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新しい力
16-3「おうお前ら、来たか! こっちだ!」
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航空隊のヴィンツとエリサ、それと未だ医務室から一歩も動かないマリアン以外のメンバーは、パイロットスーツを着込んで連れ立って格納庫へ降りていた。目の前には技術科のクルーたちが、慌ただしく非量産機のデックス7機を取り囲んで作業していた。
「おうお前ら、来たか! こっちだ!」
クロウ達6人は、その重力制御を切られた格納庫内を移動して、声を掛けて来たシドの元へ集まる。
「ああ、マリアンは居ないか。まあしょうがねえな。おい、ミーチャ『その辺』のケアはしてやってるんだろうな?」
その航空隊の人数を素早く数えて、シドは言う。
「勿論だ。タイラー艦長とジェームス先生の許可もちゃんと下りている。マリアンはテコでも医務室から離れないよ。あれでも食事を取るようになってくれたから安心しているんだ」
「上等だ。だったら後でマリアンにも伝えてやってくれ」
すかさず答えたミーチャに対して、シドは航空隊全員に向き直り続ける。
「いいかお前ら、デックスの操縦は『イメージ』が命だ。作業途中で悪いが、この図面と先行で作業させている4号機を見ながら聞いてくれ。どうにも全部終わるのは俺達全員でかかっても出発ギリギリになりそうなんだ。先に見てイメージを焼き付けておいてくれ」
言いながらシドはクロウ専用機であり、装備検証機でもある4号機を指さす。
「いいか、今回搬入されたデックス量産機よりも、お前たちの乗っていたデックスは弱い! それを言い切れる程に、サクラメント重工のノウハウはとんでもねぇ代物だった。だから俺達技術科は、お前たちは当然量産機に乗り換えるものだと思ってた」
シドは後ろ手に、今、ばらばらに分解されているデックス量産機を指して見せていた。何と技術科のクルーたちは、その12機納入された量産機の内7機をばらばらに分解していたのである。
今、格納庫には7機の非量産型デックスと、向かい合うように量産型デックスが並んでいるが、その量産機の内7機は既にメインフレームしか残されていない。それ以外のパーツはそれぞれの量産機の前に整頓されて置かれていた。
「ところが、艦長様のオーダーだ。俺達が作って、お前たちが育てたデックスは捨てないとよ! そうとも、デックス試験機には俺達の根性とお前らの血と汗が染みこんでいやがるからな! ヴィンツ機はもうねえぇからヴィンツだけは量産機の改良型になるが、落とされたあいつが悪い。命あってのもの種だ、今度はお互い落とされないようにしやがれ」
そのシドの言い様にクロウは思うところがないでもないが、シドも本気で事に当たっているのである。黙っている事にする。
「大丈夫だ、今度はそう簡単に落とさせやしない! ヴィンツが落とされたのは、半分は俺達の責任だ。今度は殴られたら殴り返せる位、頑丈に作ってやる!」
言いながら、シドはその完成予定図の図面を、リスコンを操作して拡大し、デックスのフレームを示して見せていた。
「ルナモリブデン鋼は確かに頑丈だ。だが、しなやかさが足りない。このままじゃコックピットブロックをそれで作っても割られちまう。ヴィンツの時よりなおひどい。潰れるんじゃなくて粉々だ!」
だから、と続けながらシドはその背後の4号機を再度示して見せた。
「今度のコックピットには、従来のコックピットブロックの複合装甲にプラスして、デックス量産機のコックピットブロックの装甲を切り貼りしたフレーム構造を持たせてある。従来のコックピットブロックの複合装甲を、さらにルナモリブデン鋼で複合装甲にしているようなものだ。こいつは頑丈だぞ!」
今、その4号機には既に、その加工が施されたコックピットが搭載されているという。
「何しろ『つくば型』の主砲の一斉射撃にも理論上耐える値だ。まあそんなもん喰らったら中でケチャップだろうが『電脳』は残る。体の部品もな。ついでに各部の装甲も同じ要領で強化してある。フレーム自体の強度もな」
ここでクロウは手を上げる。シドは言葉を中断してクロウの意見を聞く。
「シド先輩、そこまで防御力に振ったら機動性が落ちるんじゃないですか?」
「いい質問だ。良い質問だぜ。クロウ! そいつを待ってた。当然だ。装甲を切り貼りしてるんだからな。重量にして1.6倍だ、そりゃあ重くもなるぜ! だがな、俺達が今バラしているのは何だ? 付いているのは装甲だけか? 違うだろう? 量産機にはデックスに付いているモノは何でも同じ性能かそれ以上のモノが付いているんだぜ?」
そこでクロウにも思い当たる。
「そうか、ニコイチにするんですね先輩!」
それを聞いたシドはヘルメットバイザー越しにニカリと歯を見せた。
ニコイチとは複数の個体から1つの個体を構成することを指す。主にクロウの時代において中古の自動車などに用いられた手法である。その車体を構成するに当たり、必要な部分を分解して、それぞれのもっとも状態の良い部分を部品として使用していく手法である。
だが、今回のデックスの場合は更に一工夫してある。試験型デックスに対して量産型デックス一機を分解してその機能の殆ど全てを二倍にして上乗せしているのである。
「反応炉は1機に対して2個搭載で動力は2倍。モーターも2倍とまでは行かないがおおよそ1.4倍、スラスターやらバーニアは配置を工夫して限りなく2倍に近づくように加工中だ! こいつは速いし、力強いし半端じゃないぞ! そうでも無ければ俺達にとっては一度組んだ機体だ、こんなに手間はかからねえ! だからこいつはもう別の機体、デックスMk-IIだ!」
「凄い! これがあれば百人力ですよシド先輩!」
そのシドの声にクロウは思わず4号機を見上げる。航空隊のメンバーも感嘆の声を上げながらそれに倣った。
「おおっと、そいつはもうお前の機体じゃない。ナンバリングはふり直す。お前の機体はこっちだ。全員付いてこい!」
シドはそう言いながら、全員に格納庫のさらに奥、巨大な隔壁を隔てた奥の扉を示して見せていた。
「まさか、この後に及んで隠し玉があるんですか、先輩」
「あるともさ。ようやくお披露目の日を迎えたんだ、見て御覧じろってな!」
言いながらシドは、そのリスコンを隔壁のコンソールに翳し、その機密格納庫の封印を解く。
扉はゆっくりと格納庫の壁に吸い込まれ、格納庫の奥に格納庫の4分の1程度の空間が現れる。
「来たの! クロウにぃ達! うずうずしながら待っておったぞ!!」
その機密格納庫の奥から宇宙服姿のルピナスが飛び出してきて、クロウの胸の中にポスンと収まった。久しく見ていなかったその姿にクロウは声を上げる。
「ルピナス! 最近見ないと思ったらこんなところにいたのか!」
「にゃはははは!」
そのクロウの声に応えて、ルピナスは万歳のポーズを取っていた。
見れば機密格納庫内には2体の『MAA(Mechanical Assault Armor)』が存在していた。白と青を基調としたカラーリングの施された機体と、黒と赤を基調にカラーリングが施された機体である。
「どうだカッチョイイだろう!?」
「なのじゃ!!」
その機体の意匠を、航空隊も、そしてクロウも見たことがあった。
「まさ、か。コイツはガンだぶっふうううううう!」
クロウが思わずその名を口にしようとした瞬間である。シドの鋭いボディーブローがクロウの腹に、ルピナスの飛び蹴りがクロウのヘルメットのバイザーに直撃していた。
「皆まで言うな! こいつはリスペクトだ!!」
「なのじゃ!!」
月の弱い重力で吹っ飛ばされたクロウを、慌ててトニアとアザレアが助け起こしていた。
「ひ、ひどい。感想を言おうとしていただけなのにっ!」
「野暮な奴め! そいつは思っても心の中にそっとしまっておく類のものだ!」
どうやらここでソレは触れてはならないモノらしい。技術屋の意地とでも言うのだろうか、ともあれ航空隊の面々もクロウの二の舞はご免である。大人しく黙っている事にした。
「この2機は俺とルピナスが共同で作り上げた言わば試作機だ。だからナンバリングすらない。強いて言えばDX-000AとDX-000Bだなまあ、俺たちは黒い方を『雷神』、白い方を『風神』って呼んでるぜ。機体名で言うなら『ライトニング』と『ウインド』だな」
雷神は黒いその威容を、風神は白いその威容をその空間に航空隊の前に威風堂々と誇っていた。
「でも、こいつは凄い。俺にはこの2機は完成しているように見えますが、シド大尉、どうして実戦配備しなかったんですか?」
声を上げたのはケルッコである。それはその場にいる全員が思っていた感想でもあった。
「こいつらが凄すぎたんだよ。デックスの反応炉に比べて1.2倍の反応炉をその心臓部と脚部にそれぞれ3つ積んでる。勿論それらを出力するためのスラスターとバーニアも全身にな。結果……」
「パパにしか扱えない化け物になっちまったのだ」
シドはガックリと、ルピナスはしょんぼりとそれを語る。
「要するに、シド先輩とルピナスが悪ノリした結果、乗る人を無視した設計と性能になったんですね、それでデックスを作ったんだ」
しばらく咳き込んでいたクロウだが、ようやく支えてくれていたトニアとアザレアの腕を離れて喋れるようになっていた。
「そのとーり!!」
「なのじゃ!!」
「何やってるんだ、技術科トップ」
その声に反応して、再び拳と蹴りを放とうとしていたシドとルピナスに対し、てクロウも構えるが、別の方向から声が飛んだ。
「まてまて、じゃあ何か? 艦長は『MAA(Mechanical Assault Armor)』を操作できるって事かよ!?」
ミーチャである。それは当然の疑問とも言えた。
「そうだ。この『つくば』とっておきの隠し玉が『艦長』だよミーチャ」
言いながらシドは黒い機体、雷神を見上げる。
「正直作っちまってから言うのも何だが、この2機はAIによる遠隔操作でデータを取るためだけに作った試作機だ。これにコックピットを搭載するように命じたのも、それを実際に操ったのも艦長だけだ。俺だって正直乗って見たかったんだぜ? 『空』に未練もあるからな。だが、一回試乗しただけで艦長はこの2機を封印しちまった。『バランスブレーカー』になり得るから危険だと言っていた」
「ああ、それは少し分かるかな」
その言葉を肯定したのはユキである。ユキはその瞳で2機の機体をそれぞれ見た。
「この機体の設計、艦長がやったでしょう?」
「なんでわかる!?」
「のじゃ!?」
ユキは指を指して、それぞれの機体の顔を示して見せていた。
「かーお、艦長のマスクにそっくりじゃない。多分、艦長は自身の中の鬼をこの2機に投影したんだろうね。だからこの2機にはそれぞれ角があるんだよ」
言われて面々はその2機の堂々たる角を見る。実際にはその角はアンテナの役割を果たしていた。
「多分ね、艦長はコレに乗ってみて、コレに私達を乗せたくないと思ったんだ。私達を『鬼』にしたくなかったんだ。今なら分かる。あの人はそう言う人だ」
ユキはそう言って、航空隊全員の顔を見渡してにっこりと笑った。そしてルピナスに近寄ってそっと抱きしめた。
「私達は本当に親に愛されているね。嬉しいね。ねえ、ルピナス。デックスの本当の名前は『角』を持たない『神様』の名前でしょう?」
「そうじゃ。みんなにデックスと呼ばれてるから、パパとお話ししてそれでいいやってなったのじゃ」
ルピナスは少し残念そうにそう言う。
「そうねぇ、もうデックスはデックスになっちゃったから、多分変えられないと思うの。それは仕方が無いわ。でも、落ち着いたらユキねぇに教えて。その神様に感謝しなきゃ。違う名前で呼ばれても、その神様はちゃーんとみんなを守ってくれたもの」
「う、ユキちゃんが眩しい!」
「あのユキに後光が射して見える、だと! 洗脳か!? これが洗脳って奴なのか!」
そのユキの豹変ぶりに、付き合いの長いトニアとミーチャが声を上げて見せた。
「まったくもー トニーもミーちゃんも大げさだなあ。ちょっと3・4年仏門に入ってただけだよ」
その言葉に、クロウは納得した。ユキは変わったのではない。大きく成長したのだ。精神年齢にしてクロウたちよりも遥かに。それが今のユキの迫力の正体だった。
「んー、でも。見た感じ雷神にも風神にももう『鬼』はいないみたい。多分艦長が自分できちんと『昇華』させたんだろうなあ。すごいなぁ、あの人は」
言いながら、ユキはその二体に対してそっと手を合わせた。
「そこら辺は技術屋の俺らにはよくわからねぇ。でもな、こいつらは装甲も新調してフレームも強化した言わばデックスMk-IIの強化版だ。で、雷神は艦長専用機。これは本当に保険だな、どう使うのか俺には想像も出来ん。もう一つの風神がクロウ専用機だ。ただし、風神は『複座』に改造してある」
その言葉に一同に動揺が走った。今まで『MAA(Mechanical Assault Armor)』は一人で運用する為のインターフェイスが搭載されていたのだ。つまりこの風神には二人乗らなければならない機能が隠されているのである。
「そうだ。それはこの風神の特殊武装の火器管制には強い『脳量子波』が必要だったからだ。艦長はそれすら動かしたけどな。あの人はもう頭おかしいから気にしなくていい。問題なのは、今現在ソレを動かせる可能性があるのが、そこに居るおっかねえ姉ちゃんのミツキって所だ。つまり、こいつのパイロットはクロウとミツキの二人なんだよ」
それを聞いて、ミツキとユキが同時に声を上げる。
「……ふぅん」
「へぇ……」
瞬間である、ミツキの回し蹴りがユキに飛び、ユキがそれをいなした。
「その前に私は、『鬼』退治をしないといけないみたい」
「同感ね。貴女みたいなのに居られると目障りなのよ」
とりあえず、その場に居る全員が暴れるミツキを取り押さえる事態となった。
「おうお前ら、来たか! こっちだ!」
クロウ達6人は、その重力制御を切られた格納庫内を移動して、声を掛けて来たシドの元へ集まる。
「ああ、マリアンは居ないか。まあしょうがねえな。おい、ミーチャ『その辺』のケアはしてやってるんだろうな?」
その航空隊の人数を素早く数えて、シドは言う。
「勿論だ。タイラー艦長とジェームス先生の許可もちゃんと下りている。マリアンはテコでも医務室から離れないよ。あれでも食事を取るようになってくれたから安心しているんだ」
「上等だ。だったら後でマリアンにも伝えてやってくれ」
すかさず答えたミーチャに対して、シドは航空隊全員に向き直り続ける。
「いいかお前ら、デックスの操縦は『イメージ』が命だ。作業途中で悪いが、この図面と先行で作業させている4号機を見ながら聞いてくれ。どうにも全部終わるのは俺達全員でかかっても出発ギリギリになりそうなんだ。先に見てイメージを焼き付けておいてくれ」
言いながらシドはクロウ専用機であり、装備検証機でもある4号機を指さす。
「いいか、今回搬入されたデックス量産機よりも、お前たちの乗っていたデックスは弱い! それを言い切れる程に、サクラメント重工のノウハウはとんでもねぇ代物だった。だから俺達技術科は、お前たちは当然量産機に乗り換えるものだと思ってた」
シドは後ろ手に、今、ばらばらに分解されているデックス量産機を指して見せていた。何と技術科のクルーたちは、その12機納入された量産機の内7機をばらばらに分解していたのである。
今、格納庫には7機の非量産型デックスと、向かい合うように量産型デックスが並んでいるが、その量産機の内7機は既にメインフレームしか残されていない。それ以外のパーツはそれぞれの量産機の前に整頓されて置かれていた。
「ところが、艦長様のオーダーだ。俺達が作って、お前たちが育てたデックスは捨てないとよ! そうとも、デックス試験機には俺達の根性とお前らの血と汗が染みこんでいやがるからな! ヴィンツ機はもうねえぇからヴィンツだけは量産機の改良型になるが、落とされたあいつが悪い。命あってのもの種だ、今度はお互い落とされないようにしやがれ」
そのシドの言い様にクロウは思うところがないでもないが、シドも本気で事に当たっているのである。黙っている事にする。
「大丈夫だ、今度はそう簡単に落とさせやしない! ヴィンツが落とされたのは、半分は俺達の責任だ。今度は殴られたら殴り返せる位、頑丈に作ってやる!」
言いながら、シドはその完成予定図の図面を、リスコンを操作して拡大し、デックスのフレームを示して見せていた。
「ルナモリブデン鋼は確かに頑丈だ。だが、しなやかさが足りない。このままじゃコックピットブロックをそれで作っても割られちまう。ヴィンツの時よりなおひどい。潰れるんじゃなくて粉々だ!」
だから、と続けながらシドはその背後の4号機を再度示して見せた。
「今度のコックピットには、従来のコックピットブロックの複合装甲にプラスして、デックス量産機のコックピットブロックの装甲を切り貼りしたフレーム構造を持たせてある。従来のコックピットブロックの複合装甲を、さらにルナモリブデン鋼で複合装甲にしているようなものだ。こいつは頑丈だぞ!」
今、その4号機には既に、その加工が施されたコックピットが搭載されているという。
「何しろ『つくば型』の主砲の一斉射撃にも理論上耐える値だ。まあそんなもん喰らったら中でケチャップだろうが『電脳』は残る。体の部品もな。ついでに各部の装甲も同じ要領で強化してある。フレーム自体の強度もな」
ここでクロウは手を上げる。シドは言葉を中断してクロウの意見を聞く。
「シド先輩、そこまで防御力に振ったら機動性が落ちるんじゃないですか?」
「いい質問だ。良い質問だぜ。クロウ! そいつを待ってた。当然だ。装甲を切り貼りしてるんだからな。重量にして1.6倍だ、そりゃあ重くもなるぜ! だがな、俺達が今バラしているのは何だ? 付いているのは装甲だけか? 違うだろう? 量産機にはデックスに付いているモノは何でも同じ性能かそれ以上のモノが付いているんだぜ?」
そこでクロウにも思い当たる。
「そうか、ニコイチにするんですね先輩!」
それを聞いたシドはヘルメットバイザー越しにニカリと歯を見せた。
ニコイチとは複数の個体から1つの個体を構成することを指す。主にクロウの時代において中古の自動車などに用いられた手法である。その車体を構成するに当たり、必要な部分を分解して、それぞれのもっとも状態の良い部分を部品として使用していく手法である。
だが、今回のデックスの場合は更に一工夫してある。試験型デックスに対して量産型デックス一機を分解してその機能の殆ど全てを二倍にして上乗せしているのである。
「反応炉は1機に対して2個搭載で動力は2倍。モーターも2倍とまでは行かないがおおよそ1.4倍、スラスターやらバーニアは配置を工夫して限りなく2倍に近づくように加工中だ! こいつは速いし、力強いし半端じゃないぞ! そうでも無ければ俺達にとっては一度組んだ機体だ、こんなに手間はかからねえ! だからこいつはもう別の機体、デックスMk-IIだ!」
「凄い! これがあれば百人力ですよシド先輩!」
そのシドの声にクロウは思わず4号機を見上げる。航空隊のメンバーも感嘆の声を上げながらそれに倣った。
「おおっと、そいつはもうお前の機体じゃない。ナンバリングはふり直す。お前の機体はこっちだ。全員付いてこい!」
シドはそう言いながら、全員に格納庫のさらに奥、巨大な隔壁を隔てた奥の扉を示して見せていた。
「まさか、この後に及んで隠し玉があるんですか、先輩」
「あるともさ。ようやくお披露目の日を迎えたんだ、見て御覧じろってな!」
言いながらシドは、そのリスコンを隔壁のコンソールに翳し、その機密格納庫の封印を解く。
扉はゆっくりと格納庫の壁に吸い込まれ、格納庫の奥に格納庫の4分の1程度の空間が現れる。
「来たの! クロウにぃ達! うずうずしながら待っておったぞ!!」
その機密格納庫の奥から宇宙服姿のルピナスが飛び出してきて、クロウの胸の中にポスンと収まった。久しく見ていなかったその姿にクロウは声を上げる。
「ルピナス! 最近見ないと思ったらこんなところにいたのか!」
「にゃはははは!」
そのクロウの声に応えて、ルピナスは万歳のポーズを取っていた。
見れば機密格納庫内には2体の『MAA(Mechanical Assault Armor)』が存在していた。白と青を基調としたカラーリングの施された機体と、黒と赤を基調にカラーリングが施された機体である。
「どうだカッチョイイだろう!?」
「なのじゃ!!」
その機体の意匠を、航空隊も、そしてクロウも見たことがあった。
「まさ、か。コイツはガンだぶっふうううううう!」
クロウが思わずその名を口にしようとした瞬間である。シドの鋭いボディーブローがクロウの腹に、ルピナスの飛び蹴りがクロウのヘルメットのバイザーに直撃していた。
「皆まで言うな! こいつはリスペクトだ!!」
「なのじゃ!!」
月の弱い重力で吹っ飛ばされたクロウを、慌ててトニアとアザレアが助け起こしていた。
「ひ、ひどい。感想を言おうとしていただけなのにっ!」
「野暮な奴め! そいつは思っても心の中にそっとしまっておく類のものだ!」
どうやらここでソレは触れてはならないモノらしい。技術屋の意地とでも言うのだろうか、ともあれ航空隊の面々もクロウの二の舞はご免である。大人しく黙っている事にした。
「この2機は俺とルピナスが共同で作り上げた言わば試作機だ。だからナンバリングすらない。強いて言えばDX-000AとDX-000Bだなまあ、俺たちは黒い方を『雷神』、白い方を『風神』って呼んでるぜ。機体名で言うなら『ライトニング』と『ウインド』だな」
雷神は黒いその威容を、風神は白いその威容をその空間に航空隊の前に威風堂々と誇っていた。
「でも、こいつは凄い。俺にはこの2機は完成しているように見えますが、シド大尉、どうして実戦配備しなかったんですか?」
声を上げたのはケルッコである。それはその場にいる全員が思っていた感想でもあった。
「こいつらが凄すぎたんだよ。デックスの反応炉に比べて1.2倍の反応炉をその心臓部と脚部にそれぞれ3つ積んでる。勿論それらを出力するためのスラスターとバーニアも全身にな。結果……」
「パパにしか扱えない化け物になっちまったのだ」
シドはガックリと、ルピナスはしょんぼりとそれを語る。
「要するに、シド先輩とルピナスが悪ノリした結果、乗る人を無視した設計と性能になったんですね、それでデックスを作ったんだ」
しばらく咳き込んでいたクロウだが、ようやく支えてくれていたトニアとアザレアの腕を離れて喋れるようになっていた。
「そのとーり!!」
「なのじゃ!!」
「何やってるんだ、技術科トップ」
その声に反応して、再び拳と蹴りを放とうとしていたシドとルピナスに対し、てクロウも構えるが、別の方向から声が飛んだ。
「まてまて、じゃあ何か? 艦長は『MAA(Mechanical Assault Armor)』を操作できるって事かよ!?」
ミーチャである。それは当然の疑問とも言えた。
「そうだ。この『つくば』とっておきの隠し玉が『艦長』だよミーチャ」
言いながらシドは黒い機体、雷神を見上げる。
「正直作っちまってから言うのも何だが、この2機はAIによる遠隔操作でデータを取るためだけに作った試作機だ。これにコックピットを搭載するように命じたのも、それを実際に操ったのも艦長だけだ。俺だって正直乗って見たかったんだぜ? 『空』に未練もあるからな。だが、一回試乗しただけで艦長はこの2機を封印しちまった。『バランスブレーカー』になり得るから危険だと言っていた」
「ああ、それは少し分かるかな」
その言葉を肯定したのはユキである。ユキはその瞳で2機の機体をそれぞれ見た。
「この機体の設計、艦長がやったでしょう?」
「なんでわかる!?」
「のじゃ!?」
ユキは指を指して、それぞれの機体の顔を示して見せていた。
「かーお、艦長のマスクにそっくりじゃない。多分、艦長は自身の中の鬼をこの2機に投影したんだろうね。だからこの2機にはそれぞれ角があるんだよ」
言われて面々はその2機の堂々たる角を見る。実際にはその角はアンテナの役割を果たしていた。
「多分ね、艦長はコレに乗ってみて、コレに私達を乗せたくないと思ったんだ。私達を『鬼』にしたくなかったんだ。今なら分かる。あの人はそう言う人だ」
ユキはそう言って、航空隊全員の顔を見渡してにっこりと笑った。そしてルピナスに近寄ってそっと抱きしめた。
「私達は本当に親に愛されているね。嬉しいね。ねえ、ルピナス。デックスの本当の名前は『角』を持たない『神様』の名前でしょう?」
「そうじゃ。みんなにデックスと呼ばれてるから、パパとお話ししてそれでいいやってなったのじゃ」
ルピナスは少し残念そうにそう言う。
「そうねぇ、もうデックスはデックスになっちゃったから、多分変えられないと思うの。それは仕方が無いわ。でも、落ち着いたらユキねぇに教えて。その神様に感謝しなきゃ。違う名前で呼ばれても、その神様はちゃーんとみんなを守ってくれたもの」
「う、ユキちゃんが眩しい!」
「あのユキに後光が射して見える、だと! 洗脳か!? これが洗脳って奴なのか!」
そのユキの豹変ぶりに、付き合いの長いトニアとミーチャが声を上げて見せた。
「まったくもー トニーもミーちゃんも大げさだなあ。ちょっと3・4年仏門に入ってただけだよ」
その言葉に、クロウは納得した。ユキは変わったのではない。大きく成長したのだ。精神年齢にしてクロウたちよりも遥かに。それが今のユキの迫力の正体だった。
「んー、でも。見た感じ雷神にも風神にももう『鬼』はいないみたい。多分艦長が自分できちんと『昇華』させたんだろうなあ。すごいなぁ、あの人は」
言いながら、ユキはその二体に対してそっと手を合わせた。
「そこら辺は技術屋の俺らにはよくわからねぇ。でもな、こいつらは装甲も新調してフレームも強化した言わばデックスMk-IIの強化版だ。で、雷神は艦長専用機。これは本当に保険だな、どう使うのか俺には想像も出来ん。もう一つの風神がクロウ専用機だ。ただし、風神は『複座』に改造してある」
その言葉に一同に動揺が走った。今まで『MAA(Mechanical Assault Armor)』は一人で運用する為のインターフェイスが搭載されていたのだ。つまりこの風神には二人乗らなければならない機能が隠されているのである。
「そうだ。それはこの風神の特殊武装の火器管制には強い『脳量子波』が必要だったからだ。艦長はそれすら動かしたけどな。あの人はもう頭おかしいから気にしなくていい。問題なのは、今現在ソレを動かせる可能性があるのが、そこに居るおっかねえ姉ちゃんのミツキって所だ。つまり、こいつのパイロットはクロウとミツキの二人なんだよ」
それを聞いて、ミツキとユキが同時に声を上げる。
「……ふぅん」
「へぇ……」
瞬間である、ミツキの回し蹴りがユキに飛び、ユキがそれをいなした。
「その前に私は、『鬼』退治をしないといけないみたい」
「同感ね。貴女みたいなのに居られると目障りなのよ」
とりあえず、その場に居る全員が暴れるミツキを取り押さえる事態となった。
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小説家になろう様、カクヨム様でも連載しております。
投降は当分の間毎日22時ごろを予定しています。
【マテリアラーズ】 惑星を巡る素材集め屋が、大陸が全て消失した地球を再興するため、宇宙をまたにかけ、地球を復興する
紫電のチュウニー
SF
宇宙で様々な技術が発達し、宇宙域に二足歩行知能生命体が溢れるようになった時代。
各星には様々な技術が広まり、多くの武器や防具を求め、道なる生命体や物質を採取したり、高度な
技術を生み出す惑星、地球。
その地球において、通称【マテリアラーズ】と呼ばれる、素材集め専門の集団がいた。
彼らにはスポンサーがつき、その協力を得て多くの惑星より素材を集める危険な任務を担う。
この物語はそんな素材屋で働き始めた青年と、相棒の物語である。
青年エレットは、惑星で一人の女性と出会う事になる。
数奇なる運命を持つ少女とエレットの織り成すSFハイファンタジーの世界をお楽しみください。
いつか日本人(ぼく)が地球を救う
多比良栄一
SF
この小説にはある仕掛けがある。
読者はこの物語を読み進めると、この作品自体に仕掛けられた「前代未聞」のアイデアを知ることになる。
それは日本のアニメやマンガへ注がれるオマージュ。
2次創作ではない、ある種の入れ子構造になったメタ・フィクション。
誰もがきいたことがある人物による、誰もみたことがない物語がいま幕を開ける。
すべてのアニメファンに告ぐ!! 。隠された謎を見抜けるか!!。
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25世紀後半 地球を襲った亜獣と呼ばれる怪獣たちに、デミリアンと呼ばれる生命体に搭乗して戦う日本人少年ヤマトタケル。なぜか日本人にしか操縦ができないこの兵器に乗る者には、同時に、人類を滅ぼすと言われる「四解文書」と呼ばれる極秘文書も受け継がされた。
もしこれを人々が知れば、世界は「憤怒」し、「恐怖」し、「絶望」し、そして「発狂」する。
かつてそれを聞いた法皇がショック死したほどの四つの「真理」。
世界でたった一人、人類を救えも、滅ぼしもできる、両方の力を手に入れた日本人少年ヤマトタケル。
彼は、世界100億人全員から、救いを求められ、忌み嫌われ、そして恐れられる存在になった。
だが彼には使命があった。たとえ人類の半分の人々を犠牲にしても残り11体の亜獣を殲滅すること、そして「四解文書」の謎を誰にも知られずに永遠に葬ることだった。
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