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少年編 第1章
バラファンドル2
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食事を一人で採るのは寂しいとエリアスはレナードも同席して食べるように指示した。部屋も隣、食事も同席では周りの使用人たちに示しがつかないというレナードの助言にエリアスは再び反対した。
「僕に一人で食べろっていうの? この大きなテーブルで? そんなに僕を一人ぼっちにさせたいの?」
「そういう事では……」
「そういう事でしょ。君は僕の執事だけど、家族も同然だ。何ならここに居るみんなで一緒に席について食べたってかまわない。僕と君たちの間に何の分け隔てがあるっていうの。僕と君が同じ席で食べるのを咎める人はここにはいない。この家の主人は今僕だよ。一緒に食べてと僕が言うのだからそうして」
別荘の使用人たちは自分たちの身分を十分すぎるほど理解していた。それはエリアスにとって心地の悪い方向に向いていて、ややもすれば自分たちを代替可能な道具とでも思っているかのように思えた。例えば汚れた靴で絨毯の上に上がっていたなどという些細な粗相でさえも、足に鞭を打っておきます、と自分たちは奴隷とでもいうような言動をするのだ。
きっとヴァンペルノ家に代々仕えた執事たちが使用人たちを厳しく躾けたせいだと思うとレナードは話した。温和なエリアスは普段主人だの執事だのと主張することはないが再びその権威を利用して彼らの考え方を変えていこう思った。
レナードはエリアスの横の席に着いた。執事と使用人では立場が違うが、それでも主人と一緒に食事をするのは異例だ。居心地の悪さにレナードはソワソワしたが、エリアスは食事を持ってくる女中にも声をかけて一緒に食べないかと誘った。それはできませんと女はすぐさま顔を伏せて料理を置いて下がった。二人きりになってからレナードは忠告する。
「エリアス。女中たちにまでそのように言葉をかけては違う意味に捉えます。どうかお控えください」
違う意味が何を意味するかエリアスにはわからなかったが、夜伽をさせられるという意味に捉えたと思うというと真っ赤になって反省した。
「そんなつもりじゃない! 僕はただレナードと気兼ねなく過ごしたいと……」
「分かっています。どうかご無理なさらず、任せてください。私もあなたと同じ気持ちです」
食事は本邸の料理ほどではなかったが、デザートのメイズオブオナーは美味だった。サクサクとした食感に中心のとろりとしたレモン風味のチーズがたまらなく癖になる味で、また食べたいとエリアスが言ったためレナードは料理長にいつでも食べれるようにしておいてほしいと伝えた。
別荘の邸宅にはリビング、ダイニングの他に主人の部屋、書斎、奥方の部屋、子供部屋二つ、ゲストルーム二つと使用人たちが使う小さな部屋が一室あり、主人が不在の時には使用人の部屋に誰かが寝泊まりして泥棒などに入り込まれないように管理していた。同じ建屋に誰か別のものがいると落ち着かないので、使用人たちには夜の食事が終わったら明日の朝の支度をはじめるまで使用人の建屋に戻って休んでいるように伝えた。そういうわけにはいかないとシアンが抵抗したが、再びエリアスの願いだと言い聞かせた。
「さぁ、これでここにはあなたと私だけです。エリアス」
使用人たちをはけさせ、それぞれ風呂に入った後、エリアスの部屋の大きなベッドの上に二人は寝転がった。
レナードは肘で頭を支えてエリアスの頬を指の背中で優しく撫でる。
エリアスの心臓は知らず大きく鼓動していた。
「な、な、なんか緊張する」
「そうですか。私は興奮しているのか眩暈がします。陶磁のような白い肌にこうして触れているだけでもクラクラして……」
目を細めてレナードは顔を近づけ、エリアスと鼻先でキスをするように擦り付けた。唇が触れそうに吐息が掛かる。目をぎゅっと閉じてエリアスはレナードのキスを待った。
再び鼻先同士が擦れあい、温かい唇が落ちてくる。ふわりと柔らかいものが触れたかと思うとするりと耳の後ろの移動した。
息が耳に掛かり、なんだかくすぐったい。
そのままレナードはしばらくじっとしていて、エリアスはどうしたらいいのか分からなかった。これから一線を越えるのだろう。何も準備してないけど、大丈夫、レナードが教えてくれる。多分。恥ずかしい事も沢山したけど、これから起こることはそれより恥ずかしいのかもしれない。無知なゆえに未知が多い。なんだか少し怖い。怖いけど、期待で心臓は高く鳴る。耳の中でなる血流がうるさい位だった。
何分くらいそうしていただろうか。レナードは耳元に顔をうずめたまま動かなかった。
耳に掛かる息は明らかに寝息で、エリアスは何度かレナードと呼んでみたが反応はなかった。
「一人で車を運転させたから疲れちゃったんだね」
レナードの頭を支えて自分の体を抜くと、エリアスは黒髪を撫でて毛布を掛けた。
「大好きだよ、レナード」
エリアスはおでこにキスを落とし、レナードの隣にいる心地よさに酔いながら眠りに落ちた。
「僕に一人で食べろっていうの? この大きなテーブルで? そんなに僕を一人ぼっちにさせたいの?」
「そういう事では……」
「そういう事でしょ。君は僕の執事だけど、家族も同然だ。何ならここに居るみんなで一緒に席について食べたってかまわない。僕と君たちの間に何の分け隔てがあるっていうの。僕と君が同じ席で食べるのを咎める人はここにはいない。この家の主人は今僕だよ。一緒に食べてと僕が言うのだからそうして」
別荘の使用人たちは自分たちの身分を十分すぎるほど理解していた。それはエリアスにとって心地の悪い方向に向いていて、ややもすれば自分たちを代替可能な道具とでも思っているかのように思えた。例えば汚れた靴で絨毯の上に上がっていたなどという些細な粗相でさえも、足に鞭を打っておきます、と自分たちは奴隷とでもいうような言動をするのだ。
きっとヴァンペルノ家に代々仕えた執事たちが使用人たちを厳しく躾けたせいだと思うとレナードは話した。温和なエリアスは普段主人だの執事だのと主張することはないが再びその権威を利用して彼らの考え方を変えていこう思った。
レナードはエリアスの横の席に着いた。執事と使用人では立場が違うが、それでも主人と一緒に食事をするのは異例だ。居心地の悪さにレナードはソワソワしたが、エリアスは食事を持ってくる女中にも声をかけて一緒に食べないかと誘った。それはできませんと女はすぐさま顔を伏せて料理を置いて下がった。二人きりになってからレナードは忠告する。
「エリアス。女中たちにまでそのように言葉をかけては違う意味に捉えます。どうかお控えください」
違う意味が何を意味するかエリアスにはわからなかったが、夜伽をさせられるという意味に捉えたと思うというと真っ赤になって反省した。
「そんなつもりじゃない! 僕はただレナードと気兼ねなく過ごしたいと……」
「分かっています。どうかご無理なさらず、任せてください。私もあなたと同じ気持ちです」
食事は本邸の料理ほどではなかったが、デザートのメイズオブオナーは美味だった。サクサクとした食感に中心のとろりとしたレモン風味のチーズがたまらなく癖になる味で、また食べたいとエリアスが言ったためレナードは料理長にいつでも食べれるようにしておいてほしいと伝えた。
別荘の邸宅にはリビング、ダイニングの他に主人の部屋、書斎、奥方の部屋、子供部屋二つ、ゲストルーム二つと使用人たちが使う小さな部屋が一室あり、主人が不在の時には使用人の部屋に誰かが寝泊まりして泥棒などに入り込まれないように管理していた。同じ建屋に誰か別のものがいると落ち着かないので、使用人たちには夜の食事が終わったら明日の朝の支度をはじめるまで使用人の建屋に戻って休んでいるように伝えた。そういうわけにはいかないとシアンが抵抗したが、再びエリアスの願いだと言い聞かせた。
「さぁ、これでここにはあなたと私だけです。エリアス」
使用人たちをはけさせ、それぞれ風呂に入った後、エリアスの部屋の大きなベッドの上に二人は寝転がった。
レナードは肘で頭を支えてエリアスの頬を指の背中で優しく撫でる。
エリアスの心臓は知らず大きく鼓動していた。
「な、な、なんか緊張する」
「そうですか。私は興奮しているのか眩暈がします。陶磁のような白い肌にこうして触れているだけでもクラクラして……」
目を細めてレナードは顔を近づけ、エリアスと鼻先でキスをするように擦り付けた。唇が触れそうに吐息が掛かる。目をぎゅっと閉じてエリアスはレナードのキスを待った。
再び鼻先同士が擦れあい、温かい唇が落ちてくる。ふわりと柔らかいものが触れたかと思うとするりと耳の後ろの移動した。
息が耳に掛かり、なんだかくすぐったい。
そのままレナードはしばらくじっとしていて、エリアスはどうしたらいいのか分からなかった。これから一線を越えるのだろう。何も準備してないけど、大丈夫、レナードが教えてくれる。多分。恥ずかしい事も沢山したけど、これから起こることはそれより恥ずかしいのかもしれない。無知なゆえに未知が多い。なんだか少し怖い。怖いけど、期待で心臓は高く鳴る。耳の中でなる血流がうるさい位だった。
何分くらいそうしていただろうか。レナードは耳元に顔をうずめたまま動かなかった。
耳に掛かる息は明らかに寝息で、エリアスは何度かレナードと呼んでみたが反応はなかった。
「一人で車を運転させたから疲れちゃったんだね」
レナードの頭を支えて自分の体を抜くと、エリアスは黒髪を撫でて毛布を掛けた。
「大好きだよ、レナード」
エリアスはおでこにキスを落とし、レナードの隣にいる心地よさに酔いながら眠りに落ちた。
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