上 下
1 / 79

第1話

しおりを挟む
 男爵令嬢の私、アミリア・ファグトは、屋敷の庭で聖獣リオウと話をしていた。

「リオウ……昨日は大活躍だったわね。ありがとう」

『私は、アミリアの為に動いただけです』

 私の正面にいる白く巨体な大型犬――聖獣リオウは、そう言ってくれる。

 それを執事やメイドが呆れたように眺めているのは、リオウの発言がただ吠えているようにしか聞こえていないからだ。

 ファグド男爵家の守り神とも呼ばれる聖獣リオウの声は、私にしか聞こえないらしい。

 リオウは数年前――小犬だった時に私が部屋で飼っていて、その時から意志疎通ができていた。  
 
 成長したら隠し切れないと考えていた時、リオウが屋敷を守ってくれたことで家族に認められる。
 飼うことが決まって、その時から私にしか懐いていなかったけど……姉ラミダは「自分が拾った」と吹聴していたようだ。

 年が2つ上の姉ラミダは私の評判を下げて、自分の評判を上げることを得意としていた。

 執事やメイドが私を蔑んでいるのも、リオウに好かれようと常に声をかけているとか言っているに違いない。

 それでも……私はリオウと一緒にいられるのなら、このままでも別に構わないと考えていた。
 
■◇■◇■◇■◇■

「アミリア。貴方の存在は邪魔なの、今すぐに家から出て行って!」

 私は大部屋で、姉の発言を聞き驚いていた。
 リオウと楽しく話をして数時間後――私は姉ラミダに呼び出され、家族会議となっている。

 家族会議の場にはラミダとお父様とお母様、そしてラミダの婚約者ケドスの姿があった。

 どうしていきなり家を追い出されることになるのかがわからないでいると、お母様が私を見下しながら話す。

「ラミダがケドス様と婚約したのは知っているでしょう……家の汚点になりそうなアミリアは、消えて欲しいと思っているわ!」

 発言を聞いて、お母様の隣で頷くのは侯爵令息のゲドスだ。

「俺はラミダから貴様の悪評を聞いている……聖獣を従わせ私利私欲のために使おうと目論んでいるようだな、そんな奴が俺の義妹になれると思うな!」

 ケドスの叫びを聞いて、私は納得する。
 姉ラミダは「聖獣は一番私に懐いている」と吹聴していたから、常に聖獣の傍にいる私が疎ましくなったに違いない。

 ケドスはラミダの発言を信じているから、追い出さないと危険な存在だと思い込んでいるようだ。

 そんなケドスの発言を聞きながら、お父様が苦そうに呟く。
 
「追い出すと言っても屋敷からだ……平民のような暮らしをするだけで、それがアミリアに相応しいだろう」

「お父様は優しいですね……それでもアミリアはファグド家の恥なので、行動を制限する魔法道具の首輪を着けさせ、常に状況を把握できるようにしましょう」

 お父様の発言に賛同するように、姉ラミダが首輪の魔法道具を取り出して机の上に置く。

 平民のような扱いとお父様は言ったけど……行動を制限する首輪を着けされる時点で、奴隷のような扱いだ。

 ラミダと婚約者ケドス様とお母様は私を追い出したいようだけど、お父様だけは最悪の事態を想像していそう。

 もし私だけしかリオウが懐かなければ最悪の事態だから……勘当はしない方がいいと考えていそうだ。

 お父様とは違い、ラミダは私を支配する為に首輪の魔法道具を着けさせようとしている。
 
 姉ラミダに支配されるのは絶対に嫌だから――私は、家を追い出されようと決意していた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王太子様には優秀な妹の方がお似合いですから、いつまでも私にこだわる必要なんてありませんよ?

木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるラルリアは、優秀な妹に比べて平凡な人間であった。 これといって秀でた点がない彼女は、いつも妹と比較されて、時には罵倒されていたのである。 しかしそんなラルリアはある時、王太子の婚約者に選ばれた。 それに誰よりも驚いたのは、彼女自身である。仮に公爵家と王家の婚約がなされるとしても、その対象となるのは妹だと思っていたからだ。 事実として、社交界ではその婚約は非難されていた。 妹の方を王家に嫁がせる方が有益であると、有力者達は考えていたのだ。 故にラルリアも、婚約者である王太子アドルヴに婚約を変更するように進言した。しかし彼は、頑なにラルリアとの婚約を望んでいた。どうやらこの婚約自体、彼が提案したものであるようなのだ。

妹が嫌がっているからと婚約破棄したではありませんか。それで路頭に迷ったと言われても困ります。

木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるラナーシャは、妹同伴で挨拶をしに来た婚約者に驚くことになった。 事前に知らされていなかったことであるため、面食らうことになったのである。 しかもその妹は、態度が悪かった。明らかにラナーシャに対して、敵意を抱いていたのだ。 だがそれでも、ラナーシャは彼女を受け入れた。父親がもたらしてくれた婚約を破談してはならないと、彼女は思っていたのだ。 しかしそんな彼女の思いは二人に裏切られることになる。婚約者は、妹が嫌がっているからという理由で、婚約破棄を言い渡してきたのだ。 呆気に取られていたラナーシャだったが、二人の意思は固かった。 婚約は敢え無く破談となってしまったのだ。 その事実に、ラナーシャの両親は憤っていた。 故に相手の伯爵家に抗議した所、既に処分がなされているという返答が返ってきた。 ラナーシャの元婚約者と妹は、伯爵家を追い出されていたのである。 程なくして、ラナーシャの元に件の二人がやって来た。 典型的な貴族であった二人は、家を追い出されてどうしていいかわからず、あろうことかラナーシャのことを頼ってきたのだ。 ラナーシャにそんな二人を助ける義理はなかった。 彼女は二人を追い返して、事なきを得たのだった。

冤罪を受けたため、隣国へ亡命します

しろねこ。
恋愛
「お父様が投獄?!」 呼び出されたレナンとミューズは驚きに顔を真っ青にする。 「冤罪よ。でも事は一刻も争うわ。申し訳ないけど、今すぐ荷づくりをして頂戴。すぐにこの国を出るわ」 突如母から言われたのは生活を一変させる言葉だった。 友人、婚約者、国、屋敷、それまでの生活をすべて捨て、令嬢達は手を差し伸べてくれた隣国へと逃げる。 冤罪を晴らすため、奮闘していく。 同名主人公にて様々な話を書いています。 立場やシチュエーションを変えたりしていますが、他作品とリンクする場所も多々あります。 サブキャラについてはスピンオフ的に書いた話もあったりします。 変わった作風かと思いますが、楽しんで頂けたらと思います。 ハピエンが好きなので、最後は必ずそこに繋げます! 小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿中。

【完結】婚約破棄はしたいけれど傍にいてほしいなんて言われましても、私は貴方の母親ではありません

すだもみぢ
恋愛
「彼女は私のことを好きなんだって。だから君とは婚約解消しようと思う」 他の女性に言い寄られて舞い上がり、10年続いた婚約を一方的に解消してきた王太子。 今まで婚約者だと思うからこそ、彼のフォローもアドバイスもしていたけれど、まだそれを当たり前のように求めてくる彼に驚けば。 「君とは結婚しないけれど、ずっと私の側にいて助けてくれるんだろう?」 貴方は私を母親だとでも思っているのでしょうか。正直気持ち悪いんですけれど。 王妃様も「あの子のためを思って我慢して」としか言わないし。 あんな男となんてもう結婚したくないから我慢するのも嫌だし、非難されるのもイヤ。なんとかうまいこと立ち回って幸せになるんだから!

【完結】真面目だけが取り柄の地味で従順な女はもうやめますね

祈璃
恋愛
「結婚相手としては、ああいうのがいいんだよ。真面目だけが取り柄の、地味で従順な女が」 婚約者のエイデンが自分の陰口を言っているのを偶然聞いてしまったサンドラ。 ショックを受けたサンドラが中庭で泣いていると、そこに公爵令嬢であるマチルダが偶然やってくる。 その後、マチルダの助けと従兄弟のユーリスの後押しを受けたサンドラは、新しい自分へと生まれ変わることを決意した。 「あなたの結婚相手に相応しくなくなってごめんなさいね。申し訳ないから、あなたの望み通り婚約は解消してあげるわ」  ***** 全18話。 過剰なざまぁはありません。

どうか、お幸せになって下さいね。伯爵令嬢はみんなが裏で動いているのに最後まで気づかない。

しげむろ ゆうき
恋愛
 キリオス伯爵家の娘であるハンナは一年前に母を病死で亡くした。そんな悲しみにくれるなか、ある日、父のエドモンドが愛人ドナと隠し子フィナを勝手に連れて来てしまったのだ。  二人はすぐに屋敷を我が物顔で歩き出す。そんな二人にハンナは日々困らされていたが、味方である使用人達のおかげで上手くやっていけていた。  しかし、ある日ハンナは学園の帰りに事故に遭い……。

婚約破棄宣言は別の場所で改めてお願いします

結城芙由奈 
恋愛
【どうやら私は婚約者に相当嫌われているらしい】 「おい!もうお前のような女はうんざりだ!今日こそ婚約破棄させて貰うぞ!」 私は今日も婚約者の王子様から婚約破棄宣言をされる。受け入れてもいいですが…どうせなら、然るべき場所で宣言して頂けますか? ※ 他サイトでも掲載しています

拝啓 お顔もお名前も存じ上げない婚約者様

オケラ
恋愛
15歳のユアは上流貴族のお嬢様。自然とたわむれるのが大好きな女の子で、毎日山で植物を愛でている。しかし、こうして自由に過ごせるのもあと半年だけ。16歳になると正式に結婚することが決まっている。彼女には生まれた時から婚約者がいるが、まだ一度も会ったことがない。名前も知らないのは幼き日の彼女のわがままが原因で……。半年後に結婚を控える中、彼女は山の中でとある殿方と出会い……。

処理中です...