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しおりを挟む「案山子さん、いなくならないで欲しい」
「え……」
「僕、案山子さんと友達になりたいです」
「あのな、俺、案山子やから」
「案山子の神様ってことですか?」
「……ま、まぁ」
「僕が自分の悩みを自力で解決したら、代わりに僕の願い事叶えてくれますか」
孤独な夜を癒してくれた案山子。正体が人間でも案山子でもどちらでもいい。彼の存在が少しずつ特別なものに変わっているのを感じていた。それをどう表現したらいいのか今の穂高には分からないけれど、普段自己主張をしない穂高がこんな我儘を言う事は珍しかった。
案山子はうーんとまた顎を摩る。
「穂高のお願いごとって」
「案山子さんにまた会いたいです」
案山子は頭を掻いた。また困っているように見える。
「あのな、穂高」
「はい」
穂高は背の高い案山子の顔を見上げた。穂高のくりくりとした大きな目は月あかりを良く映し、光を全部吸い込んで星のように輝いている。
「ごほんっ」
咳払いして案山子は立った。
「病気であることは悪い事じゃないし恥ずかしい事じゃない。自分をちゃんと大事にして。穂高はきっと大丈夫だから」
「願い事が叶っても案山子さんに逢えますか」
「それは、分からんけど」
穂高は口を噤んだ。
「俺はずっとここにはおらんよ。稲刈りが終われば案山子の役目は終わる。穂高はちゃんと自分に向き合って。いい?」
「案山子さん……」
「ちゃんと自分でどうするか決めて、青春を謳歌しな」
青春を謳歌しろだなんて今どき先生でも言わないよ。そう言って笑いあいたかったのに案山子はそのまま山の中へと足を進めて振り返らなかった。
「案山子さん……」
穂高の声に振り返ることなく、案山子は消えた。穂高はなんだか見捨てられたような複雑な気持ちになった。
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