常闇(短編集)

アナザー

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私の家には2階が無い

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私の家には2階がある。
だけど今は使っていない。

去年、念願のマイホームを購入した。
田舎の風情溢れる家屋だった。
一緒に住む人は居ない。
一人で優雅な暮らしを満喫したかったのだ。

正直言うとかなりのボロ家だった。
そこしか買える資金は無かったし、下見で見に行った時には全く気付かなかった。最初の印象では「良好」だと感じたのだ。

私は浮かれていたんだ。

最初に違和感を覚えたのはいつの事だろう?
下見の時に気付かなかった自分を恨む。

妙に綺麗な2階の和室。
綺麗な襖の裏側。
そのままにしておくべきだったのだ。

「襖をもっと豪華にしたい。」

そう思ってしまった自分を恨まずにはいられない。
何でそんな風に思ったのだろう?
不思議でならない。
もう、2階に上がることは無いだろう。

襖を取り替えた日の夜からだ。
2階で物音がするようになった。
怖くて仕方がない。
それは日に日に大きくなっていった。

ある日、明確な足音が聞こえた。
最初は泥棒かと思ったのだがそうではない。
同じところをぐるぐる回っているのだ。
時折、楽しそうな声も聞こえる。
私は怖くて仕方がない

何分も、何十分も、何時間も。

昼に聞こえたその足跡は夜になっても収まらない。
相談できる知り合いなど居ない。
正直言うと警察に電話するべきか悩んだ。
でも何故だろう?
警察に電話する事が出来なかった。
自分でも不思議でならない。
私は怖くて仕方がない。

あれから1週間?
足音はまだ続いている。
同じところをぐるぐると

ぐるぐるぐるぐる回っている

私の気持ちがかき乱される。
頭の中がかき乱される。

ぐるぐるぐるぐるかき乱される

何をしているのか解らなくなってきた。
何をしていいのか解らなくなってきた。

ぐるぐるぐるぐるかき回される。

朝も昼も夜さえも?

あれからどれだけの時間が経ったのかな?
数分?数時間?数日?数週間?
私はどうやって生きているのだろう?
2階では相変わらず誰かが歩き続けている。

ぐるぐるぐるぐる歩き続けている

私の家には2階がある。
そこには誰かが住んでいる?

不思議だね
私は一人じゃない
だからあなたも一人じゃないよ。

今も2階でぐるぐる歩いている
私も同じくぐるぐる歩いている

不思議だね。
怖くなくなったよ。
私もあなたと同じだね。

私はぐるぐる歩いてる
あなたもぐるぐる歩いてる

楽しいね
一人じゃないって素敵だね
怖くなんてないよ
だってあなたは私と同じ
私もあなたも同じだよ?

ぐるぐるぐるぐる
ぐるぐるぐるぐる

ふふふふふ
ふふふふふ

楽しいね
2階に行こうかな?
あなたに逢ってみたい
あなたもそうでしょ?

今から行くね。

、、、、、、、
、、、、、、、

気が付くと私は病院のベットに居た。
私は怖くて仕方がない。
何故ならその時の記憶が鮮明に残っているから。
少しづつ壊れていく私。
それを思い出すと怖くてたまらない。

私を救ってくれたのは業者さんだった。
近場のリフォーム屋さんに襖の撤去をお願いしていた事で助けられたと言えるだろう。業者さんが襖の違和感に気付き、裏地を剥がしてくれたことが幸いだった。そこには夥しい数のお札があったのだという。
心配になった業者さんが様子を見に来てくれたのだ。

私が数週間と感じていた出来事は僅か2日の出来事だった。
飲まず食わずの私は衰弱しきっていた。
排泄もその場で垂れ流しだったらしい。
私を発見したのは2階の和室だったという。
狂ったように笑いながら歩いていたと教えられた。

ぐるぐるぐるぐる
ぐるぐるぐるぐる、、、と。

彼が来なかったら私はどうなっていたのだろう?

私は回復を待って実家に帰った。
もう二度とあの家には近づかないだろう。
どんな事があってもだ。

お払いがどうのこうのとか言っていたが関係ない。
私は絶対に戻らない。

今でも2階が怖い。
何故なら鮮明に思い出せるから。

あの時、2階には○○が居た。
固有名詞は口が裂けても言えない。
もう二度と逢いたくない。


最近、風の噂で聞いた。
そんな風に書くとカッコいいけど、あの家の事が気になったのであの時に助けてくれた業者さんに電話してみたんだ。

現在、あの家は売り物件となっているらしい。
私に言えることは一つだけ。

「ごめんなさい。」

私には新しい購入者の事を考える事は出来ない。
怖くて仕方が無いのだ。
もう思い出したくないのだ。

人の足音を聞く度に、、、
私の鼓動は早くなる。


私の家には2階が無い。
2階の無い家しか住めなくなってしまった。
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