上 下
9 / 79

第9話

しおりを挟む
 リオウを、冒険者のジークが優しく撫でていた。
 とても幸せそうに見えて……撫で終えると再び表情を硬くして、ジークが私に尋ねる。

「……リオウだが、調子が悪いのではないか?」

「わかるのですか?」

 ジークの発言に私が尋ねたのは、今日のリオウは元気に振る舞っていたからだ。
 リオウは昨日、村長の前では元気のない姿を見せたけど……今日、冒険者達の前では我慢していた。 

 回復魔法が使える私は同行することになるけど、不調だと知られたらリオウは同行できないかもしれない。

 そう考えたリオウは今まで元気なフリをしていたけど……ジークは、触れただけでわかったようだ。

 私が驚いていると、リオウの発言で更に驚くことになる。

『アミリア……ジークが私に触れて何をしたのかわかりませんけど、一気に元に戻ることができました』

「えっ!?」

 リオウが飛び跳ねながら元気よく鳴き声を出すけど、ジークが何をしたのかがわからない。

 私とリオウがジークを眺めると、安堵しながら話してくれる。

「元気になってよかった……俺は動物について調べていたけど、魔力を宿した動物は体内の魔力が扱えなくなる時があるらしい」

 それが不調の原因だと思うけど、私とリオウは知らなかった。

 リオウが分身体を出したのは初めてだから、分身の体に慣れず体内の魔力が扱えなくなったのかもしれない。

「俺がリオウに魔力を与えることで、問題なく扱えるようにした……アミリアさんにも、やり方を教えておこう」

「ありがとうございます……よろしくお願い致します」

 大地の主は2人組の冒険者が調査をして、明日倒すことに決まっている。
 今日、私はジークから――リオウに魔力を与える方法を教わろうとしていた。

■◇■◇■◇■◇■

 私はジークから、リオウに魔力を与える方法を教わる。
 かなり高度な技術と聞いていたけど、リオウとは意思疎通ができるから問題ない。

 これでリオウは不調になることはなくて……ジークと出会えてよかったと、私は心から想っていた。

「ジーク、ありがとう」

『ありがとうございます……と言っても、私の声は聞こえませんか』

 夕方になって――私は、リオウに魔力を与えることができていた。

 話している間に敬語はいらないとお互いが決めて、私とリオウがお礼を伝える。 

「1日で魔力を問題なく与えるようになるとは思わなかった……アミリアは、リオウと会話ができるからこそだ」

 どうやらジークは、リオウの反応から会話ができていると気づいたようだ。
 隠す必要もなかったから、私は頷く。

「はい……えっと、ジークは私がリオウと会話できていることを知っていたのね」

「俺は魔力を宿した動物に詳しい。リオウの声の意味も、俺にはわかっている」

 どうやらジークは、リオウの言葉がわかるようだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

精霊に愛されし侯爵令嬢が、王太子殿下と婚約解消に至るまで〜私の婚約者には想い人がいた〜

水都 ミナト
恋愛
精霊王を信仰する王国で、マナの扱いに長けた侯爵家の娘・ナターシャ。彼女は五歳でレイモンド王太子殿下の婚約者に抜擢された。 だが、レイモンドはアイシャ公爵令嬢と想い合っていた。アイシャはマナの扱いが苦手で王族の婚約者としては相応しくないとされており、叶わない恋であった。 とある事件をきっかけに、ナターシャは二人にある提案を持ち掛けるーーー これはレイモンドとアイシャ、そしてナターシャがそれぞれの幸せを掴むまでのお話。 ※1万字程度のお話です。 ※他サイトでも投稿しております。

成人したのであなたから卒業させていただきます。

ぽんぽこ狸
恋愛
 フィオナはデビュタント用に仕立てた可愛いドレスを婚約者であるメルヴィンに見せた。  すると彼は、とても怒った顔をしてフィオナのドレスを引き裂いた。  メルヴィンは自由に仕立てていいとは言ったが、それは流行にのっとった範囲でなのだから、こんなドレスは着させられないという事を言う。  しかしフィオナから見れば若い令嬢たちは皆愛らしい色合いのドレスに身を包んでいるし、彼の言葉に正当性を感じない。  それでも子供なのだから言う事を聞けと年上の彼に言われてしまうとこれ以上文句も言えない、そんな鬱屈とした気持ちを抱えていた。  そんな中、ある日、王宮でのお茶会で変わり者の王子に出会い、その素直な言葉に、フィオナの価値観はがらりと変わっていくのだった。  変わり者の王子と大人になりたい主人公のお話です。

妹の婚約者自慢がウザいので、私の婚約者を紹介したいと思います~妹はただ私から大切な人を奪っただけ~

マルローネ
恋愛
侯爵令嬢のアメリア・リンバークは妹のカリファに婚約者のラニッツ・ポドールイ公爵を奪われた。 だが、アメリアはその後に第一王子殿下のゼラスト・ファーブセンと婚約することになる。 しかし、その事実を知らなかったカリファはアメリアに対して、ラニッツを自慢するようになり──。

婚約破棄したなら帰らせて!こんな国どうなっても知りません!

gacchi
恋愛
好きでもない王子からの婚約破棄は嬉しかったのに、どうしてそのまま帰してくれないの!?義妹を喜ばせるためだけに媚薬を飲ませた上で令息に追いかけさせるって、それはあまりにもひどすぎるでしょう?こうなったらきっちり仕返しします!

【完結】婚約破棄したのに殿下が何かと絡んでくる

冬月光輝
恋愛
「お前とは婚約破棄したけど友達でいたい」 第三王子のカールと五歳の頃から婚約していた公爵令嬢のシーラ。 しかし、カールは妖艶で美しいと評判の子爵家の次女マリーナに夢中になり強引に婚約破棄して、彼女を新たな婚約者にした。 カールとシーラは幼いときより交流があるので気心の知れた関係でカールは彼女に何でも相談していた。 カールは婚約破棄した後も当然のようにシーラを相談があると毎日のように訪ねる。

聖女の代わりがいくらでもいるなら、私がやめても構いませんよね?

木山楽斗
恋愛
聖女であるアルメアは、無能な上司である第三王子に困っていた。 彼は、自分の評判を上げるために、部下に苛烈な業務を強いていたのである。 それを抗議しても、王子は「嫌ならやめてもらっていい。お前の代わりなどいくらでもいる」と言って、取り合ってくれない。 それなら、やめてしまおう。そう思ったアルメアは、王城を後にして、故郷に帰ることにした。 故郷に帰って来たアルメアに届いたのは、聖女の業務が崩壊したという知らせだった。 どうやら、後任の聖女は王子の要求に耐え切れず、そこから様々な業務に支障をきたしているらしい。 王子は、理解していなかったのだ。その無理な業務は、アルメアがいたからこなせていたということに。

婚約者に犯されて身籠り、妹に陥れられて婚約破棄後に国外追放されました。“神人”であるお腹の子が復讐しますが、いいですね?

サイコちゃん
ファンタジー
公爵令嬢アリアは不義の子を身籠った事を切欠に、ヴント国を追放される。しかも、それが冤罪だったと判明した後も、加害者である第一王子イェールと妹ウィリアは不誠実な謝罪を繰り返し、果てはアリアを罵倒する。その行為が、ヴント国を破滅に導くとも知らずに―― ※昨年、別アカウントにて削除した『お腹の子「後になってから謝っても遅いよ?」』を手直しして再投稿したものです。

せっかく家の借金を返したのに、妹に婚約者を奪われて追放されました。でも、気にしなくていいみたいです。私には頼れる公爵様がいらっしゃいますから

甘海そら
恋愛
ヤルス伯爵家の長女、セリアには商才があった。 であれば、ヤルス家の借金を見事に返済し、いよいよ婚礼を間近にする。 だが、 「セリア。君には悪いと思っているが、私は運命の人を見つけたのだよ」  婚約者であるはずのクワイフからそう告げられる。  そのクワイフの隣には、妹であるヨカが目を細めて笑っていた。    気がつけば、セリアは全てを失っていた。  今までの功績は何故か妹のものになり、婚約者もまた妹のものとなった。  さらには、あらぬ悪名を着せられ、屋敷から追放される憂き目にも会う。  失意のどん底に陥ることになる。  ただ、そんな時だった。  セリアの目の前に、かつての親友が現れた。    大国シュリナの雄。  ユーガルド公爵家が当主、ケネス・トルゴー。  彼が仏頂面で手を差し伸べてくれば、彼女の運命は大きく変化していく。

処理中です...