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Chapter 11:Violence
しおりを挟む電話を終えた染谷は、部屋から出て来て言った。
「すぐに能力の全開が敵対組織に解るものではありませんので、さほど急を要する移動ではございませんが、お引越しを。このアパートに居れるのも今月一杯くらいと考えて戴きたく思います。
私はこのアパートの近くに住んでおりますので、何か変化があればすぐにとんで来れるように手配は整っておりますが、どこから情報が漏れるかわかりませんので。」
この家の近くなのかよ!!と突っ込みたくなる。道理で時々道端でばったり会うわけだ。
彼の実家がこの近くだと聞いていたので、俺は単純にちょくちょく実家に戻る親思いの奴なんだと思っていたのだ。
俺は人の事を余り気にしない所があって、興味がない訳ではないが、自分が詮索されたくないタイプなので、必要以上に人に聞かないだけだが、それが人によっては無関心、冷たいなどと思われたりする。
「引越ししないといけないくらい危険なものなのか?」
「はい、出来れば。私どもも安心してお守りできますので。」
口調は丁寧だが、有無を言わさず連行されそうな勢いだ。
でも、さっき染谷に言われた事を考えてみれば、今までも伊集院家の中だけで秘密にしていたのに、ばあちゃん(会った事ないけど)が殺された事を考えると、中から情報が漏れてる可能性が高いのか…。
染谷の真剣な表情を見ていると、事態が深刻なのかもと認識し出した。
危険が及ぶことはないとは言い切れないのは少し怖い。
俺は暴力に対して、恐らく普通の成人男性が持つだろう恐怖の何倍もの恐怖を感じる。
恐ろしい光景を思い出す。
―――――
ある朝、おはようとまだ寝ているであろう母親の部屋を覗くと、母親は目の腫れで表情が見えない程ボコボコに腫上がった顔になっていて、所々血の塊が付着した血まみれの包帯で頭をグルグルに巻いていて、見るも無残な状態で寝ていた。
ストーカーが家に来て子供達を怖がらせるから、母親が外で話そうと、ストーカーの家に行ってしまった結果だった。顔を何発も殴られ、壁に頭を何度も打ち付けられ、力の差が歴然と違うボクサーに殴られ続けた敗者のような腫れ上がった顔になっていた。
俺はそこまで顔を殴られたことはなかったが、小さい体が部屋の隅まで吹っ飛んで、棚が倒れる位の暴力は何度も受けた。
俺は絶望した。自分はどうなっても、母親を殴られるのが嫌だった。どうやってそいつを殺そうかと考えた。まだ子供だった俺は、とりあえず殺したい事以外何も考えられず、やっと連絡先が分かった父親に連絡したら、すぐにストーカーは居なくなった。
親父とはその一件以来連絡をとっていない。きっとその伊集院家が親父の依頼で助けてくれたのだろう。
俺たちの命の危機を救ってくれた事には感謝しているが、俺たちの生活は苦しいまま、母親一人で2人の子供を育てる生活は変わらなかった。父親はなぜもう一度俺たちの所へ戻ってきてくれなかったのか。伊集院家は何故俺を助けてくれなかったのか?
無性に腹立たしくなってきた。
なぜ俺はあんなに苦しい目にあったのに、また逃げ回るような境遇に追いやられなければならないんだ。
俺は逃げる為に生きているわけじゃない。
理不尽さを感じて胃が痛くなる。俺は一体何のために生きているんだよ。これからどうなるんだ?
不安が一気に押し寄せてくる。ストーカーから逃げ回っていた時のように、また逃げ回る生活をするのか?
今度こそ俺の命を狙われて?
思い出した過去の恐怖に捕われて、俺は自分の両腕が震えるのをぎゅっと堪えた。
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