上 下
38 / 48

恋愛下手

しおりを挟む
家に帰ってすぐにお風呂に入って。洗濯機回して。
少しでも早くあの匂いを消したくて必死な自分がいて。
でもどこか鼻の奥にずっと残って消えない香り。

「もしもし。もう寝てました?」
「ううん。」

夜遅くに拓海君からの着信。
この時間まで一緒にいたのかなぁ。

「今日はなんかすいませんでした。」
「なんで謝るの?」
「え。」

しまった!
なんかやな感じの言い方になっちゃった。

「テニス楽しかったね!またどこか遊びに行こうね。」
「…はい。」
「じゃ~また明日会社で。お休み。」

何を話したらいいのか分からないし。
今日は何を話してもよくない雰囲気にしてしまいそうで早々に電話を切ることが正解な気がして。
寝て頭をからっぽにして朝を迎えたい。


昨日は楽しいテニスデートだったなぁと幸せな気分で終わるはずだったのに。
朝起きたらすっきりしていたかったのに。
拓海君とゆかりちゃんのことが頭から離れない。
自分も篤人さんと付き合っていたこともあったし。
高校生から社会人になるまでの間。全く何もないほうがおかしいとは頭では分かってはいるのだけど。

「部長!この企画改めて練り直してみたんですけど。」
「うん!いいんじゃない?」
「それでアポイントとれたので明後日行ってきても大丈夫ですか?」
「すごいじゃん!よろしくね!誰か一緒に同行する?」
「いえ。一人で大丈夫です!」
「分かった!」

一人になりたい。
拓海君と少し離れて。
自分の負の気持ちを落ち着かせたい。

「今回はわざわざ足を運んでいただきありがとうございました。」
「こちらこそお時間頂きありがとうございました。直接お話することができて良かったです。今後ともよろしくお願いいたします!失礼します。」

ふぅ。
無事に終了!
良かったぁ。
早速部長に報告して帰ろうと思ったら。

「ただいま台風の影響により運転を見合わせております。」

嘘。帰れない。

「もしもし。今無事に終わったんですけど。台風で電車が止まってしまっていて帰れなくて。延泊します。」
「分かった。こっちのことは大丈夫だから気をつけてね。」
「はい。失礼します。」

昨日前泊で入ってから明日まで三日間拓海君と会わない。
付き合い初めてからこんなに長く会わなかったことなかったし。こんな天気だし少し心細いかも。

「もしもし奈美さん?」
「拓海君?どうしたの?」
「今部長から奈美さん帰れなくなってるってきいて。」
「そうなの。台風で電車止まっちゃってて。」
「大丈夫ですか?」
「うん!とりあえずホテルに戻ってゆっくりしてるよ。」
「良かった。」
「うん。拓海君はまだお仕事中だよね?」
「はい。心配でつい電話しちゃいました。」
「ありがとう。そっちは台風の影響まだ平気?」
「大丈夫です。」
「これからそっちも影響でてくるだろうから気をつけてね!」
「はい。」
「じゃ~また。」
「あ!」
「ん?」
「奈美さん。」
「なぁに?」
「好きです。」
「えっ?きゅ、急にどうしたの?」
「どうしても言いたくなっちゃって。」
「あは!ありがとう。」
「じゃ~また連絡します。」
「うん!」

好きっていう言葉には魔法の力があるのかもしれない。
たった一言なのに。
こんなに嬉しい気持ちになれてしまう。
特に不意打ちの好きは。
はぁ。
あんなに一人になりたかったのに。
今は。いますぐに会いたいよ。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

10のベッドシーン【R18】

日下奈緒
恋愛
男女の数だけベッドシーンがある。 この短編集は、ベッドシーンだけ切り取ったラブストーリーです。

社長から逃げろっ

鳴宮鶉子
恋愛
社長から逃げろっ

捨てる旦那あれば拾うホテル王あり~身籠もったら幸せが待っていました~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「僕は絶対に、君をものにしてみせる」 挙式と新婚旅行を兼ねて訪れたハワイ。 まさか、その地に降り立った途端、 「オレ、この人と結婚するから!」 と心変わりした旦那から捨てられるとは思わない。 ホテルも追い出されビーチで途方に暮れていたら、 親切な日本人男性が声をかけてくれた。 彼は私の事情を聞き、 私のハワイでの思い出を最高のものに変えてくれた。 最後の夜。 別れた彼との思い出はここに置いていきたくて彼に抱いてもらった。 日本に帰って心機一転、やっていくんだと思ったんだけど……。 ハワイの彼の子を身籠もりました。 初見李依(27) 寝具メーカー事務 頑張り屋の努力家 人に頼らず自分だけでなんとかしようとする癖がある 自分より人の幸せを願うような人 × 和家悠将(36) ハイシェラントホテルグループ オーナー 押しが強くて俺様というより帝王 しかし気遣い上手で相手のことをよく考える 狙った獲物は逃がさない、ヤンデレ気味 身籠もったから愛されるのは、ありですか……?

そこは優しい悪魔の腕の中

真木
恋愛
極道の義兄に引き取られ、守られて育った遥花。檻のような愛情に囲まれていても、彼女は恋をしてしまった。悪いひとたちだけの、恋物語。

Promise Ring

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
浅井夕海、OL。 下請け会社の社長、多賀谷さんを社長室に案内する際、ふたりっきりのエレベーターで突然、うなじにキスされました。 若くして独立し、業績も上々。 しかも独身でイケメン、そんな多賀谷社長が地味で無表情な私なんか相手にするはずなくて。 なのに次きたとき、やっぱりふたりっきりのエレベーターで……。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

皇帝陛下は身ごもった寵姫を再愛する

真木
恋愛
燐砂宮が雪景色に覆われる頃、佳南は紫貴帝の御子を身ごもった。子の未来に不安を抱く佳南だったが、皇帝の溺愛は日に日に増して……。※「燐砂宮の秘めごと」のエピローグですが、単体でも読めます。

人違いラブレターに慣れていたので今回の手紙もスルーしたら、片思いしていた男の子に告白されました。この手紙が、間違いじゃないって本当ですか?

石河 翠
恋愛
クラス内に「ワタナベ」がふたりいるため、「可愛いほうのワタナベさん」宛のラブレターをしょっちゅう受け取ってしまう「そうじゃないほうのワタナベさん」こと主人公の「わたし」。 ある日「わたし」は下駄箱で、万年筆で丁寧に宛名を書いたラブレターを見つける。またかとがっかりした「わたし」は、その手紙をもうひとりの「ワタナベ」の下駄箱へ入れる。 ところが、その話を聞いた隣のクラスのサイトウくんは、「わたし」が驚くほど動揺してしまう。 実はその手紙は本当に彼女宛だったことが判明する。そしてその手紙を書いた「地味なほうのサイトウくん」にも大きな秘密があって……。 「真面目」以外にとりえがないと思っている「わたし」と、そんな彼女を見守るサイトウくんの少女マンガのような恋のおはなし。 小説家になろう及びエブリスタにも投稿しています。 扉絵は汐の音さまに描いていただきました。

処理中です...