いらない婚約者は消えることにします

天宮有

文字の大きさ
上 下
6 / 11

第6話

しおりを挟む
 私はこれから住む屋敷に案内されたけど、今まで暮らしていた屋敷よりも遥かに広い。
 竜の姿になって飛ぶための庭もあるけど、ヒュームが空を飛んでこまで来なかったことは気になっていた。

 応接室で対面して、ソファーに座った私はヒュームに尋ねる。

「竜の姿になって行き来できるほど広大な庭だと思いますけど、ヒューム様は王都の前で着地しましたね」
「俺のことはヒュームでいい。ルナには屋敷より先に、これから暮らす場所を見て欲しかった」

 いきなり屋敷で話すと、これから生活できるか不安になっていたかもしれない。
 それを心配したヒュームは先に王都を案内して、今までとあまり変わらないと知って欲しかったようだ。

「そうでしたか……ありがとうございます」
「ルナの望みだからな。いや、望みでなくとも夫として幸せにするつもりでいたが……ルナは、本当に俺の妻になってくれるのか?」
「はい。むしろヒュームが私でいいのでしょうか?」

 私は龍人と人間の貴族による伝承を、モグルドの話を聞いてから調べていた。

 龍人は数百年に一度、亜人ではない人間を妻にしなければならない。
 それでも魔界に普通の人は少なくて、更に龍人の妻になれる人は限られているようだ。

 毎回違う貴族の女性を妻にしているようで、今回はリノーマ侯爵家が選ばれている。
 契約できる魔法道具を渡し、その時期になると龍人が伝えに来るようだ。
 そこからモグルドは私をいらない婚約者として生贄にするつもりでいたけど、ヒュームの気持ちが知りたい。

「俺はルナでよかったと思っている。龍人を前にしても恐怖していないし、一緒にいた時も楽しそうにしていた」
「そうですね。ヒュームの背中に乗って空を飛ぶのは楽しかったです」

 ヒュームが笑顔を浮かべて、私は本心を話す。
 これから一緒にいられるのは嬉しいけど、気になることもあった。

「私が前に住んでいたドリウース国は、龍人達が守っていたというのは本当ですか?」
「そうだ。あの国では数十年の頻度で何かしらの災害が発生するが、それは契約により龍人の俺達が陰から守っていた」

 今まで関係が良好だったから、龍人も人間に協力してドリウース国を守っていたらしい。
 それでも最近は龍人を利用しようと目論んでいたようで、ヒュームとしては縁を切りたかったようだ。

「幾つもの貴族と契約しているが、ドリウース国とは今回で関係を終わらせよう……これから様々な災害が起こるが、それでも構わないか?」
「はい。もう私には関係のない国です」

 ヒュームが尋ねて、私は断言した。
 そして――これからモグルドは大変な目に合い、私の元にやって来ることとなる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

記憶がないなら私は……

しがと
恋愛
ずっと好きでようやく付き合えた彼が記憶を無くしてしまった。しかも私のことだけ。そして彼は以前好きだった女性に私の目の前で抱きついてしまう。もう諦めなければいけない、と彼のことを忘れる決意をしたが……。  *全4話

いつだって二番目。こんな自分とさよならします!

椿蛍
恋愛
小説『二番目の姫』の中に転生した私。 ヒロインは第二王女として生まれ、いつも脇役の二番目にされてしまう運命にある。 ヒロインは婚約者から嫌われ、両親からは差別され、周囲も冷たい。 嫉妬したヒロインは暴走し、ラストは『お姉様……。私を救ってくれてありがとう』ガクッ……で終わるお話だ。  そんなヒロインはちょっとね……って、私が転生したのは二番目の姫!? 小説どおり、私はいつも『二番目』扱い。 いつも第一王女の姉が優先される日々。 そして、待ち受ける死。 ――この運命、私は変えられるの? ※表紙イラストは作成者様からお借りしてます。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

いつか彼女を手に入れる日まで

月山 歩
恋愛
伯爵令嬢の私は、婚約者の邸に馬車で向かっている途中で、馬車が転倒する事故に遭い、治療院に運ばれる。医師に良くなったとしても、足を引きずるようになると言われてしまい、傷物になったからと、格下の私は一方的に婚約破棄される。私はこの先誰かと結婚できるのだろうか?

僕は君を思うと吐き気がする

月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。

手放したくない理由

ねむたん
恋愛
公爵令嬢エリスと王太子アドリアンの婚約は、互いに「務め」として受け入れたものだった。貴族として、国のために結ばれる。 しかし、王太子が何かと幼馴染のレイナを優先し、社交界でも「王太子妃にふさわしいのは彼女では?」と囁かれる中、エリスは淡々と「それならば、私は不要では?」と考える。そして、自ら婚約解消を申し出る。 話し合いの場で、王妃が「辛い思いをさせてしまってごめんなさいね」と声をかけるが、エリスは本当にまったく辛くなかったため、きょとんとする。その様子を見た周囲は困惑し、 「……王太子への愛は芽生えていなかったのですか?」 と問うが、エリスは「愛?」と首を傾げる。 同時に、婚約解消に動揺したアドリアンにも、側近たちが「殿下はレイナ嬢に恋をしていたのでは?」と問いかける。しかし、彼もまた「恋……?」と首を傾げる。 大人たちは、その光景を見て、教育の偏りを大いに後悔することになる。

こんな人とは頼まれても婚約したくありません!

Mayoi
恋愛
ダミアンからの辛辣な一言で始まった縁談は、いきなり終わりに向かって進み始めた。 最初から望んでいないような態度に無理に婚約する必要はないと考えたジュディスは狙い通りに破談となった。 しかし、どうしてか妹のユーニスがダミアンとの縁談を望んでしまった。 不幸な結末が予想できたが、それもユーニスの選んだこと。 ジュディスは妹の行く末を見守りつつ、自分の幸せを求めた。

【完結】お荷物王女は婚約解消を願う

miniko
恋愛
王家の瞳と呼ばれる色を持たずに生まれて来た王女アンジェリーナは、一部の貴族から『お荷物王女』と蔑まれる存在だった。 それがエスカレートするのを危惧した国王は、アンジェリーナの後ろ楯を強くする為、彼女の従兄弟でもある筆頭公爵家次男との婚約を整える。 アンジェリーナは八歳年上の優しい婚約者が大好きだった。 今は妹扱いでも、自分が大人になれば年の差も気にならなくなり、少しづつ愛情が育つ事もあるだろうと思っていた。 だが、彼女はある日聞いてしまう。 「お役御免になる迄は、しっかりアンジーを守る」と言う彼の宣言を。 ───そうか、彼は私を守る為に、一時的に婚約者になってくれただけなのね。 それなら出来るだけ早く、彼を解放してあげなくちゃ・・・・・・。 そして二人は盛大にすれ違って行くのだった。 ※設定ユルユルですが、笑って許してくださると嬉しいです。 ※感想欄、ネタバレ配慮しておりません。ご了承ください。

処理中です...