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「なんで俺を呼んだんだ、碧。バイト中だったのに」

「海だって嫌だろ、恵が変な男連れ込んでさ。それにすぐ飛んで帰って来たじゃないか」

「実家なんだから変な事しねぇだろ。家族が帰ってくるんだし」

「そんな事わかんないっ、だろ……んっ、お前だって家族いてもこんな……っぁ」

 海の腕は碧のシャツの中でうごめいている。

「いつになったら兄貴離れするんだよ、碧は」

「それはお前もっ、だろっ」

「うるせぇ。俺はお前から離れる気はねぇの」

 そう言って海は碧の後頭部に手を回し、唇を塞いだ。噛みつくように覆いかぶさった海は、碧の口の中に舌を差し込んで、柔らかい先端を啜り、舐めまわし、嬲った。

 兄弟の体躯は歳と反比例していて、末っ子の海が一番大きい。海は193㎝、碧は182㎝。恵はというと168㎝で、童顔な恵が弟だと勘違いされることもある。三人の父親はそれぞれ違う。恋多き母の業だ。

 父親が違うからか逆に兄弟たちの絆は強く結ばれた。結婚して子供を産むとすぐに離婚する母親。父親が不在であることが常で、奔放な母親の代わりに恵が下二人の世話をした。そんな健気な恵を慕い、弟たちは仲良く過ごし、仲良くしすぎてこうなった。恵は弟たちの情事には気づいていない。何せ気づかれないように弟たちは涙ぐましい努力をしてきたのだ。

「恵に聞こえるだろ。もっと音押さえろよ」

 ぴちゃぴちゃと水音が響くので、碧が不平を漏らす。

「俺の音はお前の音だろ? ここぐちゃぐちゃにして何言ってんだ、ほら、もっと擦ってやるからイケよ」

「だっれが、んんっ……まだイキたくない……あっ、海……」

「やらしい声出すなよ、俺が先にイッちゃうだろう……碧、好きだ……」

「海、海、あっ、あっ俺も、もぅ……」

 二人は正面から抱き合うようにして自分たちのそそり立ったものを愛撫し合っていた。恵は階下で片づけをしている。誰かがいるのに兄弟でいけないことをしている背徳感。興奮が増して声がうわずった。

「イケよ、碧」

 低い声で海が碧の耳に囁き、碧の体は弾けた。すぐに海の体も大きくしなり、二人は腹を濡らした。荒い息の中で、二人は体を重ね、再び口づける。一頻り甘い余韻を過ごすと、碧を胸に抱きしめたまま海が言った。


「俺、葉月って野郎気に食わねぇ。あいつ絶対恵に気があるよな」

「同感」

「アイツより爽太の方がよっぽどマシだ」

「爽太も嫌だ」

 海の眉が上がる。

「ブラコン」

「お前もな」

「俺は碧が好きなだけだ。ブラコンじゃねぇ」

「……爽太は恵が唯一大丈夫な相手だから仕方ないけど」

「それが全部物語ってんじゃねぇか。恵は爽太が好きなんだろ」

「でも恵は違うって言ってた」

「分かんねぇだけじゃねぇのかよ。相手男だしな」

「俺もお前相手とかワケわかんねぇ」

「俺はお前以外とか意味わかんねぇ」

「ちょくちょくラブラブ光線で攻撃してくるな、バカ」  

 碧の耳が赤く染まっている。

「バカで結構。俺は体裁なんかどうでもいいZ世代なんでね」

「アルファだろうが」

「それこそどうでもいいね。お前以外」

 再び海は碧に覆いかぶさり、深い口づけを落とす。息がしづらく悶えていると階段をトントントンと上がってくる音がした。

「海ぃ、風呂入らねぇのー。母さんまた仕事帰りに彼氏の所泊まるってよ。俺は入ったから、お湯抜いとけな」

「おー」

「碧もそこか」

「うん」
 
 一緒のベッドに居るところを見られたらマズイ。でもドアは開かなかった。

 「おやすみ」

 恵は自分の部屋に入った。

「爽太は何してんのかね」

 碧が小さい声で呟く。

「仕事してんだろ。恵と同じ会社なんだから上手くやってんじゃねえか」

「最近恵元気ないから、喧嘩でもしたのかも」

「お前はいつまで経っても恵のこと心配なんだな。たまには俺のことも心配しろ」

 自分より体の大きい不遜な態度の弟を見て、碧は鼻を鳴らした。

「お前は俺の横にいんだから、心配ねぇだろ。喧嘩強えし」

 「まぁな」

 ふっと笑って海は立った。

「風呂行ってくる」

 海のこの貫禄は一体どこからやってくるのか、碧にも恵にもわからない。きっと父親の血筋なのだろうが、どういう人だったのか、母親は話さないのでわからない。たが、そんな事はどうでもよかった。家族と居られる。それだけで良いのだ。碧はスマホで爽太の連絡先を探した。

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