スケアクローと白いシャツ

小鷹りく

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 穂高がまた案山子の事を話してくれたと浩輔から聞いた。座敷童という設定にしたらしい。願い事を叶えてくれて、叶えたらいなくなるという都合のいい話を穂高はにわかに信じたようだった。穂高の反応に浩輔は少し引っかかるものがあると話した。



「願い事叶えたら神様はおらんなるって言うたらすごい残念そうな顔した」

「そうなの……」

「兄ちゃん、泉川に何話したの」

「何って、別に」

「兄ちゃんは人たらしやから」

「なんだそれ」



 若干の斜め下からの発言でよかったと崇は胸をなでおろした。もしかして浩輔は自分がそうである事を知っているけど知らないふりをしてくれているのかもしれない。



「稲刈りの時に案山子は撤去するし、それまでにうまく進めばいいなぁ」

「うん」



 二人はそうやって穂高を見守っていたが穂高は一歩が踏み出せずにいた。稲刈りは土日に行われるから案山子が立っていられるのは稲刈りまでだ。案山子として相談に乗ってあげられなくなる。穂高がこのまま前に進めない状態だと心配だ。今日行ったら強めに背中を押そう。そう思って穂高に逢ったが、浩輔に言われた通り穂高は崇に興味を持っている様だった。



 「僕、案山子さんと会いたいです」



 綺麗な顔してなんて可愛い事を言う子なんだ。いやいや、今はそういう事じゃなくて。相手は中学生なんだから真に受けて喜んでる場合じゃない。自分はいなくなる案山子の神様としてここに居て、穂高にアドバイスをしに来たんだ。一歩を踏み出す勇気をこの子にあげたい。どうしたら……。



 「病気であることは悪い事じゃない。恥ずかしい事じゃない。自分をちゃんと大事にしてやれ。きっと大丈夫。友達が手伝ってくれる」

 

 浩輔、後は頼んだ。突き放す様に言ってしまったけれど、自分に飛び込んできそうな彼を受け止める余裕が、今の自分にはないような気がした。あんなに真っすぐ自分の気持ちを言えるんだ。きっと大丈夫。自分に言い聞かせるように崇は山側から家へ帰った。


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