【完結】お願い その手で私を

あい

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夏の手

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たまたまあの日は鉢合わせなかったけど。

彼女持ちの後輩とどうにかなろうなんて考え早くやめたほうがいいに決まっている。

けど。この手を見るたびに引き戻されてしまう。
好きって感情は上手くコントロールできなくて厄介なもの。

「いい天気になってよかったですね!」
「あ、うん!」

荷物を運ぶ力強い手に見入ってしまう。
今日は皆でBBQ。
部長の発案で毎年7月最初の土曜日にBBQをしていて。
親睦会みたいなものかな?

「薪もらってきました!」

ダメだぁかっこよすぎてクラクラする。
半袖の時期は腕が見放題。
薪を担いできた腕がすごくいい。
二の腕に力こぶまでできるなんて。
ホントにどこまで好みすぎるんだろう。

「火ついた!ドンドンお肉焼いていこう!」
「いい匂い!」
「美味しそう!」
「焼けたのドンドン食べて~!」

大自然の中美味しいお肉とステキな手。
最高過ぎる!!

「奈美ちゃんご機嫌だね~!」
「部長!」
「何かいいことあった?」
「大自然の中美味しいご飯最高です!!」
「あはは!」

若い子達は紺野君を囲みながらきゃっきゃしてる。
それを横目にお酒とお肉を食べるお局の私。
世界が違うなぁ。
紺野君の回りはすごくキラキラしていてまぶしい。

「藤枝さん。じゃがバターできたよ~。」
「ありがとう!」

篤人さん。私の大好物のじゃがバター。

「振られてもなお献身的。」
「部長~人の傷口えぐらないで下さい!」
「ごめんごめん。この会で二人くっついたんだったなぁって思い出してさ。」
「ぶ、部長やめて下さい!」
「奈美困ってますから。」
「はぁ~い。」

部長が変なこと思い出すから。

「今年はカップル誕生するかなぁ?」

紺野君はきっと紺野君が望めばすぐにでも。
そうだ。すでにいるんだった。
どんな人なんだろう?
年上?年下?
活発な子?大人しい子?
綺麗な花束が似合う子。

「じゃがバター美味しそうですね!」 
「美味しいよ!あっちにまだあるから紺野君も是非!」
「はい!」
「あつつぅ。」
「ったく奈美猫舌なんだから慌てて食べるなって!」
「だってぇ美味しいから早く食べたくて~。」
「あはは。」
「こっちのカボチャは?もう冷めてそうじゃん?」
「うん!おいし~い!」
「パサパサ系好きだよな~。」
「パサパサ系?」
「なんか芋とかカボチャとかなんかそういうの。」
「好き~!」
「あんま食べると太るぞ~!まぁ別に太ってもいいけど。」

深い意味はないのかもしれないけど。
自意識過剰かもしれないけど。
さりげない一言が気になっちゃう。 

「…。」
「奈美さん!じゃがバターgetしてきました!美味しいです!」
「最高だよね!」
「拓海くんお肉焼けたよ~!」
「…ありがとうございます!」
「こっちこっち~!はい!」

行っちゃった。

「行っちゃった。」
「え?」
「って顔してる。」 
「え!?」 
「ホント好きなんだな。」
「えっと。あの。わぁ!」

じゃがバターポロポロ落としちゃった。

「動揺しすぎ。」
「そ、そんなんじゃ。」
「あぁ~あ。しみになっちゃう。すぐ洗った方がいいわ。」
「うん。」 
「俺替えのTシャツ持ってきてるし。とりあえずそれに着替えて洗ったら。」
「うん。」
「車取りに行こう。」

篤人さんはいつも気が利く。
私がドジをしてしまっても柔らかく見守ってくれる。

「着替えられた?」
「ん。」
「…なんか奈美がそうやってぶかぶかの着てるの懐かしいわ。」
「…。」

私もそう思った。

「ごめん。まだ未練だらけだわ。」
「篤人さん…。」
「こんな姿見たら…。」
「あ、洗わなきゃ!あっちで洗ってきますね!Tシャツありがとうございます。」 

危ない。引きずられる。

「…奈美さん。」
「紺野君。」
「その格好って。」 
「食べてたらじゃがバターこぼしちゃって。」
「もしかして高田さんの?」
「あ、うん。たまたま着替え持ってきてたみたいでお借りして。」
「…。高田さんと奈美さんってホントに別れてるんですよね?」
「え?」 
「三年前に別れたんですよね?」 
「…うん。」 
「じゃ~なんでまだ元カレのTシャツとか着ちゃうんですか?」
「え?」
「こんなん見せられたら…。」
「紺野君?」 

行っちゃった。
なんか誤解された?
胸がチクチクする。
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