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登場人物紹介と参考文献(+蛇足)
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【登場人物】
来栖 芙三
旧姓は九条院。侯爵家の長女として産まれて、数え一七で伯爵家に嫁いだ。
異母兄である尾坂大尉に想いを寄せており、その事が今回の一件を企てる理由となる。
本人は異母兄と比べて卑下しているが、実際は憂いを帯びた色白の美人。
来栖 海
芙三の夫で来栖伯爵家の令息。商工省(※現・経済産業省)に勤める官僚。かつて横浜で入れ込んでいた芸者がおり、二度と会えなくなったという苦い経験がある。
九条院 梅継
侯爵。芙三達の父親。元外務大臣で、かつては駐英大使も勤めた。
九条院 樟一郎
九条院家の長男で、父梅継の一番目の妻の子供。表向きは父梅継と瓜二つの天才だが、その本性は母親違いとはいえ実の弟が苦痛で顔を歪ませているのを見て愉悦を感じる歪んだもの。
九条院 胡二郎
九条院侯爵家の次男。帝大卒で医師免許を持ち、現在は医療研究者。婿養子として実家の籍から抜けることが決まった。
奥池 俊雄
陸軍工兵中佐。広島にある工兵第五連隊の連隊長を務める。
現在は尾坂の上官だが、かつて広島幼年学校で生徒監を務めていたことがあり、彼とはその時からの付き合い。
数年前に病に倒れて入院していたため、進級が遅れて中佐のまま。尾坂大尉の顔が(観賞用として)好き。鈍い上に少々ばかり無神経な部分があるが、本人はいたって明るく気さくな性格。
尾坂 仙
陸軍工兵大尉。広島幼年学校、陸軍士官学校、砲工学校を主席で卒業していった天才で、五月まで米国のイリノイ大学に留学していた。
九条院侯爵が外で作った庶子で、現在は陸軍省次長である尾坂三郎中将の養子になっている。実母が瑞典人の血を引いていたため、瞳の色はダークブルー。(医学的には灰色に分類される)
芙三いわく「目が冴えるほど美しい」青年。
帰国後から派手に遊び回るようになったと言われているが……
【参考文献(順不同)】
『明治のお嬢さま』黒岩比佐子
『華族』歴史読本編集部
『陸軍派閥』藤井非三四
『陸軍員外学生』石井正紀
『日本陸軍がよくわかる辞典』太平洋戦争研究会
『大日本帝国の謎』小神野真弘
『教科書には載っていない!戦前の日本』武田知弘
『教科書には載っていない!明治の日本』熊谷充晃
『日本人のすがたと暮らし 明治・大正・昭和前期の身装』大丸弘・高橋晴子
『人種戦争─レイス・ウォー』ジェラルド・ホーン
※ここから先に進むと尾坂大尉に関する話が読めますが、同時に作中での彼の言動の意味が大きく変わります。
※この話を少女の初恋とその終焉の物語で終わらせたい方は、この文章の存在を忘れていただけると幸いです。
まだ夜も明けぬ前に生家を出た尾坂は、軍帽を目深に被りながら人気の無い場所を歩いていた。
この辺りは平素から人通りが少ない場所だが、警戒するに越したことはない。
とは言えども尾坂は目立つ。珍しい灰色の瞳に、男にしては赤く可憐な唇。そしてその、どこの国の者とも言えぬ不思議な美貌。それらは尾坂を指し示す記号だ。
だが───逆に言えば、その記号さえ消してしまえばその人物は尾坂仙では無くなる。
そう、例えば。灰色の瞳は見えないように帽子を目深に被り、赤い唇は白粉で色を潰して。さらに細身の身体を強調せぬよう、気を付けて外套を羽織れば──あら不思議。そこにいるのは、ただの陸軍将校。
どこでも見かける、何ら珍しくも何ともない十把一絡げの将校サン。
なに、手品と同じだ。その人物を象徴する記号が無くなれば、人はそれを赤の他人だと認識してしまう。
態々そんな手間までかけて尾坂が向かう先にあったのは、何の変哲も無い鉄筋コンクリートのビルディング。時間帯が時間帯なために正面玄関は開いていないが、実は裏口は開いていることを尾坂は知っていた。
慣れたように裏口を開けてスルリと内部に滑り込み、暗い階段を行李を片手に登っていく。いく場所はひとつ。三階にある探偵事務所。
少々面倒な手順がいるのだが、記憶力の良い尾坂にとってはなんら難しいことではない。
規定の通りのノックをすると、扉の向こうで何かが動く気配があった。
「………『外の天気はどうでした?』」
「『明日は平日です』」
ちぐはぐな解答も、全ては事故を防ぐため。もしも誤って依頼人ではない者──たとえば憲兵──などが入って来られては困るということだ。
それくらい、この『鷦鷯』と呼ばれる探偵は他人を警戒していた。
「ああ、あんたですか」
がちゃ、と扉が開けられて、鷦鷯が顔を見せる。
「まあ入んな。外は寒かったでしょう」
「………」
音もなく室内に入ると、背後で勝手に鍵が閉まる気配が。勝手に鍵がかかるなんて、どんな絡繰りなのか興味はあるが……今は、それどころではない。
「それで今日はどんなご用……」
次の瞬間、尾坂は動いた。コトンと行李を床に置いたかと思えば、タンッと床を蹴って鷦鷯の腕を掴み、軸足を払い除ける。油断していた探偵は、いったい何が起きたかも判らぬ内に備え付けのソファの上に引き倒された。
「鷦鷯、貴様……よくぞあんな巫山戯た真似をしてくれたな」
「えっ、は……え?何が……?」
関節を抑え込み、ぐっと体重を掛けてやればもう動けない。いくら荒事にも慣れた探偵とはいえ、ブンヤ崩れの素人が現役の陸軍将校に体術で勝てるわけがないのだ。
キョトンとした顔で尾坂を見上げる鷦鷯の姿に苛立ちを覚えつつも、尾坂は舌舐りをしながらねっとり攻め立てる。
それはまるで──獲物を追い詰めた狼のように。
「貴様……惚けるのもいい加減にしろよ」
「な、なんの話ですか!! あっしゃぁ、あんたの気に障るような真似などした覚えは……」
「まさか私が知らないとでも思っているのか?」
「は?」
「────貴様、侯爵の娘に私の情報を売り捌いたな」
たった一言。それだけで、鷦鷯はその顔から見事なまでに血の気を引かせていった。
なぜ、バレた。と、血の気が失せてひきつった表情は、彼の内心を雄弁に物語っている。
「しょ……証拠は? あ、あっしが、侯爵さまの娘さんに、顧客のあんたの情報を売ったっていう証拠なんか、あるわけ無いでしょう!言いがかりもやめてくだせぇ……」
「証拠だと?あるに決まっているだろう。愚鈍な貴様に教えてやるよ。貴様が私の情報を売った証拠、それな………夫人が私を『海軍嫌い』と言ったことだ」
なぜそんなことで、と鷦鷯はどうにか平静を装うとして懸命になりながらも必死になって思考を巡らせる。
何かしらのヘマをしたつもりなど一切無かった。なのに……なぜ、バレた。
「そ、それがなんの証拠に……!」
「残念だがな、鷦鷯。私が海軍嫌いという情報はな、貴様にしか教えていない偽物の情報だったんだよ」
「!!!?」
鷦鷯しか知らない偽物の情報───その意味を理解した瞬間、心臓が止まるかと思って悲鳴を上げる。
しまった、と気付いた時にはもう遅かった。
尾坂はあえて鷦鷯がしていた世間話に乗ってやって、その中に嘘の情報を紛れ込ませたのだ。いつかそれが警報装置として働き、どこから情報が漏れたのか特定できるように。
「なあ、鷦鷯よ。こっちはな、特高に密告してやっても良いんだぞ。貴様が、ここを密かに共産主義者の集会所として解放してやっているということをな」
「!!!? な、なぜあんたがそれを!!?」
「私の情報元が貴様だけだと思うなよ」
悪名高き特高の名を出され、いよいよ鷦鷯の顔から余裕が消え失せる。もしも特高に捕まりでもしたら………川で変死体になって発見されることはほぼ確定だろう。いや、死体が見付かれば良い方だ。下手をしたら永遠に行方不明のまま、なんてこともある。
「そんなこと……!あっしが特高にしょっぴかれたら、あんたもただじゃ済まされねえですよ!?」
「ああ、鷦鷯……非常に残念な話なのだがな。実はな、参謀本部内には私のことを狂信的なまでに慕っていて、私のためならなんでもしてくれる後輩がいるんだ。それに上層部の面々も、私の口から自分達がやってきたことが漏れるのを恐れて何も言わないさ。もしも私が特高に密告したって、逮捕されるのは貴様だけだ」
「ひっ……」
「それに貴様、随分と面白い交遊関係を持っているな。ソ連に独逸、仏蘭西……挙げ句の果てには英吉利の間諜とも仲良くやってるそうじゃないか」
今度こそ、鷦鷯は仰天するしかなかった。ここが他国の間諜の情報交換場所になっているなどと、もしも憲兵隊に密告されでもしたら………
「……これに懲りたら二度とするな」
顔面蒼白を通り越して真っ白になった鷦鷯の顔を見ていて気が済んだのか、口の端にフッと皮肉げな笑みを貼り付けながら尾坂が音もなく離れていく。
肝が冷えるような時間からようやく解放される運びとなった鷦鷯は、小鹿のように震える足を叱咤しながらゆっくりゆっくり立ち上がる。
いまだに生きた心地がしない。もしかしなくとも、自分はとんでもなく恐ろしい存在を敵に回しそうになったのでは……と考えてしまった。
「仕事の話をしよう。半年前に私が依頼した例の件、調べは付いたのだろうな」
「へ、へえ……そりゃ、もちろん」
半年前、つまり尾坂が留学からちょうど帰国してきた頃に依頼した調査はもう終わっているだろうと、言外に急かされた鷦鷯は慌てて調査結果を記した書類が入った茶封筒を取ってきた。
「お待たせしてもうしわけありやせん……なにせ、相手はあんたと同じ軍人。海軍内の人事のことを調べるなんざ、ここ帝都じゃあっしくらいにしか出来ないことなんですからね。そこんとこ、ちゃんと判ってくださいよ!」
「……そうだな」
ある程度は褒めてやるさ、と猫なで声で囁いて。それに鳥肌を立てて縮こまる鷦鷯の様子を、尾坂は小気味良さげに鼻歌混じりで見守った。
「こちらがこの半年間、方々駆け回って得られた成果です」
小刻みに震えながらも鷦鷯が差し出してきた茶封筒を受け取り、中身を改める。
「……ほう、中々順風満帆な経歴だな」
「へえ……こいつぁ、ホンマモンの俊英様でさぁ。横須賀の芸者筋から手に入れた情報なんで、間違いねぇかと……」
鷦鷯がくれた、ある男の経歴に目を通しながら、尾坂は感嘆のため息を漏らす。
……海軍兵学校を六番目の成績で卒業。その後、練習艦「常磐」で豪州まで遠洋航海に行き、帰ってきてからは戦艦「扶桑」で甲板士官。さらには砲術学校を卒業した後に、横須賀で戦艦「長門」に乗組となった海軍士官。その経歴は同期の海軍士官の中でも華々しく、正しく俊英の中の俊英と言った所か。
「……おい、鷦鷯」
「は、な、なんかご用で?」
「長門から異動になった後の事が書いてないぞ」
「それなんですがねぇ───依頼のあったその男、つい三日前に辞令が出たそうですぜ。行き先は今度呉に移籍する第五戦隊所属の重巡「古鷹」で分隊長だという話です」
呉、という単語に一瞬思考が飛んだ。呉鎮守府に移籍となる第五戦隊。そこに所属する「古鷹」に奴がいる。
「お、遅くとも一週間後には、呉に到着するんじゃねぇんですかね」
「………なるほどな、呉か」
思わず、口の端がつり上がってしまった。なんて愉快な気分なんだろう。
───まさか、獲物が自分からノコノコやって来てくれるだなんて。
「……ふ、はは………そうか……一週間後…………一週間後か……!」
一週間後。呉に、広島に来る男。どうしようもなく────憎くて憎くてたまらない、これから自分がその人生を滅茶苦茶にしてやる復讐相手が、自分の張った罠の中に自ら墜ちてくる。
───今まで生きてきた中で、これほど楽しいことなどあっただろうか。いいや、こんなに愉快な気分になったのなんか産まれて初めてだ!
「あの……」
「ああ、そうだったな。残りの分の報酬だ」
受け取れ、と言われて差し出された分厚い封筒を恐々手に取って、鷦鷯は何か恐ろしい物でも見たかのような目で尾坂をじっと眺める。
……こっちも初めてだ。これほど機嫌の良い尾坂を見たのは。
「それじゃあ、私はもう帰る。邪魔をしたな、鷦鷯」
「あ、はい……」
先程までの薄ら寒い笑みは何だったのだろう。今までの生き生きとした様子が嘘のように無表情に戻った尾坂が、調査結果が入った茶封筒を行李の中に放り込んで扉の向こうに姿を隠す。
「ああ、鷦鷯」
「な……なんですか………まだ何か………」
「今後とも……お互い、上手くやっていきたいものだな」
パタン、と扉が閉じられた。なぜだろう、まだ朝も早いというのにドッと疲れが押し寄せる。
はー……と息を吐いて、ソファの上にフラフラと座り込んだ。
─────彼はいつか、世界を喰らい尽くす狼へと変貌するだろう
不意に脳裏に浮かんだのは、昨夜ここを訪れた英国からの間諜の台詞。その男は、尾坂とは米国で出会ったとかのたまっていた。
どこまで本当の話なのかは不明だが、少なくとも尾坂と知り合いというのは本当の話だろう。鼻歌混じりに紙巻煙草を呑みながら、鷹揚と話していたことを思い出す。
─────だからね、ミスター・サザイ。私は彼に「ハティ」という渾名を付けたんだよ
ハティ。それは、遥か北の果て……ヴァイキング達の国で信じられている古の神話に登場する狼の姿をした怪物の名前。夜空を支配する月を追い続け、世界が終わるその瞬間にパクリと一呑みにしてしまうとされる伝説上の存在だ。
その名の由来は、古い言葉で「憎しみ」を意味するという。
─────さぁて、彼が憎むのは世界か。それとも……
(ミッチェルの旦那ぁ。あんたにとっちゃ笑い事かもしんねぇけど、おいらにとっちゃ笑えねぇ冗談だよぅ)
名は体を表すというが、まったくその通りだ。現に「ハティ」とかいう巫山戯た渾名を付けられたあの美貌の陸軍将校は、憎しみに狂った末にとうとう牙を剥いて駆け出して行った。もうこうなったら誰にも止められないだろう。
そんな男から一心不乱に憎しみを向けられる気の毒な海軍士官のことを思って、鷦鷯は「くわばらくわばら」と気持ち程度に天に祈っておいた。
尾坂 仙 について
尾坂大尉の初出は、拙作『海辺のハティに鳳仙花(https://www.alphapolis.co.jp/novel/386660553/60312840) 』からで、彼はここの登場人物にして主人公の片割れです。
リンク先が44万字のBL小説なので、ここから先は手っ取り早く知りたい人とBLが苦手な人向けに、かいつまんで解説させていただきます。
結論から申し上げると、彼は同性としか性的関係が持てない人です。
ただし同性愛者というわけではなく「女性から男として見られること、また自分が女性と性的関係を持つ」ということに対して激しい嫌悪を抱いているというだけです。女性に時に直に触れるどころか自身が彼女たちとそういった行為をすることを想像しただけで嘔吐するレベルなので……一種のトラウマとでも。
自分の性別に嫌悪感を持っている、と言いますか。彼はそんな、ちょっと複雑な背景を持っている方です。
これは女性への蔑視から来るものではなく、むしろその真逆。
彼が、自分は「男性」というだけで、彼女たちに対しての「加害者」になることができると思い込んでいるからです。
──あれほど嫌悪していたはずの父親が自分の母親にやってしまったことを、いつか自分もやってしまうかもしれない。
「自分は父親が母にしたことと同じことをできる身体と性を持っている」そして「自分が先輩達からされてきたことを、今度は自分が彼女たちにやってしまうかもしれない」そんな自分に恐怖と嫌悪感を持っている方です。
彼が先輩達からされてきたことの詳細については『海辺のハティに鳳仙花』の第一部(『昭和六年八月』)の16節で彼本人の口から詳しく語られていますが、閲覧は自己責任でお願いします。
じゃあ芙三さんはどうだったの?と言う所ですが、実は吐きそうになるのを必死で耐えていました。要するに痩せ我慢です。なお、そこまでしたのは彼女の夢を壊さないようにという気遣いのためです。
以上を考慮した上でもう一度、尾坂大尉の発言を読み返してみてください。たぶん、まったく違う意味になっていると思うので。
───彼に人生を狂わされた者は星の数ほどいれども、彼の人生を狂わせたのはこの世でたった一人だけ。
来栖 芙三
旧姓は九条院。侯爵家の長女として産まれて、数え一七で伯爵家に嫁いだ。
異母兄である尾坂大尉に想いを寄せており、その事が今回の一件を企てる理由となる。
本人は異母兄と比べて卑下しているが、実際は憂いを帯びた色白の美人。
来栖 海
芙三の夫で来栖伯爵家の令息。商工省(※現・経済産業省)に勤める官僚。かつて横浜で入れ込んでいた芸者がおり、二度と会えなくなったという苦い経験がある。
九条院 梅継
侯爵。芙三達の父親。元外務大臣で、かつては駐英大使も勤めた。
九条院 樟一郎
九条院家の長男で、父梅継の一番目の妻の子供。表向きは父梅継と瓜二つの天才だが、その本性は母親違いとはいえ実の弟が苦痛で顔を歪ませているのを見て愉悦を感じる歪んだもの。
九条院 胡二郎
九条院侯爵家の次男。帝大卒で医師免許を持ち、現在は医療研究者。婿養子として実家の籍から抜けることが決まった。
奥池 俊雄
陸軍工兵中佐。広島にある工兵第五連隊の連隊長を務める。
現在は尾坂の上官だが、かつて広島幼年学校で生徒監を務めていたことがあり、彼とはその時からの付き合い。
数年前に病に倒れて入院していたため、進級が遅れて中佐のまま。尾坂大尉の顔が(観賞用として)好き。鈍い上に少々ばかり無神経な部分があるが、本人はいたって明るく気さくな性格。
尾坂 仙
陸軍工兵大尉。広島幼年学校、陸軍士官学校、砲工学校を主席で卒業していった天才で、五月まで米国のイリノイ大学に留学していた。
九条院侯爵が外で作った庶子で、現在は陸軍省次長である尾坂三郎中将の養子になっている。実母が瑞典人の血を引いていたため、瞳の色はダークブルー。(医学的には灰色に分類される)
芙三いわく「目が冴えるほど美しい」青年。
帰国後から派手に遊び回るようになったと言われているが……
【参考文献(順不同)】
『明治のお嬢さま』黒岩比佐子
『華族』歴史読本編集部
『陸軍派閥』藤井非三四
『陸軍員外学生』石井正紀
『日本陸軍がよくわかる辞典』太平洋戦争研究会
『大日本帝国の謎』小神野真弘
『教科書には載っていない!戦前の日本』武田知弘
『教科書には載っていない!明治の日本』熊谷充晃
『日本人のすがたと暮らし 明治・大正・昭和前期の身装』大丸弘・高橋晴子
『人種戦争─レイス・ウォー』ジェラルド・ホーン
※ここから先に進むと尾坂大尉に関する話が読めますが、同時に作中での彼の言動の意味が大きく変わります。
※この話を少女の初恋とその終焉の物語で終わらせたい方は、この文章の存在を忘れていただけると幸いです。
まだ夜も明けぬ前に生家を出た尾坂は、軍帽を目深に被りながら人気の無い場所を歩いていた。
この辺りは平素から人通りが少ない場所だが、警戒するに越したことはない。
とは言えども尾坂は目立つ。珍しい灰色の瞳に、男にしては赤く可憐な唇。そしてその、どこの国の者とも言えぬ不思議な美貌。それらは尾坂を指し示す記号だ。
だが───逆に言えば、その記号さえ消してしまえばその人物は尾坂仙では無くなる。
そう、例えば。灰色の瞳は見えないように帽子を目深に被り、赤い唇は白粉で色を潰して。さらに細身の身体を強調せぬよう、気を付けて外套を羽織れば──あら不思議。そこにいるのは、ただの陸軍将校。
どこでも見かける、何ら珍しくも何ともない十把一絡げの将校サン。
なに、手品と同じだ。その人物を象徴する記号が無くなれば、人はそれを赤の他人だと認識してしまう。
態々そんな手間までかけて尾坂が向かう先にあったのは、何の変哲も無い鉄筋コンクリートのビルディング。時間帯が時間帯なために正面玄関は開いていないが、実は裏口は開いていることを尾坂は知っていた。
慣れたように裏口を開けてスルリと内部に滑り込み、暗い階段を行李を片手に登っていく。いく場所はひとつ。三階にある探偵事務所。
少々面倒な手順がいるのだが、記憶力の良い尾坂にとってはなんら難しいことではない。
規定の通りのノックをすると、扉の向こうで何かが動く気配があった。
「………『外の天気はどうでした?』」
「『明日は平日です』」
ちぐはぐな解答も、全ては事故を防ぐため。もしも誤って依頼人ではない者──たとえば憲兵──などが入って来られては困るということだ。
それくらい、この『鷦鷯』と呼ばれる探偵は他人を警戒していた。
「ああ、あんたですか」
がちゃ、と扉が開けられて、鷦鷯が顔を見せる。
「まあ入んな。外は寒かったでしょう」
「………」
音もなく室内に入ると、背後で勝手に鍵が閉まる気配が。勝手に鍵がかかるなんて、どんな絡繰りなのか興味はあるが……今は、それどころではない。
「それで今日はどんなご用……」
次の瞬間、尾坂は動いた。コトンと行李を床に置いたかと思えば、タンッと床を蹴って鷦鷯の腕を掴み、軸足を払い除ける。油断していた探偵は、いったい何が起きたかも判らぬ内に備え付けのソファの上に引き倒された。
「鷦鷯、貴様……よくぞあんな巫山戯た真似をしてくれたな」
「えっ、は……え?何が……?」
関節を抑え込み、ぐっと体重を掛けてやればもう動けない。いくら荒事にも慣れた探偵とはいえ、ブンヤ崩れの素人が現役の陸軍将校に体術で勝てるわけがないのだ。
キョトンとした顔で尾坂を見上げる鷦鷯の姿に苛立ちを覚えつつも、尾坂は舌舐りをしながらねっとり攻め立てる。
それはまるで──獲物を追い詰めた狼のように。
「貴様……惚けるのもいい加減にしろよ」
「な、なんの話ですか!! あっしゃぁ、あんたの気に障るような真似などした覚えは……」
「まさか私が知らないとでも思っているのか?」
「は?」
「────貴様、侯爵の娘に私の情報を売り捌いたな」
たった一言。それだけで、鷦鷯はその顔から見事なまでに血の気を引かせていった。
なぜ、バレた。と、血の気が失せてひきつった表情は、彼の内心を雄弁に物語っている。
「しょ……証拠は? あ、あっしが、侯爵さまの娘さんに、顧客のあんたの情報を売ったっていう証拠なんか、あるわけ無いでしょう!言いがかりもやめてくだせぇ……」
「証拠だと?あるに決まっているだろう。愚鈍な貴様に教えてやるよ。貴様が私の情報を売った証拠、それな………夫人が私を『海軍嫌い』と言ったことだ」
なぜそんなことで、と鷦鷯はどうにか平静を装うとして懸命になりながらも必死になって思考を巡らせる。
何かしらのヘマをしたつもりなど一切無かった。なのに……なぜ、バレた。
「そ、それがなんの証拠に……!」
「残念だがな、鷦鷯。私が海軍嫌いという情報はな、貴様にしか教えていない偽物の情報だったんだよ」
「!!!?」
鷦鷯しか知らない偽物の情報───その意味を理解した瞬間、心臓が止まるかと思って悲鳴を上げる。
しまった、と気付いた時にはもう遅かった。
尾坂はあえて鷦鷯がしていた世間話に乗ってやって、その中に嘘の情報を紛れ込ませたのだ。いつかそれが警報装置として働き、どこから情報が漏れたのか特定できるように。
「なあ、鷦鷯よ。こっちはな、特高に密告してやっても良いんだぞ。貴様が、ここを密かに共産主義者の集会所として解放してやっているということをな」
「!!!? な、なぜあんたがそれを!!?」
「私の情報元が貴様だけだと思うなよ」
悪名高き特高の名を出され、いよいよ鷦鷯の顔から余裕が消え失せる。もしも特高に捕まりでもしたら………川で変死体になって発見されることはほぼ確定だろう。いや、死体が見付かれば良い方だ。下手をしたら永遠に行方不明のまま、なんてこともある。
「そんなこと……!あっしが特高にしょっぴかれたら、あんたもただじゃ済まされねえですよ!?」
「ああ、鷦鷯……非常に残念な話なのだがな。実はな、参謀本部内には私のことを狂信的なまでに慕っていて、私のためならなんでもしてくれる後輩がいるんだ。それに上層部の面々も、私の口から自分達がやってきたことが漏れるのを恐れて何も言わないさ。もしも私が特高に密告したって、逮捕されるのは貴様だけだ」
「ひっ……」
「それに貴様、随分と面白い交遊関係を持っているな。ソ連に独逸、仏蘭西……挙げ句の果てには英吉利の間諜とも仲良くやってるそうじゃないか」
今度こそ、鷦鷯は仰天するしかなかった。ここが他国の間諜の情報交換場所になっているなどと、もしも憲兵隊に密告されでもしたら………
「……これに懲りたら二度とするな」
顔面蒼白を通り越して真っ白になった鷦鷯の顔を見ていて気が済んだのか、口の端にフッと皮肉げな笑みを貼り付けながら尾坂が音もなく離れていく。
肝が冷えるような時間からようやく解放される運びとなった鷦鷯は、小鹿のように震える足を叱咤しながらゆっくりゆっくり立ち上がる。
いまだに生きた心地がしない。もしかしなくとも、自分はとんでもなく恐ろしい存在を敵に回しそうになったのでは……と考えてしまった。
「仕事の話をしよう。半年前に私が依頼した例の件、調べは付いたのだろうな」
「へ、へえ……そりゃ、もちろん」
半年前、つまり尾坂が留学からちょうど帰国してきた頃に依頼した調査はもう終わっているだろうと、言外に急かされた鷦鷯は慌てて調査結果を記した書類が入った茶封筒を取ってきた。
「お待たせしてもうしわけありやせん……なにせ、相手はあんたと同じ軍人。海軍内の人事のことを調べるなんざ、ここ帝都じゃあっしくらいにしか出来ないことなんですからね。そこんとこ、ちゃんと判ってくださいよ!」
「……そうだな」
ある程度は褒めてやるさ、と猫なで声で囁いて。それに鳥肌を立てて縮こまる鷦鷯の様子を、尾坂は小気味良さげに鼻歌混じりで見守った。
「こちらがこの半年間、方々駆け回って得られた成果です」
小刻みに震えながらも鷦鷯が差し出してきた茶封筒を受け取り、中身を改める。
「……ほう、中々順風満帆な経歴だな」
「へえ……こいつぁ、ホンマモンの俊英様でさぁ。横須賀の芸者筋から手に入れた情報なんで、間違いねぇかと……」
鷦鷯がくれた、ある男の経歴に目を通しながら、尾坂は感嘆のため息を漏らす。
……海軍兵学校を六番目の成績で卒業。その後、練習艦「常磐」で豪州まで遠洋航海に行き、帰ってきてからは戦艦「扶桑」で甲板士官。さらには砲術学校を卒業した後に、横須賀で戦艦「長門」に乗組となった海軍士官。その経歴は同期の海軍士官の中でも華々しく、正しく俊英の中の俊英と言った所か。
「……おい、鷦鷯」
「は、な、なんかご用で?」
「長門から異動になった後の事が書いてないぞ」
「それなんですがねぇ───依頼のあったその男、つい三日前に辞令が出たそうですぜ。行き先は今度呉に移籍する第五戦隊所属の重巡「古鷹」で分隊長だという話です」
呉、という単語に一瞬思考が飛んだ。呉鎮守府に移籍となる第五戦隊。そこに所属する「古鷹」に奴がいる。
「お、遅くとも一週間後には、呉に到着するんじゃねぇんですかね」
「………なるほどな、呉か」
思わず、口の端がつり上がってしまった。なんて愉快な気分なんだろう。
───まさか、獲物が自分からノコノコやって来てくれるだなんて。
「……ふ、はは………そうか……一週間後…………一週間後か……!」
一週間後。呉に、広島に来る男。どうしようもなく────憎くて憎くてたまらない、これから自分がその人生を滅茶苦茶にしてやる復讐相手が、自分の張った罠の中に自ら墜ちてくる。
───今まで生きてきた中で、これほど楽しいことなどあっただろうか。いいや、こんなに愉快な気分になったのなんか産まれて初めてだ!
「あの……」
「ああ、そうだったな。残りの分の報酬だ」
受け取れ、と言われて差し出された分厚い封筒を恐々手に取って、鷦鷯は何か恐ろしい物でも見たかのような目で尾坂をじっと眺める。
……こっちも初めてだ。これほど機嫌の良い尾坂を見たのは。
「それじゃあ、私はもう帰る。邪魔をしたな、鷦鷯」
「あ、はい……」
先程までの薄ら寒い笑みは何だったのだろう。今までの生き生きとした様子が嘘のように無表情に戻った尾坂が、調査結果が入った茶封筒を行李の中に放り込んで扉の向こうに姿を隠す。
「ああ、鷦鷯」
「な……なんですか………まだ何か………」
「今後とも……お互い、上手くやっていきたいものだな」
パタン、と扉が閉じられた。なぜだろう、まだ朝も早いというのにドッと疲れが押し寄せる。
はー……と息を吐いて、ソファの上にフラフラと座り込んだ。
─────彼はいつか、世界を喰らい尽くす狼へと変貌するだろう
不意に脳裏に浮かんだのは、昨夜ここを訪れた英国からの間諜の台詞。その男は、尾坂とは米国で出会ったとかのたまっていた。
どこまで本当の話なのかは不明だが、少なくとも尾坂と知り合いというのは本当の話だろう。鼻歌混じりに紙巻煙草を呑みながら、鷹揚と話していたことを思い出す。
─────だからね、ミスター・サザイ。私は彼に「ハティ」という渾名を付けたんだよ
ハティ。それは、遥か北の果て……ヴァイキング達の国で信じられている古の神話に登場する狼の姿をした怪物の名前。夜空を支配する月を追い続け、世界が終わるその瞬間にパクリと一呑みにしてしまうとされる伝説上の存在だ。
その名の由来は、古い言葉で「憎しみ」を意味するという。
─────さぁて、彼が憎むのは世界か。それとも……
(ミッチェルの旦那ぁ。あんたにとっちゃ笑い事かもしんねぇけど、おいらにとっちゃ笑えねぇ冗談だよぅ)
名は体を表すというが、まったくその通りだ。現に「ハティ」とかいう巫山戯た渾名を付けられたあの美貌の陸軍将校は、憎しみに狂った末にとうとう牙を剥いて駆け出して行った。もうこうなったら誰にも止められないだろう。
そんな男から一心不乱に憎しみを向けられる気の毒な海軍士官のことを思って、鷦鷯は「くわばらくわばら」と気持ち程度に天に祈っておいた。
尾坂 仙 について
尾坂大尉の初出は、拙作『海辺のハティに鳳仙花(https://www.alphapolis.co.jp/novel/386660553/60312840) 』からで、彼はここの登場人物にして主人公の片割れです。
リンク先が44万字のBL小説なので、ここから先は手っ取り早く知りたい人とBLが苦手な人向けに、かいつまんで解説させていただきます。
結論から申し上げると、彼は同性としか性的関係が持てない人です。
ただし同性愛者というわけではなく「女性から男として見られること、また自分が女性と性的関係を持つ」ということに対して激しい嫌悪を抱いているというだけです。女性に時に直に触れるどころか自身が彼女たちとそういった行為をすることを想像しただけで嘔吐するレベルなので……一種のトラウマとでも。
自分の性別に嫌悪感を持っている、と言いますか。彼はそんな、ちょっと複雑な背景を持っている方です。
これは女性への蔑視から来るものではなく、むしろその真逆。
彼が、自分は「男性」というだけで、彼女たちに対しての「加害者」になることができると思い込んでいるからです。
──あれほど嫌悪していたはずの父親が自分の母親にやってしまったことを、いつか自分もやってしまうかもしれない。
「自分は父親が母にしたことと同じことをできる身体と性を持っている」そして「自分が先輩達からされてきたことを、今度は自分が彼女たちにやってしまうかもしれない」そんな自分に恐怖と嫌悪感を持っている方です。
彼が先輩達からされてきたことの詳細については『海辺のハティに鳳仙花』の第一部(『昭和六年八月』)の16節で彼本人の口から詳しく語られていますが、閲覧は自己責任でお願いします。
じゃあ芙三さんはどうだったの?と言う所ですが、実は吐きそうになるのを必死で耐えていました。要するに痩せ我慢です。なお、そこまでしたのは彼女の夢を壊さないようにという気遣いのためです。
以上を考慮した上でもう一度、尾坂大尉の発言を読み返してみてください。たぶん、まったく違う意味になっていると思うので。
───彼に人生を狂わされた者は星の数ほどいれども、彼の人生を狂わせたのはこの世でたった一人だけ。
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