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第6話

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 私はこれから住む屋敷に案内されたけど、今まで暮らしていた屋敷よりも遥かに広い。
 竜の姿になって飛ぶための庭もあるけど、ヒュームが空を飛んでこまで来なかったことは気になっていた。

 応接室で対面して、ソファーに座った私はヒュームに尋ねる。

「竜の姿になって行き来できるほど広大な庭だと思いますけど、ヒューム様は王都の前で着地しましたね」
「俺のことはヒュームでいい。ルナには屋敷より先に、これから暮らす場所を見て欲しかった」

 いきなり屋敷で話すと、これから生活できるか不安になっていたかもしれない。
 それを心配したヒュームは先に王都を案内して、今までとあまり変わらないと知って欲しかったようだ。

「そうでしたか……ありがとうございます」
「ルナの望みだからな。いや、望みでなくとも夫として幸せにするつもりでいたが……ルナは、本当に俺の妻になってくれるのか?」
「はい。むしろヒュームが私でいいのでしょうか?」

 私は龍人と人間の貴族による伝承を、モグルドの話を聞いてから調べていた。

 龍人は数百年に一度、亜人ではない人間を妻にしなければならない。
 それでも魔界に普通の人は少なくて、更に龍人の妻になれる人は限られているようだ。

 毎回違う貴族の女性を妻にしているようで、今回はリノーマ侯爵家が選ばれている。
 契約できる魔法道具を渡し、その時期になると龍人が伝えに来るようだ。
 そこからモグルドは私をいらない婚約者として生贄にするつもりでいたけど、ヒュームの気持ちが知りたい。

「俺はルナでよかったと思っている。龍人を前にしても恐怖していないし、一緒にいた時も楽しそうにしていた」
「そうですね。ヒュームの背中に乗って空を飛ぶのは楽しかったです」

 ヒュームが笑顔を浮かべて、私は本心を話す。
 これから一緒にいられるのは嬉しいけど、気になることもあった。

「私が前に住んでいたドリウース国は、龍人達が守っていたというのは本当ですか?」
「そうだ。あの国では数十年の頻度で何かしらの災害が発生するが、それは契約により龍人の俺達が陰から守っていた」

 今まで関係が良好だったから、龍人も人間に協力してドリウース国を守っていたらしい。
 それでも最近は龍人を利用しようと目論んでいたようで、ヒュームとしては縁を切りたかったようだ。

「幾つもの貴族と契約しているが、ドリウース国とは今回で関係を終わらせよう……これから様々な災害が起こるが、それでも構わないか?」
「はい。もう私には関係のない国です」

 ヒュームが尋ねて、私は断言した。
 そして――これからモグルドは大変な目に合い、私の元にやって来ることとなる。
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