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  グワングワンと鈍い音が聴こえてきそうな頭痛を抱え、恵は目を覚ました。完全に飲み過ぎた体は、如実にだるさを主張している。

 見慣れぬ部屋にいることに一瞬ゾッとしたが、寝ている葉月を見て、ほんやりと昨夜の事を思い出した。

 愚痴ばかりぼやいていたことと、トイレで吐いたことはなんとなく覚えている。が、それ以外記憶がない。

 何がどうなったか分からないが、とりあえずパンツとズボンは脱いだ形跡もないので、よからぬことは起きてないのだろうと安堵する。相談に乗ってくれて、いつも助けてもらってばかりなのに、申し訳なさが募ってきて、恵は上着を探り寄せ、できるだけ音が出ないように着替えた。

 だが着替えている途中に葉月がむくりと起き上がって来た。咄嗟に声を掛ける。

「あの、葉月さん、昨日はすいませんでした。酔っ払いすぎてご迷惑をおかけして」

 葉月は布団を剥ぎながらゆっくりとベッドから出ると、頭を少し掻いた。

「……コーヒー、飲む?」

「はい」
 
 尻窄みの声で恵は答える。葉月の機嫌は悪そうだ。普段から穏やかでニコニコしている分、ギャップに背中が寒くなる。優しい葉月を怒らせるほど、昨日は醜態を晒したのだろう。

「ほんとに、すいません、俺あんまり昨日の事覚えてなくて」

「うん……」

 口数少なく葉月はケトルに水を入れ、洗面所へ行った。

 仕事の先輩になんてことをしたんだろう。上手く築いてきた良い同僚関係が崩れていくのかと思うと、ため息が出そうだった。後悔先に立たず。あいつがうちに来なければ愚痴なんて生まれなかったのに。矛先はどうしてもそこへ向かった。

「葉月さん、すいません……」

 謝り倒すしかない。恵は葉月が洗面所から出てくるのを待った。

 三分ほどして歯と顔を洗ってスッキリした様子の葉月は、戻ってきて驚いた。恵が土下座の恰好で待っている。

「なんで土下座してんの!」

「昨晩はすいませんでした!」

 額を床に擦り付けて恵は謝罪した。葉月はすぐさま頭を上げさせようとする。

「頭上げてよ、なになになに!」

「先輩に愚痴ばっか聞かせて、吐いて、迷惑かけて、俺最悪っす!ほんと、すいません!」

「え、そんな何も迷惑なんてかけてないよ。僕も遠慮なくお酒注いでたしね。僕にも責任があるよ」

 顔を上げて葉月を見上げた。なんて心が広いんだ。爽太なんて葉月さんと喋るだけで嫉妬するような、心の狭い人間なのに、その人間の愚痴を聞かせるなんて、俺は大馬鹿ものだ。恵は一人で猛省し、再び頭を下げた。

「何でもしますんで、許してください!」

「大袈裟だなぁ~。なんでもって、んー」

  キッチンに入り、コーヒーを入れながら考えていた葉月は、何か良いことを思いついたようで、いつもの笑みを浮かべて言った。

「じゃあ一週間、通い妻してもらおうかな?」

「か、通い妻!?」 
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