61 / 79
Barafundle bay 3
しおりを挟む
「祖父をご存じで?」
「うむ、やっぱりお孫さんか」
「もし祖父をご存じなのでしたら、少しお話できませんか?祖父をもっと知りたいと思ってここに来たんです」
「構わんよ、いや、懐かしいお顔に会えてわしも嬉しいぞ」
老人は自分のティーカップを持ってきて美しい絵画でも干渉するような目をして前に座り、ルイスの祖父エリアスについて知っている事を語り始めた。
老人の名前はジャイル。当時近くにあるヴァンペルノ家の別荘管理を任されていた使用人の子どもで、祖父と彼の専属執事のレナードが連れ立ってよく遊びに来ていた頃、何度か一緒に遊んでもらった事があったのだと言う。
「エリアス様は優しい綺麗な人じゃった。いつも執事のレナードさんと一緒に二人連れ立って来てな。休暇の間は海で泳いだり釣りをしたり、テニスをしたりと楽しそうに過ごしておられた。主人と執事という垣根を越えて、二人の間には他の者には割り入れない固い友情が見えた。互いを大切に思い合う姿が微笑ましく、仲のいい二人を見るのが使用人たちの楽しみだったとわしの母親はよく話していた。二人が来ると別荘が一気に華やかになるもんでレナードさんが亡くなった時は皆ショックを受けたよ。わしも幼いながらに悲しんだもんだ」
レナードは突然死したらしい。理由は不明。ヴァンペルノ家はその後別荘を売り、レナードの父であるハヤマ士郎が執事引退後、近隣の土地を購入して民宿を始めた。それが宿泊しているコテージだ。老人は硝子の向こうに見える海辺を眺めて目を細めた。太陽を反射する海面が眩しい。
「レナードさんの死が辛かったんじゃろうな、思い出ごと忘れたかったのかも知れん、別荘は売り払われた。何でもエリアス坊ちゃまを救う為にレナードさんが犠牲になって亡くなったのだとか。詳しい真相は知らんがそんな話を聴いた。自分の所為だなんて思ったら自分を赦せんかったじゃろう。もうこの場所へ来ることはないだろうと思っておったんだが、それから二十年程経った後にわしが働いていたホテルへ女性を連れてやってきたんじゃ。神様に選ばれた、というべきか二十年の月日を感じさせぬ美しいお姿のままじゃった。一緒にいた女性がレナードさんの腹違いの妹さんだったと言うのを後から聞いてな、どうりでレナードさんによく似ていると思ったんじゃが、その後二人は結婚されたと聞いて安心したのを覚えとる」
祖父が大好きな友人と過ごした場所。友人を死なせてしまった罪悪感から一度離れたのに、再び愛する人とここへきて、その後足繁く通うようになった。来た事もないのに懐かしくて何故か哀愁を感じるのは祖父の愛と悲しみを受け継いだからなのか。ルイスは邸に飾ってある優しい笑顔の裏にある物語に思いを馳せた。
「話が聞けて良かったです。母が若い頃に祖父は亡くなり、祖母も後を追うように亡くなったので母が知っている事は少なくて。ここが特別な場所なのだとは聞いていたんですが、その意味が今分かりました。祖父は強い人だったんですね。大切な人の死を乗り越えて再び人を愛して」
老人は海岸から目を戻し、目を見開いて青い瞳に笑いかけた。
「エリアス様はレナードさんの死後、もぬけの殻になってしまって死んだように生きていたという。立ち直れたのは彼を愛する周囲の助けがあったからだろう。あんたにもきっと手が差し伸べられているはずだ」
言われてシリル、フィン、アンディの顔が浮かんだ。祖父エリアスはレナードが傍にいたときから皆に支えられて生きている事を痛感していたのかも知れない。だからこそあんなに慈悲深い優しい瞳で人を見ていられたのだろう。容姿が齎す災難も幸運も、自分自身をありのままに受け入れて、きっと真っ直ぐに生きたに違いない。彼の事を知れて良かった。自分の中に彼の強さと優しさが潜んでいる。そんな風に思えた。
「おじいさん、ありがとう」
ルイスはその後ビーチへ向かった。
「うむ、やっぱりお孫さんか」
「もし祖父をご存じなのでしたら、少しお話できませんか?祖父をもっと知りたいと思ってここに来たんです」
「構わんよ、いや、懐かしいお顔に会えてわしも嬉しいぞ」
老人は自分のティーカップを持ってきて美しい絵画でも干渉するような目をして前に座り、ルイスの祖父エリアスについて知っている事を語り始めた。
老人の名前はジャイル。当時近くにあるヴァンペルノ家の別荘管理を任されていた使用人の子どもで、祖父と彼の専属執事のレナードが連れ立ってよく遊びに来ていた頃、何度か一緒に遊んでもらった事があったのだと言う。
「エリアス様は優しい綺麗な人じゃった。いつも執事のレナードさんと一緒に二人連れ立って来てな。休暇の間は海で泳いだり釣りをしたり、テニスをしたりと楽しそうに過ごしておられた。主人と執事という垣根を越えて、二人の間には他の者には割り入れない固い友情が見えた。互いを大切に思い合う姿が微笑ましく、仲のいい二人を見るのが使用人たちの楽しみだったとわしの母親はよく話していた。二人が来ると別荘が一気に華やかになるもんでレナードさんが亡くなった時は皆ショックを受けたよ。わしも幼いながらに悲しんだもんだ」
レナードは突然死したらしい。理由は不明。ヴァンペルノ家はその後別荘を売り、レナードの父であるハヤマ士郎が執事引退後、近隣の土地を購入して民宿を始めた。それが宿泊しているコテージだ。老人は硝子の向こうに見える海辺を眺めて目を細めた。太陽を反射する海面が眩しい。
「レナードさんの死が辛かったんじゃろうな、思い出ごと忘れたかったのかも知れん、別荘は売り払われた。何でもエリアス坊ちゃまを救う為にレナードさんが犠牲になって亡くなったのだとか。詳しい真相は知らんがそんな話を聴いた。自分の所為だなんて思ったら自分を赦せんかったじゃろう。もうこの場所へ来ることはないだろうと思っておったんだが、それから二十年程経った後にわしが働いていたホテルへ女性を連れてやってきたんじゃ。神様に選ばれた、というべきか二十年の月日を感じさせぬ美しいお姿のままじゃった。一緒にいた女性がレナードさんの腹違いの妹さんだったと言うのを後から聞いてな、どうりでレナードさんによく似ていると思ったんじゃが、その後二人は結婚されたと聞いて安心したのを覚えとる」
祖父が大好きな友人と過ごした場所。友人を死なせてしまった罪悪感から一度離れたのに、再び愛する人とここへきて、その後足繁く通うようになった。来た事もないのに懐かしくて何故か哀愁を感じるのは祖父の愛と悲しみを受け継いだからなのか。ルイスは邸に飾ってある優しい笑顔の裏にある物語に思いを馳せた。
「話が聞けて良かったです。母が若い頃に祖父は亡くなり、祖母も後を追うように亡くなったので母が知っている事は少なくて。ここが特別な場所なのだとは聞いていたんですが、その意味が今分かりました。祖父は強い人だったんですね。大切な人の死を乗り越えて再び人を愛して」
老人は海岸から目を戻し、目を見開いて青い瞳に笑いかけた。
「エリアス様はレナードさんの死後、もぬけの殻になってしまって死んだように生きていたという。立ち直れたのは彼を愛する周囲の助けがあったからだろう。あんたにもきっと手が差し伸べられているはずだ」
言われてシリル、フィン、アンディの顔が浮かんだ。祖父エリアスはレナードが傍にいたときから皆に支えられて生きている事を痛感していたのかも知れない。だからこそあんなに慈悲深い優しい瞳で人を見ていられたのだろう。容姿が齎す災難も幸運も、自分自身をありのままに受け入れて、きっと真っ直ぐに生きたに違いない。彼の事を知れて良かった。自分の中に彼の強さと優しさが潜んでいる。そんな風に思えた。
「おじいさん、ありがとう」
ルイスはその後ビーチへ向かった。
0
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
普通の学生だった僕に男しかいない世界は無理です。帰らせて。
かーにゅ
BL
「君は死にました」
「…はい?」
「死にました。テンプレのトラックばーんで死にました」
「…てんぷれ」
「てことで転生させます」
「どこも『てことで』じゃないと思います。…誰ですか」
BLは軽い…と思います。というかあんまりわかんないので年齢制限のどこまで攻めるか…。
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
婚約者に会いに行ったらば
龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。
そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。
ショックでその場を逃げ出したミシェルは――
何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。
そこには何やら事件も絡んできて?
傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。
被虐趣味のオメガはドSなアルファ様にいじめられたい。
かとらり。
BL
セシリオ・ド・ジューンはこの国で一番尊いとされる公爵家の末っ子だ。
オメガなのもあり、蝶よ花よと育てられ、何不自由なく育ったセシリオには悩みがあった。
それは……重度の被虐趣味だ。
虐げられたい、手ひどく抱かれたい…そう思うのに、自分の身分が高いのといつのまにかついてしまった高潔なイメージのせいで、被虐心を満たすことができない。
だれか、だれか僕を虐げてくれるドSはいないの…?
そう悩んでいたある日、セシリオは学舎の隅で見つけてしまった。
ご主人様と呼ぶべき、最高のドSを…
目覚めたそこはBLゲームの中だった。
慎
BL
ーーパッパー!!
キキーッ! …ドンッ!!
鳴り響くトラックのクラクションと闇夜を一点だけ照らすヘッドライト‥
身体が曲線を描いて宙に浮く…
全ての景色がスローモーションで… 全身を襲う痛みと共に訪れた闇は変に心地よくて、目を開けたらそこは――‥
『ぇ゙ッ・・・ ここ、どこ!?』
異世界だった。
否、
腐女子だった姉ちゃんが愛用していた『ファンタジア王国と精霊の愛し子』とかいう… なんとも最悪なことに乙女ゲームは乙女ゲームでも… BLゲームの世界だった。
目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる