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動き出す帝国

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~フーバ城~

完全復活した俺はまず現状を把握する。
俺が寝込んでいたのは10日程。
その間にかなり動きがあった。

まず商人の国『アキナ』。
これはエミリアとサリウス、リンネに聞いた。

結論から言うと『アキナ』は崩壊した。

逃げてきた国民、兵士。
国を追い出された者たち。
エミリアたちは彼らを保護。
フーバに連れて戻った。
他にも逃げ出した人達は居たらしい。
流石に捜索までは手が回らなかった。
保護した者の中に王の側近も居たらしい。

・エミリア
「彼等の話では最後の厄災でアキナは壊滅。
巫女は帝国に連れ去られ勇者は処刑された。
国王も帝国から来た者に変わったそうよ。
異議を唱える者は皆殺されたわ。
国民の半数近くが連れ去られ。
そして少数が逃げ出したり追放されたそうよ。」

そうか、間に合わなかったか。

・サリウス
「遠くからライフルの望遠で確認した。
今『アキナ』に居るのは魔族だ。
実質、帝国になったと言っても良いだろう。」

厄災で潰れた国は魔族によって再び蘇る。
そして100年後の収穫に備えておく。
そんな所だろうな。

・エリシャ
「帝国は『アキにゃ』への動きを強めていた。
こちら側への動きは見せてにゃかったよ。
あと、帝国勇者だけど。
どうやら帝国から動いてにゃい。
一度だけ姿を現して城に向かったけど。
その後は自分の屋敷から出てこにゃかった。」

そうか、あいつは帝国に居るのか。

・エリシャ
「そう言えばあいつの屋敷ににゃんかいも女性が運ばれていたのを見た。多分、そういうとこにゃんだと思う。
浩二がいにゃかったら私もあそこに。」

・リーム
「恐らく私も居たでしょうね。」

・リンネ
「私も同じよ。」

・エミリア
「多分、、、、私も。
エリシャと浩二のお陰でここに居るのね。」

そう考えると恐ろしいな。
この能力に感謝だ。

・サリウス
「リンネは僕が守る。
もうあんな思いはさせないよ。」

リンネ
「サリウス、、、」

二人の世界に入っていく。
止めないでおこう。
好きにしなさいな。

リームとエミリアが二人を見つめている。
エリシャはあまり気にしていない様子だ。

・フーバ王
「では最後にフーバの復興状況だ。
エルデンとグランデの救援物資は届いた。
それにより急ピッチで作業は行われている。
厄災前と比べると約80%程と言った所だな。
壊滅寸前から考えれば信じられない速度だ。
これも全てはリーム殿とコーン殿のお陰だな。」

リームもコーンも頑張っていたらしい。
話によると復興計画はリームが案を出した。
その案にフーバ王が手を加えて指示を出す。
そして現場指揮は何故かコーンが行っていた。
この国の兵士長とタイマン勝負で打ち勝ったらしいが、他国まで来て何やらかしてるんだ?

・コーン
「この国の兵士達は非常に優秀である。
全ては国王の手腕であろう。
リーム殿の復興案も素晴らしかった。
なるべき結果と言えるだろう。」

胸を張って答えるコーン。
どうやら良い仕事をしたようだ。
グッジョブ、コーン。

・エミリア
「報告は以上ね。
これで全ての国の厄災が終わった。
最後の試練が現れる筈よ。」

・「厄災が終わり、魔王城が現れる。
確かそういう話だったよな?
具体的にはどうなるんだ?」

はっきり言って想像できない。
地中から城がゴゴゴゴっと現れるのか?

・フーバ王
「うむ、実は歴史書には詳しく書いてない。
いつ、何処に、どの様に現れるのか。
解らない事が多すぎる。」

・エミリア
「私の国の歴史書も同じね。」

・リーム
「どの国も途中から帝国が支配している。
だから正確な書物が存在しないのね。
残す必要が無いもの。
魔族と帝国が共謀してやってる事なんだし。」

そういう事だろうな。
収穫が終われば魔族も引き上げる。
普通の事だな。
では魔王城の話はなんだ?
一番お偉いさんの監査みたいなもんか?
次の収穫に備える為の指示を出す為か?

・「とにかく現状では動き様がない。
暫くはそれぞれの国で待機しておくか。
常に通信で連絡を取り合おう。
3国同時攻められても良い様にね。
各国に守りの戦力を置いておく。」

サリウス、エリシャが居れば大丈夫のはずだ。
一旦、国に戻ろう。
俺はそう提案した。

・エリシャ
「ふぬ~、私は浩二と一緒に居るぞ?」

・リーム
「そんな駄々をこねないの。
一緒にグランデに戻るよ。」

・エリシャ
「リームだって一緒に居たいだろう?
みんにゃで一緒に居ようよ。」

エリシャがまるで子供のようだ。
逆にリームはしっかりしているな。

・リーム
「駄目よ、帝国の危機が去るまではね。
帝国の問題が解決したら。
一緒に浩二のもとに行きましょう。」

リームがエリシャを言いくるめた。
エリシャは渋々従う事にした。

・エリシャ
「仕方にゃいからリームのいう事を聞くけど。
帝国問題が終わったら直ぐに行くからね。」

エリシャはそう言い残してリームと共にグランデに帰って行く、去り際に何故か俺達は馬で帰れと言われた。
俺も飛べますよ?

・エミリア
「私達もエルデンに帰りましょう。」

エミリアとコーンを連れてフーバを後にする。
さり気なく馬を用意するサリウス。
自然と馬で帰る流れになる。

・リンネ
「食料もちゃんと用意しておいたわ。
気を付けて帰るのよ。」

リンネまで馬で帰れと言いたいのか?
エリシャ達に言われリンネにも言われた。
仕方ない、帰りはゆっくり行くか。

リームとコーンが来る時に使った馬に乗る。
2頭だけなので俺がエミリアと一緒に乗った。
やっぱり飛んで帰ろうか?
そう言ってみたが皆に止められた。
何かあるんだろうか?

・エミリア
「こうしてゆっくりするの久しぶりね。」

エミリアは嬉しそうに馬を操る。
俺はそれどころではない、落ちない様に必死でエミリアにしがみ付いていた。

・コーン
「情けないですぞ、浩二殿。
今日から馬術も特訓開始ですな。」

今日から特訓する気らしいぞ?
マジでか、、、休憩時間が怖い。
俺達はゆっくりと国に戻った。


~バンガード帝国~

全ての国の厄災が終わった。
それから1ヶ月の月日が流れる。
そんな折、帝国に新たな影が現れた。

・???
「首尾はどうなっている?」

・スイ
「エルデン、グランデ、フーバ。
3国での収穫に失敗。
しかしアキナで補填致しました。
次に現在の収穫量を報告。
貴金属 160%
兵力 70%
食料 90%
苗床 70%」

・???
「規定以下の項目が多いな。」

・スイ
「転送城での攻防で兵を捉えます。
更にアキナで取り逃した苗床も追跡中。
食料も同時に確保する予定です。
しかし、今回の勇者が規格外の様子。
早々に撤退する方が宜しいかと。」

・???
「そうか、まあいい。
貴金属が多くとれた。
足りない分は買えばいいだろう。
して、帝国勇者はどんな塩梅だ?」

・スイ
「はい、勇者山元は計画通り進んでいます。
現在は蛹状態。
もうすぐ孵ると思われます。
アキナの勇者は適性が無く廃棄しました。」

・???
「出来栄えはどうだ?」

・スイ
「例年通り、LVはMAX。
欲の深さは今までで一番でした。
恐らくかなり強力な魔族となるでしょう。」

・???
「そうか、ならばもうここに用はない。
直ちに最後の儀を取り行う。
転生城を起動させろ。
例年通り他国に通達するのだ。
『魔王城』が出現するとな。」

・スイ
「かしこまりました。」

城の起動には3週間の時間がかかる。
その間に各国へ通達が行われるのだ。
厄災最後の戦いが始まろうとしている。

報告を終えたスイは他国へ急ぐ。
厄災の最後を伝えるために。

・スイ
「3人の勇者、どれ程の者か。」

スイの背中から羽が生える。
数名の魔族と共に他国へ向かう。

フーバの方角へと飛び立っていった。


~フーバ~

復興作業が急ピッチで行われている。
建物等の被害は少ない。
しかし内政が崩壊する寸前だった。
そこで商人達が一丸となって問題に当たる。
エルデン、グランデの協力もあり復興以前よりも良い環境に成りつつあった。

・兵士長
「国内の情勢は安定しました。
厄災前は帝国とアキナが貿易先でした。
しかしこれからエルデン、グランデとの貿易を行う予定になっています。両国とも売買の価格が平均額で行われるため非常にいい関係になっています。これにより国内で栽培した作物が言い値で買われ潤っていくでしょう。」

・フーバ王
「帝国もアキナも足許を見て来たからな。
これで正常な経済活動が進む。」

・兵士長
「はい。」

・フーバ王
「して、帝国の巫女は今どこに?」

フーバには帝国から巫女がやって来ていた。
数名の帝国兵を引き連れて。

・兵士長
「現在はサリウス殿とリンネ様が対応中。
話がまとまり次第グランデに赴くとの事。」

・フーバ王
「そうか、ついにこの時が来たか。
『魔王城』の出現。
ここさえ乗り切れば全てが終わる。」

フーバ王は大きく息を吐いた。

・フーバ王
「頼んだぞ、勇者たちよ。」

兵士長も同じことを考えていた。


~フーバ城・応接室~

・サリウス
「『魔王城』は帝国領に出現するんですね。」

・スイ
「はい、既に前兆は始まっております。
各国の兵力を結集してこれに当たります。
どうかお力をお貸しください。」

スイはサリウスに頭を下げる。
リンネはそれを見守っていた。
おかしな動きがあれば浩二に報告する。
それがリンネの役目だ。

・サリウス
「協力するのは構わないよ。
『魔王城』が出現する時期は解ってる?」

・スイ
「はい、帝国の歴史書に記されています。
前兆が起きてから丁度3週間で現れると。」

スイの話を聞きながらサリウスは思う。
全て貴様らの計画通りなんだろうっと。
その様子を見ていたリンネ。
サリウスの態度が表に出る前に話を変える。

・リンネ
「今日は勇者と一緒じゃないのね。」

・スイ
「彼は今、重大な任務中です。
ですので帝国に居ると思います。」

淡々と答えるスイ。
その態度からは何も読み取れない。

・スイ
「では2週間を目途に帝国へ。
前線基地はこちらで仕上げておきます。
各国別に設置しておきますので。」

スイが立ち上がった。
それに伴いスイの護衛兵も動き出す。

・サリウス
「一つ聞かせてくれ。」

サリウスは一度そこで止まる。
一生懸命に言葉を選ぶ。

・サリウス
「君は、大丈夫なのか?」

スイは少し考える。
サリウスが言いたかった事は何だ?
質問の意味が解らない。

・スイ
「もちろんです。
共に『魔王城』を攻略しましょう。」

・サリウス
「そうじゃない。
帝国の中で、君だけ浮いてないか?」

スイは言葉に詰まる。
直ぐには聞き返せなかった。
その様子を見ていた帝国兵が前に出る。

・帝国兵
「無礼だぞ。」

・リンネ
「誠に申し訳ありません。
サリウスには私から言っておきますので。
どうかご容赦を。」

リンネが頭を下げた。
サリウスもそれに従う。

・スイ
「やめなさい。
今は時間がありません。
次に向かいますよ。」

・サリウス
「ありがとう、帝国の巫女。
グランデとエルデンの勇者に伝えるよ。
帝国の巫女は『優しい人』だって。」

スイは何も答えずに部屋を出た。
帝国兵も続いて出て行った。

・サリウス
「リンネ、フォローありがとう。」

・リンネ
「良いのよ、でも何であんなこと言ったの?」

・サリウス
「浩二の能力で気付いた事があった。
この違和感、何だろう?」

サリウスは直ぐに通信を入れた。
そしてエリシャと浩二に詳細を話す。
ここに来て情報伝達速度の凄さが解る。

情報を制する者は世界を制するのだ。

次はグランデに行くと言っていた。
勇者たちはしっかりと打ち合わせを行った。
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