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第13話 手紙

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「いやぁ、助かったよ。こう見えて、あたしも女だからさぁ。力仕事になるとどうしてもねぇ」

 現在、アリアさんの仕えている教会にいる。彼女はいわゆる修道女のような存在だ。
 荷物の運び込みがあったらしく、アリアさんの手伝いをしていた。
 リアも手伝うと言っていたが、アリアさんに制止されたため、今は奥の方で座って、アイネと一緒にこちらを見やっている。
 
「それで姉さん。何の話なんだ? アリア姉さんが、力仕事で困るわけないだろう?」
「心外だねぇ。これでも私は、非力な乙女だよ?」

 「どの口が」までぼやきかけたブリッツの言葉は、彼女に向けられた無邪気な笑顔によって止められてしまう。
 アリアさんに抵抗は無駄だぞ、ブリッツよ。

「フローリアに手伝わせなかった理由があるんだろう? 女性だからという理由なら、姉さんも休んでおくべきところだ」
「愚弟のくせに察しがいいじゃないか」

 ブリッツに対してだけ少し口が悪くなるところは、流石姉弟と言うべきか。

「単刀直入に聞くよ? どっちがどっちと付き合ってるんだい?」

 ……アリアさん?

「な、なにを言っているんだ姉さん。僕たちはそういう関係じゃ──」
「バカ言うものじゃないよ。男女二人ずつ仲良くやってれば、そういう感情が生まれない訳無いじゃないか」

 なぜこの人はこんなに爛々らんらんとしているんだ……俺にだけは話を振らないで──

「で、どうなんだい? リュート君!」

 よしてくれよ!

「いやどう、て……ほんと、何も無いですよ? 一緒にいるのは色々と理由があるだけで……」
「そうなのかい? ──なんだ、つまらないなぁ。この前のあの子らの言動、恋する乙女だと思ったんだけどねぇ」

 人の色事で楽しまいでください……実際にどうとかはないけど、各々にそれなりの感情もあるから、完全否定できないのがつらい。

「──まあ冗談はさておいて」

 あぁ、冗談ですか、そうですよね。冗談……なんだよな?

「あたしが本当に聞きたいのは、昨日屋敷で起こったって言う事件のことさね」

 もう噂になってるのか? ……まあ、大きくもない領地だ。その内広まるとは思っていたが……。
 彼女に伝わったことを怒っているのか、ブリッツが睨んでくる。俺が伝えた訳じゃないんだよ、勘弁してくれ。

「えっと、その事なんですが──」
「まだ調査中だと言っていた。僕たちも深くは知らない。……姉さんも変なことに首を突っ込まないでくれ」

 別にアリアさんも好奇心で聞いただけには見えなかったが、その怒りのこもった声には、心配する気持ちが窺えるな。

「そうかい……」

 とても残念そうだ。
 しかしまた、何でそんなことを知りたがったんだ? 

「ちょっとよろしいかしら? アリア様?」

 いつのまにか近づいてきていた、アイネがアリアさんに尋ねた。リアも遅れて、彼女の後をついて来たようだ。

「アイネ様、なんですか? 後、あたし相手に様はやめてくださいな」
「ではアリア。これはなんですの? 机の上にありましたわ」

 そう言ってアイネが一枚の紙を取り出した。
 この世界では紙と言うのは貴重なはず。持っていること自体は不思議ではないが、机の上に無造作におかれているのは違和感があるな。

「……ありがとう。大切なものなんだ」

 セリフと表情が合っていない。今のセリフで何故悲しむんだ? 親の形見とかなら……それにしては、ブリッツの表情があまりにも不満げだ。

「姉さん、それは誰からの手紙なんだ?」
「……これはあたしの問題さ。愚弟に教える義理もないさね」

 この悪戯癖も彼女の愛嬌……なんだろうけど、ブリッツの方も流石に怒りが隠れていない。──なんか、笑いそうになる。不謹慎だよな?

「男からなのか? 紙なんて高価なものを、持っているような男なのか?」
「男……そうさね、男は男だねぇ。──なに? 大好きな姉がどこぞの男から手紙を渡されて、嫉妬でもしてくれているのかい?」

 彼女のこの悪い笑顔……絶対本当のことは言ってないな。
 しかし今のブリッツがそんなところに気付けるわけもなく──

「やめておけ! そういう男は大体、姉さんの体が目的だ! 姉さんの中身なんて見ちゃいない!」
「ちょ、ダメ! 離しなさい、ブリッツ!」

 感情的になるブリッツは、アリアさんの手を強引に掴み、手紙を無理やりに引っ張っている。──バカブリッツ! 流石にやりすぎだろ!

「おいブリッツ! アリアさんも痛がっているだろ、離してやれ!」
「こんなもの!」

 ──あっ。
 ブリッツが勢いよく手紙にかけていた手を引っ張ると、その拍子に手紙は半分に破れてしまう。……あぁ、やらかしたな。

「あ……ごめん……」

 流石にやりすぎたと判断したんだろう。反省したように俯き、黙ってしまった。
 手紙の片割れを持つアリアさんも、その切れ端を見つめながら、今にも泣きそうな表情で、それでいて悔しそうに呆然としている……。

「アリアさん──」
「──バカブリッツ! あたしはただ──もう知らん!」

 アリアさんはそのまま大粒の涙を残し、教会の奥へと消えてしまう……あんなに叫ぶ彼女は見たことがない……。

「最低ですわね」
「私も流石に、ブリッツ様のこと見損ないました」

 いやぁ……女って怖い。この状況で追い打ちするか? 

「なあブリッツ──」

 自分の手に握る手紙の切れ端に目を通していた、ブリッツのその表情はとても辛そうだった。
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