スケアクローと白いシャツ

小鷹りく

文字の大きさ
上 下
9 / 21

しおりを挟む

「案山子さん、いなくならないで欲しい」

「え……」

「僕、案山子さんと友達になりたいです」

「あのな、俺、案山子やから」

「案山子の神様ってことですか?」

「……ま、まぁ」

「僕が自分の悩みを自力で解決したら、代わりに僕の願い事叶えてくれますか」

 孤独な夜を癒してくれた案山子。正体が人間でも案山子でもどちらでもいい。彼の存在が少しずつ特別なものに変わっているのを感じていた。それをどう表現したらいいのか今の穂高には分からないけれど、普段自己主張をしない穂高がこんな我儘を言う事は珍しかった。

 案山子はうーんとまた顎を摩る。
 
「穂高のお願いごとって」

「案山子さんにまた会いたいです」

 案山子は頭を掻いた。また困っているように見える。

「あのな、穂高」

「はい」

 穂高は背の高い案山子の顔を見上げた。穂高のくりくりとした大きな目は月あかりを良く映し、光を全部吸い込んで星のように輝いている。

「ごほんっ」

 咳払いして案山子は立った。

「病気であることは悪い事じゃないし恥ずかしい事じゃない。自分をちゃんと大事にして。穂高はきっと大丈夫だから」

「願い事が叶っても案山子さんに逢えますか」

「それは、分からんけど」

 穂高は口を噤んだ。

「俺はずっとここにはおらんよ。稲刈りが終われば案山子の役目は終わる。穂高はちゃんと自分に向き合って。いい?」

「案山子さん……」

「ちゃんと自分でどうするか決めて、青春を謳歌しな」

 青春を謳歌しろだなんて今どき先生でも言わないよ。そう言って笑いあいたかったのに案山子はそのまま山の中へと足を進めて振り返らなかった。

「案山子さん……」

 穂高の声に振り返ることなく、案山子は消えた。穂高はなんだか見捨てられたような複雑な気持ちになった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

パスコリの庭

リリーブルー
BL
「ここにあるのは愛か、傷跡か。胸痛むほど美しさのひかる、切ない物語」(小梅様) 切ないメンズラブ。

フローブルー

とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。 高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。

初恋はおしまい

佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。 高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。 ※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。 今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

君に望むは僕の弔辞

爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。 全9話 匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意 表紙はあいえだ様!! 小説家になろうにも投稿

後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…

まゆゆ
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。 5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。 相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。 一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。 唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。 それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。 そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。 そこへ社会人となっていた澄と再会する。 果たして5年越しの恋は、動き出すのか? 表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。

仕事ができる子は騎乗位も上手い

冲令子
BL
うっかりマッチングしてしまった会社の先輩後輩が、付き合うまでの話です。 後輩×先輩。

【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。

桜月夜
BL
 前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。  思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

処理中です...