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いち
しおりを挟むなんでもそつなくこなすタイプ。
スポーツは全般得意。
勉強も学年10位以内。
お料理裁縫もできる。
出来ないことは基本ない。
でも何もかも出来てしまう女は可愛くない。
そう悟ったのが社会人2年目。
新人は出来ないぐらいが可愛い。
その教訓を活かし。加藤彩音入社7年目。
今年からの新しい部署ではそこそこできない可愛げのある女子を目指している。
「これってこれであってますかぁ?」
「どれ?あってるあってる!」
「ありがとうございます!あとこれってどうしたらいいんでしたっけ?」
全て分かっていること。できること。
でもあえて分からないふり。
「さすがですね!いつも頼ってばかりですみません!」
「全然!また何か分からなかったらいつでも言ってね!」
「はい!」
いつも頼っているふりばかりですみません。
面倒でもこのワンクッション置くことが職場で上手く立ち回るこつだと知りました。
「お酒あんまり強くなくて~。」
「いいじゃん!今日はもうちょっと飲んじゃおうよ!」
「じゃ~もう少しだけですよ!?」
「彩音ちゃんはすぐ顔赤くなっちゃうから可愛いね!」
顔は赤くなってもそんなに弱くはありません。
「彩音ちゃん結構飲まされちゃってたけど大丈夫?」
「えへ。よっちゃったみたいです~。」
「じゃ~送っていこうか~!?」
「大丈夫ですよ~。」
結構です。一人で帰れます。というか早く一人になりたい。
「じゃ~俺同じ方向なんで送っていきますよ。」
「里中君いいの?橋本さんじゃ危険そうだから里中君なら任せてもね!」
「なんですかそれ~!」
「あはは!」
「じゃ失礼します。加藤さんいきましょうか。」
「あ、うん。」
里中君。里中翔(かける)くん。
入社二年目。物静かで淡々と仕事をこなす真面目なタイプのメガネ男子。5つ下の男の子。
5つも上のおばさんの面倒なんてみたくないだろうに。
巻き込んでしまって申し訳ないと少しの罪悪感。
「次の駅で降りるね。」
「はい。」
電車の中でも無口。
横に立っているだけのホントにただの付き添い人。
「着いた。ありがとうね。お疲れ様。」
「家まで送りますよ。」
「え?」
そう言って一緒に降りてきて電車のドアが閉まった。
少し予想外。
「悪いしいいょ。酔いもだいぶさめたし大丈夫だから。」
「橋本さんに変わって送るって皆さんに言っちゃったんで。最後まで。」
強い責任感。
私の体を気遣いずっとカバンも持ってくれている。
申し訳なさがさらにかさむ。
「うちここ。えっと鍵。」
「どこに入ってますか?」
「カバンの内ポケット。」
「ありました。はい。」
「ありがとう。」
“ガチャン”
ドアを開けて中に入る。
靴を脱いで部屋に上がろうとしたらつまづいて少しよろけてしまった。
これはさすがに演技ではなかった。
「大丈夫ですか?」
里中君の腕が私のお腹にまわり。ぐいっと引き寄せられた。
「あ、ごめん。ちょっとつまづいちゃっただけ。大丈夫!」
「…今のも演技?」
っえ?
“ドン”
ちょっと待って!色々待って!
今のも演技?ってどういうこと?
そしてこの俗に言う壁ドン体制はなに!?
「全然酔ってなかったですよね?」
至近距離で問い詰められる。
バレてたの?
ってか里中君こういうことするキャラじゃないでしょ!?
「俺も全然酔ってないんで。」
「え?」
何宣言!?
って考えてる隙に。
“ちゅっ”
「ちょ、ちょっと里中君?」
嘘でしょ!なんでいきなりキス!?
“ちゅっ ちゅ”
「ね。ちょっとぉ。」
ダメ。
全然意味わかんない。
でも…。
「ん。んん~。」
キスが止まらない。
止まらないどころか加速していく。深くなっていく。
「あっ。」
ど、どうしよう。
変な声が出て。
力が入らなくなって。座り込んじゃった。
「カバンここに置いておきますね。」
「…。」
「おやすみなさい。」
“バタン”
なんだったの。今の。
まだ全身がジンジンしてる。
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