冷酷無慈悲で有名な魔王になってしまったけど、優しい王様を目指すので平穏に過ごさせて下さい

柚木

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五章 魔道具編

69話 月夜

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『レティ大丈夫?』

「んー…らいじょーぶよ!ひとりで歩ける…いえ、やっぱりあるけらいかも?ふふ、あるいてる?ふわふわだわ」

 大丈夫じゃなさそう。僕はご機嫌なレティに肩を貸して店を出た。

「もぉ…レティは蜂蜜酒ミードにしておけば良かったのですよ」

 前を歩くアナは顔色も変わらずだ。店のエイムを全て飲み干した人物とはとても思えない。その横を歩くジェニーはアナの服を握って眠そうに目を擦っている。

「シロはとってもいいにおいがするわねぇ」

『そうかい?店の料理の匂いかな』

 レティに言われて自分でも服を嗅ぐ。

「シロさんの匂い、私は高級なお香の匂いだと思ってたのですが…」

『あー…』

 そう言えば毎日メイドさんが部屋で優しい香りの香を焚いてくれてたな。服に匂いが移ったかな。

「いいかおり~」

 目を瞑って子犬の様に匂いを嗅ぐ。抱き付かれてる様な姿勢に、ちょっと恥ずかしくなってきた。

「シロさん、今その子面倒臭い状態ですが、ジェニーロさんの店までお願いしますね」

 アナが申し訳無さそうに頭を下げる。任された僕は『うん』と返事をして、再度レティに目をやった。鎖骨辺りに息が掛かりゾワリと不埒な考えが過ぎる。(いかんいかん)彼女は僕を男だと認識してないのだろうか。
 無邪気な笑顔を向けるレティに僕は小さな溜め息を吐いて、アナとジェニーの後を追い掛けた。 

 






















 人々が寝静まる深夜、ジェニーの店に到着する。ジェニーが鍵を開け、店の明かりを付けた。

『レティ、着いたよ』

「はなれたくにゃいなぁ…」

「ホラ、レティ。シロさんを困らせないで下さい?明日私が今日の様子を教えたら悶絶するでしょうに」

「うぅ~…?」

 アナは慣れた様子でレティを引っ張る。

「シロさん有り難う御座いました」

『ううん、此方こそ』

 今日の事も、依頼の事もね。本当に助かった。
 僕はにっこり笑って2人に手を振る。

『あ、そうだ…アナ!』

 僕は思い出してアナを呼び止めた。振り返った彼女に通信石が埋め込まれたブレスレットを渡す。

『前レティと約束してた通信石ね。元が小さな石だから僕としか繋がらないけど。明日にでも渡しておいてくれるかい?』

「あの約束…覚えてて下さったのですね!分かりました、渡しておきます」

 アナが花の様な笑顔を浮かべた。会釈をして、眠そうなレティの手を引きながら店に入っていく。

「レティシア嬢、アナスタシア嬢、風呂は入るか?湯は入れて来たが…」

 店の奥から現れたジェニーは歩いているうちに酔いが覚めたらしい。片言でも饒舌でもなくなっていた。レティとアナにお風呂の要否を聞いているようだ。

「有り難う御座います!レティが寝ない内に入らせて頂いて良いですか?」

「嗚呼、ゆっくりすると良い。必要な物は揃えたつもりだが、何かあったら言ってくれ」

 何時迄も店の前に居るのもどうかと思ったので、踵を返そうとした時だった。ジェニーが表に出て来る。

『?、じゃぁ、おやすみジェニー。またね』

 見送りに来てくれたのかと思った僕がにっこり笑うと、マフラーが僕のローブを掴んだ。

「忘れ物だぞ」

 彼女の手には小さな宝石箱が乗せられている。

『残念だけど僕のじゃないみたい…』

「今日持って来てると言っただろう?ウロボロスの指輪だ」

 渡された箱を開けると、以前見た指輪に鉱石が嵌って輝いていた。

『綺麗だね』

「そうだろう?ワタシの最高傑作だ。効果も問題無い。記述式魔法もしっかり機能する。少しクセがあるが、何度か練習したら問題なく使える様になる筈だ」

 鉱石の中に青い光が揺らめく。

「ただ、3回防護壁が起動した後はメンテナンスが必要だ。魔力だけではどうも補填出来なかった。面倒かもしれないが、鉱石の色が薄まったらワタシの店に来て欲しい」

『分かった』

「ワタシがいつかコイツを魔力だけ溜めれば使える古代魔道具の仲間にしてやる。それまで毎度のメンテナンスは無料にするよ、君は変わった魔族だからな」

『いいのかい?』

 金欠の身としては有り難い。

『そう言えば、代金今手元に無いや』

 魔道具用にとっておいた大金貨と白金貨が入った賞金袋は僕の自室にある。今日は飲み代しか持って来てなかった。
 通信石で完成したと聞いた時、察して持って来れば良かったなぁ。

「後日で構わないぞ」

 指輪を戻そうとする僕にジェニーが淡々と言った。(…それは、大丈夫なの?)

『後払いでも良いの?凄く価値のある指輪だし、ジェニーは僕がそんな大金を払えると信じてくれるのかい?』

 指輪だけ貰って、逃げちゃうとは思わないのかな。自分で言うのもなんだが、僕の格好は国の王様って感じじゃない。

「……短い付き合いだがワタシはシロを信じている。それに、もし持ち去って逃げるつもりならそんな事聞かないだろう?」

 あの時と同じ言葉に、思わず破顔した。

「君が大金を払えるかについて、だが…」

 ジェニーが怪訝な顔で僕の姿を爪先から頭の先まで視線を向ける。

「もしも払えないと言うのなら、この国の王の財布は貧相だとでも思うしかないな」

『!』

 ちょっと待って、今何て…?

「シロはこの国の王なのだろう?…アルバラード・ベノン・デュルク・ジルクギール=ブルクハルト王陛下、と言った方が良いか?」

『な、ななんで?』

「隠し事が下手だな、君は」

 クスクス笑って、僕に最敬礼のお辞儀をする。よく騎士にされるやつだ。

「第一に、法外な値段の指輪を買うと断言した時だな。余程金銭に余裕があるか、余程の世間知らずかだ」

 余程の世間知らずだね僕は。

「第二に、感知の鋭さと知識量だ。イリババ山で天井の鉱石が気になると言っていたな?古代魔法陣を見て、転移系統の魔法だとも即答出来た。あれは大幅なショートカットが出来ると予め予期出来たから起動させたのだろう?」

 やだなぁ、偶然だよ。

「第三に」

 まだあるのか。僕は何処から誤解を解こうか考えあぐねる。

「上位魔獣が操る青い雷を、あんな鉱石で無効化するには無理がある」

 へ?

「単に自分が上位魔獣より強いと周りにバレたくなかったのだろうが、鉱石や魔石を知り尽くしたワタシは騙せないぞ」

 ちょっと待って、誰が誰より強いって?

「魔族である君が、魔力が使えないと言った訳がそこでやっと分かった。いや、薄々勘付いてはいたが、君は魔力が膨大な為に使えば災害級の被害が出る。だから比較的安全な魔道具を欲している訳だ」

 ん、んん?

『あの、ジェニー…』

「安心しろ、口は固い方だ。レティシア嬢とアナスタシア嬢にも言ってない様だったから、困った時には助けてやっただろう?」

 僕は記憶を辿って懸命に思い出そうとする。採掘場で、魔法の話になった時無言の彼女に服を引かれた。まさか、それ?
 僕は諦めた様に息を吐く。

『黙っててごめんよジェニー』

「良いさ。…いや、そうだな、今後ワタシの店に用がある時は、使用人の誰かではなく、今まで通り君本人が来店すると約束するなら許してやらん事もない」

『そんな事で良いなら、これからもお邪魔するよ。迷惑じゃない?』

「魔族は嫌いだが、君は特別だ」

 特別?変わってるって意味かな。

「身分を隠すのも、魔族の王が魔道具を表立って買い難い事情も分かるしな」

『あ、ジェニー、それなんだけどさ…』

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