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光の矢

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今は帰りの馬車の中だ。
俺は未だに落ち込むエミリアに話しかける。

・「何か、すまなかったな。
俺なんかが出てきちまって。」

とりあえず謝っておいた。
その言葉を聞いたエミリアは我に返る。

・「いえ、浩二が悪い訳じゃないから。
こちらこそごめんね、勝手に呼んでおいて。」

ん~会話が続かない、、、
何か話題は無いか?

・「ところで厄災っていつ頃起こるんだ?」

・エミリア
「正確には解らない、すぐに起こる可能性もあるし。数か月後かもしれない。
国によって回数も変わって来ると伝承にはあるの。」

ふ~ん、これまたよく解らんな。

・エミリア
「ただ、最後の侵略には魔将軍が来ると言われているの。全ての国で魔将軍を退けると魔王が出現して、それを退ける事が出来れば厄災は終わるわ。」

そうなのか、てか気になってたんだが、、、

・「退けるって言ってるけど倒すとは違うのか?」

・エミリア
「魔族と魔獣は討伐不可能と書いてあるわ。
魔物は討伐できるらしいけど。」

伝承なのに書いてあると言う表現が正しいのか解らんが、昔からそう言われているって所か。

・エミリア
「最後には魔将軍と共に多くの魔物が出現するの。魔物を撃退してゲートまで押し返す事が出来れば魔将軍は後退していくみたい。
正直私にもよく解らないわ。」

実際に見たわけじゃないから解る訳ないか。

・「成る程ね、理解したよ。」

・エミリア
「落ち込んでても仕方ない、出来る事をやらなくちゃ。浩二のスキルを見てあげる。
もしかしたらすごい能力があるかもしれない、だって異世界召喚の勇者なんだから。」

エミリアに元気が出てきた。
でも変なプレッシャーをかけないでね。
何もなかったら申し訳ないし、、、
元気を取り戻したエミリアが続ける。

・エミリア
「何故勇者は巫女に召喚されるか知ってる?
巫女に選出されるには条件があるの。
それは勇者スキルを読み取る事が出来るかどうか。
勇者の能力を最大限に生かす為の最低条件なのよ。
だから、私には浩二のスキルが読み取れる。」

エミリアが目をつぶる。
妙な感じだ、、、
まるで空間が捻じ曲がるような。
これが魔力ってやつなのかな?

・エミリア
「『妄想力』、、、『想像力』、、『具現化』」

何そのいやらしそうなスキル。
でも『具現化』は強そうじゃない?

・エミリア
「3つだけ?」

俺が聞きたい。

・「『妄想力』は知らないけど『想像力』って?」

・エミリア
「イメージをより鮮明にする力の事よ。」

言葉の通りのスキルだな、、、
これじゃ戦えん。

・「『具現化』は強そうじゃない?」

・エミリア
「職人に必須のスキルね。
武器を作る時により強度を増す為のスキルよ。
剣に鉄鉱を張り付けて固さを『具現化』する。
鍛冶士が多く持つスキルね。」

終わった、、、
戦闘向きじゃないスキルばかりだ。

・エミリア
「一般的なスキルな上、LV表示は無い。
魔力数は数値化すらされない。」

やめて、言葉にしないで。

・エミリア
「でも、私の召喚に応えてくれた。
落ち込む私を一生懸命慰めてくれた。
とても優しい人。
私にとっては浩二は立派な勇者だよ。
ありがとう。」

・「エミリア、、、」

この子、ええ子や、、、

・エミリア
「でも、厄災対応はどうしましょう。」

切り替えも早い子やでぇ。

・「エリシャに援護を頼むか?」

・エミリア
「向こうの厄災がいつ始まるか解らない以上、援軍は期待しない方が良いわ。
私達の国で何とかしなくちゃ。」

そうか、時期も回数もランダムだったな。
こりゃ困ったな、、、
『想像力』と『妄想力』か、、、
俺ってそんなにムッツリだったのだろうか?

そんなこんなで馬車の旅が続く、、、


~数日後~

・エミリア
「見えてきた、あれが『エルデン』よ。」

現在、馬車は山の道を走っている。
山下には立派なお城が見える、、、
立派なお城?

・エミリア
「えっと、言ってなかったんだけど。
私達の国はとても小さいの。
更に貧乏だからお城なんてないわ。
小さな村が5つと真ん中に私達のお屋敷がある。
お屋敷の裏には兵舎があるわ。
ここから国内がすべて見える。
それがこの国のすべてよ。」

マジか、馬車旅2日程で全て回れそうじゃないですか!

・「他の国は何々の王国とかついてたよね?
『エルデン』だけ呼ばれなかったのは、、、」

・エミリア
「無いからよ。」

すっごい納得。
飯を食いに行った時とか、バンガード王や色んな人の視線がやたらと冷たかったのはそういう事か。
つまり、見下されてるわけね。
何ともまぁ俺にピッタリな国だ事。

・エミリア
「がっかりした?」

・「いや、俄然愛着が沸いて来た。
何とか厄災を乗り切りたいよな。」

俺の言葉に笑顔になるエミリア。
しかし、次の瞬間笑顔が消える。

・近衛兵
「姫様、バージル村の東に巨大な影です。
大きな真っ黒のクリスタルも、、、
あれは、ゲート?厄災?」

エミリアが馬車から飛び降りる。

・エミリア
「始まりの魔獣、、、、」

・「始まりの魔獣?」

・エミリア
「厄災の始まり、、、、
それは一匹の巨大な魔獣からとされているわ。
こんなに早く現れるなんて、、、
早くお父様に知らせなければ。」

エミリアから何かがあふれ出てる。
何だ?魔力を練っているのか?

・エミリア
「届いて、、、『ファイア・アロー』」

エミリアが叫ぶと手から火の矢が出現する。
そして屋敷に向かって飛んでいく。
火の矢を放って危険を知らせるつもりか?

しかし、距離があり過ぎたのだろう。
途中で燃え尽きてしまった。

・エミリア
「そんな、、、」

・「あれだけデカい魔獣だし。
既に気付いているんじゃないか?」

・エミリア
「まだ気づいていないわ。
出撃するときは必ず大きな音と共に旗を立てるの。
周辺の村に危険が迫っていると知らせるために。
ここから見ても旗は立っていないわ。
このままでは、バージル村が、、、」

ここから急いだとしても間に合わないだろう。
唯一、間に合うとすれば屋敷からの出撃。
しかし屋敷の人たちは危機を知らない。

エミリアの反応から推測してみる。
バージル村には戦える戦力は無いのだろう。
既に涙を流している事から容易に解る事だ。
護衛の兵士達も悔しそうにしている。
兵士達と言っても2人だけなんだけどね。

魔獣の後ろにある黒い壁?
クリスタルとか言ったな、あれがゲートか。
俺はこのまま村が蹂躙されるのを見るだけか?
俺は何のために呼ばれたんだ?
戦えないのに呼ばれるものなのか?
それに、、、、
APって表示に凄い思い入れがあるのだが。

・「なぁ、エミリア。
鑑定のスキルで俺のAPの数値は解るか?」

・エミリア
「浩二、、、?わ、解るわ。」

・「ならもう一度調べてくれ。」

俺は念じてみる。
思い当たるAPの数値を変化するように。
エミリアが目をつぶる。

・エミリア
「え?AP1万?どういう事?」

やはりか、、、
俺が戦えるとすればこれしかないからな。
『想像力』『妄想力』『具現化』そしてAP。
全てが繋がった。

・「俺の戦い方が解った。
上手くいけば救えるかもしれない。」

・エミリア
「本当?戦えるの?
でもあんなに遠くに居るのにどうやって?」

こんな事、信じられるか?
現実では考えられない、、、
でも解るんだ、俺ならできる。
想像力を働かせろ。
妄想を現実に引き出すんだ。

・「妄想を具現化、モデル『エ〇レイダー』」

俺は想像する、某ゲームのキャラクターを。
航空支援を得意とするあのキャラ。

・「ロックオン。行くぞ」

手に持った銃のような物からピンクのレーザーが放たれる。始まりの魔獣にヒット、そのまま継続させる。

・謎の声
「手を貸しましょう?エア〇イダー。
『スプライトフォール・照射』」

天から無数の光が放たれる。
数え切れない程の光の矢が降り注ぐ。
何度も何度も、何度も何度も。
容赦なく降り注ぐ。

始まりの魔獣は成す術もない。
咆哮と共に崩れ落ちた。

・エミリア
「こ、、、これは、、、光魔法?
こんな距離からあんなに強力な魔法なんて。」

俺は敵を倒した。
兵士たちは驚きのあまり声も出ない。

・「これが、俺の力か、、、」

はっきり言って自信はなかった。
『妄想力』とんでもない力かも知れない。
でも結局は扱うのが凡人の俺だからな~。
出来る事なんてたかが知れてるだろうな。

・エミリア
「浩二、貴方は一体何者なの?」

エミリアが当たり前の問いを聞いてくる。

・「俺か?俺はエミリアに召喚された凡人。
俺に何が出来るか解らないが君の力になるよ。」

伝説の中で一度だけ登場した光魔法は初代勇者しか使えなかったとされている。
エミリアは地上に降り注ぐ無数の光を見た。
あの輝き、想像を絶する破壊力。
伝説の光魔法だと勘違いしても仕方がない。
浩二の使用した『スプライトフォール』。
その光はエミリアの心までも射抜いていた。

・「お、屋敷から沢山の人が出て来たぞ?
俺達も急ごうか。」

エミリアの方を見ると何やらポーっとしていた。

・「おーい、エミリア。」

よく見れば兵士さん達も止まっている。
これは困ったな。

数分後、やっと皆の意識が戻って来た。

・エミリア
「ご、ごめんね。あまりの事に驚いちゃって。」

心なしか顔が赤く見える。
放心状態だったのが恥ずかしかったのか?
正気を取り戻した兵士は出発の準備をしていた。

・兵士
「早急にバージル村に向かいましょう。」

エミリアの了承と共に馬車はバージル村へと進みだした。日暮れ前には着くと良いなぁ~。
そんな思いと共に馬車はドンドン進んでいく。

数時間後、俺達はバージル村に到着した。
村には屋敷から出撃してきた兵士が沢山いた。
ざっと30人ぐらい?

・エミリア
「お父様はどちらにおられますか?」

・兵士
「姫様、ご無事でしたか。
ロドルフ王なら村長の所だと思われます。」

兵士に聞いているエミリア。
今、姫様って言った?
あれ、エミリアが姫様?
プリンセスって事?
巫女じゃなかったのか?

・ロドルフ王
「エミリア、無事に帰還したか。
召喚の儀、大儀であった。
先程、空から謎の光が降って来たと報告があってな。お前もそれを見てこっちに来たのか?」

・エミリア
「お父様、始まりの魔獣が出現しました。」

・エミリアの父
「何?本当か?ならば戦力を集めねば。
お前が召喚した勇者様は戦えそうか?」

エミリアが微笑みながら俺に手招きをする。
行きたくない様な、でも行かなきゃだよな。
俺は覚悟を決めてエミリアの元に向かう。

・エミリアの父
「まさかこの方が?」

・エミリア
「そうよ、この方こそ私の勇者様。
光の勇者・浩二よ。」

ババ―ンと効果音が聞こえる様な紹介。
光の勇者って何ですか?

・エミリアの父
「光の勇者、、、挨拶が遅れました。私はエルデン国王・『ロドルフ・パージ・エルデン』と申します。
申し訳ないが魔獣討伐にお力をお貸しください。
このままでは民に危険が及んでしまう。
なにとぞお力を、、、」

国王が頭を下げてきた。
バンガード王とは全然違うな。
これが器の違いなんだろうか?
民の為に頭を下げる王様か、、、
何か俺、この国好きになりそうだわ。

・エミリア
「ふっふっふ、その心配はないわ。
既に浩二が倒しちゃったんだもの。」

・ロドルフ王
「誠か?にわかには信じられん。
しかし確認の方法が無いからな、、、
いや、疑っている訳では無いんだが。」

・エミリア
「本当だよ。」

なにやら大騒ぎしながら兵士が走ってくる。

・兵士
「報告!始まりの魔獣らしき巨大な魔物の亡骸を発見。至急調査を願います。」

もの凄い息を切らしながら報告する兵士。
よく喋れたな、あの人凄いぞ。

・ロドルフ王
「退けたのではなく討伐だと?
そんな話聞いた事が無い。
総員、魔獣の亡骸まで移動だ。」

王の号令で我先にと兵士たちが移動する。
それに伴い俺達も移動する事にした。
倒しちゃったの不味かったかな?
まぁ、村が無傷だから良しとするか。
俺は深く考えるのをやめ、嬉しそうなエミリアと共にロドルフ王の後を追った。
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