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エミリアの決意

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~フーバ城の一室~

ここでは浩二の治療が行われている。
サリウスはリバーサーでの回復をしていない。
浩二に強く止められていたからだ。

浩二が王の申し出を断ってまで頼んだ事。

「どんな事があっても俺の合図まで動くな。
俺にリバーサーを使うな。」

この2点だった。

帝国勇者にやられて瀕死の状態だった浩二。
しかし懸命の治療のお陰で一命をとりとめた。
命が危ないのならば迷わず使おう。
そう考えていたが、何とか峠は越えた。
サリウスは浩二が目覚めるまで待つ事にした。

そして浩二の意識が戻らぬまま2日が過ぎる。
この日、フーバ城にエリシャが到着した。
エミリアを背負いフーバに降り立つ。

・エリシャ
「浩二はどこだ。」

フーバ城に着くなり門番に怒鳴りつける。
門番は急いで浩二の元に案内する。
本来なら手続きが必要だ。
だがこの方なら必要ないだろう。
二人を城の中まで連れて行く。

・門番
「こちらの部屋になります。」

門番は案内し終わると持ち場に戻っていく。
エリシャは深呼吸をしてから部屋に入る。
流石に病人の部屋だ、静かに入らなければ。

部屋の中にはリンネが居た。
そしてベットに横たわる浩二の姿。
その顔には痛々しい傷跡があった。

・エミリア
「浩二、、、」

心配そうに見つめるエミリア。
その瞳には涙が溢れている。

・エリシャ
「サリウスはどこだ。」

エリシャは怒りを押し殺してリンネに尋ねる。

・リンネ
「サリウスは薬草を取りに行っています。
じきに帰って来るでしょう。」

リンネはエリシャに目を合わせずに答えた。
何と言葉を交わして良いのか解らない。

・エリシャ
「サリウスが来たら詳しく聞きたい。
浩二がこんなにゃ姿ににゃるのはおかしい。
にゃにかあった筈だ。」

正直、浩二のAPはどれだけあるか知らない。
エリシャが確認したのは15000までだ。
例えそれがMAXだとしても、ここまでダメージを受けるなど考えられないのだ。

・エリシャ
「一体、にゃにがあった?」

エリシャはそう呟く。
その右手は強く握りしめられていた。

無言のまま時だけが過ぎる。
部屋にはエミリアのすすり泣く声だけが響いた。

暫くするとサリウスが帰って来た。
サリウスを見るなりエリシャが動く。

・エリシャ
「サリウス、教えてくれ。
一体にゃにがあった?」

エミリアは浩二だけを見つめている。

・サリウス
「話すと長くなる。
だからまず伝えたい。
峠は越えた、浩二は無事だよ。
後は目を覚ますのを待つだけだ。」

弱々しく話すサリウス。
その様子で直ぐに解った。
彼も浩二が目覚める事を強く願っている。
エリシャは行き場のない怒りを抱えていた。

・サリウス
「最初からは無そう。
あれは厄災を乗り越えた次の日の事だ。
浩二に頼みがあると言われてね。
リンネと僕で話を聞いた。」

サリウスは詳しく話した。
帝国勇者がやって来た事。
浩二に頼まれてた事。
そしてその願いを守り切った事。

・エリシャ
「どうして途中で止めにゃかった?
今のお前にゃら止めれたはずだ。」

・サリウス
「それが、彼の願いだったから。」

エリシャは思わずサリウスを殴り飛ばす。
サリウスは避けずに受ける事を選択した。

・リンネ
「やめて!サリウスだって止めたかったの。
必死で堪えてたのよ。」

リンネが割って入る。
エリシャは悔しそうに下を向く。
そんな事は解っている。
でも、、、、でも、、、

・サリウス
「いいんだ、リンネ。
僕だって悔しいんだ。
殴られてあげる事しか出来ない。
本当ならすぐにでも治したいんだ。」

サリウスの言葉に反応する。

・エリシャ
「治せるのか?」

・サリウス
「彼に教えて貰ったからね。
僕も回復武器を使える。
でも、強く使用を止められている。」

エリシャには解らない。

・リンネ
「彼は言っていたわ。
これはどうしても必要な事だと。
あなたは知ってる?
浩二の両親は帝国勇者に殺された事。」

エミリアもエリシャも知らない。
過去の話は聞いても教えてくれなかった。
その話が今、リンネの口から伝えられる。
二人は静かに聞いていた。

・サリウス
「僕が思うに、、、
浩二は自分が許せなかったんじゃないか?
彼は自分が現実から逃げたと言っていた。
その事実を取り戻したかったんじゃないかな?」

エミリアがこの国に来て初めて口を開く。

・エミリア
「帝国の勇者に借りがあると言ってたわ。
ずっとそんな素振りは見せなかったけど。
一人で苦しんでたのね。」

浩二を優しく撫でながら話すエミリア。

・エミリア
「浩二には沢山助けてもらった。
今度は私達が助ける番よ。」

エミリアは立ち上がる。
今までは浩二ばかりに任せてきた。
今度は自分が動く時だ。

・エミリア
「サリウス、リンネ、エリシャ。
私に力を貸して。
浩二が目覚めるまでに情報を集めます。
世界の状況、帝国の動き。
そして帝国勇者の動向。
全てを把握し、浩二に伝える。
これが今私達が出来る事。
フーバ、グランデ、エルデン。
今ここに3国の協力を約束して。
帝国を倒すのよ。」

国の英雄、エリシャとサリウス。
そして一国の姫。
正式な手続きは行っていない。
しかしこの場で3国同盟が結ばれた。
一つの目的に向かって結束する。

打倒帝国。

4人の心は一つとなった。

・エリシャ
「さっきはすまにゃかった。」

エリシャがサリウスに謝る。

・サリウス
「いや、僕も自分を許せなかった。
君に殴られて目が覚めたよ。
エルデンの姫君。
浩二を守れなくてすまなかった。
僕は彼に全てを救われた。
そんな彼に頼まれた。
君とエリシャさん。
そしてリームさんを守れって。
この世界を守れと頼まれた。
帝国は必ず僕が止める。」

・エリシャ
「僕たち、の間違いだろ?」

エリシャとサリウスが強く握手をする。
二人のわだかまりも取れた。

・リンネ
「私も協力するわ。
もちろんフーバも全面的に支持します。」

・エミリア
「浩二、貴方のお陰で皆が結束していくわ。
貴方はこの世界の救世主よ。
早く、戻って来てね。」

もう一度、浩二の頭を撫でた。
そして彼女は動き出す。

・エミリア
「リンネ、フーバ王に会わせて。」

リンネは頷き案内を始める。
エリシャとサリウスもそれに続く。
それぞれが浩二に一言伝えてから。

・エリシャ
「今はゆっくり休んでて。
起きた時は思い切り甘えるからね。」

・サリウス
「君の大切な人たちは僕が守る。
だから、ゆっくりしていると良い。
起きた時には必ず君の力になろう。」

強い決意を胸に、二人は出て行った。

部屋には浩二だけが残される。
今まではサリウスとリンネが交互に看ていた。
今日から二人の代わりに看護兵が着く事となる。
24時間体制で彼の容態をチェック。
フーバ王は何より浩二の事を優先させた。
世界には彼が必要だと感じていたのだった。


~フーバ城・謁見の間~

・フーバ王
「エルデンの姫、ようこそフーバへ。
先にお礼を述べねばならぬな。
この国を救ってくれた事。
感謝する。」

フーバ王は頭を下げた。
同時に謁見の間に居る者全てが跪く。

・エミリア
「頭をお上げください。
今私達に出来る事をする為。
どうかお力をお貸しください。」

エミリアは既に前を向いている。

・フーバ王
「立派になったな、エミリア姫。
ロドルフも良い娘を持った。」

フーバ王は頷いている。
まだ幼き頃のエミリアを思い出しながら。

・リンネ
「微力ながら我々も彼女と共に動きます。」

サリウスとリンネが王に進言する。
エリシャも従うのだろう。

・フーバ王
「3つの国が一つとなるか、、、
今まででは考えられない光景だな。
良いだろう。
そなたらが好きに動く事を許す。
フーバ王の名に懸けて。」

これで動きやすくなった。
エミリアはすぐに行動に移す。

やる事は多い。
フーバの復興。
帝国の動向チェック。
帝国勇者の動きを把握する事。
商人の国『アキナ』との協力体制を敷く。
これからの魔族の動きを知る。

どれも一筋縄では行かない事だらけだ。
しかしエミリアは全ての問題と向き合う。

・エミリア
「3国の厄災が終了した。
恐らくあまり時間は残っていないわ。
直ぐにでも全ての問題に着手します。」

エミリアの言葉に耳を傾ける。

・エミリア
「フーバの復興。
これはフーバ王にお願いします。
もうすぐ正式に救援物資が届きます。
続けてグランデからも届くはずです。
それを基に国の復興を始めて下さい。」

・フーバ王
「解った、エミリア姫に従おう。
既に復興は始まっている。
これにより予定より早く完了するだろう。」

エミリアはフーバ王に頷く。

・エミリア
「帝国の動向チェックと帝国勇者の動き。
この二つはエリシャに任せるわ。
深入りは禁物よ。
空から監視する程度で構わない。
同時に魔族の動きも気にしてて。」

・エリシャ
「任せろ!にゃにあれば直ぐに通信を入れる。
エミリアはサリウスから聞いてくれれば良い。
いつでも指示をしてくれ。」

エリシャとエミリアが頷く。

・エミリア
「私とサリウス、そしてリンネは『アキナ』に向かいます。そして4国同盟を目指しますが、国の状態によっては救援を視野に入れて動きましょう。」

・リンネ
「浩二はどうするの?
このまま看護兵に任せて良い?」

・エミリア
「グランデの巫女がやって来るはずです。
フーバに到着したら彼女に任せます。」

エミリアはリームを信じている。
必ずやって来ると。

・エリシャ
「絶対に来るさ。
リームも浩二の事が大好きだしにゃ。
じっとしている様にゃおんにゃじゃにゃい。」

・フーバ
「そうか、ならば兵達に伝えておこう。
巫女が到着次第直ちに浩二殿の部屋に案内する。」

・エミリア
「ありがとうございます。」

エミリアは取りこぼしが無いか考える。

・フーバ
「見事な指揮であった。
もうエルデンを下に見る者は居なくなるな。
では、私も動くとしよう。」

王自らが行動に移る。
エミリアの言葉が国を動かし始めた。

・エミリア
「私達も行きましょう。
サリウス、リンネ。
出発の準備をお願い。
エリシャは無理しないでね。
絶対、必要以上に近づいちゃダメよ。」

念を押しておく。
この中で一番危険なのはエリシャだからだ。
帝国に見つかれば戦闘になる可能性が高い。
でも、彼女ならやってくれると信じた。

・エリシャ
「大丈夫、私は負けにゃい。
それに戦いに行くわけじゃにゃいからにゃ。」

・リンネ
「エミリアは浩二の傍に居てあげて。
準備が整い次第、声を掛けに行くわ。」

・サリウス
「浩二の事を頼んだよ。」

三人はそれぞれに動き出す。
エリシャは帝国に向けて飛び立ち。
サリウスは馬車を取りに向かう。
リンネは食料などの準備。
そしてエミリアは浩二のもとに向かった。
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