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Barafundle bay 4
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海は美しく、砂浜はさらさらと居心地が良かった。風が凪いだ時の穏やかさが心地よく、夏なら泳いでもいいだろう。白い絶壁に囲われた湾の形状は殊更波を和らげて、人がいなければプライベートビーチのような解放感を感じる。
マネージャーの仕事を放り出して逃げてしまう程に追い詰められていたはずが、ここにいると不思議と心は穏やかだった。ルイスはその事に自分でも驚いていた。それはカフェで出会った祖父を知る人に話を聞いてからだと思う。悲しい出来事は誰にでも起こる。それをみんな乗り越えて生きているのだ。
バラファンドルの休暇はゆったり過ぎていった。眠たい時に眠り、食べたい時に食べて、考えなければならない事をしっかり考えた。シリルと話そう。そう決めた。結局そこにしか答えはないのだから。
*
逃避行も6日目になり、翌日には戻らなければならない日がやって来た。いつものレストランでブランチを済ませたルイスは白い岸壁の上から水平線を眺めた。遠くの船も近くのヨットも大きな海を漂っている。どこへいくか決めている人はその方向へ進もうともがくだろう。決めずに海へ出れば彷徨う事になる。人生という海原でいつも手を差し伸べてくれる誰かがいる幸せを、幸運にも持ち合わせている。今はその事に感謝しよう。ルイスは美しい風景に溶け込み生きている事を実感していた。
「この景色は本当に壮観だ」
変なタイミングで休暇をとってしまったから皆に迷惑をかけたが、ナタリーからは撮影の報告を毎日もらっていたし、心配するような出来事も無かった。目に焼き付けてつらい時のお守りにしよう。白い岸壁の上で手を広げ風を受け、目を瞑ると、どこからか声が聞こえた。
「――ィ――――」
首を捻って耳を澄ませるとまた聞こえる。
「――ッイ――――」
ルイスは振り返った。陸側から誰かが走って来る。一人もの凄い勢いで。二人その後について。
「ん?あれ?」
逆光になっていてはっきり見えないが、間違いない。
「ルイーーーーーース!!」
凄い勢いで向かってくるのはフィンだった。後ろの二人はアンディとシリルだ。
「え、フィン、怒ってるのかな」
ルイスは青くなった。デビュー作でいきなりマネジャーから放り出されて激怒しているのかも。
「……っやまるなーーー!」
「え?何て?」
走って来る勢いが増す。もしかして殴られちゃうのかな。そんな勢いだけど。ルイスは少し後ずさった。後ろは絶壁。逃げ場所はない。どうしようとキョロキョロ辺りを見廻すが隠れる場所なんてない。
「ここは、落ち着いて、とりあえず仕事放棄した事をまず謝ろう……」
びくびくしながらじっと待っているとフィンはあっという間に目の前にやって来てルイスの腕を掴んだ。
「ご、ごめんなさいっ!ショックだったんだ。考える時間が欲しくて!」
「こんな事していいと思ってんのか!」
「本当にごめんなさい。もう勝手な事しないからっ!」
「何考えてんだ!いい加減にしろよ!命を粗末にするんじゃねぇよ!」
「え?何?」
「お前は何も悪い事してねぇだろ!死ぬなんて絶対だめだ!」
「ちょっ、まっ、何の……」
フィンはルイスの脇に体を入れ込むとルイスを肩に担いだ。
「え?なに?下ろしてよ、フィン?」
「お前を安全な場所に連れて行くまでは下ろさねぇ!」
「何の事!?何?フィン、勘違いしてる?」
「何が勘違いだ。やっぱりあいつらが心配した通りだった」
「何の心配?僕、休暇取ってただけだから」
「嘘つけ!お前探しだすのにどんだけ走り回ったと思ってんだ。こんな誰も知らない所に来て絶壁に立って、飛び降り自殺しようとしてたんだろ。俺はお前にまだ教えてもらいたい事が沢山あるし、俺のマネージャーはお前だろ!ちゃんと最後まで見届けろってんだ」
「違うよ!勘違い、勘違いだからー!下ろしてよ」
フィンはルイスを担いだままビーチまで止まらなかった。
マネージャーの仕事を放り出して逃げてしまう程に追い詰められていたはずが、ここにいると不思議と心は穏やかだった。ルイスはその事に自分でも驚いていた。それはカフェで出会った祖父を知る人に話を聞いてからだと思う。悲しい出来事は誰にでも起こる。それをみんな乗り越えて生きているのだ。
バラファンドルの休暇はゆったり過ぎていった。眠たい時に眠り、食べたい時に食べて、考えなければならない事をしっかり考えた。シリルと話そう。そう決めた。結局そこにしか答えはないのだから。
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逃避行も6日目になり、翌日には戻らなければならない日がやって来た。いつものレストランでブランチを済ませたルイスは白い岸壁の上から水平線を眺めた。遠くの船も近くのヨットも大きな海を漂っている。どこへいくか決めている人はその方向へ進もうともがくだろう。決めずに海へ出れば彷徨う事になる。人生という海原でいつも手を差し伸べてくれる誰かがいる幸せを、幸運にも持ち合わせている。今はその事に感謝しよう。ルイスは美しい風景に溶け込み生きている事を実感していた。
「この景色は本当に壮観だ」
変なタイミングで休暇をとってしまったから皆に迷惑をかけたが、ナタリーからは撮影の報告を毎日もらっていたし、心配するような出来事も無かった。目に焼き付けてつらい時のお守りにしよう。白い岸壁の上で手を広げ風を受け、目を瞑ると、どこからか声が聞こえた。
「――ィ――――」
首を捻って耳を澄ませるとまた聞こえる。
「――ッイ――――」
ルイスは振り返った。陸側から誰かが走って来る。一人もの凄い勢いで。二人その後について。
「ん?あれ?」
逆光になっていてはっきり見えないが、間違いない。
「ルイーーーーーース!!」
凄い勢いで向かってくるのはフィンだった。後ろの二人はアンディとシリルだ。
「え、フィン、怒ってるのかな」
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「……っやまるなーーー!」
「え?何て?」
走って来る勢いが増す。もしかして殴られちゃうのかな。そんな勢いだけど。ルイスは少し後ずさった。後ろは絶壁。逃げ場所はない。どうしようとキョロキョロ辺りを見廻すが隠れる場所なんてない。
「ここは、落ち着いて、とりあえず仕事放棄した事をまず謝ろう……」
びくびくしながらじっと待っているとフィンはあっという間に目の前にやって来てルイスの腕を掴んだ。
「ご、ごめんなさいっ!ショックだったんだ。考える時間が欲しくて!」
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「何考えてんだ!いい加減にしろよ!命を粗末にするんじゃねぇよ!」
「え?何?」
「お前は何も悪い事してねぇだろ!死ぬなんて絶対だめだ!」
「ちょっ、まっ、何の……」
フィンはルイスの脇に体を入れ込むとルイスを肩に担いだ。
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フィンはルイスを担いだままビーチまで止まらなかった。
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