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世界の真実

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・「これで俺の事は帝国に伝わるだろう。
帝国の巫女スイは奴に奪われた。
そいつは魔族を一撃で倒せる勇者。
魔族が複数いても制圧は不可能。
だが『魔王城』攻略には不参加。」

俺はみんなに話した。
俺の行動がもたらすであろう効果を。

・スイ
「そんな感じでしょうね。」

・「帝国はこう思う、好都合だと。
そのまま放置すれば良いと考える筈だ。」

この戦いで魔族たちは居なくなる。
次の収穫時期は100年後。
その頃、俺は寿命で死んでいる筈だから。
人間の寿命は長くない。
俺が死んだ後にこの世界に干渉。
そして修正すれば良いだけの事だ。

・「多分、俺の事はノーマークになる。
他の勇者も危険視されているからな。
3人も注意するべき人間が居るんだ。
魔族としてはさっさと終わらせたい。
そう考えてもおかしくないだろう?
魔族としては想定外の事が沢山起きている。」

本来なら魔物の被害で収まる筈だった。
しかし魔獣が2匹、魔将軍が2人。
そして俺が倒した5人の魔族。
想定外と言わずして何と言う?
早急に手を打ちに来るはずだ。
これ以上の被害を避けつつ。

・「解る事だけで良い。
俺の質問に答えてくれ。」

俺はスイに問い掛けた。
ずっと考えていたんだ。
『魔王城』とは何か、ゲートとは?

・「魔族は俺と同じく別次元から来てる。
ゲートは向こうからこっちを繋げるための物。
あれは恐らく一方通行。
言ってみれば勇者召喚も同じ要領だろう。
ならば魔王城とは、、、
『異世界を行き来する為の物』
違うか?」

俺の言葉に皆が驚く。
エミリアが、ロドルフが、コーンが。
皆驚きで動かない。
しかしその中でスイは大きく頷いた。

・スイ
「よく解ったわね。」

・「表現が悪くて済まないが、この世界を養殖場と推理した。ならば収穫したものを運ぶ必要がある。
そう考えた時に繋がったんだ。」

あまり考えたくなかったけどね。

・スイ
「『魔王城』とは本来『転送城』と呼ぶ。
貴方の推理通りの代物ね。
主に送られるのは4種類よ。
貴金属、食料、苗床、兵力。」

うわぁ~詳しく聞きたくねぇ。

・コーン
「ピンときませんな。」

・スイ
「詳しく聞きたい?
貴方たち人間にとっては嫌な話よ?」

・ロドルフ
「聞くべきだろう。
この世界で起きていること全てを。」

・エミリア
「お願い、聞かせて。」

みんなは聞く気満々だ。
そりゃ物事を正確に把握する事は大事な事。
俺はこっそり席をはずそうかしら。

・スイ
「貴方なら予想がついてるんじゃない?
何が何に当たる代物か。」

こっそり抜け出そうとしたのがバレた。
まぁ、、、ね。
大方予想はつきますよ。

・「浩二と呼んでくれ。
大体は想像できる。」

・スイ
「貴金属とはこの世界のお金。
現在の通貨を使う様に仕向けたのは魔族よ。
ある鉱石を通貨として使う様にした。
それを集めて溶かし作り変える。
そうすれば向こうで使える物になるわ。」

多分、この世界を選んだ理由はそこだろう。
この世界に魔族の通貨と同じ物質があった。
どんな鉱石かは知らないけどね。

裏で操り人間に通貨を作らせる。
100年程でかなりの量となるだろう。
最後にそれを集めれば良いだけ。
魔道兵器の利用料金としてね。

・スイ
「食料、これは果実や獣も含まれる。
でも本命は主に人間よ。
魔族の中には人を食べる種族もいる。
血液だけを欲する種族もいるわ。
特に子供が人気ね。
私は食する種族じゃないから知らないけど。
子供の方が柔らかくて甘いらしいわ。
向こうで人間の子供は高価な物なのよ。」

・エミリア
「そんな、、、」

・スイ
「驚く事ないんじゃない?
貴方たちも獣を狩って食べるでしょう?
規模は違うけど同じ様な事よ。」

まあ、そうなるよな。
人間だけ特別だと考えてしまいがちだが。
それは人間に知恵と言う武器があるからだ。
そのお陰で他の生物よりも序列が少し上なだけの事、さらに上の物からしたら人間など食料になる可能性は十分にあり得る。
子羊のロース、何たらソース掛け。
そんな料理があるくらいだしな。
驚く事ではない。

・ロドルフ
「我々はその為に生かされてきたのか?」

・「食物連鎖ってやつだろ?
自然の摂理から除外視されてると考えるのは知恵ある者のエゴだよ。」

生物の死は大地を潤す。
微生物が分解したりとかね。
そこに生きる小さな者の食料となる。

下は上へと繋がりやがて下へ返る。
これで生命のピラミッド構造が成立する。

・スイ
「なかなかドライなのね。」

スイが俺に言い放った。
一度人間やめたいと思ってましたからね。
今さら酷いとかあまり考えないな。

・スイ
「兵力も同じね、人間よ。
少し違うのは主に兵士から造るって事。
強い人間を改造した方が強い魔物になる。」

やっぱりかぁ~。
魔物の捨て駒感が半端なかったからな。
何でもありの魔族ならやりかねん。
戦いながらそう感じてた。

・スイ
「貴方たちが戦っている魔物は元々人間。
どう?まだ聞きたい?」

エミリアがそろそろ限界か?
顔面蒼白だぞ。
ロドルフも顔をしかめっぱなしだし。
コーンは、、、意外と普通だな。

・コーン
「そうか、あれは我々兵士の成れの果て。
ならば我々が引導を渡すべきだろう。
国を守るために戦った偉大なる先輩方。
我々が戦わずしてなんとする。」

逆に闘志に火が付いていた。
なんかカッコいいな。

・スイ
「聞きたくなかったら出ていく事ね。
ここまで話したのだから分るでしょう?」

しかし誰も席を立とうとしない。
少し待ってスイが話し始めた。

・スイ
「最後は苗床ね。
想像通り、人間の女性よ。
魔族も人間と同じ構造を持っているわ。
繁殖方法も同じ。
質の良い多くの苗床を持った方が裕福になる。
何故ならそこで生まれるモノを売るから。
基本的にはそんな所かしら。
たまに人間を伴侶にする奴もいるわ。
生まれる子供の事を考えない奴がね。
魔族が支配する世界よ。
人間と魔族の混血児。
その子供はどんな気持ちかしらね。」

遂に、この世界に真実が伝わった。
事実は世界にどの様な波を立てるかな?

・スイ
「少し休みましょう。
特に巫女、外の風に当たってきなさい。」

スイの提案で休憩となった。
彼女は周りの事よく見てるよね。
合言葉通りの優しい人なのかもね。

・スイ
「浩二、ちょっと良いかしら?」

スイに呼ばれて付いて行く。
そして二人で庭を散歩していた。
散歩と言うかスイが勝手に歩いているだけ。
俺はただ付いて行った。

約20分程無言で歩く。
えっと、何か話して貰っても良いかな?
呼ばれた手前、何か俺からは話しづらい。

・スイ
「自然が豊かでとても静か。
素敵な世界ね。」

唐突にスイが話しかけてきた。

・「俺も最初は同じ意見だった。」

都会の喧騒に埋もれてたからな。
人もやたらと多かったし。

・スイ
「浩二の世界はどうだった?」

・「あまり好きじゃなかった。
守るべき人も居なかったしな。
喧噪、憎悪、妬み、争い。
絶えず繰り広げられてたって所だな。
もちろん良い所も沢山あっただろう。
だが、俺はそれを知らない。」

家族の愛以外はな、、、

・スイ
「そう、、、」

再び黙るスイ。
花を愛でる姿はとても美しい。
とても優しい目をしている。

・「もう時間が無いんだろう?
悪いがはっきり聞くぞ。
お前、ハーフだろう?」

スイの動きが止まる。

・「悪いな、さっきの話を聞いて感じた。
最後の皮肉だけ怒りを感じたからな。
で、俺に何をして欲しいんだ?」

俺の言葉に反応できない。
いや、考えているのか?
思い出しているのか?
ただただ時間が過ぎていく。
俺は黙って傍に立っていた。

随分と長い時間が流れた。
時折苦しそうな顔をするスイ。

そしてスイは立ち上がった。
俺を真っ直ぐに見て言い放つ。

・スイ
「全てを破壊して!」

初めて見た。
いや、久しぶりに見た。

この世の全てを憎む涙を。


~エルデン城・応接間~

再び集まった5人。
話はドンドン進められていく。

・「と言う訳でこの国は自由です。
既に滅びたと報告が入るはずだから。」

魔族を逃がしたのはその為だ。
「この国は滅び、勇者は世界に無関心」
この構図を造り上げたかった。

・ロドルフ
「常に先手を取り一歩前を行く。
浩二殿にはいつも驚かされるな。」

・コーン
「敵を欺き味方を生かす。
中々出来る事ではありますまい。」

二人が感心している。

・エミリア
「これからどうするの?」

復活したエミリアが訪ねてくる。
その顔には決意が感じられた。

・「コーンと兵士達は他の2国に紛れる。
ロドルフはこの国を動かし続けてくれ。
戦闘後に出来るだけの救援を頼む。」

俺は魔物との戦いに参加しない事にした、なぜならコーンや兵士達が戦いたいと願い出たからだ。
魔族との戦いは参加しますがね。

・コーン
「今回の戦いは志願者だけで前線を張る。
弔い合戦と言って良いだろう。
どうか我が願いをかなえて欲しい。」

この人、時々カッコいんだよな。

・「解った、でも後方支援はするぞ?
見殺しにはしたくないからな。」

俺にも譲れない事がある。
助けられる命は助けたい。

・コーン
「無理を言ってすまん。
支援はありがたく頂く事にするよ。
負ける訳にはいかぬからな。」

よし、これで何とかなるかな。

・スイ
「私は貴方の物になっている。
帝国はそう報告を受けている筈よ。
何をすれば良いかしら?」

ちょこっと考えていた。
最後の一人を誰にするか、、、

魔族の世界で迫害されるハーフ。
人種差別ってやつだな。
どの世界でも同じなんだな。
これは知恵を持つ事への代償なのか?

スイと二人で話していた時だ。

『全てを壊してほしい』

その言葉の後に彼女は言ったんだ。
怒りの涙と共に、、、

『力が欲しい』と。

・「決めた、スイは俺と付き合ってほしい。」

俺の言葉で場が凍り付いた。

・コーン
「いやはや、浩二殿は正直者ですな。
エリシャ殿にエミリア様。
更にはスイ殿までも。
健全たる男子なれば色を好まんとす。
私は応援しますぞ!」

何言い出してるんだコーン。
なんでこんな展開に、、、って、
言い方、、、間違えてた。

・「すまん、間違えた。
俺に付き合ってほしい。」

ロドルフの驚いた顔。
あとエミリアの涙目が忘れられません。
その反面スイはまったく動じなかった。
ちょこっと寂しい気もします。
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