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第八話
しおりを挟む「……あの、僕、この山が誰のものか知らなくて、すいませんでした」
「……寒くないなら構わん。……ワシと話せるか。お前くらいの歳の男の子なら大丈夫だろう」
言われた言葉の真意を汲めず首を傾げてユキトは微笑んだその人の笑顔にどこか自分と同じ寂しさを感じて提案に頷いた。
雪の上に座るとユキトの服が濡れるからと頂上に聳える立派な山桃の木の根に腰掛けて二人は話し始めた。
「名はなんと言う」
「ユキト、です」
「ユキトか、よい名だ。お前はこの近くに住んで居るのか?」
「えっと、少し離れてます。ここから、ほらあの白い建物見えるでしょう?あの建物のもっとこっち側にあるお寺の後ろ辺りです」
ユキトは見下ろす町並みの中から自分の家の方角を指差した。
「あなたは?」
「ワシは……奴はワシを永雪と呼んだ」
永雪と名乗ったその人は街並みを眺める。いつの間にか橙に染まる光に照らされ、ついさっきまで真っ白だった永雪の肌に少し色が付いたように見えてユキトは安堵した。
「永雪さんはどこに住んでるの。ここの麓?」
「ワシの寝床はこの木の中だ」
「木の中?」
木の中が実は空洞になっていてそこに眠っているのか、ユキトは立ち上がり大木の周りを一周した。
「穴、ないよ?」
「ふふ、お前は面白いのぅ」
寒さが強まるのに笑った永雪はまた一段と暖かさを増して見えた。
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