上 下
4 / 66

第4話

しおりを挟む
ルグド視点

 愚かな側妃――それは、俺が広めていたアリザの悪評だ。

 魔法使いとして優秀なアリザの実力を知っているのは、城内では俺と宰相ノースだけになる。
 側妃となってから様々なことを学び、教育係から完璧とまで言われるほどアリザは努力していた。

 そしてアリザは、広範囲で意思を送り合う魔法を使えるようになる。
 俺は他の者には知られずアリザに助言してもらうことで、国王として成果を出すことができていた。

 魔法で意思をアリザが俺に送り、王妃のシェムが失言をしないように気をつけることでムーディス国の評判はよくなっていく。
 それでも……平民の側妃が、正妃のシェムより優秀と思われることだけは避けたかった。

 アリザが我慢の限界がきたと言い城を出た後、俺は玉座の間にいる宰相ノースと話す。

「ノースよ。アリザはなぜ、急に変わってしまったんだ?」
「今まで我慢していたと仰っていました。愚かな側妃と言い広めることを、陛下はアリザ様に伝えていなかったのですか?」
「ああ。平民から側妃になったのだから、嫉妬で悪評が広まるのは普通だろう」

 今まで上手くいっていたのに、アリザが噂通り愚かな側妃と呼ばれてもおかしくない行動をとるようになってしまう。
 その言動に苛立って廃妃にすると脅したかったのに、それは宰相ノースから止められていた。

「やはり廃妃にすると脅せばよかった。平民に戻りたくないに決まっているから、脅せばアリザは反省して元に戻るだろう」
「それだけはいけません! アリザ様の行動から、ルグド様が廃妃にするという発言を待っている可能性が高いと思われます!」

 今まで冷静だった宰相ノースが、俺の発言を聞き取り乱す。

「そうだろうか? なぜアリザは、俺の発言を待っている?」
「側妃を自分で辞めるよりも、ルグド陛下の発言を聞いて行動した方が周囲が納得するからでしょう」
「アリザは魔法で発言を記録できたか。もし俺が廃妃にすると言ってしまえば、その発言を証拠にする可能性はあるな」

 そうなったとしても……愚かな側妃として行動したのがアリザを廃妃する理由だから、何も問題ないはず。
 俺の考えを察したのか、宰相ノースが話を続ける。

「平民となった後のアリザ様は、本来の実力を発揮するでしょう。そうなれば、真実が国民達に知られてしまう恐れがあります」
「なるほど……それなら、アリザを廃妃と脅さない方がよさそうだ」

 宰相ノースの発言を聞いて納得するが、考えすぎな気もしていた。

 平民から側妃となってから、また平民に戻りたくはないはず。
 脅せば問題ないだろうと俺は思ってしまい――この違いが、最悪の事態を招くこととなる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうぞ、(誰にも真似できない)その愛を貫いてくださいませ(笑)

mios
恋愛
公爵令嬢の婚約者を捨て、男爵令嬢と大恋愛の末に結婚した第一王子。公爵家の後ろ盾がなくなって、王太子の地位を降ろされた第一王子。 念願の子に恵まれて、産まれた直後に齎された幼い王子様の訃報。 国中が悲しみに包まれた時、侯爵家に一報が。

今から婚約者に会いに行きます。〜私は運命の相手ではないから

毛蟹葵葉
恋愛
婚約者が王立学園の卒業を間近に控えていたある日。 ポーリーンのところに、婚約者の恋人だと名乗る女性がやってきた。 彼女は別れろ。と、一方的に迫り。 最後には暴言を吐いた。 「ああ、本当に嫌だわ。こんな田舎。肥溜めの臭いがするみたい。……貴女からも漂ってるわよ」  洗練された都会に住む自分の方がトリスタンにふさわしい。と、言わんばかりに彼女は微笑んだ。 「ねえ、卒業パーティーには来ないでね。恥をかくのは貴女よ。婚約破棄されてもまだ間に合うでしょう?早く相手を見つけたら?」 彼女が去ると、ポーリーンはある事を考えた。 ちゃんと、別れ話をしようと。 ポーリーンはこっそりと屋敷から抜け出して、婚約者のところへと向かった。

私の婚約者は、妹を選ぶ。

❄️冬は つとめて
恋愛
【本編完結】私の婚約者は、妹に会うために家に訪れる。 【ほか】続きです。

──いいえ。わたしがあなたとの婚約を破棄したいのは、あなたに愛する人がいるからではありません。

ふまさ
恋愛
 伯爵令息のパットは、婚約者であるオーレリアからの突然の別れ話に、困惑していた。 「確かにぼくには、きみの他に愛する人がいる。でもその人は平民で、ぼくはその人と結婚はできない。だから、きみと──こんな言い方は卑怯かもしれないが、きみの家にお金を援助することと引き換えに、きみはそれを受け入れたうえで、ぼくと婚約してくれたんじゃなかったのか?!」  正面に座るオーレリアは、膝のうえに置いたこぶしを強く握った。 「……あなたの言う通りです。元より貴族の結婚など、政略的なものの方が多い。そんな中、没落寸前の我がヴェッター伯爵家に援助してくれたうえ、あなたのような優しいお方が我が家に婿養子としてきてくれるなど、まるで夢のようなお話でした」 「──なら、どうして? ぼくがきみを一番に愛せないから? けれどきみは、それでもいいと言ってくれたよね?」  オーレリアは答えないどころか、顔すらあげてくれない。  けれどその場にいる、両家の親たちは、その理由を理解していた。  ──そう。  何もわかっていないのは、パットだけだった。

痛みは教えてくれない

河原巽
恋愛
王立警護団に勤めるエレノアは四ヶ月前に異動してきたマグラに冷たく当たられている。顔を合わせれば舌打ちされたり、「邪魔」だと罵られたり。嫌われていることを自覚しているが、好きな職場での仲間とは仲良くしたかった。そんなある日の出来事。 マグラ視点の「触れても伝わらない」というお話も公開中です。 別サイトにも掲載しております。

形だけの妻ですので

hana
恋愛
結婚半年で夫のワルツは堂々と不倫をした。 相手は伯爵令嬢のアリアナ。 栗色の長い髪が印象的な、しかし狡猾そうな女性だった。 形だけの妻である私は黙認を強制されるが……

【完結】高嶺の花がいなくなった日。

恋愛
侯爵令嬢ルノア=ダリッジは誰もが認める高嶺の花。 清く、正しく、美しくーーそんな彼女がある日忽然と姿を消した。 婚約者である王太子、友人の子爵令嬢、教師や使用人たちは彼女の失踪を機に大きく人生が変わることとなった。 ※ざまぁ展開多め、後半に恋愛要素あり。

理想の女性を見つけた時には、運命の人を愛人にして白い結婚を宣言していました

ぺきぺき
恋愛
王家の次男として生まれたヨーゼフには幼い頃から決められていた婚約者がいた。兄の補佐として育てられ、兄の息子が立太子した後には臣籍降下し大公になるよていだった。 このヨーゼフ、優秀な頭脳を持ち、立派な大公となることが期待されていたが、幼い頃に見た絵本のお姫様を理想の女性として探し続けているという残念なところがあった。 そしてついに貴族学園で絵本のお姫様とそっくりな令嬢に出会う。 ーーーー 若気の至りでやらかしたことに苦しめられる主人公が最後になんとか幸せになる話。 作者別作品『二人のエリーと遅れてあらわれるヒーローたち』のスピンオフになっていますが、単体でも読めます。 完結まで執筆済み。毎日四話更新で4/24に完結予定。 第一章 無計画な婚約破棄 第二章 無計画な白い結婚 第三章 無計画な告白 第四章 無計画なプロポーズ 第五章 無計画な真実の愛 エピローグ

処理中です...