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第3話

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 私を龍人ヒュームの妻にするため、婚約者モグルドは毒薬まで飲んでいた。

 計画を全て知っている私は、ヒュームとの契約に「モグルドに膨大な魔力を与える」ではなく「私を幸せにしてください」と望んだ。
 私の発言が完全に予想外だったから、苦しみながらモグルドが叫ぶ。

「ぐぅっっ!? 馬鹿な! ルナが犠牲になれば皆が幸せになるのに、なぜお前だけが幸せになると望む!?」
「病で苦しんでいるはずなのに、モグルド殿下が元気そうだったからです」
「はぁっ!? どれだけ苦しいかわからないのか! ルナは今すぐ望みを変えろ!!」

 そう言ってモグルドは血を吐くけど、そこまでするのか。
 演技が下手なのはわかってしまうから、毒薬だけは本物を使い苦しむことにしたのかもしれない。
 モグルドが隠し持っている解毒薬は回復薬も兼ねているし、魔力を得て治せなくても解毒薬を飲めばいいと考えていそうだ。

 苦しんでいる姿を目にして呆れていると、私の隣にいるヒュームが言う。

「望みを変える必要はない。ルナがモグルドの苦しむ姿を見たくないと頼めば、幸せにするという望みを叶えるため俺が治すだけだ」
「ぐぅっっ!? そ、それは……」

 ヒュームの説明を聞き、モグルドが怯む。
 どうすればいいのか悩んでいる様子で、ヒュームは私を眺めて尋ねる。
 
「幸せになるという望みを叶え続けるつもりだが、魔界へ行き俺の妻になるのは契約の条件だ……ルナは、それで幸せと思えるのか?」
「わかっています。魔界へ行くことは問題ありません」
「そうか。それなら、ルナが頼めばあの程度の病なら俺が治してみせよう」

 魔界に行くと聞いて、ヒュームが安堵している。
 私達の会話を聞き、閃いたのかモグルドが叫ぶ。

「待て! ルナが魔界へ行くのならリノーマ家の損害が大きすぎる。リノーマ家のためにも、次期領主となる俺に膨大な魔力を与えるべきだろう!」

 どうやら強引に、計画通りモグルドは龍人から魔力を得たいようだ。

 ヒュームは私を眺めて、決断して欲しそうにしている。
 発言的に私を守ってくれそうだから、もう全て話すことにしよう。

「望みは変えませんし、モグルド殿下は治さなくて構いません」
「はぁぁっっ!? ルナは俺を見捨てるというのか!?」
「私は計画を全て知っています。見捨てると言いましたが、持っている解毒剤を飲めばいいだけです」 
「ルナが頼むのなら、貶めようとしたこの男を消しても構わないぞ」

 部屋に現れてから今までの話を聞き、ヒュームもモグルドが私を貶めようとしていると知った様子だ。
 私とヒューム以外の人が驚愕しているけど、もう会うこともないだろうから全て話しておこう。

「いらない婚約者は消えてもらうと、モグルド殿下、いいえモグルドは言っていましたよね」
「そ、それは……」
「いらない婚約者の私は消えることにします。それでも――貴方達の思い通りにはなりません」

 この場で私が断言すると、父が激怒して叫ぶ。

「ふざけたことを言うな! 生贄となるのだから、ルナはそこの龍人にモグルド殿下に魔力を与えるよう頼め! 王家とリノーマ侯爵家を敵に回すこととなるぞ!!」
「そうなれば、俺がルナを守るだけだ」
「うっっ!?」
「王家とリノーマ家を敵に回すとお前は言ったが、龍人を敵にすればこの国の総力でも俺達には敵わない。ルナは何も気にしなくていい」

 父が脅してきたけど、龍人のヒュームが黙らせてくれる。
 モグルドとの婚約を解消できることが嬉しくて、私はヒュームと一緒に、魔界と呼ばれる大陸へ行くことにしていた。
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