It’s raining (完)

小鷹りく

文字の大きさ
上 下
2 / 6

2. 居酒屋

しおりを挟む

同窓会を心待ちにしていると日常はあっという間に過ぎて言った。


毎日があんなに退屈だったのに、同窓会のことを考えると仕事も早く片付けて、なんとはなしにダイエットをしてみたり、慣れない筋トレをしてみたり。


そわそわする気持が心地よい。


人は楽しみがあると色々頑張れるのだと、改めて思う。


今日はとうとう同窓会の日だ。


久しぶりに会うみんなはどんな風にかわったのだろう。そして僕はどんな風になったと思われるかな?


そして先輩は本当に来るのだろうか?


見慣れたお店の構え。すこし小汚い旗に店名が書いてあり、上に構えてある電光サインも相変わらずだった。


安くて近くて、僕の家から歩いて行けて、大学にも近かったこの店は、ゼミのみんなと一緒によく飲んで溜まり場になっていた。


もうみんな居るかな?

ドキドキしながら木の枠で少し日本風な引き戸をガラガラと開ける。


「ラッシャーイ!!」


店員さんの元気な声で迎えられると、テーブルを拭いていたハチマキ姿の店長と奥にいる塊が僕を見る。


「おおい!こっちこっち!矢田!」


「あ!うん!久しぶり!」


僕は手を挙げて向かう。


「らっしゃい、矢田ちゃん!長いこと来てくれてないやん」

「あ、店長さん、覚えててくれたんですか?僕影薄いのに。」


声をかけられて照れくさくて頭をかいてしまった。


「そりゃちょっとの間だけど、バイトしてくれてたんやし、覚えとるよ。来てくれて嬉しいよ、お仲間さんところにどうぞぉ。」


そう言って嬉しい言葉をかけてくれた。

家も近い僕は大学生の頃はここでバイトさせてもらってた事がある。その動機は不純で、店長さんは何もかもを知っているので僕は気恥ずかしかったがそれでもこうやって会えて嬉しいと思える。


そっと見守って過ごしてくれた優しい店長さんだ。今でも来ようと思えば来れるのだから、もっと顔を出そうと思った。


座敷に沢山座っているゼミの仲間たちの靴がずらりと床に並び、僕の靴も揃えて脱ぐ。


顔をぐるりと見渡したら、皆川と原田が一緒に座っているのを見つけた。その前が空いているので、皆んなに「久しぶり」と愛想を振りまきながらその席にたどり着く。


「よっ!矢田!元気そうだね!」

「皆川、電話くれてありがとう~。」

「おう、矢田!相変わらずか弱いままだな!」

「原田は相変わらず口が悪いよ。」

「あははは、皆んなそんな変わらないね。」

屈託うのない話だけれど、まだ少しドキドキする。

もう一度席について顔を探すけれど、先輩達の中に、僕の会いたかった人が見えない。

「何飲む~?」

と聞いてくる皆川に僕は、店員さんが渡してくれたタオルで手を拭きながら、ビールで、と視線を彼女に戻した。

「何?大下先輩?」


「え?あ、うん。今日来るんでしょ?」


「それが、残念、残業らしくってね、来れないってさっきメッセあったんだー。」


「そうっか…。」


あからさまに残念そうにしてしまった…。


原田が揶揄する。


「おうおう、愛しの先輩が居ないからつまんないってか??」


「そ、そう言うんじゃなくて、全然連絡とってないから、どうしてるのか気になってて。」


「ええ?あんなに仲良かったのに?」

皆川は驚いていた。

「そんなに驚かなくても。大下先輩就職先、忙しい商社の営業って言ってたからね。後輩だからって甘えて電話ばかりしてたら迷惑だろう?」


「ふーん。」


含みを持たせて皆川は自分のアルコールを飲んだ。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?

寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。 ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。 ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。 その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。 そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。 それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。 女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。 BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。 このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう! 男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!? 溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。

僕の宝物はみんなの所有物

まつも☆きらら
BL
生徒会の仲良し4人組は、いつも放課後生徒会室に集まっておやつを食べたりおしゃべりをしたり楽しい毎日を過ごしていた。そんなある日、生徒会をとっくに引退した匠が、「かわいい子がいた!」と言い出した。転入生らしいその子はとてもきれいな男の子で、4人組は同時に彼に一目ぼれしてしまったのだった。お互いライバルとなった4人。何とかその美少年を生徒会に入れることに成功したけれど、4人の恋は前途多難で・・・。

その関係はこれからのもの

雨水林檎
BL
年下わんこ系教師×三十代バツイチ教師のBL小説。 仕事中毒の体調不良、そんな姿を見たら感情があふれてしまってしょうがない。 ※体調不良描写があります。

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。 ※どんどん年齢は上がっていきます。 ※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

黄色い水仙を君に贈る

えんがわ
BL
────────── 「ねぇ、別れよっか……俺たち……。」 「ああ、そうだな」 「っ……ばいばい……」 俺は……ただっ…… 「うわああああああああ!」 君に愛して欲しかっただけなのに……

ヤンデレだらけの短編集

BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。 全8話。1日1話更新(20時)。 □ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡 □ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生 □アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫 □ラベンダー:希死念慮不良とおバカ □デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。 かなり昔に書いたもので、最近の作品と書き方やテーマが違うと思いますが、楽しんでいただければ嬉しいです。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

処理中です...