【完結】内に秘めた想い

あい

文字の大きさ
上 下
3 / 34

マッチング

しおりを挟む
現実は理想とはカナリかけ離れたもので。
10代の頃は。
誰もがステキな彼とステキな恋をして。
その先に結婚があると思っていた。
29歳の現実は。
ステキな恋だの愛だのとは無縁。
たまにお友達とご飯するぐらいで。
会社と家の単純な往復生活。

「さっちゃ~ん。やっぱり私にはこういうの向いてなかったんだよ~。」
「今回はたまたまマッチングしなかったけど楽しかったじゃん!」
「あの!さっきマッチングイベントに参加されてましたよね!?」
「はい!」
「実は俺達も参加してて!良かったらこの後飲みにでも行きません!?」

マッチングイベント。
今日は大学からの友達のさっちゃんと婚活イベントに。
こういうのは向いていないって分かっていた。
でも。
29歳という年齢と。
さっちゃんの猛プッシュと。
少しの期待と…。
参加してみて改めて感じる。
コミュニケーション能力と外見の重要性。
今も二人の男性の視線の先にはさっちゃんしかいない。
分かってる。ずいぶん前から分かっていた。
現実は厳しいって。

「きゃはは!」
「俺さっちゃんの番号マッチングの時書いてたんだよ~!」
「そ~だったの~!?」

さっちゃんは可愛いし性格もいい。
同性の私から見ても魅力的。
いつでもさっちゃんさえその気になればすぐに相手も見つかるはず。
でもさっちゃんは常に上を目指していて。
さっちゃんもまた、私とは違う次元で理想と現実との間でさ迷っているみたい。

「もう一件行こうよ~!」
「でも…。」
「いいじゃん!いいじゃん!」
「ほらほら!」

ダメ。これ絶対よくない流れ。

「さっちゃん帰ろう。」
「うん。」
「なんだよ!!」
「その気にさせといてそりゃ~ね~だろ!?」
「えっ?」

男の人たちの態度が急変。怖い。
どうしよう。
誰か!
周りの人たちは見て見ぬふり。

「さっちゃん行こう!」

やっぱり私がなんとかするしかない!
思い切ってさっちゃんを引っ張って連れて帰ろうとしたら。

「おい。なんだよ!」
「お前はいいんだよ。」
「一人で帰れ。」

私に用がないのはわかってる。
でも私の大事な友達を傷つけられるのはごめんなの!

「さっちゃんを離して!」
「うるせ~な!」
“ドン!”
「いたっ。」
「美香!ちょっと美香になにするのよ!!」
「うるせ~な~。」

突き飛ばされた。
心も身体も色んな意味で傷つく。

「それ以上やってっと警察よぶぞ。」
「は?」

男の人が二人。
助けてくれるの?

「んだよ。お前らには関係ね~だろ!」
「もしもし。」
「マジかよ。」
「行こうぜ。」

助かったぁ。

「大丈夫?」
「はい。」

さっちゃんに男の人が駆け寄る。さっちゃん大丈夫そうで良かった。

「大丈夫?」
「え、あ、はい。」

もう一人の人が私に声をかけてくれた。

「立てそう?」
「大丈夫です!」

腕を持って引き上げようとしてくれたけど。
私なんかに申し訳ないから手をかりずにすくっと立ち上がる。

「さっちゃん大丈夫!?」
「うん!美香こそ大丈夫?なんかこんなことになっちゃってごめんね!」
「そんな。さっちゃんは悪くないよぉ。」

二人で手をとり慰めあう。
こんな怖い思いをしたのは初めてかもしれない。

「二人とも大丈夫?」
「はい!ホント助けて頂いてありがとうございました!」
「ありがとうございました。」
「気持ち落ち着くまでそこのカフェとかで暖かいものとかどう?」
「いえ。大丈夫です。さっちゃん行こう。」
「あ、そ~だよな。あんなことあった後なのにごめん。ちょっと待ってて。」
「おい、良太!?どこいくんだよ!?」

一人の男の人が急に走って行っちゃったの。
助けてくれた人達とはいえ。まだ怖い。不安。
早くこの場から去りたい。

「お待たせ!はい!」
「え?」
「俺らとお店入るの嫌だろうから。テイクアウトしてきた。暖かいもの飲んだら少しほっとすると思うから。」
「ありがとうございます!」
「…ありがとうございます。」
「はい!勇介のも!」
「え!俺にまで?サンキュー!」
「あっち座る?」
「あ、はい!」

なんだろ。
あったかい。
しみる。

「わ!こんな時間!私終電が!」
「間に合いそう?」
「はい!美香私先帰るね!」
「え!私も!」
「ごめん!ギリギリだ!行く!」
「あ、じゃ~俺駅まで一緒に行くよ!」
「すみませんありがとうございます!」
「じゃ良太また!」
「おう!」

バタバタと二人は行ってしまった。
さっちゃん終電間に合ったかなぁ。

「落ち着いた?」
「え?」
「さっき震えてたから。」
「…。」

気づいてたんだ。
怖かった。本当に怖かった。
わ。ダメ。思い出したら。込み上げてくる。
泣きそう。

「私もそろそろ。」
「…。電車大丈夫そうならもう少し。」
「今日は本当にありがとうございました。助かりました。」
「…。」
「失礼します。」
「待って。駅まで送るよ。」
「すぐそこなんで大丈夫です。」
「俺ももう帰るとこだし。」
「…はい。」

男の人とこうして夜の街を二人で歩くのってはじめて。
知らない人だし。何を話すわけでもないし。
不思議な時間。
でもなぜか分からないけど柔らかい時間だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

旦那様のために一生懸命を尽くした私が邪魔者扱いですか⁉

ヘロディア
恋愛
幸せな結婚生活を送っていた主人公。しかし、ある日唐突に男の子が現れる。彼は、「パパはどこ?」と聞いてきて…

ボロボロになった心

空宇海
恋愛
付き合ってそろそろ3年の彼氏が居る 彼氏は浮気して謝っての繰り返し もう、私の心が限界だった。 心がボロボロで もう、疲れたよ… 彼のためにって思ってやってきたのに… それが、彼を苦しめてた。 だからさよなら… 私はまた、懲りずに新しい恋をした ※初めから書きなおしました。

届かない手紙

白藤結
恋愛
子爵令嬢のレイチェルはある日、ユリウスという少年と出会う。彼は伯爵令息で、その後二人は婚約をして親しくなるものの――。 ※小説家になろう、カクヨムでも公開中。

君を愛することはないと言う夫とお別れするためのいくつかのこと

あかね
恋愛
フレアとは結婚式当日夜に君を愛することはないと言われ、愛人の存在を告げられたことにより、ショックを受けることもなく婚姻を無効にするため、実家連絡をするような女である。そして、昔好きだった相手が襲来し、再婚の予約をしたので、さっさと別れたいと夫を元夫にすべく丸め込むのであった。

最近様子のおかしい夫と女の密会現場をおさえてやった

家紋武範
恋愛
 最近夫の行動が怪しく見える。ひょっとしたら浮気ではないかと、出掛ける後をつけてみると、そこには女がいた──。

あの日、さようならと言って微笑んだ彼女を僕は一生忘れることはないだろう

まるまる⭐️
恋愛
僕に向かって微笑みながら「さようなら」と告げた彼女は、そのままゆっくりと自身の体重を後ろへと移動し、バルコニーから落ちていった‥ ***** 僕と彼女は幼い頃からの婚約者だった。 僕は彼女がずっと、僕を支えるために努力してくれていたのを知っていたのに‥

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

私が死ねば楽になれるのでしょう?~愛妻家の後悔~

希猫 ゆうみ
恋愛
伯爵令嬢オリヴィアは伯爵令息ダーフィトと婚約中。 しかし結婚準備中オリヴィアは熱病に罹り冷酷にも婚約破棄されてしまう。 それを知った幼馴染の伯爵令息リカードがオリヴィアへの愛を伝えるが…  【 ⚠ 】 ・前半は夫婦の闘病記です。合わない方は自衛のほどお願いいたします。 ・架空の猛毒です。作中の症状は抗生物質の発明以前に猛威を奮った複数の症例を参考にしています。尚、R15はこの為です。

処理中です...