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(15)本質を見抜く冷静な視線②
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侯爵家の中で誰が一番梅継に似ているのか。と言われたら、十人中十人が長男の樟一郎だと答えるだろう。
父親と同じように欧州に留学して日本に帰国した後に外交官となり、留学で養った語学力と父親譲りの話術で今も花形の職場で働いている。
かつて外交官として世界中を飛び回り、そして英国大使と外務大臣を勤め上げた梅継の再来とさえ言われていた。
そしてその顔立ちも、父親である梅継の甘く整った顔立ちに似ている。母親にも似たのか少し地味ではあったが、それでも文学青年のような出で立ちに変わりはない。
尾坂自身も父親に良く似ていると言われているが、樟一郎とは比べ物にさえならないだろう。それくらいに梅継と樟一郎は似ていた。
容姿も、人生も……そして───人でなしの怪物としての側面も。
「あー……その顔、そそるなぁ」
「ぅ……ぁ…………」
「お前ってさぁ、お前の母親に似ているんだっけ」
ぺろり、と口の端を舐めて。樟一郎は思い付いたことをどう伝えてやろうかと考えながら言葉を選ぶ。
「それが……っ、なに……か………?」
「昔はなんで父上がお前に……というかお前の母親に執着するのか判んなかったけど。今だったらなんとなく判るよ」
顔をしかめる尾坂と反対に、樟一郎はようやく長年の疑問が解決したとばかりの清々しい表情だ。
尾坂に馬乗りになって首を締めている構図にさえ目を瞑れば、非常に和やかな雰囲気だと思えるくらいに。
「知ってるだろうけどさ、俺はお前のそういう……悔しいけど抵抗できないから必死で耐えている顔が一番見ていて興奮するんだ」
「っ……」
「あの時はごめんな。この家を出ていく前はさぁ、お前も逃げ回っていて中々捕まえられなかったし、それに首を締めても何にも言わなかったからつまらなくなってさ。でも精神的に痛め付けるのが一番効くって判ったから、それでついうっかりあの女を焚き付けて罵ってもらったんだけど……まさかあそこまで酷いことを言うなんて思っても無かったんだ。ごめんなぁ、本当に使えないよなあの女。なんであれで父上の伴侶が務まると思ったんだろ? 頭の中がお花畑の女っていうのは扱い易いけど、その分手入れが面倒なんだよな」
樟一郎の言う「あの女」というのが誰なのか、尾坂はすぐさま悟った。今、樟一郎が口にしたのは恐らく胡二郎達の母親のことだと。
「お待ち……下さい………っ! たとえ今は事実上、離縁されているとは言え………あの方は、後妻とは言え侯爵の奥方だったお方……貴方が侯爵の長男であったとしても……そのような呼び方……あっ………!」
「つまんないこと言うなよ。人の目があるならまだしも、今は二人っきりだろ? 体裁を整えてやる必要も無いし、言いたいことを言えば良い。というか、お前が一番あの女に酷い目に合わされていたクチだろ。あの女を庇ってやる必要ってある? まあ、半分は俺が焚き付けたっていうのもあるんだけど」
まるで「黙れ」というかのごとく、喉仏の下に添えられた手がぎゅっと圧力をかける。
ここまでの事を言っているが、樟一郎はそれはそれは楽しそうに笑っていた。まるで無邪気な子供のように。いいや、正しく子供なのだろう。
今だってそうだ。腹違いとは言え実の弟の首を締めるという凶行に走っているというのに、そこには殺意も悪意も無い。
「あの女も見る目がないよなぁ。頑張ったらいつか振り返ってくれるだなんて、そんなに世の中上手く行くわけないのに。どこからその自信と根拠が来るんだろうな。正直、お前も内心じゃ馬鹿にしてただろ?」
「ちがっ……そんなこと、一度も………」
「それとも憐れんでいた? ははっ!俺の弟は優しいなぁ。自分の母親のこと、あんなに侮辱されたのに許すだなんて」
「ぅっ………」
何を言っても混ぜ返して軽く流され、言葉を詰めた。
父もそうであったように、長兄にも何を言ったって無駄だ。この男は尾坂のことをこのようにあの手この手で嬲っては、顔を歪ませる異母弟の反応を見て楽しむ人間だから。
だがそこに悪意などない。むしろここまで突き抜けているのなら、いっそのこと自分に対して悪意を持っていてくれた方が良かったと、薄れ始めた意識の片隅で静かに思う。
本当に、尾坂を嬲っている最中の樟一郎は楽しそうだ。しかし、くどいようだがそこには悪意など微塵たりともない。あるのは純粋な好奇心と知識欲だけ。どこをどうすればどんな反応を返すのか、実験しているだけ。
感覚的には、子供が虫の羽を千切って無邪気に遊んでいるのと同じだろう。それを樟一郎は自身の弟である尾坂を使って行っているというだけだ。
「鈴四も鈴四で、あの女に良く似て馬鹿な女に育ったもんだよ。サナトリウム送りになったあの女の所に、旦那と子供をほっぽり出してせっせと通ってさ。『私は最後までおたあ様の味方ですから』とか、よくあんなお花畑みたいな発言ができるよな。今日もあの女の所で出席しないらしいし」
……十年ほど前から、胡二郎達の母親はサナトリウムで療養している。原因は精神を病んで周囲に被害が及ぶようになったから、というものだ。
彼女の実家は引き取りを拒否したため、独身時代から付いていた使用人が見かねて侯爵に進言して、サナトリウムに送られた。
本日は欠席している九条院家の次女、鈴四は結婚している身の上だが、そんな母親のためにと頻繁にサナトリウムに通っては世話を焼いているそうだ。
だが当然、それを婚家が良く思うはずは無い。
「向こうは離婚三秒間みたいな険悪な状態なんだってさ。実家に戻されるかもって。でも、俺は嫌だよ。あんな五月蝿いのの面倒を見るなんて」
「かはっ……!」
意識がふっと飛びそうになった瞬間、ようやく樟一郎が尾坂の首から手を離す。呼吸が楽になったことで、尾坂は盛大に咳き込みながら大きく息を吸った。
一方で樟一郎の方は、まるで何事も無かったかのような涼しげな表情で服装を整えている。
「ああ、そうそう。知ってるか? 芙三がお前のことを、男として好きなんだってこと」
「っ!」
「その反応……知ってたってことかぁ。あー、そう。なるほど……」
と思いきや、とんでもない爆弾を投げ込んできた。
………芙三が、異母兄である尾坂に想いを寄せているのだと。なぜ、今急にその話をするんだと、涙目になりながら怯えた視線を向ける。
「お前も罪深い男だよな。知ってて気付かなかったふりしてたってことだろ」
「っ……」
「これがバレたらどうなるんだろ。芙三って確か、来栖伯爵家の令息に嫁いだんだっけ。というか、それ以前に兄妹同士とか……」
近親間で関係を持つことなど、禁忌中の禁忌だ。万が一、芙三が兄である尾坂に懸想をしていることが周囲の知るところとなれば……どんなに恐ろしいことになるのやら。
「……お止めください。私は、彼女のことを妹以上に思ってなどおりません」
「うん、知ってる。お前が誰かを好きになるとか、そんなの無いよな。だって、お前って俺や父上と同族だし」
聞き捨てならない発言だった。自分が彼らと同族だと?
「っ……貴殿方と一緒にしないでいただきたい!!」
「何言ってるんだ? ────人でなしの化け物って言われているのに?」
反射的に反論しようと口を開きかけ、しかし次の瞬間樟一郎が言い放った台詞に心臓を鷲掴みにされたような気になってひゅっと息を呑む。
「は、」
「いや、だって。お前、陸士時代から散々言われていただろ。人の心が判らない化け物とか、心臓まで氷でできた魔王だとか」
にこり、と悪魔が微笑んだ。いよいと体の震えが止まらなくなった尾坂は、ただただ恐怖に怯えながら樟一郎を見上げるしかない。
「せっかく父上から逃げられたのに……あーあ、可哀想だな。その呪い、一生付いて回るんだろうな」
「ぅ……」
「まあ、別に良いさ。お前はしょせん、こっち側の人間なんだよ。嫌がってても、結局ここに帰ってきただろ」
「私は……」
「爵位なんか継ぎたくないってか? まあ、消去法で行ったら俺が爵位を継ぐことになるから、お前はもう関係無いよ。別に俺は返上しても良いんだけど……妻とその実家が五月蝿いし、お前も俺に継いで欲しいみたいだし。望まれたのならいくらでも引き受けるさ。そういう意味ではひとつ、お前の楔が取れるってことかぁ……まぁ───お前が俺に協力してくれるっていうなら、だけど」
協力、とは。いったい何をさせられるのだろうか。怯える尾坂だったが、しかし樟一郎はクスクス笑うだけで何も言わない。
「だって───俺に爵位を継いで欲しいんだろ?」
それでようやく樟一郎が言いたかったことを悟った。
形だけでも良いから、今日ここに来ている連中に樟一郎と仲の良い所を見せ付けろ。
尾坂が逃げられないことを判った上で、さらに彼のことを弄ぶために樟一郎はわざわざこんな事を言いに来たのだろう。
「なあ、仙」
───何をしたら良いのか、判るよな?
樟一郎の一言に、尾坂は静かに俯くことしかできなかった。
父親と同じように欧州に留学して日本に帰国した後に外交官となり、留学で養った語学力と父親譲りの話術で今も花形の職場で働いている。
かつて外交官として世界中を飛び回り、そして英国大使と外務大臣を勤め上げた梅継の再来とさえ言われていた。
そしてその顔立ちも、父親である梅継の甘く整った顔立ちに似ている。母親にも似たのか少し地味ではあったが、それでも文学青年のような出で立ちに変わりはない。
尾坂自身も父親に良く似ていると言われているが、樟一郎とは比べ物にさえならないだろう。それくらいに梅継と樟一郎は似ていた。
容姿も、人生も……そして───人でなしの怪物としての側面も。
「あー……その顔、そそるなぁ」
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「お前ってさぁ、お前の母親に似ているんだっけ」
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「それが……っ、なに……か………?」
「昔はなんで父上がお前に……というかお前の母親に執着するのか判んなかったけど。今だったらなんとなく判るよ」
顔をしかめる尾坂と反対に、樟一郎はようやく長年の疑問が解決したとばかりの清々しい表情だ。
尾坂に馬乗りになって首を締めている構図にさえ目を瞑れば、非常に和やかな雰囲気だと思えるくらいに。
「知ってるだろうけどさ、俺はお前のそういう……悔しいけど抵抗できないから必死で耐えている顔が一番見ていて興奮するんだ」
「っ……」
「あの時はごめんな。この家を出ていく前はさぁ、お前も逃げ回っていて中々捕まえられなかったし、それに首を締めても何にも言わなかったからつまらなくなってさ。でも精神的に痛め付けるのが一番効くって判ったから、それでついうっかりあの女を焚き付けて罵ってもらったんだけど……まさかあそこまで酷いことを言うなんて思っても無かったんだ。ごめんなぁ、本当に使えないよなあの女。なんであれで父上の伴侶が務まると思ったんだろ? 頭の中がお花畑の女っていうのは扱い易いけど、その分手入れが面倒なんだよな」
樟一郎の言う「あの女」というのが誰なのか、尾坂はすぐさま悟った。今、樟一郎が口にしたのは恐らく胡二郎達の母親のことだと。
「お待ち……下さい………っ! たとえ今は事実上、離縁されているとは言え………あの方は、後妻とは言え侯爵の奥方だったお方……貴方が侯爵の長男であったとしても……そのような呼び方……あっ………!」
「つまんないこと言うなよ。人の目があるならまだしも、今は二人っきりだろ? 体裁を整えてやる必要も無いし、言いたいことを言えば良い。というか、お前が一番あの女に酷い目に合わされていたクチだろ。あの女を庇ってやる必要ってある? まあ、半分は俺が焚き付けたっていうのもあるんだけど」
まるで「黙れ」というかのごとく、喉仏の下に添えられた手がぎゅっと圧力をかける。
ここまでの事を言っているが、樟一郎はそれはそれは楽しそうに笑っていた。まるで無邪気な子供のように。いいや、正しく子供なのだろう。
今だってそうだ。腹違いとは言え実の弟の首を締めるという凶行に走っているというのに、そこには殺意も悪意も無い。
「あの女も見る目がないよなぁ。頑張ったらいつか振り返ってくれるだなんて、そんなに世の中上手く行くわけないのに。どこからその自信と根拠が来るんだろうな。正直、お前も内心じゃ馬鹿にしてただろ?」
「ちがっ……そんなこと、一度も………」
「それとも憐れんでいた? ははっ!俺の弟は優しいなぁ。自分の母親のこと、あんなに侮辱されたのに許すだなんて」
「ぅっ………」
何を言っても混ぜ返して軽く流され、言葉を詰めた。
父もそうであったように、長兄にも何を言ったって無駄だ。この男は尾坂のことをこのようにあの手この手で嬲っては、顔を歪ませる異母弟の反応を見て楽しむ人間だから。
だがそこに悪意などない。むしろここまで突き抜けているのなら、いっそのこと自分に対して悪意を持っていてくれた方が良かったと、薄れ始めた意識の片隅で静かに思う。
本当に、尾坂を嬲っている最中の樟一郎は楽しそうだ。しかし、くどいようだがそこには悪意など微塵たりともない。あるのは純粋な好奇心と知識欲だけ。どこをどうすればどんな反応を返すのか、実験しているだけ。
感覚的には、子供が虫の羽を千切って無邪気に遊んでいるのと同じだろう。それを樟一郎は自身の弟である尾坂を使って行っているというだけだ。
「鈴四も鈴四で、あの女に良く似て馬鹿な女に育ったもんだよ。サナトリウム送りになったあの女の所に、旦那と子供をほっぽり出してせっせと通ってさ。『私は最後までおたあ様の味方ですから』とか、よくあんなお花畑みたいな発言ができるよな。今日もあの女の所で出席しないらしいし」
……十年ほど前から、胡二郎達の母親はサナトリウムで療養している。原因は精神を病んで周囲に被害が及ぶようになったから、というものだ。
彼女の実家は引き取りを拒否したため、独身時代から付いていた使用人が見かねて侯爵に進言して、サナトリウムに送られた。
本日は欠席している九条院家の次女、鈴四は結婚している身の上だが、そんな母親のためにと頻繁にサナトリウムに通っては世話を焼いているそうだ。
だが当然、それを婚家が良く思うはずは無い。
「向こうは離婚三秒間みたいな険悪な状態なんだってさ。実家に戻されるかもって。でも、俺は嫌だよ。あんな五月蝿いのの面倒を見るなんて」
「かはっ……!」
意識がふっと飛びそうになった瞬間、ようやく樟一郎が尾坂の首から手を離す。呼吸が楽になったことで、尾坂は盛大に咳き込みながら大きく息を吸った。
一方で樟一郎の方は、まるで何事も無かったかのような涼しげな表情で服装を整えている。
「ああ、そうそう。知ってるか? 芙三がお前のことを、男として好きなんだってこと」
「っ!」
「その反応……知ってたってことかぁ。あー、そう。なるほど……」
と思いきや、とんでもない爆弾を投げ込んできた。
………芙三が、異母兄である尾坂に想いを寄せているのだと。なぜ、今急にその話をするんだと、涙目になりながら怯えた視線を向ける。
「お前も罪深い男だよな。知ってて気付かなかったふりしてたってことだろ」
「っ……」
「これがバレたらどうなるんだろ。芙三って確か、来栖伯爵家の令息に嫁いだんだっけ。というか、それ以前に兄妹同士とか……」
近親間で関係を持つことなど、禁忌中の禁忌だ。万が一、芙三が兄である尾坂に懸想をしていることが周囲の知るところとなれば……どんなに恐ろしいことになるのやら。
「……お止めください。私は、彼女のことを妹以上に思ってなどおりません」
「うん、知ってる。お前が誰かを好きになるとか、そんなの無いよな。だって、お前って俺や父上と同族だし」
聞き捨てならない発言だった。自分が彼らと同族だと?
「っ……貴殿方と一緒にしないでいただきたい!!」
「何言ってるんだ? ────人でなしの化け物って言われているのに?」
反射的に反論しようと口を開きかけ、しかし次の瞬間樟一郎が言い放った台詞に心臓を鷲掴みにされたような気になってひゅっと息を呑む。
「は、」
「いや、だって。お前、陸士時代から散々言われていただろ。人の心が判らない化け物とか、心臓まで氷でできた魔王だとか」
にこり、と悪魔が微笑んだ。いよいと体の震えが止まらなくなった尾坂は、ただただ恐怖に怯えながら樟一郎を見上げるしかない。
「せっかく父上から逃げられたのに……あーあ、可哀想だな。その呪い、一生付いて回るんだろうな」
「ぅ……」
「まあ、別に良いさ。お前はしょせん、こっち側の人間なんだよ。嫌がってても、結局ここに帰ってきただろ」
「私は……」
「爵位なんか継ぎたくないってか? まあ、消去法で行ったら俺が爵位を継ぐことになるから、お前はもう関係無いよ。別に俺は返上しても良いんだけど……妻とその実家が五月蝿いし、お前も俺に継いで欲しいみたいだし。望まれたのならいくらでも引き受けるさ。そういう意味ではひとつ、お前の楔が取れるってことかぁ……まぁ───お前が俺に協力してくれるっていうなら、だけど」
協力、とは。いったい何をさせられるのだろうか。怯える尾坂だったが、しかし樟一郎はクスクス笑うだけで何も言わない。
「だって───俺に爵位を継いで欲しいんだろ?」
それでようやく樟一郎が言いたかったことを悟った。
形だけでも良いから、今日ここに来ている連中に樟一郎と仲の良い所を見せ付けろ。
尾坂が逃げられないことを判った上で、さらに彼のことを弄ぶために樟一郎はわざわざこんな事を言いに来たのだろう。
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