上 下
8 / 55

第8話

しおりを挟む
第二王子ドスラ視点

 俺はここ数日間のモンスターによる被害の報告書を眺め、困惑するしかない。

「これは恐らくまだはじまりに過ぎず……酷くなっていくのは、これからだ」

 モンスターによる街の被害を止めようにも、今までが平和過ぎたこともあって厳しそうだ。

 悩んでいると扉をノックする音が響き――婚約者のフィオナが入ってきた。

 フィオナ……彼女は公爵令嬢で、長い黒髪が美しい女性だ。
 魔法使いとしても優秀で、十代では彼女を超える者は存在しないと言われている。

 エルノアと婚約破棄して、彼女を婚約者したのは間違いではない。
 心配してくれたようで、フィオナが俺に尋ねる。

「ドスラ様……何か、お悩みになっているようですね」

「フィオナ。ここ最近の被害をみるに、結界は実在していたのかもしれない」

 現状を話しながら、俺はエルノアを婚約破棄した理由を思い返す。

 ――俺は子爵令嬢のエルノアよりも、公爵令嬢のフィオナと婚約したかった。
 
 魔法の腕は十代なのに世界最高峰で、魔法協会に入れば最高位は間違いないとされている。
 全てがエルノアを上回り、婚約者にするために婚約破棄するのが一番だった。

 結界が実在していたかもしれないと話すと、フィオナは頷く。

「確かに、ここまでの報告があるのなら結界は実在するのかもしれません……私は実在しない可能性があると言っただけで、調査すべきとは言っていません」

「わかっている。フィオナの話が気になって父上に進言した結果だ……フィオナは何も悪くない」

 そして、結界など存在しないと話した理由についても、思い返してしまう。

 ――俺はフィオナのことが好きで、婚約者のエルノアとはあまり関わらなかった。

 まだエルノアと婚約破棄をしていない時も、俺はフィオナの元によく向かっていた。 
 好いてくれるフィオナの傍で話をしていた時、結界の話になったことがある。

 ――結界は実在していないのかもしれません。
 フィオナがそんな、ただの雑談の話題を口にしたことで、俺は閃いてしまう。

 これを理由にすれば、結界が存在せずエルノアがただ無能なだけなら――フィオナを婚約者にできる。

 父上や兄上を納得させて、俺は結界の調査をするよう進言していた。

 王家はフィオナの力を求めていたから、俺が婚約者になった方がいいと話し家族は納得している。

 結果――兄上の調査隊が結界がないと報告を行い、俺はエルノアと婚約破棄に成功していた。

 その後一週間でこの様になってしまうが……フィオナを婚約者にできたから、まだ最悪の事態ではない。
 
 それでも焦ってしまう中、フィオナは冷静に話す。

「ドスラ様は何も心配することはありません……王都が平和なら、何も問題はないのですから」

 話を聞くとフィオナは何か打つ手があるようで、俺は婚約者を頼ることに決める。

 それが破滅の道をたどることになることを、この時の俺は考えていなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

虐げられていた姉はひと月後には幸せになります~全てを奪ってきた妹やそんな妹を溺愛する両親や元婚約者には負けませんが何か?~

***あかしえ
恋愛
「どうしてお姉様はそんなひどいことを仰るの?!」 妹ベディは今日も、大きなまるい瞳に涙をためて私に喧嘩を売ってきます。 「そうだぞ、リュドミラ!君は、なぜそんな冷たいことをこんなかわいいベディに言えるんだ!」 元婚約者や家族がそうやって妹を甘やかしてきたからです。 両親は反省してくれたようですが、妹の更生には至っていません! あとひと月でこの地をはなれ結婚する私には時間がありません。 他人に迷惑をかける前に、この妹をなんとかしなくては! 「結婚!?どういうことだ!」って・・・元婚約者がうるさいのですがなにが「どういうこと」なのですか? あなたにはもう関係のない話ですが? 妹は公爵令嬢の婚約者にまで手を出している様子!ああもうっ本当に面倒ばかり!! ですが公爵令嬢様、あなたの所業もちょぉっと問題ありそうですね? 私、いろいろ調べさせていただいたんですよ? あと、人の婚約者に色目を使うのやめてもらっていいですか? ・・・××しますよ?

そう言うと思ってた

mios
恋愛
公爵令息のアランは馬鹿ではない。ちゃんとわかっていた。自分が夢中になっているアナスタシアが自分をそれほど好きでないことも、自分の婚約者であるカリナが自分を愛していることも。 ※いつものように視点がバラバラします。

婚約破棄宣言は別の場所で改めてお願いします

結城芙由奈 
恋愛
【どうやら私は婚約者に相当嫌われているらしい】 「おい!もうお前のような女はうんざりだ!今日こそ婚約破棄させて貰うぞ!」 私は今日も婚約者の王子様から婚約破棄宣言をされる。受け入れてもいいですが…どうせなら、然るべき場所で宣言して頂けますか? ※ 他サイトでも掲載しています

幼馴染に裏切られた私は辺境伯に愛された

マルローネ
恋愛
伯爵令嬢のアイシャは、同じく伯爵令息であり幼馴染のグランと婚約した。 しかし、彼はもう一人の幼馴染であるローザが本当に好きだとして婚約破棄をしてしまう。 傷物令嬢となってしまい、パーティなどでも煙たがられる存在になってしまったアイシャ。 しかし、そこに手を差し伸べたのは、辺境伯のチェスター・ドリスだった……。

お久しぶりですね、元婚約者様。わたしを捨てて幸せになれましたか?

柚木ゆず
恋愛
 こんなことがあるなんて、予想外でした。  わたしが伯爵令嬢ミント・ロヴィックという名前と立場を失う原因となった、8年前の婚約破棄。当時わたしを裏切った人と、偶然出会いました。  元婚約者のレオナルド様。貴方様は『お前がいると不幸になる』と言い出し、理不尽な形でわたしとの関係を絶ちましたよね?  あのあと。貴方様はわたしを捨てて、幸せになれましたか?

愛する人とは結ばれましたが。

ララ
恋愛
心から愛する人との婚約。 しかしそれは残酷に終わりを告げる……

婚約破棄したくせに、聖女の能力だけは貸して欲しいとか……馬鹿ですか?

マルローネ
恋愛
ハーグリーブス伯爵家には代々、不思議な能力があった。 聖女の祈りで業務の作業効率を上げられるというものだ。 範囲は広いとは言えないが、確実に役に立つ能力であった。 しかし、長女のエメリ・ハーグリーブスは婚約者のルドルフ・コーブル公爵令息に婚約破棄をされてしまう。そして、進めていた事業の作業効率は計画通りには行かなくなり……。 「婚約破棄にはなったが、お前の聖女としての能力は引き続き、我が領地経営に活かしたいのだ。協力してくれ」 「ごめんなさい……意味が分かりません」 エメリは全力で断るのだった……。

出来損ないと言われて、国を追い出されました。魔物避けの効果も失われるので、魔物が押し寄せてきますが、頑張って倒してくださいね

猿喰 森繁
恋愛
「婚約破棄だ!」 広間に高らかに響く声。 私の婚約者であり、この国の王子である。 「そうですか」 「貴様は、魔法の一つもろくに使えないと聞く。そんな出来損ないは、俺にふさわしくない」 「… … …」 「よって、婚約は破棄だ!」 私は、周りを見渡す。 私を見下し、気持ち悪そうに見ているもの、冷ややかな笑いを浮かべているもの、私を守ってくれそうな人は、いないようだ。 「王様も同じ意見ということで、よろしいでしょうか?」 私のその言葉に王は言葉を返すでもなく、ただ一つ頷いた。それを確認して、私はため息をついた。たしかに私は魔法を使えない。魔力というものを持っていないからだ。 なにやら勘違いしているようだが、聖女は魔法なんて使えませんよ。

処理中です...