雪の記憶 ー僕を救った妖精ー

小鷹りく

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第十話

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 雪が浮かび集まる様をまるで魔法が起こったような面持ちで眺めていたユキトだったが、食べろと言われて躊躇った。

「どうして食べるの?」

「痛いのだろう」

「痛いけど」

 永雪は手の平の雪をユキトの口元へ運んだ。

 ユキトは今起こった奇跡に浸っていたいのに永雪は大真面目で集めたそれらを食べろと言う。ユキトは興奮してくる神経に背筋を刺激されながらも言われるままその雪を食べた。

 粉雪は口の中で一つに固まり一度氷の様に堅くなると口の中の温かさに溶かされて喉の奥へと流れていった。そして腹に入るとそれらが温かくなって今度は血が上に昇るのを感じる。

 そしてすぐにユキトの両目から涙がドロドロと流れ出た。

 ユキトは泣く積もりも無いのに目から沢山の涙が出ることに驚く。

「僕、別に悲しくないのに、なんで……」

 永雪はその様子をじっと見ながら柔らかく笑った。

「痛みは」

 ユキトが痣のあった部分をそうっと触ると動く度に生まれていた嫌な痛みが消えていた。はっとして自分で服を捲り腹を覗くと痣がゆっくりと消えていく。ユキトは永雪の顔を見た。

「これ……」

「お前の体にワシの結晶を流し込んだ。人の体は殆ど水で出来ている。お前の体の痛んだ水を私の結晶と入れ替えた。痛んだ水は涙として捨てるがいい」

 ユキトはやっとその人が事を悟った。


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