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少年編 第1章

39-主人 憂う

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レナードはいつの間にか高等部に休学届けを出していて、エリアス達に伝えていた執事の合宿というものは存在しなかった。

毎日学校へ来るたびに溜息を撒き散らすエリアスの落ち込みようと言ったらそれはもう目も当てられなかった。

窓辺に座り、机に肘を突いて、ややもすれば何かを思い出しては、涙を零すのではないかと思えるほど憂いを漂わせて瞳を潤ませる。溢れる悲壮感で周りにも哀しさが伝染していくようだった。

エリアスは教室のあちこちに彼の影を見つけようと切ない視線を送る。

見かねてノアが声をかけた。

ノ「エリアスー。哀しいのがダダ漏れしてこっちまで滅入っちゃうー。元気だしてよ」

エ「そんな簡単に切り替えられない…。小さい頃から一緒に居るんだ。兄弟みたいなものなのに…。何でも話してきたのに、恋人が出来た辺りからレナードは変になったんだ」

横に居たライリーとノアは顔を見合わせる。

ラ「今回の事はきっと何か考えがあるはずだ。退学届けじゃなくて休学届けだったって聞いたぞ」

ノ「さすがっライリー良い事言うじゃん!そうそう!退学届けならもう戻ってこないんだろうけど、休学って事は戻って来るんだよ!大丈夫だよ、ねっ?」

ノア達も何も聞いておらず、エリアスが持っている情報以上の事は知らない。二人の慰めを受けても喪失感から目を逸らせない麗しい人はうーんと頭を抱えた。

ノ「どこへ行ったかも分からないの?」

エ「葉山に聞いてみたんだけど、行き先はいわなかったらしいんだ。でも執事の仕事をする予定だから安心して欲しいって言われてるって。僕以外の誰かに仕えてるんだよ…。僕って…僕って…そんなに駄目な主人だったかな…ぐすっ…。」

エリアスがぽろぽろと泣き出してノアはオロオロする。今までエリアスが二人の前で泣いた事など無かった。中等部からの付き合いで、彼がここまで情緒不安定になるのを見るのは初めてだ。多分レナードが居ないからだろう。レナードはいつ何時も彼を受け止め、彼の支えとなってきた。幼少期からとなると不在時の不安は計り知れないのだろう。

ノ「エリアス…。」

ラ「まぁ泣いてても奴が帰ってくるわけじゃないんだから、ここはまた作戦を練ってだな…。」

ノ「どうするの?何の作戦?居場所が分からないのに?この前のエリアスとエッチな事目の前でしてレナードの本音引きずり出しちゃおう作戦みたいな?」

エリアスは思い出して真っ赤になった。

ラ「おい、教室で全部を口にするな。後でまたお仕置きな、ノア。」

ノアはウッと反省の顔だ。

ラ「まぁレナードのする事だから、エリアスに関連する事に間違いは無いはず。
  そうなると当てが無い事もない。」

エ「そうなの?!」

ラ「まぁちょっと当たってみるよ。」

少し気が紛れたように彼は微笑んだ。

(美しいものが嘆いている姿を見るのは悪くないが、エリアスには笑っていて欲しい。ノアも彼が悲しむと楽しくないとぼやく。レナードを早く見つけ出して連れ戻さねば。)

ライリーの父親のクリフォード男爵はスポーツをこよなく愛しており、貴族の中スポーツ万能の為顔が広い。ライリー自身もあらゆるスポーツに長けており、幼少期は父親に連れられて観戦に参加し、大きくなってきてからは自身も参加するようになって父親と同じく顔が広かった。それは階級関係無く、彼の歯に衣着せぬおおらかな性格も相まって、老若男女関わらず誰からも健康的に人気を集めた。

ライリーは自分の勘に自身があった。

(エリアスは自分の美しさに疎い。故に周りから向けられる好奇の目に邪なものがある事も知らずに生きている。それはレナードが彼をその異名の如く鉄壁として護ってきた証だ。一度目に入れば目を逸らせないほど輝きを放つその容姿に関わらず、誰の手にも触れられず無事に過せたのは葉山親子の努力の証だろう。もしかしてエリアスの父親もそれを考慮して田舎に住まわせていたのかも知れないと思う。

 そしてこの前社交界デビューをしたばかりなのに、早速縁談となると少し胡散臭い。伯爵家の子息ではあるが、エリアスはこの田舎に追いやられて父親とは別居しており、苦労なく生きているが、対外的には大事にされていると言い難い扱いを受けている。バンペルノ家からは傍目には追放状態の彼に振って沸いたこの縁談だ。縁談先は少年好きとうわさの立っているあのオズモンド公爵。
レナードはそこに気付いたのだろう。オズモンド公爵は危ない。スポーツ観戦に来ていた彼に声を掛けられた事があるが、その時に一緒に観戦していたノアに対する彼の目はゾッとする程ニヤついたもので嫌悪感を感じずにいられなかった。そのオズモンド公爵の娘とエリアスがお見合いする。日程はまだ決まっていないが近々だろうとエリアスも言っていた。)


ライリーは家に戻ると早速父親と話した。

「あのさ、オズモンド公爵って知ってる?」

「あぁ、まぁそれなりにな。余り親しくは無いぞ。話した事はあるがな。」

「今度エリアスがオズモンド公爵の御令嬢とお見合いするんだ。」

「エリアスが?!あの年でもう縁談?少し早いな。まぁ許婚とするには早い方が良いだろうが…オズモンド公爵か…」

「親父何か知ってるのか?」

「余り良い噂は聞かないな。確か彼は公爵の権力を利用して他の家に居た若い執事の子を自分の家に引き抜き、酷い事をした後、執事の子が公爵の力を利用しようと誘惑したとか何とか難癖を付けて彼の執事の将来を絶ったと聞いている。それは一度や二度じゃないと聞くから……」

(レナードはこの話を知っていたのか?)

「被害者は執事だけじゃなく、自分より階位の低い貴族の子息も同じように痛い目にあった子が沢山居ると聞く。エリアスとその令嬢のお見合いだろうが、私だったら勧められない縁談だね。よくバンペルノ伯爵が承諾なさったものだ。」

「そうか、ありがとう……」

レナードは恐らく俺と同じ事を考えたのだろう。エリアスを護る為に……。
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