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 碧から連絡が入るのは久しぶりだった。いつも恵にくっついていた幼い弟たちは、中学生になるころには恵をゆうに追い越す背丈となり、三人一緒にいると恵が二人のボディーガードに守られている少年のように見えた。

 弟たちの目はいつもギラギラしていて、近づく者は皆敵だと言わんばかりに噛みつきそうだったか、唯一、爽太だけは恵を変態から守った勇者として、近づく事を許されていた。

 大学に行ってから、爽太は恵を護るどころか、恵に世話を焼かせ始め、碧は憤慨していた。弟の面倒を見て、家事もして、大変な思いをしている恵に世話を焼かせるなんて、どういう神経をしているのだと碧が爽太を責めた事もあった。爽太自身も不甲斐ないと思いながら、どうにもできない状況にストレスを溜めていた。爽太の恵に対する気持ちは複雑で深い。兄弟の様に育ち、憧れられて、追いかけられていたはずなのに、いつの間にかおんぶに抱っこと世話してもらう側へとなりさがった。
 
  汚部屋に済み、自堕落な生活を送る日々でも恵は爽太を見捨てることなく、支え続けてくれた。

  優しくて、可愛いくて、頼りになる恵。自分だけのものだ。そんな独占欲から優しさにつけ込んで、ある日唇を奪った。

 初めてキスをした後、恵は吐いた。変態に襲われた後、恵は潔癖症になっていた。それでも自分だけが恵に触れられるのだから、と安心していたが、嘔吐するほど潔癖症は酷い。これではキスの続きなんて夢のまた夢だ。

  爽太は恵に何度もキスしようとした。少しずつでも慣れていけば、キスは普通になるかもしれない。キスが普通になれば、アレも普通にできるかもしれない。

  恵だって一生このまま潔癖症と付き合って行くなんて可哀想だ。治してやりたい。自分だけが恵に触れられるのだから、自分しか治せる人はいない。

  幸いキスは何度か成功している。だが情けない自分のままでは、これ以上近づくのは許してもらえないような気がして、ちゃんと就職した。まともな大人になって、恵に迷惑をかけないように仕事を頑張ろうと思った。でも就職したとたん、恵は家に来なくなった。就職祝いの夜以来、家にも来ないし、電話もメッセージも返してもらえない。  

   愛想を尽かされたのだと思った。今まで一緒にいてくれたのは同情だったのかと、思い悩んだ。
 
   その間に、葉月が恵の家に出入りしていると聞いて、憎悪がこみ上げた。いつもへらへらして、余裕のあるいけ好かない男。しかも恵の飲みさしのマグカップに口を付ける変態だ。危ない目に遭ってないか心配になった。

  会社のデータから葉月の自宅を割り出した。違法行為だが恵を守るために同じ会社に入ったようなもの。迷いはなかった。


  
 
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