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第2話
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馬車がアーバス侯爵家の屋敷に到着して、私達は応接室に向かう。
応接室で私はリックの隣に座り、テーブル越しにリックの父と対面している。
傍には執事服を着た短い黒髪の美青年が立っているけど、彼が私の護衛となるレアスのようだ。
挨拶をしていると、アーバス家の領主が驚いた様子で話す。
「カルラ様……リックが無茶なことを言っているのはわかっております。無理そうなら報告してくだされば、婚約を破棄しましょう」
「話を聞いただけだと、問題なさそうです」
「そ、そうですか……」
リックの父は、生活するルールを聞いても動揺していない私に驚いているようだ。
もうシレッサ領に戻る気はないから、出て行く場合は平民になるつもりでいる。
そんなことを考えていると、領主が不安そうに話した。
「私は息子の意志を尊重したいと考えています。何か気になることがあればすぐ話してください」
「わかりました。ありがとうございます」
アーバス侯爵家の領主は、息子が束縛侯爵と呼ばれていても気にしていない。
馬車で話を聞いたけど――リックは昔、魔力による自然災害のせいで母親を亡くしたようだ。
幼い頃のリックは無力で守れなかったから、婚約者は必ず守ると決意していると聞いている。
領主との話を終えて、リックが私に言う。
「カルラ、彼が護衛となるレアスだ」
馬車で話をして、私はリックに敬語で話さなくていいと頼んでいる。
私は相手が侯爵家の令息だから、人がいる時に間違えないよう常に敬語でいたかった。
リックが紹介した執事のレアスは、私に一礼する。
「レアスです。短い間だと思いますが、よろしくお願いします」
「……元冒険者を執事にしたから礼儀知らずかもしれないが、我慢して欲しい」
短い間と言ってリックが苛立っているけど、3回も婚約者が逃げているのは事実だ。
護衛として強い人を婚約者の傍にいさせたいから、冒険者をしていたリックを雇うことにしたと聞いている。
「レアス。これからよろしくお願いします」
「これから……はい」
私が挨拶をすると、レアスは動揺しているようだ。
今までの婚約者と違う反応のようで……私は、引かれているような気がしていた。
■◇■◇■◇■◇■
私がアーバス侯爵家の屋敷で住むようになって、数日が経っている。
ほとんどの時間は婚約者リックか執事レアスが傍にいるけど、私は気にならない。
寝る時は部屋で1人だけど、リックは隣の部屋にいる。
傍にいるけどそこまで気にならないから、私は快適に生活することができていた。
今日のリックは領地の問題を解決するようで、私は屋敷で魔法に関する本を読んでいる。
読み終えた時に――傍にいてくれるレアスが、私に尋ねた。
「あの、カルラ様はどうして平然としていられるのですか?」
「……はい?」
「今までの婚約者達は、すぐに精神的に追い詰められて逃げ出していました。それなのに、カルラ様は何も気にしていないようにみえます」
レアスは話ながら、私に対して引いているようにも見える。
恐らく今までの婚約者はリックより立場が下の人で、常に監視されていると思ったのかもしれない。
家族に報告されるのが怖かったのかもしれないけど、今の私は家族と無縁に近い状態だ。
「この数日間、私の傍にリック様かレアスがいるけど……常に一緒ではありません」
「それはそうでしょう。あんなリック様ですが、そこまではしないようです」
この場にいないからか、レアスはリックをあまり敬っていない気がする。
傍にいてくれるのは私としては嬉しくもあって、これからの行動を話す。
「今は来たばかりなので抑えていますけど、これからはアーバス領のために行動するつもりです」
「はぁっ? カルラ様は何を仰っているのですか?」
「ほとんど傍にいるということは、私の行動を把握してくれるということです。私は自分の魔力と魔法で、領地の人達の力になりたいと考えています」
シレッサ領でも活躍できていたけど、家族は何も知ろうとせず私を恐れていた。
今回は違う――私の傍には、リックかレアスが傍にいてくれるはずだ。
今後の予定を聞いて、レアスは唖然としながら話す。
「カルラ様の魔法の実力は凄く、リック様も拒む理由はなさそうですけど……そこまで、してくださるのですか」
「はい。私の力で、皆の助けになりたいと考えています」
「そ、そうですか。リック様も喜びそうです」
私の決意を聞き、レアスは感動しているようだ。
新しい生活は楽しくて――私は、リックの婚約者になれてよかったと想っていた。
応接室で私はリックの隣に座り、テーブル越しにリックの父と対面している。
傍には執事服を着た短い黒髪の美青年が立っているけど、彼が私の護衛となるレアスのようだ。
挨拶をしていると、アーバス家の領主が驚いた様子で話す。
「カルラ様……リックが無茶なことを言っているのはわかっております。無理そうなら報告してくだされば、婚約を破棄しましょう」
「話を聞いただけだと、問題なさそうです」
「そ、そうですか……」
リックの父は、生活するルールを聞いても動揺していない私に驚いているようだ。
もうシレッサ領に戻る気はないから、出て行く場合は平民になるつもりでいる。
そんなことを考えていると、領主が不安そうに話した。
「私は息子の意志を尊重したいと考えています。何か気になることがあればすぐ話してください」
「わかりました。ありがとうございます」
アーバス侯爵家の領主は、息子が束縛侯爵と呼ばれていても気にしていない。
馬車で話を聞いたけど――リックは昔、魔力による自然災害のせいで母親を亡くしたようだ。
幼い頃のリックは無力で守れなかったから、婚約者は必ず守ると決意していると聞いている。
領主との話を終えて、リックが私に言う。
「カルラ、彼が護衛となるレアスだ」
馬車で話をして、私はリックに敬語で話さなくていいと頼んでいる。
私は相手が侯爵家の令息だから、人がいる時に間違えないよう常に敬語でいたかった。
リックが紹介した執事のレアスは、私に一礼する。
「レアスです。短い間だと思いますが、よろしくお願いします」
「……元冒険者を執事にしたから礼儀知らずかもしれないが、我慢して欲しい」
短い間と言ってリックが苛立っているけど、3回も婚約者が逃げているのは事実だ。
護衛として強い人を婚約者の傍にいさせたいから、冒険者をしていたリックを雇うことにしたと聞いている。
「レアス。これからよろしくお願いします」
「これから……はい」
私が挨拶をすると、レアスは動揺しているようだ。
今までの婚約者と違う反応のようで……私は、引かれているような気がしていた。
■◇■◇■◇■◇■
私がアーバス侯爵家の屋敷で住むようになって、数日が経っている。
ほとんどの時間は婚約者リックか執事レアスが傍にいるけど、私は気にならない。
寝る時は部屋で1人だけど、リックは隣の部屋にいる。
傍にいるけどそこまで気にならないから、私は快適に生活することができていた。
今日のリックは領地の問題を解決するようで、私は屋敷で魔法に関する本を読んでいる。
読み終えた時に――傍にいてくれるレアスが、私に尋ねた。
「あの、カルラ様はどうして平然としていられるのですか?」
「……はい?」
「今までの婚約者達は、すぐに精神的に追い詰められて逃げ出していました。それなのに、カルラ様は何も気にしていないようにみえます」
レアスは話ながら、私に対して引いているようにも見える。
恐らく今までの婚約者はリックより立場が下の人で、常に監視されていると思ったのかもしれない。
家族に報告されるのが怖かったのかもしれないけど、今の私は家族と無縁に近い状態だ。
「この数日間、私の傍にリック様かレアスがいるけど……常に一緒ではありません」
「それはそうでしょう。あんなリック様ですが、そこまではしないようです」
この場にいないからか、レアスはリックをあまり敬っていない気がする。
傍にいてくれるのは私としては嬉しくもあって、これからの行動を話す。
「今は来たばかりなので抑えていますけど、これからはアーバス領のために行動するつもりです」
「はぁっ? カルラ様は何を仰っているのですか?」
「ほとんど傍にいるということは、私の行動を把握してくれるということです。私は自分の魔力と魔法で、領地の人達の力になりたいと考えています」
シレッサ領でも活躍できていたけど、家族は何も知ろうとせず私を恐れていた。
今回は違う――私の傍には、リックかレアスが傍にいてくれるはずだ。
今後の予定を聞いて、レアスは唖然としながら話す。
「カルラ様の魔法の実力は凄く、リック様も拒む理由はなさそうですけど……そこまで、してくださるのですか」
「はい。私の力で、皆の助けになりたいと考えています」
「そ、そうですか。リック様も喜びそうです」
私の決意を聞き、レアスは感動しているようだ。
新しい生活は楽しくて――私は、リックの婚約者になれてよかったと想っていた。
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