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2)餉の儀-1
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「柚果……柚果、起きろ!」
「ぅん……」
俺は目を擦りながら布団から顔を出した。昨日の儀式の後、意識が途切れたのは覚えている。沢山寝たはずなのにまだ頭がぼんやりして眠い。逆光で起こしに来た人の顔がはっきり見えなかったが仁王立ちに腕を組んだ影を見てそこに立っているのが誰かすぐにわかった。
「黒丸……」
こいつならいいか。そう思ってまた布団を被ると、チッと舌打ちが聞こえて怒鳴り声が響く。
「今宵は餉の儀があるんだぞ!分かってるのか」
はっと思い出して俺は目を見開いた。
「そうだった、俺今日夕餉作らないといけないんだ!」
布団から飛び起き、周りを見ると迦楼羅はすでにいなかった。先に出かけたのだろう。寝ぐせの悪さからかはだけてしまった寝着をたくし上げながら障子を開け放つと陽はもう真上にまできていた。黒丸は俺を見ると慌てて背を向けぶつくさと小言を呟く。
「迦楼羅様の伴侶になる儀式はまだ全部終わってないんだぞ。そのようなあられもない恰好で他の男の前に立つなど……」
「勝手に入って来たくせに。早く支度しないと」
慌ただしく寝着を剥いで着物を羽織った。言い返されて腹を立てたのか着物を着ている途中から黒丸の説教が始まった。
「お前が寝過ごしていると聞いて急いで起こしに来てやったんだぞ。深山が何度声を掛けてもちっとも起きてくれないと困っていた。長の伴侶になるならばもっと威厳を持ってもらわねば周りに示しがつかん。大体お前はおっとりしすぎているのだ」
黒丸は迦楼羅が不在の際に頼れと言った男で、鴉天狗の里でも一目置かれている存在だ。長い黒髪に艶々した黒い大きな羽。後ろ姿は迦楼羅にさえ見劣りしない屈強な鴉天狗だ。迦楼羅の右手とも言われていて儀式の指揮を採り俺がヘマしないように目を光らせている。きっと彼も俺が迦楼羅の伴侶になるのが気に入らないと言っている内の一人だろう。ここに来てからずっとこうして小言を言われて続けている。里の者達は大抵俺と迦楼羅の契りに反対しているが、長である迦楼羅のいう事は絶対で俺の事を放ってもおくわけにもいかないのだろう。第一の儀式も彼のお陰で大きな騒ぎも起きることなく、つつがなく終わった。
今日俺を起こしてくれる予定だった深山は儀式の間の世話役を買って出てくれたのだが黒丸と違い随分と大人しい性格で、声も小さいため普段から何を喋っているのかうまく聞き取れない。今朝も起こしに来てくれたようだが結局俺を起こす事が出来ずに帰ってしまったようだ。鴉天狗の中にも気の弱い奴はいるのだと思うとどこかほっとした。
「ぅん……」
俺は目を擦りながら布団から顔を出した。昨日の儀式の後、意識が途切れたのは覚えている。沢山寝たはずなのにまだ頭がぼんやりして眠い。逆光で起こしに来た人の顔がはっきり見えなかったが仁王立ちに腕を組んだ影を見てそこに立っているのが誰かすぐにわかった。
「黒丸……」
こいつならいいか。そう思ってまた布団を被ると、チッと舌打ちが聞こえて怒鳴り声が響く。
「今宵は餉の儀があるんだぞ!分かってるのか」
はっと思い出して俺は目を見開いた。
「そうだった、俺今日夕餉作らないといけないんだ!」
布団から飛び起き、周りを見ると迦楼羅はすでにいなかった。先に出かけたのだろう。寝ぐせの悪さからかはだけてしまった寝着をたくし上げながら障子を開け放つと陽はもう真上にまできていた。黒丸は俺を見ると慌てて背を向けぶつくさと小言を呟く。
「迦楼羅様の伴侶になる儀式はまだ全部終わってないんだぞ。そのようなあられもない恰好で他の男の前に立つなど……」
「勝手に入って来たくせに。早く支度しないと」
慌ただしく寝着を剥いで着物を羽織った。言い返されて腹を立てたのか着物を着ている途中から黒丸の説教が始まった。
「お前が寝過ごしていると聞いて急いで起こしに来てやったんだぞ。深山が何度声を掛けてもちっとも起きてくれないと困っていた。長の伴侶になるならばもっと威厳を持ってもらわねば周りに示しがつかん。大体お前はおっとりしすぎているのだ」
黒丸は迦楼羅が不在の際に頼れと言った男で、鴉天狗の里でも一目置かれている存在だ。長い黒髪に艶々した黒い大きな羽。後ろ姿は迦楼羅にさえ見劣りしない屈強な鴉天狗だ。迦楼羅の右手とも言われていて儀式の指揮を採り俺がヘマしないように目を光らせている。きっと彼も俺が迦楼羅の伴侶になるのが気に入らないと言っている内の一人だろう。ここに来てからずっとこうして小言を言われて続けている。里の者達は大抵俺と迦楼羅の契りに反対しているが、長である迦楼羅のいう事は絶対で俺の事を放ってもおくわけにもいかないのだろう。第一の儀式も彼のお陰で大きな騒ぎも起きることなく、つつがなく終わった。
今日俺を起こしてくれる予定だった深山は儀式の間の世話役を買って出てくれたのだが黒丸と違い随分と大人しい性格で、声も小さいため普段から何を喋っているのかうまく聞き取れない。今朝も起こしに来てくれたようだが結局俺を起こす事が出来ずに帰ってしまったようだ。鴉天狗の中にも気の弱い奴はいるのだと思うとどこかほっとした。
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