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崩れることを知らない恋心

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 声が聞きたくなって、性懲りも無くまた電話を掛けた。

「元気にしてるのか、」
『うん、元気だよ、フィンは、』
「元気だ。何してたんだ、」
『今日はまだクライアントが来てないから勉強中』

 電話口は静かで他には音が聞こえない。本当に勉強しているのだろう。

「何の勉強だよ」
『色々、法律とか、ややこしい事。難しいよ、でもやりたい事だからいいんだ』
「そっか……。危険な事してる訳じゃないんだな」
『危険かどうかはわかんないけど、フィクサーの仕事とは訳が違うから心配しなくてもいいよ、ありがとう。ね、それより俳優業はどう、楽しい?』
「まぁ今の所は楽しいって言うより、やれって言われた事やってるだけだから演技ってもんができてるのかどうか今一解んねぇ。ただ監督はそのままで良いって言ってくれてるから何とかやれてるんだろうと思う」

 そう言うとカイは嬉しそうに笑った。

『ふふっ……』
「なんだよ、俺なんかへんな事言ったか?」
『ううん、発音がね、イギリス英語だなぁって。凄く頑張ってるんだなぁって思ってさ』
「だろーー!?もっと褒めてくれよ、俺の英語の先生超厳しくてさ。少しでも汚い言葉使ったり間違ったイントネーション使ったら、“はい、言い直しです!”って正しい発音と言葉遣いに直すまで許してくれねぇんだぜ?超絶美人だけど、超絶スパルタだぜ」

 ルイスに聞こえてねぇだろうな、とトレーラーにちらりと目を遣り窓が空いてない事に安堵する。

『あはは、ハリウッド映画なんだから仕方ないな。でも本当に凄い、友人として誇りに思う。映画楽しみにしてるから、また教えてくれよ』
「勿論だ、試写会には呼ぶから来てくれよな」
『ええ!?そんな目立つ事は遠慮する』
「いいじゃねぇか。綺麗な銀髪靡かせてレッドカーペット歩く姿を思い浮かべるだけで……」

 危うく「うっとりする」とまで言ってしまいそうで俺は口を噤んだ。カイを困らせるのは分かってる。

「―――来てくれよ、会いたい」
『フィン……』

 いいじゃねぇか、友人に会いたいと思うのは至極自然な事だ。そう自分に言い聞かせてみても切なさに襲われる。もう俺を見ない綺麗なオッドアイ……。

「お前に立派になったところを見てもらいたい……って、まぁそれは今からだけどな、はははっ」

 そしてその時、きっとお前を護れる強い男になっているから、もう一度俺を見てくれと、そんな事を電話で言える訳もなく色んな言葉を飲み込んで俺は語尾を濁した。そんな俺に気付いたのか、カイは穏やかに言った。

『フィン、離れてても応援してる。何かあったら連絡してくれ。俺もまた声が聞きたくなったら電話するから』

 カイから電話して来た事なんて無い。俺なしでも何ともないのかと、聞いたらそんな事はないと返すに決まってる。答えは分かってるから俺は待ってるよと笑って電話を切った。

 恋しくなって電話したけど、電話をする度に胸が妬け付く。落ち着いて満たされた声を聞くと心配しなくてもいいんだと安心するのに、その半面その安心を与えているのが自分では無い事を突きつけられている気がした。俺ではカイの苦しみを取ってやる事さえ出来なかったのに、今のカイはとても幸せそうだ。その幸せに俺と言う存在を介入させて、彼を惑わすような言動をする事はカイの心を苦しめるだけになる、自分の想いはもう捨て去るべきなのではないか、そう思うのに恋しさは崩れる事を知らない。抑えられない愛しさと暴れる熱を我慢した長く甘いあの時間を思い出さない日はない、寧ろ糧にして生きているといっても過言ではない。

「俺は飛んだマゾなのかもな……」

 望みが無いものに憧れ、傷つくのに想わずには居られない。躍起になりそうな気持ちをコントロールできるようにならない限り、アイツに会いに行ってもまだガキだと言われそうだ。切り替えねぇとな。

 両手で頬をパンパンと二回自分で叩いて気合を入れなおす。トレーラーの中に入るとルイスが起きてソファで台本を読んでいた。俺は目一杯冷静な声で話しかけた。

「起きてていいのかよ、先生」

 今は出来る事をするだけだ、そう心の中で呟いてルイスの向かいに座り明日のシーンの練習を始めた。











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