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第2話 読めなかった本
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「思ったより軽傷のようで良かったです」
「あ、ああ。情けない主人で悪いな」
少し腰を抜かしていただけだが、目の前にいる少女──フローリアが心配してくれている。
フローリア……【最初で最後の物語。】におけるヒロインであり、俺が最も理想とする少女の名前──
「もう……心配させないで下さいよ? リュート様に居なくなられたら私……」
頭の耳を折り、悲しげに顔を歪める彼女というのは、とても心苦しい……。
そうくると分かっていても、彼女のこんな表情をみるのはやっぱり辛いな。
フローリア──いや、リアに体を見てもらっている間、その気恥ずかしさと闘いながらも、自分の頭を整理していた。
その整理の中で、いろんな記憶が混ざり合っていることに気づいたんだ。
「本当に馬鹿げた話だな」
「……やっぱり、頭は大丈夫では無さそうですね」
「いや、大丈夫だから! なんでもないから、な?」
また彼女に心配をかけてしまった……。
この森の記憶があるのも、彼女を見てすぐに誰なのかを判断出来たのも、これなら納得できる。
どうやら俺は──我ながら馬鹿な話だとは思うし、あるいは夢の中なのかもしれないが──
自分の書いた小説の中に居るらしい。
何を言っているか分からない? 当たり前だ。俺にも分からないからな。
トラックに撥ねられて死んだはずの俺が、どうしてこの世界に居るのかは分からない。
しかし彼女との過去の記憶も、今の自分の状況も、何故か鮮明に思い出せるし、何より今のこの状況は原作で書いた記憶がある。
今は確か領主の息子であるリュートが、領地に現れた出所不明の生物を討伐しに来た場面だ。
リュート──多分俺だな。が傷つき、俺の付き人である彼女──フローリアことリアに助けられる。
ただの偶然かもしれないが、俺の置かれた状況からして十分に考えられる。
「……まあ、リュート様が大丈夫と言うなら、そう言うことにしておきます。では、一度帰りましょうか?」
「ああ。報告書も書かないといけないしな」
リアと二人、リュートの屋敷に向けて歩き出した。
……この後の話は確か──くそ、三年も前だと細かいとこが思い出せん! どうしたものか……。
※
「はは……これがいわゆる、ご都合主義というやつか?」
思わず声が漏れてしまう。
あの後屋敷に戻り、狼についての問題を、リュートとして報告書にまとめた。その後に彼の部屋まで来たのだが……。
リュートの記憶を辿ると、どうにも文字を読めない書物についての記憶があった。
しかも、本人にも分からないまま、大切に保管していたらしい。
「この世界の人間じゃ読めないだろうな」
日本語で書かれた本。その表紙には、この世界に存在しないはずの印刷技術が用いられており、機械による明朝体でタイトルが書かれている。
【最初で最後の物語。】
俺が初めて書いた作品であり、現世での俺が最後に見た作品。
……そして、俺の最高傑作だ。
幾らかページをめくっても、残念ながら可愛いイラストたちは無いが、そこに記された内容は紛れもなく、俺の書いたそれだ。
「やっぱり一緒だよな」
物語の冒頭はやはり、さっき俺が出会《でくわ》した場面。
ホーンウルフとの戦闘中、リュートが手傷を負って、リアに助けられるシーンから始まっていた。
先を軽く読み直しても、この体の記憶にある名前と、登場人物の名前が一致している。
いよいよ、現実だと認めるしか無さそうだな。
「……まてよ? てことはこの後──」
「リュート様! 大変です!」
俺の部屋の扉を勢いよく開いて叫ぶのは、当然リア。
そしてこの後続く言葉は──
「アイネ様が先に立たれたという報告が!」
……やはり、書いてある通りだな。本当に困ったお嬢様だ。まったく、誰があんな娘にしたの
「ブリッツ様からありました!」
「なに!」
ブリッツから報告?
おかしい、今回はお供であるブリッツを連れての先走った行動のはずだ。
彼が一緒にいるから、途中の戦闘も難なくこなして、俺たちの下へとくることになっていた。
なのに何故、彼から報告が? 一緒じゃ無いのか?
「アイネとブリッツは一緒にいないのか?」
「はい。ブリッツ様からの報告では、『アイネお嬢様が一人で出立してしまった。すぐに追いたい所だが、僕も今は身動きが取れない。不本意ではあるが、リュートに迎えを任せてやる』とのことです!」
流石はあのお転婆娘の世話をしているだけあるよ……。こんな状況でも悪態は吐いてくるらしいな。
彼の性格も俺の知っている通りのようだ。
「……仕方ない。俺たちも急いで向かおう。──嫌な予感がする!」
「分かりました、すぐに準備しますね!」
リアは嬉しそうに耳をピンッと立てながら部屋を出て行った。……こっちもやっぱブレないな。
……しかし、すでに俺の書いた話とは状況が違う──そのままあの小説のように展開する、と言うわけでは無いのか?
「あ、ああ。情けない主人で悪いな」
少し腰を抜かしていただけだが、目の前にいる少女──フローリアが心配してくれている。
フローリア……【最初で最後の物語。】におけるヒロインであり、俺が最も理想とする少女の名前──
「もう……心配させないで下さいよ? リュート様に居なくなられたら私……」
頭の耳を折り、悲しげに顔を歪める彼女というのは、とても心苦しい……。
そうくると分かっていても、彼女のこんな表情をみるのはやっぱり辛いな。
フローリア──いや、リアに体を見てもらっている間、その気恥ずかしさと闘いながらも、自分の頭を整理していた。
その整理の中で、いろんな記憶が混ざり合っていることに気づいたんだ。
「本当に馬鹿げた話だな」
「……やっぱり、頭は大丈夫では無さそうですね」
「いや、大丈夫だから! なんでもないから、な?」
また彼女に心配をかけてしまった……。
この森の記憶があるのも、彼女を見てすぐに誰なのかを判断出来たのも、これなら納得できる。
どうやら俺は──我ながら馬鹿な話だとは思うし、あるいは夢の中なのかもしれないが──
自分の書いた小説の中に居るらしい。
何を言っているか分からない? 当たり前だ。俺にも分からないからな。
トラックに撥ねられて死んだはずの俺が、どうしてこの世界に居るのかは分からない。
しかし彼女との過去の記憶も、今の自分の状況も、何故か鮮明に思い出せるし、何より今のこの状況は原作で書いた記憶がある。
今は確か領主の息子であるリュートが、領地に現れた出所不明の生物を討伐しに来た場面だ。
リュート──多分俺だな。が傷つき、俺の付き人である彼女──フローリアことリアに助けられる。
ただの偶然かもしれないが、俺の置かれた状況からして十分に考えられる。
「……まあ、リュート様が大丈夫と言うなら、そう言うことにしておきます。では、一度帰りましょうか?」
「ああ。報告書も書かないといけないしな」
リアと二人、リュートの屋敷に向けて歩き出した。
……この後の話は確か──くそ、三年も前だと細かいとこが思い出せん! どうしたものか……。
※
「はは……これがいわゆる、ご都合主義というやつか?」
思わず声が漏れてしまう。
あの後屋敷に戻り、狼についての問題を、リュートとして報告書にまとめた。その後に彼の部屋まで来たのだが……。
リュートの記憶を辿ると、どうにも文字を読めない書物についての記憶があった。
しかも、本人にも分からないまま、大切に保管していたらしい。
「この世界の人間じゃ読めないだろうな」
日本語で書かれた本。その表紙には、この世界に存在しないはずの印刷技術が用いられており、機械による明朝体でタイトルが書かれている。
【最初で最後の物語。】
俺が初めて書いた作品であり、現世での俺が最後に見た作品。
……そして、俺の最高傑作だ。
幾らかページをめくっても、残念ながら可愛いイラストたちは無いが、そこに記された内容は紛れもなく、俺の書いたそれだ。
「やっぱり一緒だよな」
物語の冒頭はやはり、さっき俺が出会《でくわ》した場面。
ホーンウルフとの戦闘中、リュートが手傷を負って、リアに助けられるシーンから始まっていた。
先を軽く読み直しても、この体の記憶にある名前と、登場人物の名前が一致している。
いよいよ、現実だと認めるしか無さそうだな。
「……まてよ? てことはこの後──」
「リュート様! 大変です!」
俺の部屋の扉を勢いよく開いて叫ぶのは、当然リア。
そしてこの後続く言葉は──
「アイネ様が先に立たれたという報告が!」
……やはり、書いてある通りだな。本当に困ったお嬢様だ。まったく、誰があんな娘にしたの
「ブリッツ様からありました!」
「なに!」
ブリッツから報告?
おかしい、今回はお供であるブリッツを連れての先走った行動のはずだ。
彼が一緒にいるから、途中の戦闘も難なくこなして、俺たちの下へとくることになっていた。
なのに何故、彼から報告が? 一緒じゃ無いのか?
「アイネとブリッツは一緒にいないのか?」
「はい。ブリッツ様からの報告では、『アイネお嬢様が一人で出立してしまった。すぐに追いたい所だが、僕も今は身動きが取れない。不本意ではあるが、リュートに迎えを任せてやる』とのことです!」
流石はあのお転婆娘の世話をしているだけあるよ……。こんな状況でも悪態は吐いてくるらしいな。
彼の性格も俺の知っている通りのようだ。
「……仕方ない。俺たちも急いで向かおう。──嫌な予感がする!」
「分かりました、すぐに準備しますね!」
リアは嬉しそうに耳をピンッと立てながら部屋を出て行った。……こっちもやっぱブレないな。
……しかし、すでに俺の書いた話とは状況が違う──そのままあの小説のように展開する、と言うわけでは無いのか?
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