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魔将軍ヤマト

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~魔王城・捕虜の部屋~

・「続々とやって来るな。
思った以上の数だ。」

魔王城の一階にある広間。
そこが捕虜保管庫だった。
帝国に捕まったであろう人々が部屋の中に押し込められていく、みんな同じ様に無気力になっていた。
どうやら希望を失ってしまったようだ。

・スイ
「そろそろ搬入が終わるわ。」

スイが状況を教えてくれる。
そして最後の一人が部屋に入れられた。

・魔族
「いいか、この部屋から出るなよ。」

魔族が部屋から出て行った。

俺とスイは捕虜の中に紛れ込む。
さて、現状はどんな感じかな。

スイが捕虜の確認を行う。

・スイ
「奴らは当初の規定数を集めてるみたい。
一応、話せそうな人に聞いてみたけど。
自分の事で精一杯の様ね。
恐らくこれで全部のはずよ。」

他に確認しようがないしな。
仕方がない救出作戦を決行するか。

・「これだけの数の人を誘導するのか。
少しばかり骨が折れるな。」

俺は作業に移る。
まずは現状把握から。

かなり精神的にやられてる。
ここはグランデ王に頑張って貰おう。
エリシャに協力してもらうか。
俺は通信を開く。

・「エリシャ、そっちはどんな感じだ?」

・エリシャ
「浩二?こっちは良い感じだよ。」

ザクっとした答えが返って来た。
まあ良いか。

・「リームは傍にいるか?」

・エリシャ
「うん、すぐ隣にいる。」

よしよし、いい流れだ。

・「リームに聞いてくれ。
エリシャとグランデ王を借りれるか?」

エリシャがリームと相談している。

・エリシャ
「問題にゃいらしいよ。」

戦況はかなり優勢と言った所か。
やるな、コーン司令官殿。

・「グランデ王を連れて魔王城に来てくれ。
場所はマップで青の点を目指せばいい。
魔族に見つからずにこっそりと頼んだぞ。」

俺は通信でエリシャと話す。
王に伝えて貰いたい事があったしな。
移動の時間を使って作戦を伝える。

数分後、青い点がやって来た。
壁の向こう側に居るのが解る。
マップ機能は便利だなぁ。

・エリシャ
「浩二、この壁の向こうに居るの?」

・「その通り、少し離れてくれ。」

では手筈通り行きましょう。
俺は壁と反対側の扉前で待機。

・「スイ、やってくれ。」

・スイ
「了解、モデルダイバー。
『クロムレーザー』照射。」


*クロムレーザー
遠距離レーザービーム。
威力、射程共に微妙な武器。
一応使い道はあるがデメリットも多い。
細いビームが特徴。
反動、反射が無く狙いは付けやすい。
音も静かなので壁を焼き切る為に選択。


・スイ
「気持ち良いわね。」

壁がレーザーで溶ける。
ゆっくりと切れていく。
そして見事に穴が開いた。

・エリシャ
「グランデの勇者、エリシャ参上!」

少し大げさに登場してもらう。
捕虜たちは何事かと全員がそちらを向く。

・グランデ王
「開拓の国・グランデ現国王。
アル・カイズ・グランデである。
助けに来たぞ。
みな、静かに付いて来い。」

グランデ王の名前、初めて聞いたな。
さて、捕虜たちはどう動くかな?

一つしかない扉。
絶望しかない未来。
突然開かれる新しい道。
そこに現れた勇者と王様。
希望を見出すには十分だと思うが、、、

捕虜たちは空いた壁から外に出始めた。
よかった、上手く行ったようだ。

流石は勇者と王様。
人を惹きつけるカリスマ性は随一だぜ。

・「スイもこっちに来てくれ。
エリシャ、捕虜の誘導を頼む。」

・エリシャ
「大丈夫、エミリアがこちらに兵を送ってる。
少数だけど誘導だけなら十分な数だよ。」

流石エミリア、助かるね。

捕虜に情報が行き渡った。
助けが来たと騒ぎ始める。

・魔族
「何だ?騒がしいぞ。」

扉から魔族が入って来た。

・スイ
「『ドラグーンランス』発射!」

入って来るなり瞬殺される。
その光景を見て捕虜達の目が覚める。
助けが来た、助けが来たんだ!
彼らはその確証を得た。

・「エルデンの勇者・浩二だ。
出来るだけ静かに脱出し欲しい。
その様に伝え広げてくれ。」

伝言ゲームの様に伝えていく。
勇者が助けに来た。
静かに動け。
先頭にはもう一人の勇者が居る。
グランデの王も来ているぞ。

時間が経つにつれて落ち着きが広がる。
指示に従い行動できるようになった。

・スイ
「無駄な混乱は避けられたようね。
上出来じゃない?」

・「完全に偶然だけどね。
上手くいってよかった。
エリシャとグランデ王に感謝だな。」

後から考えれば結構穴のある作戦だ。
その場その場で考えてるから仕方ない。

・スイ
「誰か来たわ!」

スイの言葉に緊張が走る。
捕虜達はまだ部屋から出たばかりだ。
ここで気付かれるのはまずい。
時間を稼がなきゃ。

・???
「なんだぁ?誰も居ねぇぞ?」

魔族が入ってくる。
数人の魔族と共に現れた人物。

・「やまもと、、、、」

もう我慢する必要はない。

・「スイ、、、他の魔族を頼む。」

・スイ
「解ったわ。」

何も聞かずに協力してくれたスイ。
俺は山元の前に姿を現す。
まずは奴らの気を引く。
その隙にスイが部屋の外に出る。

・山元
「おお?お前こんな所で何してんだ?
遂に魔族の食糧にまで落ちぶれたか?」

相変わらずムカつく野郎だ。
だがその方がやりやすい。

・「久しぶりだな、やまもと。
俺はこの時を待っていた。」

気が焦る。
まだだ、まだ時間を稼ぐんだ。
魔族が異変を察知、部屋を出て行く。
しかし部屋を出た瞬間スイに始末される。
その様子はこちらから確認できない。
マップの赤い点が消えていく事で理解する。

・山元
「やまもとだぁ?様を付けろよ。
それにな、俺は生まれ変わったんだ。
もう山元じゃねぇ!」

知ってるよ、魔族になったんだろう?

・ヤマト
「俺様は魔将軍ヤマト。
解ったかぁ?ヤマト様と呼べ。」

ヤマト、、、、。
『やまもと』が『まぞく』になる。
何故か『も』が消えて『やまと』に。
まあ呼びやすくなったから何でもいいか。

・「ヤマト、いい名前じゃないか。」

一応褒めておいた。
時間が稼ぎたいからね。

・ヤマト
「そうだろう?
そう言う素直な所は好きだぜ!」

貴様に好きなどと言ってほしくない。

・ヤマト
「一応聞いて置こう。
ここに居た人間はどうした?」

・「そんな事より。
あの時の続きをしよう。
俺はお前をぶっ殺したいんだ。」

俺は拳を顔の前にあげる。
ファイティングポーズだ。

・「そろそろここで決着を付けないか?
お前の顔を見るのは正直言って限界だ。」

必要以上に煽る。
こいつは必ず乗ってくる。
そういう奴だ。

・ヤマト
「池田ぁ、フーバでの事を忘れたか?」

怒りに満ちた顔でこちらを睨む。
挑発にすぐ引っかかる。
単純な奴め。

・ヤマト
「良いだろう、今ここで殺してやる。
助けてくれる奴はここには居ないぞ?」

・「良いから来いよ。
それとも怖いんでちゅか?」

俺の言葉でヤマトがキレる。
真っ直ぐに殴り掛かって来た。

・「速い。」

想像以上に早い。
だが単調だ。
はっきりと言おう。

・「お前、、、雑魚だろ?」

・ヤマト
「死ねぇぇぇ!」

こりゃいい、時間稼ぎに使わしてもらおう。
ヤマトの攻撃は確かに速い。
だが読みやすい。
LVだけ上がっても中身がスカスカ。
この速さに対応さえ出来れば負けない。

俺はずっとコーンの攻撃を受けてきた。
その強さに比べたら。

・「ハナクソみたいなもんだな。」

俺はヤマトの攻撃を躱し続ける。
ヤマトは飽きもせず攻撃を繰り返す。

・ヤマト
「おらおらおらぁぁ」

しかし、こいつ全然疲れが見えないな。
これが魔族となった恩恵か?
俺は暫く攻撃を避け続けた。

・エリシャ
「こちらエリシャ、兵士と合流完了。
このまま捕虜を保護して基地に戻る。
私はどうしたら良い?」

不意に通信が入る。
これを待っていた。

・「ご苦労さん、エリシャも一緒に基地に向かってくれ、そろそろ魔族が出て来るぞ。」

・エリシャ
「了解!」

時間稼ぎ終了。
俺は攻撃に転ずる。

・ヤマト
「おらおら!」

まずはこの攻撃に合わせるか。

・ヤマト
「おらっブシ」

カウンターで合わせる。
今、おら武士って言わなかった?

・ヤマト
「くそ、死ねっごふ、、」

攻撃に合わせて打ち込む。
死ねゴブ?変な語尾ですね。
いつからゴブリンになった?

カウンターを合わせる毎に変な事を言う。
だめだ、笑いが堪えきれん。

・「ふふふふ」

遂に声に出てしまった。

・ヤマト
「何笑ってんだっぼふ」

だっぼふ、頂きました。
斬新な語尾ですね。

・「だっぼふって何だよ、、、」

だめだ、ツボに入った。
真剣勝負なのに笑えて仕方がない。
その様子にヤマトは怒りが収まらない。

何度も攻撃してくる。
すべてにカウンターを合わせる。
その作業が続いて行く。

気付いた点と疑問点がある。
まずは俺の攻撃が効いていない事。
カウンターだから威力は倍になる。
だがヤマトは効いていないようだ。
魔族になって撃たれ強くなったから?

そして疑問点。
こいつ、コーンに勝ったんだよな?
こんな腕でコーンに勝てるとは思えん。

そんな事を考えながらカウンターを放つ。

・ヤマト
「当たらねぇ、当たらねぇ」

ざまぁねぇな。
無様だぜ、ヤマトさんよ。

・ヤマト
「くそっ、誰か居ねえか?
魔法で援護しやがれ!
こっそり後ろから撃てよぉぉぉ」

こっそりって、、、
そうか、コーンはこれにやられたのか。
1対1の真剣勝負。
そこに水を差すような魔法攻撃。
コーンはそれに対応できなかった?
いや、コーンなら避ける筈だ。
魔法を避けると誰かに当たる軌道だった?
だからあえて避けずに食らった。
うむ、しっくりくるな。
そんなとこかな?
相変わらず、カッコいい奴だ。

・ヤマト
「くそぉぉぉぉ」

尚も攻撃してくるヤマト。
そろそろ終わりにするか。

・「スイ、、、、やれ。」

・スイ
「了解!」

今の俺にこいつを仕留める術はない。
だからこいつのやった事をそのまま返す。
後ろからプスッとね。

・スイ
「死になさい!
『ドラグーンランス』」

・ヤマト
「なん、、、」

背後からの一撃。
こいつが今までやって来た事だ。
見事にしっぺ返しを食らったな。

スイの一撃がヤマトを貫く。
そして吹き飛んで倒れる。

・スイ
「貴方がやらなくて良かったの?」

スイは俺に問い掛ける。

・「良いんだ。」

俺は目を閉じた。
こいつが俺にした事を思い出しながら。

・「哀れな最後だったな。」

一言だけ、俺は奴に呟いた。


~アルマフィー防衛軍~

・コーン
「魔物が減少してきたぞ!
ふんばれぇぇ。」

少しずつ陣形が崩れていく。
その中で体制を整えつつ迎撃を行う。
サリウスの援護射撃も加わった。

・コーン
「エミリア様、感謝です。」

エミリアは崩れそうな場所を的確に補助。
サリウスの射撃で敵の急所を突く。

・エミリア
「次はあそこよ、狙い撃って。
あそこは回復弾。」

こちらもリームと一緒に奮闘中。

・エリシャ
「只今、リーム。」

エリシャが戻って来た。

・リーム
「どうだった?」

・エリシャ
「捕虜の救出は無事完了!
今はグランデ王が付いてるよ。」

・フーバ王
「ならば私も向かおう。
リンネの様子も気になるしな。」

フーバ王が救出したものの所に向かう。

・リーム
「魔物の数が減少してきた。
そろそろ魔族が来るはずよ。」

リームの読みが当たる。
前線で大きな爆発が起きた。

・エミリア
「サリウス、急いで回復弾。」

・リーム
「エリシャ、出番よ!」

・エリシャ
「任せろ!」

エリシャが飛び立った。
魔族と勇者、最後の戦いが始まる。
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