上 下
2 / 12

2)餉の儀-1

しおりを挟む
「柚果……柚果、起きろ!」

「ぅん……」

 俺は目を擦りながら布団から顔を出した。昨日の儀式の後、意識が途切れたのは覚えている。沢山寝たはずなのにまだ頭がぼんやりして眠い。逆光で起こしに来た人の顔がはっきり見えなかったが仁王立ちに腕を組んだ影を見てそこに立っているのが誰かすぐにわかった。

黒丸こくまる……」

 こいつならいいか。そう思ってまた布団を被ると、チッと舌打ちが聞こえて怒鳴り声が響く。

「今宵はしょくの儀があるんだぞ!分かってるのか」

 はっと思い出して俺は目を見開いた。

「そうだった、俺今日夕餉作らないといけないんだ!」

 布団から飛び起き、周りを見ると迦楼羅はすでにいなかった。先に出かけたのだろう。寝ぐせの悪さからかはだけてしまった寝着をたくし上げながら障子を開け放つと陽はもう真上にまできていた。黒丸は俺を見ると慌てて背を向けぶつくさと小言を呟く。

「迦楼羅様の伴侶になる儀式はまだ全部終わってないんだぞ。そのようなあられもない恰好で他の男の前に立つなど……」

「勝手に入って来たくせに。早く支度しないと」

 慌ただしく寝着を剥いで着物を羽織った。言い返されて腹を立てたのか着物を着ている途中から黒丸の説教が始まった。

「お前が寝過ごしていると聞いて急いで起こしに来てやったんだぞ。深山みやまが何度声を掛けてもちっとも起きてくれないと困っていた。おさの伴侶になるならばもっと威厳を持ってもらわねば周りに示しがつかん。大体お前はおっとりしすぎているのだ」

 黒丸は迦楼羅が不在の際に頼れと言った男で、鴉天狗の里でも一目置かれている存在だ。長い黒髪に艶々した黒い大きな羽。後ろ姿は迦楼羅にさえ見劣りしない屈強な鴉天狗だ。迦楼羅の右手とも言われていて儀式の指揮を採り俺がヘマしないように目を光らせている。きっと彼も俺が迦楼羅の伴侶になるのが気に入らないと言っている内の一人だろう。ここに来てからずっとこうして小言を言われて続けている。里の者達は大抵俺と迦楼羅の契りに反対しているが、長である迦楼羅のいう事は絶対で俺の事を放ってもおくわけにもいかないのだろう。第一の儀式も彼のお陰で大きな騒ぎも起きることなく、つつがなく終わった。

 今日俺を起こしてくれる予定だった深山は儀式の間の世話役を買って出てくれたのだが黒丸と違い随分と大人しい性格で、声も小さいため普段から何を喋っているのかうまく聞き取れない。今朝も起こしに来てくれたようだが結局俺を起こす事が出来ずに帰ってしまったようだ。鴉天狗の中にも気の弱い奴はいるのだと思うとどこかほっとした。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

【完結】あなたに撫でられたい~イケメンDomと初めてのPLAY~

金色葵
BL
創作BL Dom/Subユニバース 自分がSubなことを受けれられない受け入れたくない受けが、イケメンDomに出会い甘やかされてメロメロになる話 短編 約13,000字予定 人物設定が「好きになったイケメンは、とてつもなくハイスペックでとんでもなくドジっ子でした」と同じですが、全く違う時間軸なのでこちらだけで読めます。

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

愛する者の腕に抱かれ、獣は甘い声を上げる

すいかちゃん
BL
獣の血を受け継ぐ一族。人間のままでいるためには・・・。 第一章 「優しい兄達の腕に抱かれ、弟は初めての発情期を迎える」 一族の中でも獣の血が濃く残ってしまった颯真。一族から疎まれる存在でしかなかった弟を、兄の亜蘭と玖蘭は密かに連れ出し育てる。3人だけで暮らすなか、颯真は初めての発情期を迎える。亜蘭と玖蘭は、颯真が獣にならないようにその身体を抱き締め支配する。 2人のイケメン兄達が、とにかく弟を可愛がるという話です。 第二章「孤独に育った獣は、愛する男の腕に抱かれ甘く啼く」 獣の血が濃い護は、幼い頃から家族から離されて暮らしていた。世話係りをしていた柳沢が引退する事となり、代わりに彼の孫である誠司がやってくる。真面目で優しい誠司に、護は次第に心を開いていく。やがて、2人は恋人同士となったが・・・。 第三章「獣と化した幼馴染みに、青年は変わらぬ愛を注ぎ続ける」 幼馴染み同士の凛と夏陽。成長しても、ずっと一緒だった。凛に片思いしている事に気が付き、夏陽は思い切って告白。凛も同じ気持ちだと言ってくれた。 だが、成人式の数日前。夏陽は、凛から別れを告げられる。そして、凛の兄である靖から彼の中に獣の血が流れている事を知らされる。発情期を迎えた凛の元に向かえば、靖がいきなり夏陽を羽交い締めにする。 獣が攻めとなる話です。また、時代もかなり現代に近くなっています。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

寮生活のイジメ【社会人版】

ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説 【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】 全四話 毎週日曜日の正午に一話ずつ公開

「優秀で美青年な友人の精液を飲むと頭が良くなってイケメンになれるらしい」ので、友人にお願いしてみた。

和泉奏
BL
頭も良くて美青年な完璧男な友人から液を搾取する話。

処理中です...