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Barafundle bay 3

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「祖父をご存じで?」
「うむ、やっぱりお孫さんか」
「もし祖父をご存じなのでしたら、少しお話できませんか?祖父をもっと知りたいと思ってここに来たんです」
「構わんよ、いや、懐かしいお顔に会えてわしも嬉しいぞ」

 老人は自分のティーカップを持ってきて美しい絵画でも干渉するような目をして前に座り、ルイスの祖父エリアスについて知っている事を語り始めた。

 老人の名前はジャイル。当時近くにあるヴァンペルノ家の別荘管理を任されていた使用人の子どもで、祖父と彼の専属執事のレナードが連れ立ってよく遊びに来ていた頃、何度か一緒に遊んでもらった事があったのだと言う。

「エリアス様は優しい綺麗な人じゃった。いつも執事のレナードさんと一緒に二人連れ立って来てな。休暇の間は海で泳いだり釣りをしたり、テニスをしたりと楽しそうに過ごしておられた。主人と執事という垣根を越えて、二人の間には他の者には割り入れない固い友情が見えた。互いを大切に思い合う姿が微笑ましく、仲のいい二人を見るのが使用人たちの楽しみだったとわしの母親はよく話していた。二人が来ると別荘が一気に華やかになるもんでレナードさんが亡くなった時は皆ショックを受けたよ。わしも幼いながらに悲しんだもんだ」

 レナードは突然死したらしい。理由は不明。ヴァンペルノ家はその後別荘を売り、レナードの父であるハヤマ士郎が執事引退後、近隣の土地を購入して民宿を始めた。それが宿泊しているコテージだ。老人は硝子の向こうに見える海辺を眺めて目を細めた。太陽を反射する海面が眩しい。

「レナードさんの死が辛かったんじゃろうな、思い出ごと忘れたかったのかも知れん、別荘は売り払われた。何でもエリアス坊ちゃまを救う為にレナードさんが犠牲になって亡くなったのだとか。詳しい真相は知らんがそんな話を聴いた。自分の所為だなんて思ったら自分を赦せんかったじゃろう。もうこの場所へ来ることはないだろうと思っておったんだが、それから二十年程経った後にわしが働いていたホテルへ女性を連れてやってきたんじゃ。神様に選ばれた、というべきか二十年の月日を感じさせぬ美しいお姿のままじゃった。一緒にいた女性がレナードさんの腹違いの妹さんだったと言うのを後から聞いてな、どうりでレナードさんによく似ていると思ったんじゃが、その後二人は結婚されたと聞いて安心したのを覚えとる」

 祖父が大好きな友人と過ごした場所。友人を死なせてしまった罪悪感から一度離れたのに、再び愛する人とここへきて、その後足繁く通うようになった。来た事もないのに懐かしくて何故か哀愁を感じるのは祖父の愛と悲しみを受け継いだからなのか。ルイスは邸に飾ってある優しい笑顔の裏にある物語に思いを馳せた。

「話が聞けて良かったです。母が若い頃に祖父は亡くなり、祖母も後を追うように亡くなったので母が知っている事は少なくて。ここが特別な場所なのだとは聞いていたんですが、その意味が今分かりました。祖父は強い人だったんですね。大切な人の死を乗り越えて再び人を愛して」

 老人は海岸から目を戻し、目を見開いて青い瞳に笑いかけた。

「エリアス様はレナードさんの死後、もぬけの殻になってしまって死んだように生きていたという。立ち直れたのは彼を愛する周囲の助けがあったからだろう。あんたにもきっと手が差し伸べられているはずだ」

 言われてシリル、フィン、アンディの顔が浮かんだ。祖父エリアスはレナードが傍にいたときから皆に支えられて生きている事を痛感していたのかも知れない。だからこそあんなに慈悲深い優しい瞳で人を見ていられたのだろう。容姿が齎す災難も幸運も、自分自身をありのままに受け入れて、きっと真っ直ぐに生きたに違いない。彼の事を知れて良かった。自分の中に彼の強さと優しさが潜んでいる。そんな風に思えた。

「おじいさん、ありがとう」

 ルイスはその後ビーチへ向かった。
 
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