いらない婚約者は消えることにします

天宮有

文字の大きさ
上 下
8 / 11

第8話

しおりを挟む
モグルド視点

 数ヶ月が経ち、俺は魔界と呼ばれる大陸を歩いていた。

 同行していた護衛は数十人いたのに、今では1人しかいない。
 モンスターの大群による襲撃でヒリスは亡くなり、俺は国王からルナを連れ戻せと命令を受けていた。

 もしかしたらヒリスの危機になると、ルナの妹だから龍人が守るため行動するかもしれない。
 そんな推測でモンスターの群れと戦わせることに俺は反対したかったが、父の国王には逆らえなかった。

 モンスターの群れの侵攻を受けて、龍人は助けに来ることはなくヒリスは犠牲になってしまう。
 防ぐことはできたが損害は大きく、俺はルナを連れ戻さなければならない。

 魔界の王都が見えてきて、隣にいる護衛の男が言う。

「モグルド殿下……私の奴隷契約は、魔界の王都に到着すれば解けることになっています」
「ああ。他の連中は逃げてしまったが、奴隷のお前だけは契約で逃げられなかったな」

 本来なら気遣うべきなのかもしれないが、俺はヒュームの魔法を受けて嘘がつけない。
 今まで魔法がかかったままで、相手が奴隷だから内心では蔑みあまり話さないようにしていた。

 そして王都に到着すると、護衛の男が告げる。

「それではモグルド様、これで契約は終了――お前がどうなろうと構わないし、これから私は魔界で生きていこう」
「なっっ!? 待て!! 俺だけで龍人に会えというのか!?」
「もう契約外だ。お前はルナや龍人を説得に行くよう国王に命令されたが、実際は処分したかったんだろうな」

 元奴隷となった護衛は契約だから、魔界まで同行してくれた。
 今まで一緒に行動してきたのに切り捨てることが理解できず、俺は叫ぶ。

「今まで一緒にいたというのに、俺を見捨てるというのか!?」
「それなら聞くが、お前は私を今まで見下していなかったのか?」
「うっっ!? そ、それは……お前は奴隷だから、仕方ないだろ!!」

 ヒュームの魔法のせいで、俺は本心を話してしまう。
 発言を聞いた護衛は去って行き、俺は呆然とするしかない。
 こうなったら――ルナを説得するしか、生き延びる方法がなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

記憶がないなら私は……

しがと
恋愛
ずっと好きでようやく付き合えた彼が記憶を無くしてしまった。しかも私のことだけ。そして彼は以前好きだった女性に私の目の前で抱きついてしまう。もう諦めなければいけない、と彼のことを忘れる決意をしたが……。  *全4話

いつだって二番目。こんな自分とさよならします!

椿蛍
恋愛
小説『二番目の姫』の中に転生した私。 ヒロインは第二王女として生まれ、いつも脇役の二番目にされてしまう運命にある。 ヒロインは婚約者から嫌われ、両親からは差別され、周囲も冷たい。 嫉妬したヒロインは暴走し、ラストは『お姉様……。私を救ってくれてありがとう』ガクッ……で終わるお話だ。  そんなヒロインはちょっとね……って、私が転生したのは二番目の姫!? 小説どおり、私はいつも『二番目』扱い。 いつも第一王女の姉が優先される日々。 そして、待ち受ける死。 ――この運命、私は変えられるの? ※表紙イラストは作成者様からお借りしてます。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

いつか彼女を手に入れる日まで

月山 歩
恋愛
伯爵令嬢の私は、婚約者の邸に馬車で向かっている途中で、馬車が転倒する事故に遭い、治療院に運ばれる。医師に良くなったとしても、足を引きずるようになると言われてしまい、傷物になったからと、格下の私は一方的に婚約破棄される。私はこの先誰かと結婚できるのだろうか?

僕は君を思うと吐き気がする

月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。

手放したくない理由

ねむたん
恋愛
公爵令嬢エリスと王太子アドリアンの婚約は、互いに「務め」として受け入れたものだった。貴族として、国のために結ばれる。 しかし、王太子が何かと幼馴染のレイナを優先し、社交界でも「王太子妃にふさわしいのは彼女では?」と囁かれる中、エリスは淡々と「それならば、私は不要では?」と考える。そして、自ら婚約解消を申し出る。 話し合いの場で、王妃が「辛い思いをさせてしまってごめんなさいね」と声をかけるが、エリスは本当にまったく辛くなかったため、きょとんとする。その様子を見た周囲は困惑し、 「……王太子への愛は芽生えていなかったのですか?」 と問うが、エリスは「愛?」と首を傾げる。 同時に、婚約解消に動揺したアドリアンにも、側近たちが「殿下はレイナ嬢に恋をしていたのでは?」と問いかける。しかし、彼もまた「恋……?」と首を傾げる。 大人たちは、その光景を見て、教育の偏りを大いに後悔することになる。

こんな人とは頼まれても婚約したくありません!

Mayoi
恋愛
ダミアンからの辛辣な一言で始まった縁談は、いきなり終わりに向かって進み始めた。 最初から望んでいないような態度に無理に婚約する必要はないと考えたジュディスは狙い通りに破談となった。 しかし、どうしてか妹のユーニスがダミアンとの縁談を望んでしまった。 不幸な結末が予想できたが、それもユーニスの選んだこと。 ジュディスは妹の行く末を見守りつつ、自分の幸せを求めた。

【完結】お荷物王女は婚約解消を願う

miniko
恋愛
王家の瞳と呼ばれる色を持たずに生まれて来た王女アンジェリーナは、一部の貴族から『お荷物王女』と蔑まれる存在だった。 それがエスカレートするのを危惧した国王は、アンジェリーナの後ろ楯を強くする為、彼女の従兄弟でもある筆頭公爵家次男との婚約を整える。 アンジェリーナは八歳年上の優しい婚約者が大好きだった。 今は妹扱いでも、自分が大人になれば年の差も気にならなくなり、少しづつ愛情が育つ事もあるだろうと思っていた。 だが、彼女はある日聞いてしまう。 「お役御免になる迄は、しっかりアンジーを守る」と言う彼の宣言を。 ───そうか、彼は私を守る為に、一時的に婚約者になってくれただけなのね。 それなら出来るだけ早く、彼を解放してあげなくちゃ・・・・・・。 そして二人は盛大にすれ違って行くのだった。 ※設定ユルユルですが、笑って許してくださると嬉しいです。 ※感想欄、ネタバレ配慮しておりません。ご了承ください。

処理中です...