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第1話

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「リーゼがベネサを貶めたことはわかっている! 俺はリーゼとの婚約を破棄する!!」

 パーティ会場の中央で、公爵令嬢の私リーゼ・ローティアは、婚約者ダーロス王子の宣言を聞いていた。
 何が起きたのか理解できず、私は目の前のダーロス、その隣で私を眺めるベネサに叫ぶ。

「そんなことはしていません! それに……ダーロス殿下は、先週ベネサ様と関わらないと約束してくれました!」
 
 私は何が起きているのか理解できず、先週の出来事を思い返す。
 ダーロス王子は侯爵令嬢のベネサと浮気をしていて、婚約者の私はそのことを追及した。

 陛下に報告すると伝えると、ダーロス王子は謝罪してベネサとは関わらないことを約束してくれる。
 口約束になってしまったけど……反省しているのなら構わないと、あの時の私は考えていた。

 そして今――困惑している私に対して、ダーロス王子が叫ぶ。

「リーゼはベネサを貶めていたことを隠したいから、そんなことを言ったに決まっている!」

「……えっ?」

「私はリーゼ様の嫌がらせが耐え切れず、ダーロス殿下に相談しました……それを、リーゼ様は警戒したのです!」

 ダーロスの隣にいたベネサが、周囲の貴族達に聞こえるよう叫ぶ。
 ベネサとは挨拶をしたことがあるぐらいで、私はあまり関わったことがない。
 浮気は止めて欲しいと言っただけなのに、ダーロスとベネサはパーティ会場にいる人達に私が悪者だと思わせようとしていた。

「リーゼ様はパーティで会うたび、陰でベネサ様に酷いことをしていました」

「私達は見ていましたけど、ダーロス殿下の婚約者なので何も言えませんでした。それでも今なら言えます!」

 ダーロス王子とベネサの近くにいた人達が、捏造されている私の悪事について話していく。
 私は何もしていない……嘘の悪事を話す2人は、ベネサの取り巻きだ。
 事前に打ち合わせをしていそうと推測して、私は追い詰められていた。

 ベネサは侯爵令嬢で、私より大人びている。
 どうやらダーロス王子は私よりも、ベネサの方が好みだったようだ。

「私はダーロス殿下を愛していました……それなのに、婚約を破棄するのですね」

「ふん。それはベネサを虐げる理由にはならない! リーゼとは婚約しなければよかった!」

 私が本心を伝えても、ダーロス王子は反省せず怒鳴りだす。
 その姿を見て――私はどうして、こんな人を愛していたのだろうかと思ってしまう。

 ダーロスを愛することをやめて、私は現状がどうでもよくなっていた。

「私は、ベネサ様を貶めたことは1度もありません――それでもここまで言うのでしたら、わかりました」 

 ベネサを貶めたことは否定して、私はダーロスの婚約破棄を受け入れる。
 そして――この場で婚約破棄を受け入れたことが、ベネサを貶めたことを認めたと思われたようだ。

 この時の私は、自分がどれだけ凄いのかを知らなかった。
 ベネサを貶める理由がないと思えるほどで、ダーロスは私の力を後に知ることとなる。

 ダーロスが後悔した時には――私は国を捨てて、他国で生活していた。
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