

「きゃ。」

…勝ててない。
反らしたつもりが無防備になった首筋にチャンスを与えてしまっていた。
里中君はふっと笑ってキスを続ける。
耳や首筋は唇よりも更に身体に直結する。

「んっ。あん。」

また変な声を出してしまった。
恥ずかしさでふと我に返る。

「さ、里中君!」
「…。」
「この前のもそうだけど。こういうのってよくないと思う。」

必死に一定の距離をとる。

「なんで?」
「な、なんでって。こういうのはちゃんと彼女と。」
「じゃ~彼女になって。」
「え!?」
「ふっ。」
「ちょ、ちょっとからかわないでよ!」

ダメ。なんでか分からないし納得いかないけどこの年下男子に対して私劣性だ。

「普段仕事では演じて一線置いてるくせに。」
「な、なに?」
「こういう事には余裕ないんだ。」

う。図星。
でもこのままひるむわけにはいかない。
このまま経験の少なさを見破られるわけにもいかない。

「里中君とはこういうこと考えられないの。ごめんね。」

挑発には乗らない。さらりとかわす。
それが大人の女。
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