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第十一話
しおりを挟む(僕は雪の精霊に出会ったんだ!きっとそうだ、雪の精だ!)
斜面を駆け下りながらユキトは心を躍らせた。本の中の出来事が自分にも起こるなんて。走りながら家に向かい興奮したままのユキトは家に着くとまた自分の腹を確認した。
いつもは数日間残り、消えない筈のその痣はどこにも無い。
(僕は選ばれたんだ)
不思議な人は不思議な力を使って自分の傷を治した。その事が堪らなく嬉しくてユキトは興奮して眠れなかった。母親が帰ってきてもまだ布団の中で今日起きた出来事を何度も何度も頭の中で思い出し、そして笑った。
(雪の精が僕を守ってくれる。永雪さんが守ってくれる)
そう思うだけでユキトは安心して眠る事が出来た。
――――――――
「今日は金、持って来たんだろうっ、なぁっ!」
羽交い絞めにされたユキトの腹に少し体格のいい同級生が拳を叩きつける。
「っう……。お前らなんか……地獄に落ちろ……」
ユキトの心に生まれた後ろ盾にユキトは強気になって反抗した事もなかったのに初めて言い返した。
見ていただけの数人が殴る同級生をさらに焚きつける。
「こいつ、口答えし始めたぞ。もっと判らせないとダメだ」
「お前等なんか怖くない。お前等なんて一人じゃ何にも出来ない弱虫ばっかりだ」
「うるさいんだよ!この気狂い!捨て子!親なし子!お前がそんな変だから親に捨てられるんだよ」
「僕は捨てられてなんか無い!ちゃんと家もある!母さんは働いてるだけだ!」
「うるさいっ!死ねよ!ほらっ!」
また拳が腹に、背中に叩きつけられる。鳩尾に強い痛みが走ると立っていられなくなりユキトは倒れ、顔や背中や腹を数人に蹴られた。
「っぐぁ……」
「っおい、やばい、人が来るぜ、行こう」
走り去った後には足跡を一杯つけて体を屈めて横たわるユキトが居た。
「えぃ……雪さん……」
辺りの白い雪を見てユキトはゆっくり体を起こし、痛む箇所に手を当てながらまた山へ登り始めた。
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