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しおりを挟む大城のいない寮生活はまるで空っぽの映画館に置き去りにされたような孤独感を連れてきた。大城の話はあちこちに拡散されていて皆自分の事を色眼鏡で見ている様な被害妄想に悩まされる日々。実家に帰っている間に悪い噂が独り歩きして孤独な状況が更に悪化するのが怖くて冬休みも春休みも帰れないと父親に謝った。
夏になる前に大城のモデルデビューの噂が流れ、テレビのニュースでモデルの卵として取り上げられるのを見ると崇の周囲には急に人が集まりだした。有名になっていくかもしれないモデルの元恋人と仲良くなっておきたい、そんな下心が見え隠れしたあからさまな変化だった。
大城が暴力沙汰で停学になった時は後ろ指を指していたのに、大城がモデルになるかもしれないというニュースが広まれば手のひらを返す。空しくなった崇は懇意にする友人を作る事なく過ごした。大学を出て生花店をオープンするのがここへ来た最大の目的で、仲良しごっこをするために大学へ入ったわけではない。大城がいなくなったのは悲しいけれど、彼はやりたい事のために前へ進んでいる。もし自分が進めずにずっと大城の背中ばかりを追いかけて夢をあきらめるような事をすれば、大城の事を恨んでしまうかもしれない。そうすれば大切だった思い出も恨みやつらみで歪んでしまうだろう。綺麗な思い出のままにしておきたい。いつか大城に逢った時に自分も夢を叶えたんだと胸を張って逢える人間でいたい。前に進まなければ。
SNSで時折大城の近況を確認し頑張っている姿を知るだけで崇は勇気をもらった。夏休みはちゃんと実家に帰ろう。自分のために作ってくれた生花用のビニールハウスも放ったらかしでいい加減だった。ちゃんと世話をして自分の道へ続く布石を自分の手で積み重ねて行かなければ。義務感にも似た感覚であっても今は前に進むことが大事だと思った。決めてしまうと案外心は軽い。崇はまだ大学生だ。初めての恋で初めての失恋。全部大城でよかったと思う。
大城からもらった白シャツはしまっておくことにした。プレゼントにもらったスカーフも入れ、彼が使っていた香水を振りかけて香りと一緒に段ボールに閉じ込めた。
『このスカーフさ、女物だけど波田野に似合うと思って買ってきた』
『可愛すぎ。似合わんよ』
『似合うよー。これからもコレクション増やしてあげる』
『何コレクション?』
『オオシロコレクション。略してオオコレ』
『なんか驚いとるみたいじゃ。この柄は趣味が違うし』
『ショック』
『俺は白いシャツが好き』
『うん。知ってる』
『真っ白けになるけど』
『結局白か。それもいいかも。ピュアな波田野を象徴しているみたいで俺も好き』
―――俺も大好きだった。大城が大好きだったよ。
段ボールは実家へ送り返した。
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