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第十一週「ポーク・カツレツ」
(51)猫は意外と人の話を理解している
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その舷門番兵は昨日もここで任に就いていた者だ。どうしてこんなことになったのだろうと、今にもシクシク泣き出しそうな表情で突っ立っている。
「ん? あら、もしかして餌やってもうた?」
「いえ、違います。自分は誓って何も与えておりません」
「じゃあ、なんでや」
餌をやっていないのなら、なぜこの猫たちは次の日もやって来たのだろうか。猫に限らず野良で生きている生き物は総じてシビアなのだ。自分に対してなんの利も得も無いのなら、早々に諦めているはずなのに。
「それが……昨日もあの二匹が来ていて、こちらの方をじっと見ていたので……その、冗談のつもりで「鼠取り部隊の隊長としてなら雇って貰えるかもな」と言ったら……」
「どうやらこの猫、それを真に受けたらしくて……今日来たときに鼠を手土産に持ってきたのです」
「あ、ホンマや」
言われてようやく気付いた。ブチの足元をよく見ると、前肢に挟まれるようにして小汚ない物体が。
色合いと大きさからしてクマネズミか。なるほど、合点がいった。この猫は、どうやら人間の下僕が欲しいようだ。それで、この艦の誰かに目星を付けたらしい。
この場合は「飼い主になってくれそうな人間を探している」と言う方が正しいのではとお思いだろうか。いやいや、これで合っている。人類が猫を飼うのではない、猫が人類の主人として君臨しているのだ。間違えてはならない。
「あぁ……やらかしたな、お前……」
猫は、意外と人の話を理解している。理解して、そしてあえて無視しているだけだ。江戸から長く続いている商売の家で育った睦郎にとっては常識だが、そうでない者は違うらしい。猫、特に黒猫は商売繁盛や魔除けの力があると信じられてきたので、睦郎が育った大阪の家でも飼われていた。睦郎にとって猫は非常に身近な存在だったのだ。当然、扱いにも慣れている。
大方、隣にいる黒猫は仔猫をみかけて母性を爆発させてしまった通りすがりの雌猫であろう。雄猫はそれがたとえ我が子であろうとも、仔猫を殺してしまう習性があるためあり得ない。
雌にしては妙にゴツい気もするが、雄猫は無いだろうと一緒にいた黒猫を雌とした上で睦郎は話を進める。
「いくら猫でもなぁ、約束したんやったらそれは果たさなアカンで」
「えぇ……でも、猫ですよ」
「猫やゆうても、や。それになぁ……お前ら、一端の船乗りやったら猫を大事にせえへんとあかんやろ」
「まあ、一理あるな」
撫でたいのだろうか。鶴田がそわそわしながら、睦郎に構われてご満悦で喉を鳴らすブチをじっと見ている。家で犬を飼っている鶴田だったが、いざ目の前に猫が来るとつい可愛がりたくなってしまう。それは海軍軍人以前に一人の船乗りとしての本能なのだろうか。
猫と船乗りは昔から密接な関係にある。船乗り猫と言って、昔から世界中で猫は船で船乗りに飼われてきた歴史があるのだ。
船乗りが船で猫を飼う理由は、船に積み込まれた貨物や食料の穀物、それに近代では電線など。それらを齧って台無しにするばかりか、伝染病を媒介する鼠を狩るため。そして、猫には不思議な力があるとされ、航海の守り神としても崇められてきた。
海軍艦艇の船乗り猫として有名なのは「不沈のサム」だろうか。元々は独逸海軍が「オスカー」という名で飼っていた船乗り猫が、英吉利海軍に拾われた際に「サム」と名を変えた、中々数奇な運命を辿った猫である。
日本海軍では残念ながら艦艇に船乗り猫を乗せていたという話は無いが、もしも歴史の歯車が何かひとつでも違っていたのなら……そう考えると浪漫があるのではないか。
もしも日本海軍で船乗り猫が飼われていたのなら、その猫は雄の三毛猫だったのかもしれない。雄の三毛猫はその希少性から、特に縁起が良いとされてきたから。
「そんで、睦さんや。この猫をどうするんだい? 船乗り猫にでもしてやるんか」
「まさかぁ。それとこれとは話は別や」
ところが睦郎がズバッとそれを否定した。これには人間だけでなく猫も唖然だ。なぜだ、今まで飼うことを決定するような流れであっただろうに。
「しゃあないやろ。ただでさえウチの海軍、貧乏やねんさかい。猫飼う余裕なんかあらへんで」
「そ、そんなに逼迫してんのかい」
「余裕があるんやたったらな、今頃ここんとこの線は金色になっとりますえ」
睦郎がスッと指先を向けるのは、自分の軍服の袖。非常に判りにくいのだが、日本海軍の第一種軍装──つまり冬服の袖には袖章と言って、階級を示す線がぐるりと縫い付けられていた。
紺色の生地に黒線なので判りづらいことこの上ない袖章だったが、実は他の列強の海軍ではここの袖章は金線になっている。
なぜ、日本海軍がこんな見にくい黒線を採用したのか。答えは簡単、金が無かったから。
金銭感覚がルーズであまりケチケチしないことがスマートで粋とされていた日本海軍であったが、その内情は意外にもそんなもの。毎度毎度主計科が悲鳴を上げていた理由もなんとなく理解できてしまう。
「そういうわけでスマンな。お前のことはウチでは飼ってやれへんねん」
「クーン、クーン……」
なんということであろう。睦郎の謝罪を聞いた黒猫が、とても悲しそうな表情で鼻を鳴らし始めたではないか。
その日、長島中尉は知った。それは彼が二十八年生きてきて、初めての未知との遭遇。
猫も、鼻を鳴らす。
(……犬?)
つぶらな目が長島を射抜き、若い中尉は思わず首を傾げてしまった
もしかしたらこの黒猫、猫に見えるが実は犬なのではないだろうか。それならば随分と擬態の上手い犬である。いや、もしくは化け猫という可能性がなきにしもあらず。
「おいコラ、そこの黒いの。まるでおれらが悪いみたいに露骨な態度とんなや」
まるで「このおじさんたち酷いねぇ。薄情だねぇ。なんて冷たいんだ」と言われているようだ。声無き声で責め立てられるような居心地の悪い空気に、思わず身を捩らせてしまう。
ブチの方は「しゅん……」となっており、黒猫は責めてくる。そして黒猫は、なんとか睦郎たちにこのブチを飼わせようとお節介を発動させて、今まで以上の猛攻を仕掛けてきた。
「飼わんよ」
「ゴァーン……」
「飼わんからな」
「ゴ、ァーン……」
どうやら今度は泣き落とし作戦に出たらしい。可愛そうなみなしご作戦とも言えるだろうか。それでも睦郎も黒猫も一歩も引かない。両者共々、中々の強情っぷりだ。なんて賢い黒猫なのだろう。人の情に訴えかけてくるなど、並みの猫では思い付かない。
肝の座った賢いかかあ猫は、いったいどこの誰が飼っているのだろう。飼い主の顔を見てやりたいと思ったのも無理は無い。
自分の子でも無いだろうに、この雌猫はとても面倒見が良い性格をしているようだ。それともこの粘り強さは母性が爆発しているためなのだろうか。判断はつかない。
「……何をしているのですか」
と、ここで救世主が登場した。聞き覚えのある声に一同がパッと振り返ったら、そこにはなんと軍医長である赤岡の姿が。
「ああ、赤岡さんじゃねえか。どうした」
「どうしたもなにも、そこの主計長に話があったので探していただけですが……何かと思えば猫ですか」
「丁度良かったわぁ。助けて、軍医長。この猫、おれらが飼うって言うまでここで粘るつもりみたいですねん」
言うことを聞かせようとこれでもかと喉を震わせるブチの顎をツイツイと擦ってやりながら、睦郎は背後の軍医長に助けを求める。
「はぁ……何をやっているのですか、アナタは」
ため息。飽きれ半分面白半分、赤岡はツカツカと睦郎の元に歩み寄ると、彼が撫でていたブチ猫の脇に手を通してひょいと持ち上げてしまった。
「ん? あら、もしかして餌やってもうた?」
「いえ、違います。自分は誓って何も与えておりません」
「じゃあ、なんでや」
餌をやっていないのなら、なぜこの猫たちは次の日もやって来たのだろうか。猫に限らず野良で生きている生き物は総じてシビアなのだ。自分に対してなんの利も得も無いのなら、早々に諦めているはずなのに。
「それが……昨日もあの二匹が来ていて、こちらの方をじっと見ていたので……その、冗談のつもりで「鼠取り部隊の隊長としてなら雇って貰えるかもな」と言ったら……」
「どうやらこの猫、それを真に受けたらしくて……今日来たときに鼠を手土産に持ってきたのです」
「あ、ホンマや」
言われてようやく気付いた。ブチの足元をよく見ると、前肢に挟まれるようにして小汚ない物体が。
色合いと大きさからしてクマネズミか。なるほど、合点がいった。この猫は、どうやら人間の下僕が欲しいようだ。それで、この艦の誰かに目星を付けたらしい。
この場合は「飼い主になってくれそうな人間を探している」と言う方が正しいのではとお思いだろうか。いやいや、これで合っている。人類が猫を飼うのではない、猫が人類の主人として君臨しているのだ。間違えてはならない。
「あぁ……やらかしたな、お前……」
猫は、意外と人の話を理解している。理解して、そしてあえて無視しているだけだ。江戸から長く続いている商売の家で育った睦郎にとっては常識だが、そうでない者は違うらしい。猫、特に黒猫は商売繁盛や魔除けの力があると信じられてきたので、睦郎が育った大阪の家でも飼われていた。睦郎にとって猫は非常に身近な存在だったのだ。当然、扱いにも慣れている。
大方、隣にいる黒猫は仔猫をみかけて母性を爆発させてしまった通りすがりの雌猫であろう。雄猫はそれがたとえ我が子であろうとも、仔猫を殺してしまう習性があるためあり得ない。
雌にしては妙にゴツい気もするが、雄猫は無いだろうと一緒にいた黒猫を雌とした上で睦郎は話を進める。
「いくら猫でもなぁ、約束したんやったらそれは果たさなアカンで」
「えぇ……でも、猫ですよ」
「猫やゆうても、や。それになぁ……お前ら、一端の船乗りやったら猫を大事にせえへんとあかんやろ」
「まあ、一理あるな」
撫でたいのだろうか。鶴田がそわそわしながら、睦郎に構われてご満悦で喉を鳴らすブチをじっと見ている。家で犬を飼っている鶴田だったが、いざ目の前に猫が来るとつい可愛がりたくなってしまう。それは海軍軍人以前に一人の船乗りとしての本能なのだろうか。
猫と船乗りは昔から密接な関係にある。船乗り猫と言って、昔から世界中で猫は船で船乗りに飼われてきた歴史があるのだ。
船乗りが船で猫を飼う理由は、船に積み込まれた貨物や食料の穀物、それに近代では電線など。それらを齧って台無しにするばかりか、伝染病を媒介する鼠を狩るため。そして、猫には不思議な力があるとされ、航海の守り神としても崇められてきた。
海軍艦艇の船乗り猫として有名なのは「不沈のサム」だろうか。元々は独逸海軍が「オスカー」という名で飼っていた船乗り猫が、英吉利海軍に拾われた際に「サム」と名を変えた、中々数奇な運命を辿った猫である。
日本海軍では残念ながら艦艇に船乗り猫を乗せていたという話は無いが、もしも歴史の歯車が何かひとつでも違っていたのなら……そう考えると浪漫があるのではないか。
もしも日本海軍で船乗り猫が飼われていたのなら、その猫は雄の三毛猫だったのかもしれない。雄の三毛猫はその希少性から、特に縁起が良いとされてきたから。
「そんで、睦さんや。この猫をどうするんだい? 船乗り猫にでもしてやるんか」
「まさかぁ。それとこれとは話は別や」
ところが睦郎がズバッとそれを否定した。これには人間だけでなく猫も唖然だ。なぜだ、今まで飼うことを決定するような流れであっただろうに。
「しゃあないやろ。ただでさえウチの海軍、貧乏やねんさかい。猫飼う余裕なんかあらへんで」
「そ、そんなに逼迫してんのかい」
「余裕があるんやたったらな、今頃ここんとこの線は金色になっとりますえ」
睦郎がスッと指先を向けるのは、自分の軍服の袖。非常に判りにくいのだが、日本海軍の第一種軍装──つまり冬服の袖には袖章と言って、階級を示す線がぐるりと縫い付けられていた。
紺色の生地に黒線なので判りづらいことこの上ない袖章だったが、実は他の列強の海軍ではここの袖章は金線になっている。
なぜ、日本海軍がこんな見にくい黒線を採用したのか。答えは簡単、金が無かったから。
金銭感覚がルーズであまりケチケチしないことがスマートで粋とされていた日本海軍であったが、その内情は意外にもそんなもの。毎度毎度主計科が悲鳴を上げていた理由もなんとなく理解できてしまう。
「そういうわけでスマンな。お前のことはウチでは飼ってやれへんねん」
「クーン、クーン……」
なんということであろう。睦郎の謝罪を聞いた黒猫が、とても悲しそうな表情で鼻を鳴らし始めたではないか。
その日、長島中尉は知った。それは彼が二十八年生きてきて、初めての未知との遭遇。
猫も、鼻を鳴らす。
(……犬?)
つぶらな目が長島を射抜き、若い中尉は思わず首を傾げてしまった
もしかしたらこの黒猫、猫に見えるが実は犬なのではないだろうか。それならば随分と擬態の上手い犬である。いや、もしくは化け猫という可能性がなきにしもあらず。
「おいコラ、そこの黒いの。まるでおれらが悪いみたいに露骨な態度とんなや」
まるで「このおじさんたち酷いねぇ。薄情だねぇ。なんて冷たいんだ」と言われているようだ。声無き声で責め立てられるような居心地の悪い空気に、思わず身を捩らせてしまう。
ブチの方は「しゅん……」となっており、黒猫は責めてくる。そして黒猫は、なんとか睦郎たちにこのブチを飼わせようとお節介を発動させて、今まで以上の猛攻を仕掛けてきた。
「飼わんよ」
「ゴァーン……」
「飼わんからな」
「ゴ、ァーン……」
どうやら今度は泣き落とし作戦に出たらしい。可愛そうなみなしご作戦とも言えるだろうか。それでも睦郎も黒猫も一歩も引かない。両者共々、中々の強情っぷりだ。なんて賢い黒猫なのだろう。人の情に訴えかけてくるなど、並みの猫では思い付かない。
肝の座った賢いかかあ猫は、いったいどこの誰が飼っているのだろう。飼い主の顔を見てやりたいと思ったのも無理は無い。
自分の子でも無いだろうに、この雌猫はとても面倒見が良い性格をしているようだ。それともこの粘り強さは母性が爆発しているためなのだろうか。判断はつかない。
「……何をしているのですか」
と、ここで救世主が登場した。聞き覚えのある声に一同がパッと振り返ったら、そこにはなんと軍医長である赤岡の姿が。
「ああ、赤岡さんじゃねえか。どうした」
「どうしたもなにも、そこの主計長に話があったので探していただけですが……何かと思えば猫ですか」
「丁度良かったわぁ。助けて、軍医長。この猫、おれらが飼うって言うまでここで粘るつもりみたいですねん」
言うことを聞かせようとこれでもかと喉を震わせるブチの顎をツイツイと擦ってやりながら、睦郎は背後の軍医長に助けを求める。
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