冷酷無慈悲で有名な魔王になってしまったけど、優しい王様を目指すので平穏に過ごさせて下さい

柚木

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五章 魔道具編

64話 古代遺跡の化け物

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「見苦しい所を見せた。もう大丈夫だ」

 一頻り泣いて落ち着いたジェニーが気恥ずかしそうに言う。僕の濡れたローブを見た彼女が、湿ったそこに手を当てた。

「濡らしてしまったな、すまない」

『良いよ。寧ろ泣いてる女の子に胸を貸せた勲章?みたいな』

「なんだそれは」

 呆れた様に微笑んだ彼女は、憑き物が取れた様子だ。

「それにしても、此処は不思議な所だな」

『うん…こんな花見た事ないね』

 青白い光を放つ花に視線を移す。

「しかし、あの遺跡が目的地であるのは間違いない。父の文献にあった通りだ」

『あそこに目的の鉱石があるのかい?』

「恐らくな」

 花畑に囲まれた奥にある神殿は、見た所鋭い三角屋根の四方を円柱で支えた小さな休憩所みたいな建物だ。大昔の物だからか、苔が生えている。

『…一度レティ達が居る所へ戻ろう。心配してると思うし、冒険者達が気になる事を言っていたし』

「そうだな」

 頷いたジェニーと石畳の道へ戻ろうとしたその瞬間、けたたましい咆哮が辺りに響いた。地鳴りがする程の声量に堪らず耳を塞ぐ。此処にもしリジーが居たら目を回している所だ。

 吹き抜けの天井付近から此方を見下ろす黒い影があった。競り立った崖に佇むその姿は堂々としていて、僕はその異形に目を凝らす。

「なん、なんだ…ヤツは…!」

『冒険者の言う化け物、かな?』

 高い岩肌の壁を後脚で蹴った化け物は、僕達と神殿の間に降臨し立ちはだかった。

 その姿は馬に似ているが、立髪は白色で腕輪の様な金属で毛束が作られている。肌には細かな鱗があり、全体が青い色をしていた。大きさは普通の馬の2倍程、何より頭から大きな一本角を生やしている。
 見た目は聖獣ユニコーンと言うより、その禍々しさも相まって麒麟と言われた方がしっくりくる。

 僕は魔大陸の魔物をよく本で調べていたが、こんな魔物について書かれた書物は読んだ事無かった。

 麒麟は前脚で地面を踏み付ける。すると彼の周囲に雷光が走った。雷属性って1番ヤバイんじゃなかったっけ?

「シロ!ジェニー!」

 嘶きを聞いたレティ達が駆け付けてくれた。レティは剣を構えて、僕達の前に進み出る。アナも杖を突き出していたが、魔力切れの前兆が見えた。冒険者達は石畳の洞窟の入り口で身を屈め、顔を恐怖の色に染めている。

「ヤツだ!言っただろう!?」

「闘って勝てる相手じゃねぇッ!雷神龍サンダー・ドラゴン並にヤバイ相手だ!」

「早く逃げよう!こっちへ来いッ!」

 手招きする冒険者達の方を見る余裕も無い。

「この魔物、恐らく上位魔獣よね…?」

「はい。気を付けて下さいレティ。私はもう…魔力が…」

「…大丈夫!力で捻じ伏せるわ!」

 レティが自身に強化魔法を掛ける。更に剣を額に当てて何事か呟いたかと思うと、彼女の瞳に白い十字架が刻まれていた。(何かの魔法かな?)

 麒麟が上を見上げ一鳴きすると、何の前触れも無くレティが居た所に雷が落ちる。彼女が素早く避けていなければ、きっと直撃していた。
 青白い稲妻の色は、黄色い電流より強力だとシャルから教えて貰った事がある。つまり、麒麟が放つ雷に当たれば、きっとガルムみたいな酷い有様になると言う事だ。

 レティは麒麟との距離を一気に詰めて、その首を跳ねようとしたが巨大な角に阻まれた。甲高い金属音がぶつかり、押し問答した際火花が散る。

「…悔しいが、此処に居てはレティシア嬢の邪魔になる。今の内に冒険者が居る所まで走るぞ」

『アナ、走れるかい?』

「私も闘いますッ!」

 顔色が悪いアナはフラフラだった。今の彼女の状態であの麒麟を相手にするのは無理だ。僕でも分かる。

『…無理は良くないよ』

「でもレティ1人では…ッ」

『僕がアシストするよ』

 こんな僕でも囮くらいにはなる筈だ。

「シロさんが、闘って下さるなら大丈夫だと思いますが…」 

『あ、魔法は使えないんだけど…』

「で、では…?」

 意味が分からない、と首を傾げるアナが安心出来る様に笑顔を作る。

『ジェニー!アナを頼むよ!』

「……了解した」

「う、くッ…はぁ、はぁ…すみません」









キィイインッ!

 稲妻を斬り裂いたレティが麒麟に斬り掛かった。

「っ、なんて硬い鱗なの!?」

 弾かれて崩された体勢を立て直して彼女が毒吐く。彼女の剣は白く輝いて、聖剣のようだった。巨大な化け物にも臆せず立ち向かう、その姿はまるで英雄だ。

 麒麟が前脚を高々と上げて憤る。頭を振って、低く嘶いた。彼の苛立ちに呼応するかの様に、稲妻がビリビリと地面を抉り花弁が散る。

 レティに鋭い角を向けた麒麟が稲光と共に疾走した。

「…っ」

 串刺しになるのをギリギリ回避した彼女の二の腕に角が掠る。雷を纏う攻撃に、肩当の一部が凹み焼け焦げた。
 蹄を鳴らしてレティに向き直った麒麟に、彼女は容赦無く刃を突き立てる。

『レティ…強くなってる…?』

 前、炎のイフリートと闘った時より爆発的に強くなっていた。前脚で払われてしまったが、後一押しな気がする。

「す、スゲェ闘いだ…」

「あのお嬢ちゃん何者だよ」

「……レティは最近ずっと、強くなる為に頑張ってましたから。ソロでクエストを受けたり、無茶も大分してましたけど、それもこれも全てはこの国を救う為」

「ッ、しかしアイツはまだ本気を出してねぇ!」

「何だと?」
 
 突然轟音が響いた。(この音、苦手だなぁ)麒麟の周囲に青色の魔法陣が幾つも出現する。其処から四方八方に雷が放たれ、レティは華麗に僕は必死に避けた。

『レティ!僕に何か出来る事あるかい!?出来ると言っても囮くらいだけど!』

「私が引き付けるから、今の内に神殿に行って鉱石をお願い!この魔獣を倒すのは骨が折れるわ!目的を達成して、此処を離れましょう!」

『分かった!』

 僕は神殿へ走り出した。それに気付いた麒麟は僕の方へ雷を向ける。レティが間に滑り込み、眩い光に包まれた剣を地面に叩き付けると閃光が走った。その光は全ての雷を飲み込み、地面に染みる。舞い上がった土埃と花弁が晴れると、そこには深い爪痕が残っていた。

『本当に凄いな…』

 レティが守ってくれてると思うと凄く心強い。

 すると、麒麟が予想外の行動に出た。高く飛んだと思ったら神殿の三角屋根の上に降り立つ。そしてレーザーの様な稲妻が石壁へ向けて放たれた。

 岩壁が崩れ、大量の石礫となって僕とレティに降り注ぐ。

「ッ…捌ききれないわ」

『これは、不味いね』

 レティは幾つか剣で弾いていたが、数が多過ぎる。僕達の頭上に一際大きな岩が落ちて来た。僕は咄嗟にレティを突き飛ばす。
 その刹那にも満たない時間の中で彼女は目を見開いていた。此方に精一杯手を伸ばしている様に感じる。次の瞬間に僕の視界は真っ暗になり、彼女の姿も見えなくなった。

「シローーーッ!!」

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