27 / 76
つくば抜錨
8-4「抜錨、鎖巻きます!」
しおりを挟む
「時間です艦長」
『つくば』ブリッジでは中央に座るタイラーを中心に、『つくば』を運行するためのスタッフが各自の持ち場へ座っていた。
時刻を知らせたのはこの『つくば』の舵を今まさに握るパラサ・リッツだった。
「機関始動」
「サー・機関始動!」
呟くタイラーに対して機関管制席に座る機関長のウベルト・ビオンデッリ大尉が復唱しながら機関の始動スイッチを押す。『つくば』全体が静かに震えるとウベルトの席のモニターに回転数が表示される。それらの数値を素早く確認するとウベルトは目線をモニターに落としながら言う。
「機関正常、出力オールグリーン」
聞いたタイラーは頷き、続く指示を出す。
「抜錨! 鎖巻け」
「抜錨、鎖巻きます!」
答えたのは航海長のパラサだった。パラサは自身が握るレーシングカーのステアリングのような丸とH字型の中間の形をしたこの『つくば』の舵の左上のスイッチを操作し、錨を巻き上げた。本来であればここまでの間に、格納庫の隔壁を開けたままの『つくば』はそれを閉めなければならないが、今回は技術科のシドの進言により隔壁を開放したまま出港となる。
全乗組員は所定の場所で待機、またはシートベルトを締めて対ショック姿勢を取っていた。それは船室をあてがわれたパラサの妹と母も同じであった。
「船務長、レーダー監視を密に、ここから先どんな変化も見逃すな」
「アイアイ! 監視を密とします。各監視員、警戒を密にどんな変化も見逃すな!」
タイラーの命令に応えたアンシェラ・ベークマン大尉は同時に『つくば』全体に点在する光学センサー室で待機する船務科のクルーたちへ通信で呼びかける。即座に各センサー室から応答が返る。この時代の艦艇は無論様々なセンサーやレーダーを搭載している。だが、それらの妨害装置も発展してしまったがために、現在一番信用できるのはなんと人間による目視なのだった。そのため、この『つくば』では常時150人にも及ぶ人員たちが360度を目視で見張っているのである。
「各センサー室異常なし!」
各センサーの配置が問題ない事を確認してアンシェラは宣言する。
「よし、両舷前進微速、『つくば』発進!」
「機関出力上昇、びそーく!」
「両舷前進びそーく!」
タイラーの発進の合図と同時に機関長のウベルトと航海長のパラサが答える。巨大な『つくば』の船体が波を伴って前進し、接岸していた格納庫のハッチが岸と距離を開けていく。
各センサー室から送られてくるリアルタイムの映像を見ながら、『つくば』全体が湾内から十二分に抜けた事をタイラーは確認すると、つくばの速度を上げるべく指示を出す。この巨大な『つくば』はその巨体さ故にうかつに身動ぎでもしようものなら他の船舶に多大な被害を及ぼしかねない。
「原速へ」
「機関出力上昇、げんそーく!」
「両舷前進げんそーく!」
周囲に影響がない事を確認してタイラーは原速への号令を出す。
原速とはその船の巡航速度、つまり燃費が一番いい速度である。通常、戦闘船の速度には微速、半速、原速、強速、戦速、最大戦速、一杯。が用いられる。この時代もこれらの表記が用いられた。この『つくば型』の海上における原速は12ノット(約22.2km/h)。この巨体を持ってしてこの速度は驚異的とも言える。
しばらくし、水平線から陸がまったく消えたことを確認したタイラーは無線越しに格納庫へ呼びかける。
「シド技術長頃合いだろう。荷物を捨ててくれ」
『了解!』
格納庫で待機していたシドは自身のリスコンから顔を上げると、「じゃ、頼むわ!」と、DX-001の4番機に乗って待機していたクロウへ声をかけた。
「まあ、僕ら航空隊は自分の機体の中で待機なので別にいいですけどね」
声を外部へのスピーカー出力にしながらクロウはDX-001をハンガーから分離させゆっくりと歩くと、クロウの指さすコンテナをマニュピュレータで掴む。機体に乗る前にシドから合図したらこれらのコンテナを海へ放り出すように指示されていたのだ。
因みに他の航空隊員は全員DX-001のコックピット内で操縦訓練の最中だった。営倉で拘束されていたユキも今は1番機の中で訓練に励んでいる。
掴んだコンテナは四方を溶接で固定されている。コンテナって浮くのかなとクロウは思いながら一つ目を海へと投下する。コンテナは浮いた、半分ほどを海に浮かせながら艦の後ろへと漂っていく。
「シド先輩。これって不法投棄とかになりませんかね?」
『ああん?』
言われたシドはまあそう言われればそうかもしれない。とも思うが、このコンテナをこのままここに置いておくわけにもいかないのでクロウに促した。
『細かい事は気にするな。もう一個流しちまったんだ。今更言ったところで拾えない! もう一個も流しちまえ!!』
「はいはい、了解っと」
言われたクロウは、今度は大きく振りかぶって思いっきりコンテナを海上に放った。コンテナは海上で二回三回とバウンドし流れていった。
『あーあ、ありゃ衝撃で死んだな』
呟いたシドは足早に格納庫の壁へと近づくと、開いたままだった格納庫の隔壁を閉鎖した。
シドは呟いたつもりだっただろうが、センサー越しに聞いていたクロウにははっきりとシドのセリフが聞き取れた。
「死んだって、シド先輩! あのコンテナに何が入って居たんですか!?」
小さく舌打ちするとシドは「ち、聞こえてたか」と言いながらクロウのDX-001に向きながら言う。
『敵兵だよ敵兵! 大体40人位入ってた。ま、運が良ければ生きてるだろ、全部溶接しちまったから先に窒息で死んでたかも知れないがな。そんなシュレーディンガーの猫みたいな事、俺は知らん!!』
言われて、クロウは「うわー」と声を出した。
「知らずに殺人幇助しちゃった……」
『ばっかやろう! 軍人である以上いつかは殺しをするんだ! 遅かれ早かれな! あいつらはこの艦の連中を殺すためにああやって荷物に紛れていやがった。お前はあいつらにルピナスや、ルウや、航空隊の連中がぶっ殺されてもいいってのか!?』
シドに叱責されてその通りだとクロウは思う。自分はまだここに来て日は浅いが、仲間が殺される所など見たくはない。
「わかりました。でも今度から中身を捨てる前に確認します。中身が人だったらせめて丁寧に捨てたいですしね」
『お、おう。ま、いいや。ブリッジ聞こえるか、こちら格納庫。お客様にはお帰り願った。隔壁閉鎖よし!』
シド達のやり取りを、実はシドが無線を切り忘れていたためにブリッジ全員が聞き、そして一部はモニター越しに目撃していた。『もお、なにやってるのよあのバカたち』と思いながら、パラサは片手で額に手を当てた。
パラサの操舵席の隣の火器管制席で戦術長のルウがくすくすと笑っている。だが、パラサはおかげで吹っ切れたと思う。あの自分が呼び寄せる要因となった敵兵は、言うなれば、リッツ家にがんじがらめにされたパラサ自身の陰だ。それをクロウは投げ捨ててくれた。その兵士たちの哀れ過ぎる最後に思うところもないではないが、自分たちは戦争をしているのだと自分を叱咤激励する。
「派手さに欠けるな。クロウ少尉、次は流した後ライフルで撃ち抜きたまえ」
『げ、艦長趣味悪いっすね』
「彼らの誰かでも生き残ってこの艦に復讐せんとも限らんだろう?」
『ああ、そういうこともあるんですね、とりあえずバルカンで撃っておいていいですか?』
『馬鹿クロウ! 隔壁開けようとするんじゃねえ! せっかく閉じたのに!!』
やり取りに、タイラーは「はっはっはっは! それくらいで丁度いい」と笑っている。タイラーが声を上げて笑うなど、少なくともブリッジにいるクルーは見たことがない。
パラサは不意に今までタイラーに感じた憑き物のような雰囲気が和らいでいると感じた。その原因までは彼女には伺い知れない。だが、タイラーは一度彼女の前で怒りの涙を見せている。あの時以来努めて機械的に何処か人間性を捨てようとタイラーがしていたのを感じていた。それが、今笑みを見せるタイラーは人間の温かみを強く感じるのだ。
「譲りませんよ?」
パラサがタイラーを見ているのに気づいたルウがほほを膨らませていた。
「バカね、私もこれ以上バカは手いっぱいよ」
言われてルウは目を丸くする。昨日の営倉での出来事を思い出して。
「ああ、そういえば『カップル成立』おめでとうございます!」
「ちょっ!!」
手元が狂いそうになったのをパラサは慌てて戻す。これだけの巨艦が急に舵を切ったら大惨事だ。
「ルウ、あんたねぇ!」
「相談してくれなかったお返しです!」
とルウはパラサに向かって舌を出して見せた。そんな二人の背中をタイラーは笑みながら見ていた。
「機関長、飛ぶぞ。反重力エンジンはどうか?」
「機関良好。いつでもどうぞ」
「操舵、よし。いつでも大丈夫です」
返事を聞いてタイラーは全艦に重力警戒警報を発令。即座に通信長のニコラ・マッケイン少尉が全艦放送で通達する。
『全乗組員へ通達。本艦はこれより航空巡航へ移行する。対ショック準備!!』
放送から少し開けてタイラーは再び命令を出した。
「機関長、反重力エンジン始動微速!」
「反重力エンジン出力上昇、びそーく! 反重力形成膜確認。航海長お願いします!」
「了解、『つくば』離水!!」
合図と共に、パラサは操舵桿をゆっくりと手前に引いた。
つくばの巨大な船体がその動きに合わせてせり上がっていく。船首が上へと上がっていくのだ。これだけの大質量の船体である。『つくば』は通常の方法で空を飛べる道理は無かった。だから、この時代のこの『つくば』には用意されていた。飛べるための道理が。
「おお、凄い! こんな大きなものが本当に浮き始めた!!」
DX-001の自分専用である4号機をハンガーラックに戻し、固定し終えていたクロウはDX-001のモニターを艦の外部光学センサー室の一つのリアルタイム映像に繋げて歓声を上げていた。
『まじかよ、クロウ! お前の所から見えるのかよ! 俺も入って見ていいか!?』
声を聞きつけて4号機のハンガーラックに飛び乗って来たシドにクロウは言う。
「今コックピットハッチを開けるんでちょっとだけ離れてて下さい。このハッチ意外と開く勢い速いんでその位置だと吹っ飛ばされるかもしれません!」
かく言うクロウも、このDX-001に今日初めて乗るときにハンガーラックから吹っ飛ばされそうになった口だ。ヴィンツ軍曹が可哀そうに直撃して吹っ飛ばされていた。
耐衝撃性能を備えるパイロットスーツのおかげで無事だったが、第四世代人類とはいえ、生身で重機の直撃を受ければ無事ではあるまい。
クロウに支給されたパイロットスーツは宇宙服をスマートにしたような構造を持っていた、首元にはヘルメットとパイロットスーツを接続する構造があり、首の動きに干渉しないようになっているが、パイロットスーツとヘルメット内の気密は確保されているそうだった。その構造上、このパイロットスーツは装着した後スイッチで中の空気を抜く構造になっていた。
今日の朝、航空隊のブリーフィングルームに併設された男子更衣室で初めてこのパイロットスーツを身に着けた時、クロウは自身の姿見の鏡に映る姿と、同じくパイロットスーツを着込むケルッコとヴィンツの姿を見て、クロウの時代のダイバースーツかタイトなライダースーツを連想していた。ヘルメットの構造はクロウの知るバイクのフルフェイスヘルメットよりもバイザーの面積が多い。顔全体がバイザー越しに見えた。
その着心地とデザインに満足していたクロウは、男子更衣室を出て、同じく女子更衣室からブリーフィングルームに出て来た女子パイロットスーツ姿を見て激しく後悔した。男子のデザインがライダースーツに衝撃干渉の為のプロテクターを付けたようなそれであれば、当然女子もそのような恰好なのだ。その姿は嫌でもボディーラインを強調した。
特に無意識に目で追ってしまったのはトニアの姿である。彼女は着やせするタイプなのか、いや、実際にはクロウが意識して見ないようにしていたのだが、誰が見ても豊満な胸を持っていた。そのラインを強調された胸をクロウは無意識に見てしまっていた。
ガン見である。無論他意は無いとクロウは言いたい。
他の航空隊員に死ぬほどからかわれたが、それによって被害を受けたのはむしろクロウより見られていたトニアだった。
思い出してクロウは申し訳ない気持ちでいっぱいになったが、モニター越しにシドの動きはちゃんと追っていた。今、ツナギ姿のシドはこのDX-001の凶悪過ぎるハッチ開放の直撃を受ければ大けがである。
シドが十分に距離を取った事を確認してクロウはハッチを開いた。
「おっと、ほんとだ。こいつは危ないな」
「後で改良出来ないですかね?」
「そのうち見ておいてやるよ」
言いながらシドはクロウの座る座席へとよじ登り、腰に付けた安全ベルトをクロウの座席のアームへ固定した。
「これでよしっと、これで『つくば』が勢いよく飛んでも飛んでいくことはあるまい。それにしてもこいつの中は本当に球なんだな」
「モニターが見にくいんで、一旦コックピット閉めますよ?」
「おお、見えた見えた。へえ、視界はこんな感じか、面白いな」
それにしても、とクロウはシドと会話を続ける。
「シド先輩はDX-001に乗ったこと無かったんですね」
「ああ、デックスのコックピット周りとその操作系統はルピナスと艦長が主に弄ってたからな。こいつを動かす評価試験の時はいつもルピナスが動かしてたぞ?」
へえ、とクロウは言いながら、DX-001の愛称がデックスと言う事実を今知った。
「DX-001の愛称も今知りましたよ。デックス。まんまっすね」
「それ、艦長とルピナスの前で言うなよ? なんかカッコいいの考えてるらしい。技術科の内輪でそう言っているだけだ」
だが、とクロウは思う。そういった愛称はそのように広まっていくのだと。それにしてもルピナスがデックスのこのコックピットに座ってるのを想像する。
「足、ペダルに届くんですかね?」
「お、お前。それマリアンの前で絶対言うなよ? あいつルピナスと5cmしか違わねえんだぞ」
言われて、クロウは航空隊の人一倍小さい女性隊員を思い浮かべていた。ああ確かにそれくらいかもしれない。
「心配しなくても、あいつらでも操縦できるように調整機能が付いてるよ。それよりほら、『つくば』の艦の下、見えるか、わっかになって海が凹んでるだろ?」
「ああ、ほんとだ、さっきブリッジで言ってた反重力なんたらってこれの事ですね」
モニターしているつくばの真下では、波もなく真円に海がくぼんで見えた。
「そうそう、ああやって艦からの斥力。要すれば押す力を発生させているんだ、で、完全に海水面から離れたら、今度は斥力じゃなくて反重力の方を強くしていって飛ぶって感じだ。その時、この艦の質量は限りなく0に近づく。つっても実際には質量あるんだけどさ」
クロウにはその知識も勿論インストールされていたが、原理的な事は流石に理解が追い付かない。知識としてインストールされている情報を読み解くための情報が『足らない』のだ。
「ま、1パイロットには関係なさそうな話っすね。デックスにこの機能が載ったら考えないといけないですけど」
「ちょっとまて、クロウ。そいつは盲点かも知れねぇ。ルピナスが聞いたら飛んで喜ぶぞ?」
急に深刻な顔をしてシドが言う。
「反重力エンジンってのはその構造上小型化が難しいんだ。でも、ルピナスなら言えば出来るかも知れねぇ」
「例えばなんですけど、それが出来たらどうなるんです?」
「デックスのもっとすっごいのが出来る!」
「すげええええええ!!」
『ちょっとアンタら、さっきからわざとブリッジに声聞かせてる訳じゃないわよね!?』
急にパラサの怒声がコックピット内に響き渡った。シドのリスコンからである。
「やっべ、通信切るの忘れれたわ。パラサガチギレだわ」
「うっわ、僕関係ないじゃないっすか! 巻き込むの止めてくれませんか?」
『言っておくが、自分以外のクルーを専用のDX-001に乗せたクロウ少尉の方が罪は重い。シド軍曹の通信はミスで片付くが、シド軍曹のコックピットに乗ろうとした行為と、クロウ少尉のコックピットに実際に乗せた行為は懲罰ものだ』
次いで、タイラーの声が、コックピットに響いた。
「「マジかよ」」
シドとクロウの声がコックピットに同時に響いた。
「ちょ、シド先輩。マジ降りて貰っていいですか!?」
「わ、バカ! デックス急に動かすんじゃねえ! 俺は安全帯でしか体が固定されてねえんだぞ! それに今更同じだ!!」
騒ぐ若者たちを他所に『つくば』はその高度をゆっくりと上げていった。
『つくば』ブリッジでは中央に座るタイラーを中心に、『つくば』を運行するためのスタッフが各自の持ち場へ座っていた。
時刻を知らせたのはこの『つくば』の舵を今まさに握るパラサ・リッツだった。
「機関始動」
「サー・機関始動!」
呟くタイラーに対して機関管制席に座る機関長のウベルト・ビオンデッリ大尉が復唱しながら機関の始動スイッチを押す。『つくば』全体が静かに震えるとウベルトの席のモニターに回転数が表示される。それらの数値を素早く確認するとウベルトは目線をモニターに落としながら言う。
「機関正常、出力オールグリーン」
聞いたタイラーは頷き、続く指示を出す。
「抜錨! 鎖巻け」
「抜錨、鎖巻きます!」
答えたのは航海長のパラサだった。パラサは自身が握るレーシングカーのステアリングのような丸とH字型の中間の形をしたこの『つくば』の舵の左上のスイッチを操作し、錨を巻き上げた。本来であればここまでの間に、格納庫の隔壁を開けたままの『つくば』はそれを閉めなければならないが、今回は技術科のシドの進言により隔壁を開放したまま出港となる。
全乗組員は所定の場所で待機、またはシートベルトを締めて対ショック姿勢を取っていた。それは船室をあてがわれたパラサの妹と母も同じであった。
「船務長、レーダー監視を密に、ここから先どんな変化も見逃すな」
「アイアイ! 監視を密とします。各監視員、警戒を密にどんな変化も見逃すな!」
タイラーの命令に応えたアンシェラ・ベークマン大尉は同時に『つくば』全体に点在する光学センサー室で待機する船務科のクルーたちへ通信で呼びかける。即座に各センサー室から応答が返る。この時代の艦艇は無論様々なセンサーやレーダーを搭載している。だが、それらの妨害装置も発展してしまったがために、現在一番信用できるのはなんと人間による目視なのだった。そのため、この『つくば』では常時150人にも及ぶ人員たちが360度を目視で見張っているのである。
「各センサー室異常なし!」
各センサーの配置が問題ない事を確認してアンシェラは宣言する。
「よし、両舷前進微速、『つくば』発進!」
「機関出力上昇、びそーく!」
「両舷前進びそーく!」
タイラーの発進の合図と同時に機関長のウベルトと航海長のパラサが答える。巨大な『つくば』の船体が波を伴って前進し、接岸していた格納庫のハッチが岸と距離を開けていく。
各センサー室から送られてくるリアルタイムの映像を見ながら、『つくば』全体が湾内から十二分に抜けた事をタイラーは確認すると、つくばの速度を上げるべく指示を出す。この巨大な『つくば』はその巨体さ故にうかつに身動ぎでもしようものなら他の船舶に多大な被害を及ぼしかねない。
「原速へ」
「機関出力上昇、げんそーく!」
「両舷前進げんそーく!」
周囲に影響がない事を確認してタイラーは原速への号令を出す。
原速とはその船の巡航速度、つまり燃費が一番いい速度である。通常、戦闘船の速度には微速、半速、原速、強速、戦速、最大戦速、一杯。が用いられる。この時代もこれらの表記が用いられた。この『つくば型』の海上における原速は12ノット(約22.2km/h)。この巨体を持ってしてこの速度は驚異的とも言える。
しばらくし、水平線から陸がまったく消えたことを確認したタイラーは無線越しに格納庫へ呼びかける。
「シド技術長頃合いだろう。荷物を捨ててくれ」
『了解!』
格納庫で待機していたシドは自身のリスコンから顔を上げると、「じゃ、頼むわ!」と、DX-001の4番機に乗って待機していたクロウへ声をかけた。
「まあ、僕ら航空隊は自分の機体の中で待機なので別にいいですけどね」
声を外部へのスピーカー出力にしながらクロウはDX-001をハンガーから分離させゆっくりと歩くと、クロウの指さすコンテナをマニュピュレータで掴む。機体に乗る前にシドから合図したらこれらのコンテナを海へ放り出すように指示されていたのだ。
因みに他の航空隊員は全員DX-001のコックピット内で操縦訓練の最中だった。営倉で拘束されていたユキも今は1番機の中で訓練に励んでいる。
掴んだコンテナは四方を溶接で固定されている。コンテナって浮くのかなとクロウは思いながら一つ目を海へと投下する。コンテナは浮いた、半分ほどを海に浮かせながら艦の後ろへと漂っていく。
「シド先輩。これって不法投棄とかになりませんかね?」
『ああん?』
言われたシドはまあそう言われればそうかもしれない。とも思うが、このコンテナをこのままここに置いておくわけにもいかないのでクロウに促した。
『細かい事は気にするな。もう一個流しちまったんだ。今更言ったところで拾えない! もう一個も流しちまえ!!』
「はいはい、了解っと」
言われたクロウは、今度は大きく振りかぶって思いっきりコンテナを海上に放った。コンテナは海上で二回三回とバウンドし流れていった。
『あーあ、ありゃ衝撃で死んだな』
呟いたシドは足早に格納庫の壁へと近づくと、開いたままだった格納庫の隔壁を閉鎖した。
シドは呟いたつもりだっただろうが、センサー越しに聞いていたクロウにははっきりとシドのセリフが聞き取れた。
「死んだって、シド先輩! あのコンテナに何が入って居たんですか!?」
小さく舌打ちするとシドは「ち、聞こえてたか」と言いながらクロウのDX-001に向きながら言う。
『敵兵だよ敵兵! 大体40人位入ってた。ま、運が良ければ生きてるだろ、全部溶接しちまったから先に窒息で死んでたかも知れないがな。そんなシュレーディンガーの猫みたいな事、俺は知らん!!』
言われて、クロウは「うわー」と声を出した。
「知らずに殺人幇助しちゃった……」
『ばっかやろう! 軍人である以上いつかは殺しをするんだ! 遅かれ早かれな! あいつらはこの艦の連中を殺すためにああやって荷物に紛れていやがった。お前はあいつらにルピナスや、ルウや、航空隊の連中がぶっ殺されてもいいってのか!?』
シドに叱責されてその通りだとクロウは思う。自分はまだここに来て日は浅いが、仲間が殺される所など見たくはない。
「わかりました。でも今度から中身を捨てる前に確認します。中身が人だったらせめて丁寧に捨てたいですしね」
『お、おう。ま、いいや。ブリッジ聞こえるか、こちら格納庫。お客様にはお帰り願った。隔壁閉鎖よし!』
シド達のやり取りを、実はシドが無線を切り忘れていたためにブリッジ全員が聞き、そして一部はモニター越しに目撃していた。『もお、なにやってるのよあのバカたち』と思いながら、パラサは片手で額に手を当てた。
パラサの操舵席の隣の火器管制席で戦術長のルウがくすくすと笑っている。だが、パラサはおかげで吹っ切れたと思う。あの自分が呼び寄せる要因となった敵兵は、言うなれば、リッツ家にがんじがらめにされたパラサ自身の陰だ。それをクロウは投げ捨ててくれた。その兵士たちの哀れ過ぎる最後に思うところもないではないが、自分たちは戦争をしているのだと自分を叱咤激励する。
「派手さに欠けるな。クロウ少尉、次は流した後ライフルで撃ち抜きたまえ」
『げ、艦長趣味悪いっすね』
「彼らの誰かでも生き残ってこの艦に復讐せんとも限らんだろう?」
『ああ、そういうこともあるんですね、とりあえずバルカンで撃っておいていいですか?』
『馬鹿クロウ! 隔壁開けようとするんじゃねえ! せっかく閉じたのに!!』
やり取りに、タイラーは「はっはっはっは! それくらいで丁度いい」と笑っている。タイラーが声を上げて笑うなど、少なくともブリッジにいるクルーは見たことがない。
パラサは不意に今までタイラーに感じた憑き物のような雰囲気が和らいでいると感じた。その原因までは彼女には伺い知れない。だが、タイラーは一度彼女の前で怒りの涙を見せている。あの時以来努めて機械的に何処か人間性を捨てようとタイラーがしていたのを感じていた。それが、今笑みを見せるタイラーは人間の温かみを強く感じるのだ。
「譲りませんよ?」
パラサがタイラーを見ているのに気づいたルウがほほを膨らませていた。
「バカね、私もこれ以上バカは手いっぱいよ」
言われてルウは目を丸くする。昨日の営倉での出来事を思い出して。
「ああ、そういえば『カップル成立』おめでとうございます!」
「ちょっ!!」
手元が狂いそうになったのをパラサは慌てて戻す。これだけの巨艦が急に舵を切ったら大惨事だ。
「ルウ、あんたねぇ!」
「相談してくれなかったお返しです!」
とルウはパラサに向かって舌を出して見せた。そんな二人の背中をタイラーは笑みながら見ていた。
「機関長、飛ぶぞ。反重力エンジンはどうか?」
「機関良好。いつでもどうぞ」
「操舵、よし。いつでも大丈夫です」
返事を聞いてタイラーは全艦に重力警戒警報を発令。即座に通信長のニコラ・マッケイン少尉が全艦放送で通達する。
『全乗組員へ通達。本艦はこれより航空巡航へ移行する。対ショック準備!!』
放送から少し開けてタイラーは再び命令を出した。
「機関長、反重力エンジン始動微速!」
「反重力エンジン出力上昇、びそーく! 反重力形成膜確認。航海長お願いします!」
「了解、『つくば』離水!!」
合図と共に、パラサは操舵桿をゆっくりと手前に引いた。
つくばの巨大な船体がその動きに合わせてせり上がっていく。船首が上へと上がっていくのだ。これだけの大質量の船体である。『つくば』は通常の方法で空を飛べる道理は無かった。だから、この時代のこの『つくば』には用意されていた。飛べるための道理が。
「おお、凄い! こんな大きなものが本当に浮き始めた!!」
DX-001の自分専用である4号機をハンガーラックに戻し、固定し終えていたクロウはDX-001のモニターを艦の外部光学センサー室の一つのリアルタイム映像に繋げて歓声を上げていた。
『まじかよ、クロウ! お前の所から見えるのかよ! 俺も入って見ていいか!?』
声を聞きつけて4号機のハンガーラックに飛び乗って来たシドにクロウは言う。
「今コックピットハッチを開けるんでちょっとだけ離れてて下さい。このハッチ意外と開く勢い速いんでその位置だと吹っ飛ばされるかもしれません!」
かく言うクロウも、このDX-001に今日初めて乗るときにハンガーラックから吹っ飛ばされそうになった口だ。ヴィンツ軍曹が可哀そうに直撃して吹っ飛ばされていた。
耐衝撃性能を備えるパイロットスーツのおかげで無事だったが、第四世代人類とはいえ、生身で重機の直撃を受ければ無事ではあるまい。
クロウに支給されたパイロットスーツは宇宙服をスマートにしたような構造を持っていた、首元にはヘルメットとパイロットスーツを接続する構造があり、首の動きに干渉しないようになっているが、パイロットスーツとヘルメット内の気密は確保されているそうだった。その構造上、このパイロットスーツは装着した後スイッチで中の空気を抜く構造になっていた。
今日の朝、航空隊のブリーフィングルームに併設された男子更衣室で初めてこのパイロットスーツを身に着けた時、クロウは自身の姿見の鏡に映る姿と、同じくパイロットスーツを着込むケルッコとヴィンツの姿を見て、クロウの時代のダイバースーツかタイトなライダースーツを連想していた。ヘルメットの構造はクロウの知るバイクのフルフェイスヘルメットよりもバイザーの面積が多い。顔全体がバイザー越しに見えた。
その着心地とデザインに満足していたクロウは、男子更衣室を出て、同じく女子更衣室からブリーフィングルームに出て来た女子パイロットスーツ姿を見て激しく後悔した。男子のデザインがライダースーツに衝撃干渉の為のプロテクターを付けたようなそれであれば、当然女子もそのような恰好なのだ。その姿は嫌でもボディーラインを強調した。
特に無意識に目で追ってしまったのはトニアの姿である。彼女は着やせするタイプなのか、いや、実際にはクロウが意識して見ないようにしていたのだが、誰が見ても豊満な胸を持っていた。そのラインを強調された胸をクロウは無意識に見てしまっていた。
ガン見である。無論他意は無いとクロウは言いたい。
他の航空隊員に死ぬほどからかわれたが、それによって被害を受けたのはむしろクロウより見られていたトニアだった。
思い出してクロウは申し訳ない気持ちでいっぱいになったが、モニター越しにシドの動きはちゃんと追っていた。今、ツナギ姿のシドはこのDX-001の凶悪過ぎるハッチ開放の直撃を受ければ大けがである。
シドが十分に距離を取った事を確認してクロウはハッチを開いた。
「おっと、ほんとだ。こいつは危ないな」
「後で改良出来ないですかね?」
「そのうち見ておいてやるよ」
言いながらシドはクロウの座る座席へとよじ登り、腰に付けた安全ベルトをクロウの座席のアームへ固定した。
「これでよしっと、これで『つくば』が勢いよく飛んでも飛んでいくことはあるまい。それにしてもこいつの中は本当に球なんだな」
「モニターが見にくいんで、一旦コックピット閉めますよ?」
「おお、見えた見えた。へえ、視界はこんな感じか、面白いな」
それにしても、とクロウはシドと会話を続ける。
「シド先輩はDX-001に乗ったこと無かったんですね」
「ああ、デックスのコックピット周りとその操作系統はルピナスと艦長が主に弄ってたからな。こいつを動かす評価試験の時はいつもルピナスが動かしてたぞ?」
へえ、とクロウは言いながら、DX-001の愛称がデックスと言う事実を今知った。
「DX-001の愛称も今知りましたよ。デックス。まんまっすね」
「それ、艦長とルピナスの前で言うなよ? なんかカッコいいの考えてるらしい。技術科の内輪でそう言っているだけだ」
だが、とクロウは思う。そういった愛称はそのように広まっていくのだと。それにしてもルピナスがデックスのこのコックピットに座ってるのを想像する。
「足、ペダルに届くんですかね?」
「お、お前。それマリアンの前で絶対言うなよ? あいつルピナスと5cmしか違わねえんだぞ」
言われて、クロウは航空隊の人一倍小さい女性隊員を思い浮かべていた。ああ確かにそれくらいかもしれない。
「心配しなくても、あいつらでも操縦できるように調整機能が付いてるよ。それよりほら、『つくば』の艦の下、見えるか、わっかになって海が凹んでるだろ?」
「ああ、ほんとだ、さっきブリッジで言ってた反重力なんたらってこれの事ですね」
モニターしているつくばの真下では、波もなく真円に海がくぼんで見えた。
「そうそう、ああやって艦からの斥力。要すれば押す力を発生させているんだ、で、完全に海水面から離れたら、今度は斥力じゃなくて反重力の方を強くしていって飛ぶって感じだ。その時、この艦の質量は限りなく0に近づく。つっても実際には質量あるんだけどさ」
クロウにはその知識も勿論インストールされていたが、原理的な事は流石に理解が追い付かない。知識としてインストールされている情報を読み解くための情報が『足らない』のだ。
「ま、1パイロットには関係なさそうな話っすね。デックスにこの機能が載ったら考えないといけないですけど」
「ちょっとまて、クロウ。そいつは盲点かも知れねぇ。ルピナスが聞いたら飛んで喜ぶぞ?」
急に深刻な顔をしてシドが言う。
「反重力エンジンってのはその構造上小型化が難しいんだ。でも、ルピナスなら言えば出来るかも知れねぇ」
「例えばなんですけど、それが出来たらどうなるんです?」
「デックスのもっとすっごいのが出来る!」
「すげええええええ!!」
『ちょっとアンタら、さっきからわざとブリッジに声聞かせてる訳じゃないわよね!?』
急にパラサの怒声がコックピット内に響き渡った。シドのリスコンからである。
「やっべ、通信切るの忘れれたわ。パラサガチギレだわ」
「うっわ、僕関係ないじゃないっすか! 巻き込むの止めてくれませんか?」
『言っておくが、自分以外のクルーを専用のDX-001に乗せたクロウ少尉の方が罪は重い。シド軍曹の通信はミスで片付くが、シド軍曹のコックピットに乗ろうとした行為と、クロウ少尉のコックピットに実際に乗せた行為は懲罰ものだ』
次いで、タイラーの声が、コックピットに響いた。
「「マジかよ」」
シドとクロウの声がコックピットに同時に響いた。
「ちょ、シド先輩。マジ降りて貰っていいですか!?」
「わ、バカ! デックス急に動かすんじゃねえ! 俺は安全帯でしか体が固定されてねえんだぞ! それに今更同じだ!!」
騒ぐ若者たちを他所に『つくば』はその高度をゆっくりと上げていった。
0
お気に入りに追加
28
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武
潮崎 晶
SF
最大の宿敵であるスルガルム/トーミ宙域星大名、ギィゲルト・ジヴ=イマーガラを討ち果たしたノヴァルナ・ダン=ウォーダは、いよいよシグシーマ銀河系の覇権獲得へ動き出す。だがその先に待ち受けるは数々の敵対勢力。果たしてノヴァルナの運命は?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
蒼海のシグルーン
田柄満
SF
深海に眠っていた謎のカプセル。その中から現れたのは、機械の体を持つ銀髪の少女。彼女は、一万年前に滅びた文明の遺産『ルミノイド』だった――。古代海洋遺跡調査団とルミノイドのカーラが巡る、海と過去を繋ぐ壮大な冒険が、今始まる。
毎週金曜日に更新予定です。
法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 人造人間の誕生日又は恋人の居ない星のクリスマス
橋本 直
SF
その文明は出会うべきではなかった
その人との出会いは歓迎すべきものではなかった
これは悲しい『出会い』の物語
『特殊な部隊』と出会うことで青年にはある『宿命』がせおわされることになる
法術装甲隊ダグフェロン 第五部
遼州人の青年神前誠(しんぜんまこと)が司法局実働部隊機動部隊第一小隊に配属になってからほぼ半年の時が過ぎようとしていた。
訓練場での閉所室内戦闘訓練からの帰りの途中、誠は周りの見慣れない雪景色に目を奪われた。
そんな誠に小隊長のカウラ・ベルガー大尉は彼女がロールアウトした時も同じように雪が降っていたと語った。そして、その日が12月25日であることを告げた。そして彼女がロールアウトして今年で9年になる新しい人造人間であること誠は知った。
同行していた運用艦『ふさ』の艦長であるアメリア・クラウゼ中佐は、クリスマスと重なるこの機会に何かイベントをしようと第二小隊のもう一人の隊員西園寺かなめ大尉に語り掛けた。
こうしてアメリアの企画で誠の実家である『神前一刀流道場』でのカウラのクリスマス会が開催されることになった。
誠の家は母が道場主を務め、父である誠一は全寮制の私立高校の剣道教師としてほとんど家に帰らない家だった。
四人は休みを取り、誠の実家で待つ誠の母、神前薫(しんぜんかおる)のところを訪れた。
そこで待ち受けているのは上流貴族であるかなめのとんでもなく上品なプレゼントを買いに行く行事、誠の『許婚』を自称するかなめの妹で両刀遣いの変態マゾヒスト日野かえで少佐の訪問、アメリアの部下である運航部の面々による蟹パーティーなどの忙しい日々だった。
そんな中、誠はカウラへのプレゼントとしてイラストを描くことを思いつき、様々な妨害に会いながらもなんとか仕上げることが出来たのだが……。
SFお仕事ギャグロマン小説。
天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜
八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。
第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。
大和型三隻は沈没した……、と思われた。
だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。
大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。
祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。
※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています!
面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※
※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※
百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話
釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。
文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。
そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。
工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。
むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。
“特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。
工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。
兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。
工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。
スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。
二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。
零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。
かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。
ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる