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トレーラー
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俳優達もスタッフもまだ完全には緊張が解れておらずその日の撮影の雰囲気は全体的に堅く時間どおりに卒なく終わった。そわそわする気持ちを抱えながら翌日の段取りの説明を聞き終わるとフィンはルイスの姿を探した。
ルイスを見かけなかったかとスタッフに聞くと外のトレーラーに入っているからと言伝がありフィンは教えられた番号に向かう。撮影現場に入った時点で既に監督が現場に来ていた為フィンとルイスはそのまま現場へ直行していた。フィンは自分の名前が入口に書いてある一つに辿り着くと遠慮がちにノックをしてドアを開け、幅の狭い階段を数段上がり視界を遮る鈍い青色のカーテンをそっと引いてルイスを呼んだ。
「ルイス……居るのか?」
左手にキッチンがあり小さな冷蔵庫や水場が備わっていてその奥にはメイクを施す鏡と椅子が壁伝いに備え付けられている。車内でメイクや衣装替えの準備が全て整う様に設備されており、鏡の反対側には低いソファーとテーブルも置いてあって食事も行える様になっているがそこにもルイスの姿は無かった。
静かな室内に撮影の荷物を片付ける外からの音が響く。一番奥にベッドルームらしき部屋とサイドにシャワーマークがついた部屋がありフィンはその一番奥の部屋のドアを叩いた。
「ルイス、居るのか、入るぞ」
鍵のかかっていない木の軽いドアをそっと開き中の様子を確認すると、窓が高い場所に付いていて部屋は自然光だけで十分明るい。
トレーラーの幅半分以上もある大きめのベッドが右壁に沿って設置してありルイスはそのベッドに仰向けで横たわっていた。
来ていたジャケットとベストは脇にある椅子の背もたれに掛けられており、ベルトも綺麗に巻いて座面に置いてある。倒れ込んだ訳では無かった事にフィンは少し安堵してベッド脇の椅子を動かしルイスを覗き込んだ。
白蠟の様な艶のなさではなくキメの細かい透き通る様な美しい肌に汗が滲み、時折大きく息を吐いては浅く苦しそうな呼吸を繰り返し喉に詰まる苦しみをどうにか逃がそうと試みている。魘されては居なかったが気持ちよく寝ていると言う訳ではなかった。
繊細な体が揺れて体調が悪いのを見ていたフィンは熱を疑いその額に手を延ばそうとしたが、直ぐに止めた。ルイスが自分に対して置こうとしている距離を考えるといい考えだとは思えない。フィンは十分に彼の警戒心を知っていた。仲良くしている様でも一線を引こうとしている彼の気持ちは推し量れなかったが、彼が守ろうとしている何かを勝手に崩してしまう様な気がして、彼の心に土足で踏み込んでしまう様な気がして臆病になった。ガタガタと台車を引く音に加えて聞き取れない人の声が近づいたり遠のいたりしてフィンはやはり手を退けようとする。
だが止めていたフィンの手首に、不意にルイスの温かい吐息が掛かるとそれはまるで自分にもちゃんと命は宿っているのだと自己主張する様に思えて、どこか縋られている様な感覚に襲われ、フィンは躊躇いを振り払い彼の額に手の平を当てた。
熱はなく、ただ心地の悪そうな水滴と浅い呼吸に眠りを妨げられている様に見える。
フィンはキッチンに戻りお湯で人肌程の暖かさにした濡れタオルを作るとまたベッドルームに入りルイスの額の汗を優しく拭き、頬と首元の汗も拭いてやった。
タオルの水分が彼の熱を少し奪い幾分か呼吸に落ち着きが戻ると、今度は手を延ばし彼の左頬に手を添えた。彼の体温の低さが伝わる。フィンの体温はルイスのものよりも随分高かった。撮影を終えて気が立っているからかも知れない。だが頬に手を添えられると更に安堵の呼吸となったルイスを見てフィンは両手で顔を包んだ。
「大丈夫だ……」
そう声を掛けると寝息が健やかに落ち着き、ルイスが薄らと目を開けた。深く濃いエメラルドブルーが隙間から光を放ちながらゆっくりと揺らめくと幾度かの瞬きの後にその全貌を現した。ぼんやりとした寝起きの宝石は温もりの主に焦点を合わせる。
「フィン……」
「今日の撮影はさっき終わった」
「―――……すいません、ずっと寝てて……これじゃマネージャー失格ですね」
「大丈夫か」
「ええ、もう……」
そう言ってフィンの包む手を柔らかく両手で頬から剥がした。起き上がろうとしたルイスをフィンは剥がされた手で軽く抑えまだ眠っていろと言った。
「でも……もう撮影は終わったんですよね」
「お前はもう少し横になっていた方がいい」
「大丈夫ですってば」
「顔色がまだ戻ってない」
「元々こんな色です」
そう言い半身を起こそうとするとやはりフィンにふさがれる。
「ここにはなんでもある、急いで帰らなくても良い」
「ですが……」
抵抗の力は弱く十分に回復していない様子でまだ怠そうだった。
「明日も撮影はあるんだ、このトレーラーに泊まってもいい。無理して不調が長引いたら俺が困る」
そう言われてルイスは素直に頭を枕に預けた。
「何か飲むか?」
「ええ、レモネードを……」
「何だよ、そんなややこしいもんあんのかよ」
そう言ってドアを開け放ったままフィンは冷蔵庫を開けて置いてあった飲み物を物色した。一揃え飲み物とアルコールが置いてある。市販のものだがレモネードは幸い用意してあった。
「あったぜ」
少し声を張りベッドのルイスにボトルを掲げて見せる。
「ドリンクは頼んであったものなので」
「何だ、道理で俺好みのドリンクまであるわけだ」
フィンは片手にレモネード、もう一方にステラアトワのビールを持ってルイスの元に戻ると炭酸のボトルを開けてルイスに渡した。
「ほらっ」
「ありがとうございます、すいません」
ルイスはベッドヘッドにもたれて半身を起こしてレモネードを口にし、体調不良を謝った。
「ごめんなさい、初日なのに」
「初日だからじゃねぇか、気にするなよ」
「……」
「初日だからじゃないか、これでいいだろ?」
そう言い直してフィンはビール瓶の蓋を器用にスプーンの柄で開けて今日の出来事をまだ眠そうなルイスに簡単に報告した。
ルイスを見かけなかったかとスタッフに聞くと外のトレーラーに入っているからと言伝がありフィンは教えられた番号に向かう。撮影現場に入った時点で既に監督が現場に来ていた為フィンとルイスはそのまま現場へ直行していた。フィンは自分の名前が入口に書いてある一つに辿り着くと遠慮がちにノックをしてドアを開け、幅の狭い階段を数段上がり視界を遮る鈍い青色のカーテンをそっと引いてルイスを呼んだ。
「ルイス……居るのか?」
左手にキッチンがあり小さな冷蔵庫や水場が備わっていてその奥にはメイクを施す鏡と椅子が壁伝いに備え付けられている。車内でメイクや衣装替えの準備が全て整う様に設備されており、鏡の反対側には低いソファーとテーブルも置いてあって食事も行える様になっているがそこにもルイスの姿は無かった。
静かな室内に撮影の荷物を片付ける外からの音が響く。一番奥にベッドルームらしき部屋とサイドにシャワーマークがついた部屋がありフィンはその一番奥の部屋のドアを叩いた。
「ルイス、居るのか、入るぞ」
鍵のかかっていない木の軽いドアをそっと開き中の様子を確認すると、窓が高い場所に付いていて部屋は自然光だけで十分明るい。
トレーラーの幅半分以上もある大きめのベッドが右壁に沿って設置してありルイスはそのベッドに仰向けで横たわっていた。
来ていたジャケットとベストは脇にある椅子の背もたれに掛けられており、ベルトも綺麗に巻いて座面に置いてある。倒れ込んだ訳では無かった事にフィンは少し安堵してベッド脇の椅子を動かしルイスを覗き込んだ。
白蠟の様な艶のなさではなくキメの細かい透き通る様な美しい肌に汗が滲み、時折大きく息を吐いては浅く苦しそうな呼吸を繰り返し喉に詰まる苦しみをどうにか逃がそうと試みている。魘されては居なかったが気持ちよく寝ていると言う訳ではなかった。
繊細な体が揺れて体調が悪いのを見ていたフィンは熱を疑いその額に手を延ばそうとしたが、直ぐに止めた。ルイスが自分に対して置こうとしている距離を考えるといい考えだとは思えない。フィンは十分に彼の警戒心を知っていた。仲良くしている様でも一線を引こうとしている彼の気持ちは推し量れなかったが、彼が守ろうとしている何かを勝手に崩してしまう様な気がして、彼の心に土足で踏み込んでしまう様な気がして臆病になった。ガタガタと台車を引く音に加えて聞き取れない人の声が近づいたり遠のいたりしてフィンはやはり手を退けようとする。
だが止めていたフィンの手首に、不意にルイスの温かい吐息が掛かるとそれはまるで自分にもちゃんと命は宿っているのだと自己主張する様に思えて、どこか縋られている様な感覚に襲われ、フィンは躊躇いを振り払い彼の額に手の平を当てた。
熱はなく、ただ心地の悪そうな水滴と浅い呼吸に眠りを妨げられている様に見える。
フィンはキッチンに戻りお湯で人肌程の暖かさにした濡れタオルを作るとまたベッドルームに入りルイスの額の汗を優しく拭き、頬と首元の汗も拭いてやった。
タオルの水分が彼の熱を少し奪い幾分か呼吸に落ち着きが戻ると、今度は手を延ばし彼の左頬に手を添えた。彼の体温の低さが伝わる。フィンの体温はルイスのものよりも随分高かった。撮影を終えて気が立っているからかも知れない。だが頬に手を添えられると更に安堵の呼吸となったルイスを見てフィンは両手で顔を包んだ。
「大丈夫だ……」
そう声を掛けると寝息が健やかに落ち着き、ルイスが薄らと目を開けた。深く濃いエメラルドブルーが隙間から光を放ちながらゆっくりと揺らめくと幾度かの瞬きの後にその全貌を現した。ぼんやりとした寝起きの宝石は温もりの主に焦点を合わせる。
「フィン……」
「今日の撮影はさっき終わった」
「―――……すいません、ずっと寝てて……これじゃマネージャー失格ですね」
「大丈夫か」
「ええ、もう……」
そう言ってフィンの包む手を柔らかく両手で頬から剥がした。起き上がろうとしたルイスをフィンは剥がされた手で軽く抑えまだ眠っていろと言った。
「でも……もう撮影は終わったんですよね」
「お前はもう少し横になっていた方がいい」
「大丈夫ですってば」
「顔色がまだ戻ってない」
「元々こんな色です」
そう言い半身を起こそうとするとやはりフィンにふさがれる。
「ここにはなんでもある、急いで帰らなくても良い」
「ですが……」
抵抗の力は弱く十分に回復していない様子でまだ怠そうだった。
「明日も撮影はあるんだ、このトレーラーに泊まってもいい。無理して不調が長引いたら俺が困る」
そう言われてルイスは素直に頭を枕に預けた。
「何か飲むか?」
「ええ、レモネードを……」
「何だよ、そんなややこしいもんあんのかよ」
そう言ってドアを開け放ったままフィンは冷蔵庫を開けて置いてあった飲み物を物色した。一揃え飲み物とアルコールが置いてある。市販のものだがレモネードは幸い用意してあった。
「あったぜ」
少し声を張りベッドのルイスにボトルを掲げて見せる。
「ドリンクは頼んであったものなので」
「何だ、道理で俺好みのドリンクまであるわけだ」
フィンは片手にレモネード、もう一方にステラアトワのビールを持ってルイスの元に戻ると炭酸のボトルを開けてルイスに渡した。
「ほらっ」
「ありがとうございます、すいません」
ルイスはベッドヘッドにもたれて半身を起こしてレモネードを口にし、体調不良を謝った。
「ごめんなさい、初日なのに」
「初日だからじゃねぇか、気にするなよ」
「……」
「初日だからじゃないか、これでいいだろ?」
そう言い直してフィンはビール瓶の蓋を器用にスプーンの柄で開けて今日の出来事をまだ眠そうなルイスに簡単に報告した。
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